「レ・ミゼラブル」 12年英 評価4.5 メジャー度5


監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、マンダ・サイフリッド他


 パンを盗んだことで捕らえられ、その後脱獄を企てたこともあり、19年間も監獄生活をおくったジャン・バルジャンは、仮釈放中に出逢った司教の温かい心に触れ、人生を改める。その4年後、市長になったジャンであったが、仮釈放から戻らないジャンを執拗に追いかける警官ジャヴェールに正体を見破られる。

 古くは「ああ無情」という題名だったヴィクトル・ユーゴーの原作を元とするミュージカル「レ・ミゼラブル」の映画化作品。なので、厳密には原作とは若干異なるらしい。私は小学校高学年のときに原作を読んだことがあり、小学生用の短尺版ではあったが、強烈な印象が残っている。

 文庫版だと5巻になる長さであり、最近ではかなりの長尺となる2時間38分という上映時間とはいえ、物語が正直駆け足っぽく感じてしまうのはしょうがないだろう。また、場面転換や登場人物の心境の変化が急な印象も受けてしまう。これは、ミュージカルである以上、その感情変化を役者の演技ではなく、歌という手法により直接的に表現するため、仕方のないことだと思う。一方、音楽の持つ力というものも、青年時代に洋楽を聴き捲くっていた私はよくわかっているつもりで、音楽が、より観客の感情をゆすぶるのも確かであり、マイナス面とプラス面は相殺されていると思われる。ミュージカルに親しんでいる人にとってみれば、有名な曲が数多くあるということなので、旋律が聴こえてくるだけでパブロフの犬のごとく涙が流れてくるだろうことは想像に難しくない。私も力技的なところを感じつつも、流れる涙をとめることは出来なかった。

 また、映画としての壮大さにも感嘆する作品である。本作の描く内容は、単にジャン・バルジャンの人間としての蘇生の物語だけではなく、フランスの過去の歴史、若者たちの恋愛、違う価値観を持つ人間たちの人生など盛りだくさんである。俳優たちには実力派を並べ、自身で歌も歌うという文字通り体当たりの演技をみせているところも相まって、久しぶりに映画館で観るべき映画を観たという感慨に浸れる。

 私は、ミュージカルの「オペラ座の怪人」と「ライオン・キング」、ミュージカル映画の傑作「ウエストサイド物語」など、特に良いとは思えず、ミュージカルに苦手意識を持っていた。一方、「雨に唄えば」や「サウンド・オブ・ミュージック」、「ムーラン・ルージュ」といったミュージカル映画は好きなこと、本作も素晴らしいと思ったことから、要は物語の腰を折るダンスが多いものが嫌いなのだと気がついた。ダンスに時間がとられることで一番重要な内容が希薄で、映画が冗長な印象となってしまうものが苦手ということだ。