「借りぐらしのアリエッティ」10年日 評価2 メジャー度4
監督:米林宏昌
出演:アニメ
都心の中の緑に包まれた古ぼけた一軒家に住む親子3人の小人の家族のうち、娘のアリエッティと、そこに1週間住むことになった心臓を患った人間の少年・翔との交流と、人間に見つかったことで小人家族が他の住家を探さざるを得なくなるまでを描く。
ジブリ作品ということで絵は綺麗だし、小人の生活ぶりも絵作りを含めて丁寧である。しかし、結論から言うと、「もののけ姫」や「千と千尋」で作画を担当していた米林監督はアニメーターであり、映画作家にはなれなかったということだと思う。
大きな欠点が、過去の宮崎駿の強いヒロイン像に負けないアリエッティと彼女の父親以外の描写が全くなっていないことだ。まず、大きな存在となるべき翔が、初対面でアリエッティをやり込めることを言いながら、すぐにその言葉を撤回。小人の家を破壊して、自分勝手にもとある台所と模型でできた小人の家の立派な台所を取り替えたり、言っていることとやっていることが全く整合してない(例えそれが中学生ぐらいという年齢から致し方ないことだとしても、それを映画で真正直に描く必要性はない)。また、浅い描写しかしていないのに最後に「君は僕の心臓の一部だ」なんて全く似つかわしくない台詞を言わせる。もう一人、アリエッティの母親もひどい。小人の種族に生まれれば、生まれながらに強く生きることが義務となっているはずなのに、ただオロオロして自分の身の不幸を嘆くばかりでやかましい。なぜ、こんな女と父親は結婚したのか、アリエッティは健気に手助けするのかが理解できず、精神的に弱いから病人として接していると解釈するしかない。悪役となるお手伝いのおばあさん、ハルはジブリ作品にしては珍しい(すべてを見ているわけではないので言い切れないが、少なくとも宮崎駿作品では見られない)全くのひねくれ者で、人間的魅力は何もない。このように主要5人のうち3人の描写がいい加減で魅力がないので、これでは映画としての魅力もあるわけがない。
「借りぐらし」という題名も変だ。映画中にも「人間から借りている」というセリフがくどいくらい出てくるにもかかわらず、小人たちは何も人間に返さない。これではただの泥棒だ。小人たちが何かしら人間に授けていれば話の内容ももっと良質になったのではなかろうか。
話の展開的にも、人間に見られたら越さなくてはいけない小人の家が、押入れの取っ手の付いた開閉蓋の下にあり、まさに見つけてくださいといわんばかり。それに翔はたやすく見つけたようだし、そのほかにも一貫性を著しく欠くおかしな設定が多すぎる。
どんなに絵が美しかろうが、アリエッティ自身の魅力に問題がなかろうが、物語全体としての構築が崩れていては総てを台無しにしてしまう。もったいない映画だ。
本作が宮崎駿作品でないからこんな出来になってしまったのか、しばらく見守るしかないが、ジブリはアニメーターではなく作家をきちんと育てなくてはいけないだろう。この水準ならば、擬人化が多く、それぞれの不自然な表情は嫌いだし、ストーリーに目新しいものはなく評価が4を超えることはないが、つぼはしっかり押さえているピクサー映画を見た方が私も子供たちもよっぽど楽しめるのではないかと思ってしまう。