「攻殻機動隊」 95日 評価3.5(5点満点) メジャー度2

監督:押井守
出演:アニメ

 西暦2029年。アジアの一角にある国家では、情報ネットが張り巡らされているかわりに、ハッカーや情報操作などの電脳犯罪が多発していた。これに対して政府は、脳と脊髄のみが生身の体である女性サイボーグ・草薙素子(少佐)を隊長とする非公式の9課・通称《攻殻機動隊》を創設して対抗していた。そんな中、テロなど多数の容疑で国際手配中の「人形使い」が現れる。少佐や部下のバトーらは偶然に人形使いを捕えることに成功するが、やがて、人形使いは外務省が国際的な謀略実行のために作り上げた一種のコンピュータ・ウィルスであったことを突き止める。しかし、人形使いは義体を借りて政治的亡命を希望すると要望するが・・・

 元々、アニメは宮崎駿ものしか見ない私でも、本作は『マトリックス』製作の原点でもあるということは知っていた。確かに観てびっくりというか、驚くほどアイデアはここからの引用であることがわかる。人間(らしきもの)が電子の世界にダイブすること、それが首にあるコネクタにコードを差し込んで行われること、難しい思想的なセリフが多いこと、そしてタイトルバックにいたるまで。大きく違うのは物語の軸足が仮想現実か現実かであろう。

 また、目を見張るのが、このアニメの芸術性。10年前の作品とは到底思えないほど緻密で、斬新で、雰囲気のある映像である。監督もそこを意識してか、BGMだけで、映画の本筋の音は無音で映像だけを見せるような場面が多く、それがまた効果的でもある。

 逆にそのような映像を見せる演出を行っていることに加え、86分という長さなので、映画としては食い足りない感じはする。確かに劇中最小限の説明のようなセリフがあるものの、原作を読んでない人にとって一度観ただけでそれぞれのキャラクターや世界の仕組みなどを正確に理解するのは難しい。正直少佐やバトーがどこまでサイボーグなのかはよくわからないし、9課(これも劇中よく出てくるが「キューカ」ってなんだ?と思ってみていた)の役割もよくわからない。ラストもあっけなく、いまいち人形使いの存在の重大さが伝わってこないし、なんとなくTVアニメの一話という感じがしてしまう。

 押井守は2004年に『イノセント』という映画を製作したが、これも「独りよがり」という評価が多かった。確かに映像技術は素晴らしいものがあるが、映画作家としてはそこまで秀でないということなのだろう。