「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 08米 評価4(5点満点) メジャー度3
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン他
第一次大戦の終戦間際に生まれたベンジャミンは、出産時に母に死なれ、老人の容姿で生まれてきたベンジャミンを見て絶望した父に捨てられる。しかし老人ホームに住み込みで働く心優しい黒人夫婦に拾われ、老人ホームで成長していく。ベンジャミンは容姿は通常の人と逆に、心は正常に成長していくという特異体質であった。そんな中、運命の女性デイジーと出会う。
ベンジャミンが成長していく過程での様々なエピソードが描かれる。ピグミー族の男との出会い、船乗りとして働き始め、ロシアでイギリスの中年女性と浮気し、第二次大戦に巻き込まれ、等々。その中で、デイジーとの絡みだけが、幼年期の出会いから青年期、中年期、そして晩年と、初めは断続的に、あとでは主軸として展開される。このような展開は「フォレスト・ガンプ」によく似ている。と思ったら、脚本のエリック・ロスは「フォレスト」の脚本も担当。道理で。
2時間40分という長尺で、前半(ベンジャミンの見た目老齢期)はとても丁寧に作られており、「セブン」でおどろおどろしい映像を紡いでいたD・フィンチャーのドラマ部分の意外な才能を感じられる内容だが、反面、より苦悩が大きくなるはずの老年期がとても拙速に描かれるため、尻窄みの印象を受ける。デイジーと一緒に暮らし、子供も出来たものの、自分の(容姿上の)将来を考え、別れることを選択したベンジャミンの、見た目と成熟していく内面とのギャップから受ける葛藤は、それがわかりやすく、描きやすいとしても青年期よりもより深いはずで、前半で、あまりあとにつながらない、または主題がかぶっているエピソードを重ねるぐらいなら、なぜこちらをもっと描かなかったのか、不満が残る。結局一番強いメッセージというのは、繰り返し出てくる「自分の信念に基づき、やりたいことをやって生きるのが人生」ということだろうが、それだけではベンジャミンが特異体質をもったことにより描ける世界をうまく使いきっていない。
とはいえ、良い映画ではあるだろう。もう一工夫が足りなかったというところ。役者としてはブラピは頑張っているし、何といってもケイト・ブランシェットが素晴らしい。いつも感心させられるのだが、彼女は本当に変幻自在。20歳から50歳まで何の違和感もなく、またその年齢に応じた美しさを感じさせる。とても信頼できる女優だ。