「THIS IS IT」09年米 評価4 メジャー度5
監督:ケニー・オルテガ
出演:マイケル・ジャクソン
この、世紀を代表するアーティストの歌とダンスは出来るだけ良い映像で見るべきだと思っていたから、ブルー・レイで観る最初の作品はこれと決めていた。
2009年3月。マイケルは7月からロンドンで、50回限定の公演を行うことを発表。公演まで一ヶ月と迫った時期までの、公演にかかわるマイケルを含む総ての人々がどのようにステージを作り上げていったかを、記録のために収録していたビデオを編集して作成されたドキュメンタリー映画である。同時にマイケルのステージに対する意気込み、そして人間性も感じ取ることが出来る。
正直言って、2001年の『インヴィンシブル』に収められているシングル「ユー・ロック・マイ・ワールド」のPVを見て、その切れのなさ、緩慢な動きから、マイケルのダンスに限界を感じていた。果たして、本作でそこはどうなのか不安だった。しかし、リハーサル段階でまだまだ100%の力を出していないながらも、そこにはまぎれもないマイケルのダンスがあった。これだけで、50歳を迎えたマイケルが相当の時間をかけ準備してきたことを感じることが出来る。また、壮大なスケールのステージは確かにこれまでにない公演になることを約束するもので、これが実現しなかったこと、マイケルがこの世にいなくなってしまったことが残念でならない。
正直、この作品の評価はとても難しい。リハーサルのものではあっても、マイケルの歌とダンスが堪能できるだけでも素晴らしいし、ドキュメンタリーとしても、マイケルの人となり、関係者たちのマイケルとともに史上最高、最強のステージを作り上げる意気込みが感じ取れ、秀逸な出来だと思う。しかし、あくまでドキュメンタリーであり、映画というジャンルで務めて一般的な視点で評価すると4というところだろう。
ここからは評価とは放れた感想を述べさせてもらう。私は「音楽の話」(現在、工事中)で再三述べているように、マイケル擁護派である。大多数のメディアと野次馬根性しかないこれも大多数のファンにより捏造、歪曲された数々のスキャンダルにより貶められ、最終的に完全無罪となったものの、マイケルは才能とプライドを傷つけられた。確かに鼻の整形はしているが、外見がどうであろうと彼の圧倒的なパフォーマンスの素晴らしさは少しもその価値を減ずるものではなく、また、彼の作り出す美しいメロディーと力強いメッセージは地球上のどの分野を見渡しても唯一無比のもので、現代の人類の良心マイケルを私はずっと信じてきた。本作を観て、抗うことも出来ず湧きあがってくるのは、人類の良心であるマイケルが、マイケルがもうこの世に確実にいないという虚脱感である。人類は、自らのあまりに馬鹿馬鹿しい嫉妬と羨望感から、かけがえのない宝を失ってしまったのだ。
どうか、偏見を持ち続けた人にも、今からでも遅くはないので聴いてもらいたい。「マン・イン・ザ・ミラー」「ヒール・ザ・ワールド」「チャイルドフード」「アース・ソング」「ヒストリー」「リトル・スージー」「スマイル」「ロスト・チルドレン」、これらの曲の美しさ、メッセージ。他の誰がこのような曲を書き、真正面から歌うことが出来るのか。