「デルス・ウザーラ」 75年ソ連  評価4.5(5点満点) メジャー度1

監督:黒澤明
出演:ユーリー・ソローミン,マキシム・ムンズーク他

 1900年初頭,ソ連の地形調査隊の一行は,山に暮らすコルド人デルス・ウザーラと出会う。デルスは調査隊の道案内役を頼まれ,いつしか調査隊の隊長との間に深い友情が芽生える。調査が終わり一度は別れたが,3年後の調査時に,またも偶然二人は出会う。しかし年老いたデルスは次第に視力が悪くなり,もう山の中では暮らせないと嘆き,隊長は自分の家に招く。しかし,町の生活になじめないデルスはある夜山に戻ると言って家を出る。

 黒澤明が「どですかでん」以来5年ぶりに撮った新作であり,以降,5年おきに発表する「影武者」「乱」の壮大且つ美しく,娯楽として楽しめる映画づくりの最初に位置する映画である(「影武者」「乱」は映像だけに焦点がいき、楽しめないが)。アカデミー外国映画賞授賞。すでに日本では資本的に製作できないため,ソ連映画となった。

 タイガ,ツンドラ気候の自然の厳しさや美しさをいかんなく写し取り,その素晴らしさは「アラビアのロレンス」に匹敵するものがあろう。内容も映像の素晴らしさに決して負けない魅力をたたえている。間に,風景に,風の音に演技をさせ,セリフ以上のものを心に訴えかける。デルスの人としての素晴らしさ,年老いていくことの悲哀,近代化していく世の中に対する静かな警鐘。突然来るラストの哀しさに全てを凝縮させた傑作である。

 この映画はとってもマイナーな映画だと思うし,いくら去年黒澤が死んで話題になったとしても,なかなかレンタルビデオ屋で黒澤作品に手を伸ばそうという人は少ないだろうと思う。どうしても最近公開の派手な,話題性のある作品に目が行きがちだ。しかし,なぜスコセッシ,ジョージ・ルーカス,スピルバーグという巨匠達が黒澤を師と仰ぐのかを考えて欲しい。そして,是非黒澤作品を手にとって欲しい。決して裏切らないはずである。私も大学生になるまで日本映画など全く見なかったのだ。

 今年のアカデミー賞授賞式の中で,去年死んだ映画人の活躍を短くまとめたビデオクリップを会場で放映したとき,黒澤の放映部分の拍手が格段に大きかったことがとても心に残っている。