ゼロから始まる














あの日、僕は色々なものを切り捨てた。

3年前に両親が離婚して、シンケンとやらはお母さんに移ったらしい。それで、お母さんについていくことになった。

その日、僕らは家を出て行くことになって、僕は友達やそれまでの生活を全部捨てることになった。

それ以来、僕は物事に対してある一定のラインで線を引くことにした。切り捨てるのが辛いから。

それ以上踏み込むことは無く、踏み込まれることもない。そんな線。

これなら切り捨てることがあっても傷付かなくてすみそうだったから。

「昴。そろそろ出なさい」

「あ、うん」

お母さんに促されて僕はいつもどおりに学校に行く。

最近は陸上部のエースやらが彼女を作ったとかで話題になってるけど、どうせ別れるんなら作る必要なんてないと思う。結婚してても僕の親みたいに離婚する日が来るときだってあるんだから。

…どうでもいいな。こんなこと。

学校に着いても特にすることもない。暇だから教科書をめくってみるぐらい。

成績も上がるし、それでお母さんだって喜ぶからいいと思う。

「ねぇ」

教科書を読みながら、少し気になったところには線を引いていく。そこは後で徹底的に考えるようにしてる。そうすれば疑問とかも何も無く次に進めるようになるから。

「ねぇ」

それより、今はこの数式の定義が気になってしょうがない。どうすればこんな式が完成するのか。

これを考えた人は一体、どうやってここに辿り着けたのか。

「ねぇ」

けど、流石にそんなことが分かるわけもないか。先生に聞いてもそこまでは教えてくれないと思う。というか、そこまで理解してないと思う。

インターネット端末で調べてみようかな?そうすれば何か出てくるかもしれない。

「さっきから呼んでるでしょ、橘昴!!」

「え?」

何故か、突然僕の頭を掴んでくる女子がいた。

「何か用?」

僕に用はない。さっさとどっか行け。

「これ。知り合いに渡してくれって頼まれたんだ。取り敢えず、読んでやってよ」

手紙のようなものが渡された。

「何これ」

「知りたきゃ読んだらいいじゃない」

もっともだ。

というわけで、開けて中を見てみる。

今時ないくらいの定番過ぎるほどのラブレター。続きを読む気にもなれなかった。

だからすぐに畳んで突き返してやった。

「何を言いたいのかな」

目の前の女子が中々に恐ろしい顔をしてる。

「知らない。少なくとも、自分で渡しに来る度胸もないような奴のことなんか知らない」

それに、どうせ誰かの悪戯だろうし。

「…わかった。本人から渡せばいいんでしょ」

「は?」

何でそんな話になる。それは全く関係ない。

「あんた、言ったよね。自分で渡しに来る度胸もないような奴なんか知らないって。だったら自分で渡しに来ればいいんでしょ」

そういうことに、なってしまうか。

まぁ、言ってしまった以上、もうどうにもできないんだけど。

「わかったよ。で、いつ?」

「昼休みにでも。これから話つけてくるから」

そう言ってそいつは僕の前から去っていった。

ところで、僕はあいつに憶えはないんだけど。結局、誰だったんだろう?














昼休みになった。

取り敢えずご飯にしよう。別に、あんなの後でもいいし。

「橘」

駄目らしい。

「行くよ」

弁当を持ったまま僕は手を引っ張られて教室を出ることになった。

というか、未だにこいつが誰なのかがわからない。普通に話しかけてくること、そのタイミングから同じクラスだとは思うんだけど。

「なぁ」

というわけで声をかけてみることにした。

「何よ」

あからさまに不機嫌な声。どうやら、説得は大変だったらしい。それでも僕を連れて行こうとするあたり、成功したんだとは思うけどね。

「訊くの忘れてたんだけど」

「差出人は教えないわよ。どうせこれから会って自己紹介ぐらいするんだろうし」

そこじゃない。確かに、そこも気にならないって言えば嘘になるけども。

「そっちじゃない。あんたの名前。僕は知らないんだけど」

その瞬間、そいつの動きが止まった。

次いで、信じられないものを見たような表情になった。

「ちょっと待って。私、あんたの隣の席だよ」

え?

こんなのいたっけ?

「うわ。絶対憶えてないって顔してるよ。席替えしてからもう2ヶ月経ってるのに」

まぁ、周りにそんなに興味を示さなかったってことと、こいつが自己主張しなかったってことで…

そこまで考えて、顔を見てみる。

いや、こんな性格の女が自己主張しない?そんなわけがない。

だったら、どうして。

「まぁ、いいや。それより、今のクラスで半年経ってるのに覚えないあんたもあんたよね」

失礼だな。これでも、必要な人ぐらいは憶えてる。

各委員会に入ってる奴と委員長、それから先生。

「それより、名前。知らないままじゃあんたとしか呼べないんだけど」

「はぁ…名前ね、江田稜。呼び方は任せる」

江田…稜。そういえば聞いたことあるかもしれない。うん、今度からは隣の席くらいは覚えておこう。

「じゃあ江田でいいか。隣なら何かあったら話すかもしれないし」

「そう?じゃ、覚えといてね」

そんな話をしながら、僕らは屋上へと続く踊り場へとやってきていた。

普段は閉鎖されてる扉が開いている。

「何で開いてるわけ?」

「開けたからに決まってるじゃない。それより、早く行きなさいよ。私はここから先は行かないって約束してるんだから」

そういうことなら。どうやって開けたかまでは知らないけど、気にすることもないか。

僕を呼んでる人がこの先にいる。それが事実である以上、僕は行かなきゃいけない。

そして、僕はそこに足を踏み入れた。

「橘、昴君?」

そこにいたのは、制服の徽章から3年生だって分かった。でも、誰だかは分からない。

「ごめんなさいね、朝は手紙で済ませてしまって」

「いえ…」

「最初から、こうしていれば印象も悪くはならなかったかな」

それはどうだかわからないけど。

「あ、まだ名前教えて無かったね。私は最上紫。稜ちゃんの従姉で。同じクラスだって聞いたから頼んじゃったんだ」

どこか、おっとりとしたような人だけど、口数は多いのかな?

さっきから僕が入る余地がない。

「それでね、あの手紙に書いてた通りなんだけど…よかったら付き合ってもらえないかな」

そして沈黙が訪れた。

間違いなく、僕に返答が求められてる。

だけど、あまり理解できない。

だって、僕はあまり人と関わらない。どうせいつか切り捨てる日が来るんなら関係を持つ必要がない。

だから、たとえ直接会おうが関係ない。そう思ってた。

でも、少しだけ気になった。

「江田から…聞いてませんでしたか?僕は、人との付き合い方に勝手に線を引いてるんです。それで、今はろくに友達もいない状況で。

 そんな人間に付き合ってほしいって言うのは何を考えてのことなんですか?」

そこだった。隣の席になった奴だって僕に関わろうという意思を見せたりはしなかった。

だから、気になるんだ。

「何を考えて…ね。何もそんな打算だけで人と付き合うことってないと思うけど」

「え?」

打算だけで付き合うことないって…

「特に考えてはない…かな。自分で見て、いいと思えただけだから」

考えなし…ってわけでもないみたいだった。

どうするべきか。

「私は答えを急がないけど、どうする?後にする?」

後にすると有耶無耶にしてしまいそうだ。どんな問題でも、必ず解決を試みるのが僕のやり方なんだ。だから、それを覆すような真似はしない。

「言っときますけど、僕はあなたを知らない。そして、あなたも僕の本質は見えていない。それでもいいなら、一度付き合ってみてもいいと思う」

取り敢えず、この問題の正解を導き出すには時間が必要らしい。

きっと、今まで数多の定理を生み出してきた学者たちもこんな気分だったんだろう。全てがゼロから始まる。それがこの状態なんだ。

「何か、難しいこと考えてない?」

「いや…そんなことは」

言ってから、僕は持ってきてしまった弁当の存在を思い出した。

今更教室で食べるのもあれだし、ここで食べていくのもいいかもしれない。

「あれ、それお弁当?」

「え…はい。食べようとしたら江田に連れてこられて」

まだ外にいるであろう江田に聞えるようにして言った。

「あはは…ごめんね、稜ちゃん結構強引だから」

少し引きつった笑いを浮かべる最上紫さん。

そういえば、どう呼べばいいんだろう?江田は取り敢えず知ってる人間だからって理由で苗字呼び捨て。

だったら、俗に言う彼女って存在になったこの人はどう呼ぶべきなんだろうか?

これも何か定理を見出す必要があるのかもしれない。時期と関係を考慮した最も正しい呼び方…

「…また、難しいこと考えてる。私といるのは迷惑かな?」

「いえ…そんなことはないです」

取り敢えず、彼女といるときに深く考え込むのは厳禁だと判明。条件の1つ、か。

「取り敢えず、食べたらどう?私も食べるつもりだし」

言って、その辺に置いてあった鞄からピクニックシートを取り出して広げる……えっと…

最上先輩。

取り敢えず、ここから始めてみるとしよう。

「座る?一応、付き合ってるんだから変に遠慮することはないよ」

と、促されて断る理由もないから座ってみた。

特に何もない。

話すことも思い浮かばない。

僕に何をしろっていうんだろ?

「何か緊張してるし…」

しかも、僕の沈黙をそう取ったのかちょっと不機嫌そうに言う最上先輩。

「僕、何かしたほうがいいんですか?」

取り敢えず、言ってみる。先輩はどうだか知らないけど、僕は完全に手探りで定理を探してる最中。そんな状態だったら、取り敢えず、わかってる人に聞いてみるべきだ。

「何か…ねぇ?取り敢えず、お弁当、食べよ」

言って、先輩は小さな弁当箱を取り出した。

「まずは、食べること。お互い、どういう風に付き合っていくかを考えるのはそれから。付き合いながら考えていけばいいと思う。

 どうすればいいか、とかそういうのはね。特別何かをしてほしいとか、そういうのもないから安心して」

それだけ言って、先輩は自分の弁当をつつき始めた。僕もそろそろ食べないと休憩が終わってしまう。

取り敢えず、遅刻だけはせずに済んだ。














放課後。

先輩は図書委員らしい。僕は無所属。部活もやってない。

というわけで、今日は1人で帰ることになった。

お母さんに少し聞いてみるかな…最近、男と会ってるみたいだし。何か、いいことを聞かせてもらえるかもしれない。

「ただいま」

「お帰りー」

築何年だか分からない古い木造アパートが僕らの家だった。

母さんは収入の大半を貯金に回してる。そのため、まず削ったのは家賃だった。

まぁ、そうだろうとは思う。

実は母さんの体はそこまで強くない。昔はよく倒れて救急車の常連だったらしい。そんな常連、勘弁してほしいと思うけど。

「あれ、昴。今日は何かあった?」

狭い玄関で人の顔を見るなりまずこれだ。

「まぁ、あったと言えばあった」

告白されるなんていう、人生初が。

それより、お母さんは完璧に化粧をして、これからデートに行きますよ、という雰囲気を全開で醸し出してる。

「あ、昴。早く着替えてきて」

「何で?」

お母さんのデートに僕が着いていく必要はない。それよりも、僕は誰もいないこの状況で定理を導き出さなきゃいけないんだ。

「お母さん、再婚しようと思うの。それで、今日…相手の人に昴を会わせようかと思って。

 向こうにもお子さんがいらっしゃって、その子が今中3で、そろそろ受験で忙しくなるからその前に顔合わせだけでもしておきたいって」

成る程。そういうことなら理解できる。

それに、お母さんにはやっぱり幸せであってほしいし、長生きもしてほしい。

それだったら再婚は必要だと思う。

「そういうことなら…じゃ、直ぐに着替えてくる。スラックスにカッターシャツでいいよね?」

「うん。そんなに急がなくてもいいからね」

…今日は激動の日だ。

これじゃお母さんに話を聞くどころじゃない。後回し、だな。














やってきたのはあるホテルのレストラン。

少なくとも、お母さんの収入じゃ絶対に行こうとは思わない場所だ。行こうと思えば行ける。

けど、それは最後の晩餐だ。

「取り敢えず、名前を教えておこうかしら。最上総一さんというの」

最上…?

いや、そんな偶然あってたまるか。今日付き合い始めた先輩といきなり姉弟になるって?

そんなことあってたまるか。

「お待たせしました」

そこで聞えてきた男の声に、僕とお母さんは同時にそっちを見た。

そして、驚いた。

「マジで…?」

「え…?」

そこには、背の高い温和な印象の男の人と、最上先輩がいた。予想は当たりだった。

「知り合い?」

お母さんに尋ねられる。

知り合いというか…

「今日、付き合い始めたばかりの…先輩なんだけど」

「「えええええええええええええええっ!?」」

親二人の絶叫が響いた。

そんなことは知らなかったらしい。いや、今日付き合い始めたから普通は知らないと思うんだけどね。

それより、この状況、マジで?

何か、条件がまた追加されたんだけど。義理の姉弟という、実に複雑な条件が。

それに、よく考えてもみてもらいたい。お母さんが結婚する。苗字が変わる。そして、最上の家に入ることになる。

僕と先輩が同じ空間に居続けることに。

「先輩…どう、します?」

「…取り敢えず、その先輩って呼び方はもう駄目だと思う」

そこか。そこなんだ。

まぁ、納得しておくとしよう。最上さん、も駄目だ。いずれ僕もそうなる。

お母さんの結婚に反対するつもりもない。問題は僕らだけなんだから。

「紫さん…でいいのかな?」

「いいと、思うよ。私も昴君って呼ぶから」

これで一気に近付けた。なんて喜んでる紫さんを少しほっといて、僕は少し考えてみる。

これは、また色々と切り捨てるときが来たんじゃないか?

彼氏彼女という関係か、義姉弟という関係、そのいずれか、もしくは両方を切り捨てる必要がある。

けど、まだ彼氏彼女という関係にも見極めがついていないような状況。そんな状況で切り捨ててもいいんだろうか?

「昴。総一さんもいるんだからそんなに考え込まないで。考え始めると周りが見えなくなるんだから。それ、悪い癖よ」

お母さんに言われて僕は思考を中断する。

そうだ。今は、この人と話をしに来ていたんだ。

「…昴君、だったね?」

「はい」

「私は別に娘との関係を咎めたりはしないよ。周りが何か言ったとしてもそれでもそのままでいられるんならそのままでいるといい。

 けど、それが無理なら分かれたほうがいいとは思うけどね。兎に角、そっちは2人に任せるよ。よく相談して決めてほしい」

意外とあっさりしてるのか、紫さんを信頼してるのか。

取り敢えず、まだ時間はあるみたいだ。その中でどうするべきかを考えていくべきだろう。

「昴、君。あの…私は、大丈夫だから。昴君に任せるよ」

で、結論は僕1人に委ねられました、と。

責任、重大だねぇ。

「時間、ください。入籍はしてもらって結構ですから」

「そうか。わかった」

総一さんならお母さんを任せてもいい。

問題は、僕が紫さんとの関係をどうするか、だから。














家に戻ってから、僕は大量のダンボールを押し付けられた。

「お母さん、もう仕事辞めてきたから。入籍と同時に引越し。引越し先は総一さんの家ね。

 だから持っていくものはこのダンボールに詰めなさい。いらない物は捨てなさい。荷物は少なくしていくわよ。家具は全部売るからそのつもりで」

計画は前々から進められていたらしい。

この調子で行くと、数日後には入籍しそうだ。

まぁ、考えながらでも始めようか。

僕の気持ちはどこにある?

僕はゼロからのスタートだった。

…いや、違うな。本当にゼロからスタートしたのは紫さんだ。僕は、紫さんが乗ってきた路線にゼロのまま飛び乗っただけだ。

僕が本当に紫さんと同じ線でモノを考えるとするなら、僕は紫さんと同じだけの経験値が必要だ。それには、今の紫さん以上に、紫さんの歩んできたような道を歩んでいかなければいけない。

置いていかれたままじゃ、あの人の気持ちはわからないし、僕もどうすればいいか分からなくなる。

ゼロのままじゃ駄目だ。せめて一歩行かなきゃ。そうしなきゃ、何にもなりゃしない。

紫さんは、どうやって僕を知ったのか、僕を見てたのか、僕に想いを伝える決心をしたのか。

僕は、どうするべきなのか。

決断は僕に委ねられたけど、やっぱり話をしよう。今回の件に関わる全ての人と。

だから、

「お母さん。少し、話いいかな?」

まずはここから。

「話?」

「うん。僕の今後について、色々」

ゼロのままじゃいたくない。

「じゃ、昴がどうするべきか、から話してみようか?」

いきなり核心だった。けど、これぐらいズバッと来るのがお母さんだった。

「まず、昴は切り捨てるって考えを捨てること」

「え…?」

何で、お母さんが知ってるんだろう。僕は、この考えを誰かに話したことは無かったのに。

「勿論、人生の中で何かを切り捨てなきゃいけない日っていうのはいつか出てくる。

 お母さんの中で離婚って形であの駄目男を切り捨てたり、住み慣れた環境を切り捨てたりした。けど、それは必要だったから。

 でも、昴の場合は違うよね?いつか切り捨てる日が来るなら先に切り捨ててしまおうっていうのがはっきりと見て取れるよ。線を引くってことかもしれないけど、線を越えてくるものを許さないんだったら、それはやっぱり切り捨てるってこと」

お母さんの意見は的確だった。まるで、自分が通ってきた道のように。

「ほんと。あんたって顔は腹が立つくらいあの男にそっくりなのに、中身がそのまんま昔のお母さんそのものね…

 だからそんな考え込む癖だってつくし、道が見えなくなるんだよ」

道が…見えなくなる。僕は、どうすればいいかわからなくなってる。それは、これからの紫さんとの関係についてもそうだ。

僕は、何も考えていない。考えて考えて、何も考えられないでいた。

「切り捨てるとか、そういう考えを全部捨てて、一番したいことを考えなさい。やってみたいこと、あるんじゃないの?」

言われて、考えてみる。

僕が、今一番やってみたいこと。

そう、か。それが答えか。人生の定理の1つなわけだ。

「…答え、わかったような気がする」

「そう。じゃ、頑張れ」

じゃ、答えも出たところで荷物の整理を始めよう。

答えなんて、凄く簡単なものだったのにね。














次の日。学校にて。

「紫さん。僕、色々考えて、僕の考えは決まりました」

僕の答え。

僕が、何をしたいのか。

「僕、いつも自分がどうするのかばかり考えていました。でも、それは違ったんです」

そうだ。

本当に、僕が求めなければいけなかったもの、ゼロから始まる僕が、本当に必要としていたものは。

「どうするかじゃなくて、どうしたいかだったんです。僕は、まず切り捨てることばかり考えて、自分がどうしたいのか、という部分を見てこなかったんです。

 この状況でどうしたい、じゃなくて、どうするかばかりで…」

紫さんは黙ったまま僕の話を聞いていた。

「それで、僕は気付いたんです。自分が、実は結構我侭なんだってことに」

僕の我侭。それは、間違いなく。

「僕は新しく手に入った家族と、彼女とどちらも切り捨てるつもりなんか無かったんだって。結構、我侭ですよね。

 だけど、それでもいいんなら…今のままで行かせてもらえないですか?」

今のこの現状を続けていくこと。それが、僕の我侭。

家族も、折角できた彼女も手放したくない。それが、僕の本音だったんだ。

「いいと、思うよ。私はできればそうしたいって思ってたから」

























後書く



はい、一応ゲームと若干クロスしてます。ほんとに若干ですよ?

昴は人付き合いが少し苦手な性格です。それでいて、浅く狭くというかなり駄目なパターンの付き合い方をしてます。

そんな彼が今後のシリーズに登場するかどうかは…不明です。

と思っていたのですが、江田が登場するシリーズを現在構想しているので、きっと出てくるものと思います。