祖母が亡くなつたので 急ぎ帰省した。

「ほう、」

匣の中には綺麗な娘がぴつたりと入つてゐた。

白河夜船で昔の夢を見てゐると、

大層大事さうに膝に乗せてゐる。

ああ、生きてゐる。

匣の娘はにつこり笑つて、

男は匣の蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。

「ほう」

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男がひとり座つて居た。

(京極夏彦作「魍魎の匣」 劇中作品「匣の中の娘」より抜粋)

何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。

何時の間にか前の座席に

と云つた。

「聴こえましたか」

匣の中から聲がした。

男は匣を持つてゐる。

男が云つた。

時折匣に話しかけたりする。