「沈まぬ太陽」 09年日 評価4 メジャー度4
監督:若松節朗
出演:渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二他
フィクションということにはなっているが、明らかに1983年の日航機墜落事故を題材に、日本航空にて、70年代の労組運動に積極に関与した結果、会社から国外の僻地を転々とさせられた実在の人物を主人公に、日本の大企業の理不尽さ、己の信念に従った男の生き様を描いた、日本映画としては異例の3時間20分という長編の骨太映画。
国民航空の労働組合で、社員の待遇改善を声高に唱え続け、熱心な活動を行った恩地は、組合活動終了後、通常なら2年の海外僻地勤務を10年以上続けさせられる。その後日本に戻った恩地は、まもなく発生した航空機墜落事故の遺族対応にあたる。航空機墜落の諸悪の根源が会社の姿勢にあるとされ、国として国民航空の再建の対応をとることになり、新会長に民間人を起用し、抜本的な改善を進めようとする。その中で恩地は新会長から会長室長に抜擢され、右腕として働き始めるが、政治関係者の利害関係の中、会社の改革は難航する。
日本映画にしては珍しく、一人の男の生き様を硬派に、徹底して描いており、演じた渡辺謙の魅力もあって見ごたえはあるのだが、豪華キャストを揃えた結果として、あまり意味のないエピソードが多い印象で、少し散漫な感じが残ってしまう。もっと中心の話を、特に恩地の最も近い存在である妻の心情を丁寧に描くと、主題がはっきりしたと思われる。恩地が己の生き方を選び続けた結果を妻がどう受け止めていたかを描くことによって、さらに恩地の選択がもたらす会社、家族への影響が浮き彫りになったのではないかと思う。なお、CGが極めて稚拙で、その場面だけ不自然に感じてしまうほどであり、これは明らかに減点材料である。
己の信念に妥協せずに生きるという話は、もっと若い時に見れば胸に訴えるものが強かっただろうと思う。今となってはどうしてもそれの及ぼす周辺への影響も気になってしまう。それよりも国営企業としてやってきた国民航空にまつわる政治家たちの画策を見ていると、今の東電に関する国の関与の仕方も、これに似ているのかなぁと思い、それが妙にリアルな感覚を覚えた。