「草原の椅子」 13年日 評価4 メジャー度2
監督:成島出
出演:佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、小池栄子、貞光奏風他
宮本輝の「草原の椅子」は、日本の小説の中で最も感銘を受け、精神の安定をもたらした素晴らしい作品である。その映画版が公開されると知り、佐藤浩一、西村雅彦という個性的な俳優が配役されていていることにやや違和感をもったものの、やはりこの原作ならば観ざるを得ないと、実に「嫌われ松子の一生」以来、約7年ぶりに映画館で実写の日本映画を観てみた次第である。
カメラ会社に勤める50歳になる遠間は、重要なポストについているが、役員と部下の間で悩みも多い。彼の取引先であるカメラ販売店の店長富樫は店の東京展開の状況について悩んでおり、同い年の遠間に親友になってくれと頼み込み、二人はその後深い付き合いを始める。また、遠間の近所で小さな陶芸品屋を営む30代の×1女性篠原は子供が生めなかったことで離縁せざるを得なかった過去を持つ。ある日遠間は、虐待を受け両親から捨てられた4歳のけいすけの面倒を見ることになり、その経験の中での、身勝手な現代の若者たちの考え、子供の無垢な心などを通して人間の本当に大切な心根とは何か、自分の生きるべき道は何かを深く考えるようになる。そして4人は、パキスタンの地上最後の桃源郷フンザに向かう。
人間は普段外には見せなくても様々な悩みを持って生きているのが普通である。どんなにあがいたってどうにもならないこともある。しかし人と人は助けあって生きていくもので、決して人の道を外れてはいけない。本作の3人の中心人物は皆不器用に生きているようだが、人の道をはずさずに答えを見つけようという勇気ある姿勢と決断は、「正しく」生きることは辛いことであっても、自分の心根の部分で清清しい、納得した生き方をしている気持ちになれることを証明しているようで、「正しく」生きることの大切さを認識させられる作品。
特に大きな事件が起こることもない地味な原作を映画化しようとしたこと自体、原作に惹かれた関係者の心意気が感じられ、これをベースにして、ごく普通の一般人という視点で演出が一貫しているので、懸念していた役者たちに違和感はあまりなかった。ただ、ラストがそんな感じだったかなと大きく疑問。映画としては、エンディングを作らなくてはいけないのはわからなくはないが、なんか容易なオチではないか(原作がそうならしょうがないが)。これは近いうちに原作を再読してみようと思う。
私としては評点4.5をつけてもいい作品だが、原作では主人公遠間の心の移り変わりが丁寧に書いてあり、そこが読み応えもあり感動の源にもなっているのだが、本作は富樫と篠原の自分探しというところが目立ってしまっており、遠間本人の心の葛藤が見えない。原作を読んでいるからこそ、そこを大幅に脚色できて、私としては問題ないとしても、原作を読んでなければわかりづらいのは確かと思うので、純粋に映画として評価すると4となる。