「スモーク」 95年米・日・独 評価4.5 メジャー度2


監督:ウェイン・ワン/ポール・オースター
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、フォレスト・ウィッテカー


 アメリカの現代小説家ポール・オースターの作品を原作とし、彼自身も共同監督を務め、日本も出資した作品。

 ブルックリンの街角で小さな煙草屋を営み、14年間も毎日朝7時に同じ場所の写真を撮影しているオーギーを軸に、妻が銀行強盗の流れ弾によって亡くなってからスランプの小説家ポール、そのポールの家に居候することになった黒人青年のラシード、自分のミスで起した交通事故により妻を亡くしてから蒸発してしまったラシードの父サイラスらを通して、人生の起伏、ささやかな幸せなどをゆったりと描いた作品

 本作の主題は“嘘”であろう。誰もが大なり小なりの嘘をついている。人を傷つける嘘、人を守る嘘、ハッタリの嘘、少しだけ人を幸せにする嘘...いろいろな嘘をつきながら人は生きている。しかしそれが人生であり、その嘘に毒がなくなることで、それは心地よいものになることもあるし、時には冗談とも言えるものになる。そして、その嘘が嘘であったといえる仲間が人生には必要でもある。こんなことを、人生を悟りきったともいえる一人身の50代男性を通して描いていく。

 自分の人生をあらかた悟って、その中心にぶれることなく鎮座しながら、苦労も受け入れ、楽しく生きて行く姿にうらやましさを感じ、そのなんともいえない感覚を名優カイテル、ハートらがゆったりとした余裕の演技で魅せて、とても居心地の良い映画である。これは20代で観ても多分良さはわからないと思う。私はタバコをやらないし、やっていた期間もないが、これほどタバコの煙が魅力的な映画もそうはない。