「嫌われ松子の一生」 06年 日 評価4(5点満点) メジャー度4
監督:中島哲也
出演:中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、柄本明他
松子は23歳の時に地元福岡の中学教師となったが、ある事件をきっかけに退職せざるを得なくなる。退職後は作家志願の男とDVを受けながらも同棲するが、彼は自殺。彼の友人だったサラリーマン作家と不倫の関係になるも、彼の妻にばれて別れ、中州のトルコ嬢となり一世を風靡するも時代と寄る歳波に勝てず衰退。ホストとともに雄琴で心機一転を図るがホストは若い女に現を抜かし、松子は衝動的にホストを殺害。そのまま東京の玉川上水で自殺を図るも水が少なくて実行できず、それを助けた理髪店店主と恋仲になるも逮捕。7年の服役中に理髪免許をとり、釈放後、その理髪店に行くが、店主は他の女と結婚して子供がいる。気を取り直し銀座で理髪店を経営し成功するも中学時代に事件の発端となった今はヤクザとなった教え子に出会い、彼の愛人に。しかし彼は組の金を横領し瀕死の傷を負い、傷害事件を起こして4年服役。松子は待つこと4年、出所した彼を迎えに行くが、会ったとたんにぶん殴られる。何も信用できなくなった松子は荒川沖のアパートで引きこもり状態となり、53歳の時に荒川河川敷で撲殺死体として発見される。
誰かと共に生きたい、しかし男運が悪いというか、その場ばったりで衝動的に男を選ぶので、どんどん転落していくという、とにかく悲惨なお話なのだが、観終わった後不快感ではなくある種爽快感があるのは、松子に感情移入できないからか。感情移入したら全く暗い気分になってしまう。監督は「嘘っぽい嘘のほうが正直でいい」ということからあえて松子を感情を持たないよう中谷に演じさせ、観た人それぞれに違った松子を感じさせようとした、とのことだが、この目論見は100%成功している。実際目にしていない、人づてに聞いた話では無感情、非人間的に、誰かが実際にそれを見ている場面の松子は感情を入れて演じているように思われ、その濃淡がこの悲惨な話を冷静に租借できる下地を作っている。松子の生き様を不幸と感じる人もいれば、エネルギッシュ、一途であったことが幸せと感じる人もいるだろう。
映画としての手法は近来の日本映画にはなかったものだが、ときおりミュージカル調になるところやカット割が斬新なところは『ムーラン・ルージュ』、出演者が一曲をまわし歌いするところは『マグノリア』、最後、魂が場所、時代をさかのぼって飛んでいくところは『トト・ザ・ヒーロー』など、他の映画で観たことがあるので、その点私には目新しさはないが、ただ単純な模倣ではなく、この映画なりに昇華しているので陳腐さはない。
ストーリー的には松子殺害の犯人が判明し、松子が最後に故郷に帰ったとき以降のエピソードが不要と感じる。父の日記を読んだとき、妹の死に際の言葉を聞いた時に流す涙が総てを語っており、そこまでで松子の求めていたもの、何を原因に引きこもったのかは明らかで、またそこに物語のピークがあるので、ここで終わったほうが良かったのではないか。また、結構お笑い芸人を使っている(カレッジセール・ゴリ、カンニング竹山、劇団ひとり、山田花子、オアシズ大久保、武田真治(彼は違うか))のも逆に観客の気を逸らせてしまう。
と、ストーリーが悲惨であるため物語の中身で感銘を受けるという点はないためこんな批判的なことを書いてきたが、評価は高い。人は外観だけでは判断できない人それぞれの人生を一生懸命に生きている(実際はそうでもないだろうが)という人間愛に溢れた映画であるし、ギャグやスピーディな展開も魅力的。なかなか近年の日本映画も良いねと思うようになってきた。
中谷美紀は一時期非常にやせてしまって、嫌いな部類であったが、本作では肉体的魅力もないと松子は成り立たないため、適度にふくよかで、元来美人であること、吹っ切れた無感情な演技も、感情的な演技も非常に魅力がある。