「クラッシュ」 05米 評価4(5点満点) メジャー度2
監督:ポール・ハギス
出演:ドン・チードル、マット・ディロン、サンドラ・ブロック他
2005年の傑作「ミリオンダラー・ベイビー」の製作・脚本を担当したポール・ハギスの初監督作品。他に原作,脚本,音楽,製作も担当している。出演者はともかく、監督も無名だし大きな宣伝もされていないため話題になっていないが、2006年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ、作品、脚本、編集賞を受賞した。
作業の遅い鍵修理屋(黒人)や家政婦(メキシコ人?)の仕事振りに憤慨している検事の妻、精神異常をきたす母親のお守を続け、女の相棒と肉体関係にある黒人刑事、人種差別主義者で泌尿器系の疾患をもつ父親の世話をしている警官、黒人TVプロデューサー、アラブ系と間違えられ迫害を受けるペルシャ人家族、先に出た黒人の鍵修理屋。映画はこの6家族を軸として、黒人刑事の弟が殺されている現場のラストまでの丸1日分語られる。
いくつもの話が時間軸に沿って断片的に並行して進んでいき、最終的にはそれはみな関係しているという話の組み立て方で、この手法は「パルプ・フィクション」や「マグノリア」でも見られており,今では特に目新しいことはない。変わった手法であるゆえ、模倣のような印象を受けてしまうのは仕方がない。
話の舞台はロサンゼルスで、特に様々な人種の住む街だけあってこの映画の主題は人種差別。しかし宗教、テロリストと同様、単一民族の日本人にとっては人種差別問題はいまいちよくわからないため、この評点に落ち着いてしまう。ただ,映画としては非常に良く出来ていて、複雑なストーリー構成と多くの登場人物により難解な印象を受けるが、根本的には話の展開はそうわかりにくいわけではない。このへんは「ミリオンダラー〜」で一部人物描写が画一的とさえ言われた脚本でもわかるように、このポール・ハギスというひとはあまり難解にならないように映画作りの肝を抑えているものと考えられる。
ラストは、そんな人種差別も殺人もある世界だが,みんながみんな悪人ではないという希望をもたせた終わり方をする。その辺のさじ加減が変に説教的でもないし、甘い演出でもないのでかえって心地よい余韻として残る。