「それでもボクはやってない」 06年日 評価4.5 メジャー度4


監督:周防正行
出演:加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、役所広司、小日向文世、尾美としのり、
   もたいまさこ、鈴木蘭々他


 26歳のフリーター徹平は、会社面接に行く途中の満員電車で、中学生への痴漢行為を間違えられ、警察に拘置される。痴漢を認め、示談にすればすぐにも釈放となるのだが、徹平はあくまで無罪を主張し、数週間に及ぶ拘置と1年以上に及ぶ裁判を闘う。痴漢冤罪を通して、日本の司法システムの問題点、冤罪者の人権を描く問題作。

 製作当時と比較し、裁判員制度の導入、取調べ中の映像公開等、環境が変化してきてはいるが、本作で指摘されている司法システムの問題点は根本的に是正されているわけではないだろう。当時は裁判長一人のものの考え方(被告を性善説、性悪説どちらでみるか)により、被告の運命が決まってしまう。裁判長が読み上げる罪文にある「被告には犯罪に対する反省が一切見られず、再発の可能性があるため・・・」という、無罪の被告にとっては全く意味を成さないこの言葉の矛盾に背筋が寒くなる。といって、弁護人の「言葉でだまそうと考えている犯罪者が大勢いる中で、裁判長の考えもわからぬわけではない」というのも一理であり、私が徹平の立場であれば、理不尽極まりないと感じるが、では嘘をつく疑わしき犯罪者は無罪になっても仕方がないといえるかというと抵抗を感じる。白黒明確な結論はないものの、ここまで考えさせられる映画で、これを見て満員電車では両手を上に上げようと考えた男性が多いのもうなづける。

 周防ファミリーとでも言うべき達者な役者陣による緊迫感ある展開は目を離せず、痴漢というよくある犯罪を題材に、これほどの内容に仕上げる手腕は素晴らしい。内容的に好きな映画かというと難しいし、心揺すぶられるものでもないため、評価5にはならないのだが、映画としての完成度は文句がない。周防正行監督は寡作だが、劇的でもない内容を題材に「シコふんじゃった」や「SHALL WE ダンス?」と観客をひきつける映画作りを続けており、この監督の作品なら必ず面白いといえるくらい、抜群の才能を持っていると感じる。