「グラン・トリノ」 09米 評価4.5(5点満点) メジャー度3
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー他
ウォルト・コワルスキーは頑固な人種差別主義者で、朝鮮戦争に3年従軍した際の記憶に苛まれながら、フォードの自動車工場で30年間勤めあげた。しかしその頑固さに辟易した息子や孫たちには避けられ、妻に先立たれた後も息子たちの老人ホームへの入所の勧めに憤怒し、フォードの名車グラン・トリノをこよなく愛し、一人、悠々自適に暮らしてきたが、隣に越してきたアジアの少数民族モン族の姉弟が近所の同族のチンピラたちに絡まれたの助けたことをきっかけに、だんだんと大きなトラブルに巻き込まれていく。
大まかに分類すると犯罪ものなのだが、同じ監督作品「ミスティック・リバー」のような重々しさはなく、最近は犯罪映画となるとポール・ハギス監督作品のような時系列を分解したような難解な編集を行う作品が多いが、本作品はわかりやすくストレート、善悪の描き方もくっきり(これはイーストウッド作品全般に言えることだが)し、時にダーティ・ハリーのセルフ・パロディなどユーモアを交えながら、ストーリーで見せようという姿勢が、今の時代、清々しい。
モン族の姉弟に絡むチンピラに対し、凄みを見せるウォルトの様はまさにダーティ・ハリーことハリー・キャラハンを彷彿とさせるが、ラストの選択はまったく逆である。死期が近いことを悟った老人がとる行動として、何が可能で最良なのか、その決断は超人的な強さをもったハリーでは到底なしえなかった選択で、頑固一徹(というか息子との接し方がわからなかったこと、朝鮮戦争で心に負った傷により殻ができていただけで、実際友人は多いし、会話にユーモアもある)だったウォルトがだんだんと心を開いていく過程が丁寧で苦しいところがないために、大きな感動を呼ぶ。
犯罪映画でありながら、重くなりすぎることもわかりづらくなることもなく、イーストウッドのアクション・スター時代を良く知る、同時に年を取っていったファンに若干の寂しさを感じさせつつも、最良のストーリーをもつ映画である。映画のストーリーの中のウォルトの成長だけでなく、その監督であり主演者であるイーストウッドの生き様、思考の変化まで感慨深く感じさせてくれるというなんとも特異な映画である。
しかし、イーストウッドのなんとかっこいいジジイであることか!