She takes her courage in both hands!

3.fate&truth














ミライとヒカリは魔王を名乗るゼートライドの居城まで一気に進んだ。聖を助け、元の世界に返すために何かをするということに躊躇はなかった。

「アークセイバーッ!!」

聖を助けたいと思ってから、アークセイバーやソルイージスの性能は極限まで上がった。

2人はそれが何故なのかには未だに気付いてはいないが、それでも聖のために頑張れるということが気持ちを奮い立たせた。

剣で異形を斬り捨て、小さくした盾で殴りつける。

2人は止まることなく進み続けた。

「ミライ!行って!!」

ヒカリがミライへと道を空ける。そして、そこをミライは駆けて行く。

「ありがと、ヒカリ!」

一言残して、ミライは先へと進んだ。

「もう、間違えたりなんかしない」

道は一直線だった。わかっている。あの先にいるのは今までずっと追ってきたもの。倒すべき敵。

世界を、聖を守るために。ミライは、目の前のドアを切り刻んだ。

「随分と乱暴なのだな。光の剣姫とやらは」

その奥から、挑戦的な声が聞こえた。
















ヒカリは全ての魔物を倒し、ミライを追おうとした。だが、すぐに魔物の増援が来てしまった。

「また…しつこいっ!!」

一体を殴り飛ばし、次の一体へと狙いを定めると同時に、違和感を感じてしまった。何か、違う何かが混ざっている。

それはすぐに分かった。

魔物除けを持ったまま駆ける聖だった。

「そんな!?」

慌てて周囲の魔物を殴り倒し、聖の後を追う。これでは、何の為に1人残してきたのか分からなくなってしまう。死なせないために、これ以上傷つけたりしないために残してきたというのに。

「邪魔を…しないでっ!!」

倒しても倒しても限がない。それでも、止まることはできなかった。聖を死なせるわけにはいかないから。

そんな中、聖がミライのいる部屋へ到達したことを確認した。

「プロミネンススプレッダー!!」

背の翼が大きく羽ばたき、光をばら撒いた。光に触れた魔物が発火する。同時に天井付近まで飛び上がり、ソルイージスを床に向けた。

「あまり、好きじゃないけど」

ゆっくりと力を籠める。空を飛ぶ魔物は全て倒してある。

「効果範囲…この部屋全体。圧力設定、よし。属性効果、付与…」

好きではないと言った行為。理由はこれほど残酷な行為はそうはない。

「バーンオブスタクル、フォール」

そう、部屋全体を効果範囲とした圧縮。これから逃れるには障壁を突き破るだけだが、既にアークセイバーでも突き破れないことは判明している。

ましてや、魔物たちにアークセイバーを越える攻撃力を持っていることはない。定められた死がこれ以上ないほどに残酷な方法で与えられる。これは好きになれるわけがなかった。

見たくないと言わんばかりに、彼女はミライと聖のいる部屋へと入った。

そこでは聖が隠れていて、ミライが1人の男と剣を打ち合っていた。

「その程度か!?その程度で剣姫などと名乗っていたのか!!」

ミライのアークセイバーを完全に腕力だけで弾く男。それを見るだけで理解できた。あの男が魔王、ゼートライドなのだと。

そして、これが世界の為であるなら一騎打ちなど言っている場合ではない。

「ソル、イージスッ!!」

叫びと共に宝石が輝く。

それは確かな形となり、弾丸として魔王を襲った。

「甘い!!」

だが、それを見もせずに左腕で払った。もっとも、ヒカリは驚くつもりなどない。こうなることは予見していた。狙いは、ミライが攻勢に転じる余裕を作ること。

そして、聖を攻撃に参加させないこと。

「まだまだ!!」

次々と弾丸を形成し、解き放つ。それは全てヒカリの意思で制御され、ミライに当たることはない。そして、ミライはその弾丸の雨を掻い潜り、ゼートライドと剣を切り結ぶ。

弾丸を何発もその身に受けても尚、魔王の力は衰えない。

そして、ゼートライドは力任せにミライを弾き飛ばした。その方向には聖がいる。

「しまっ…」

気付いたときには聖は飛び出していた。

「駄目!!ミライ止めてぇ!!」

その叫びはミライに届いた。直後、自分を押し退けて前に出る人影。

「…え!?ヒジリ!?」

それは聖だった。

「俺の命は…大切なものを守るためにあるんだ!!」

そして、迷わずその身を兇刃に晒した。

「ち…」

ゼートライドの刃は、聖を切り裂いた。だが、それによってミライには反撃のチャンスが巡ってきた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

聖の体を飛び越え、剣を振りぬいた姿勢のゼートライドの体にアークセイバーが突き刺さる。そのまま力を込め、一気に両断する。

「…ち。してやられたか……」

最後の言葉はミライにもヒカリにも向けられていなかった。それは、徐々に温もり失いつつある聖に向けられていた。

「だが…貴様が命を晒した時点で、俺の、勝ちだ」

それを最後に、魔王は絶命した。

「あいつの…勝ち?」

ミライはそれに納得できなかった。聖を犠牲にしてまで得た勝利だというのに。

だが、それにしてはゼートライドは確信を持っていた。

「それより!!」

まずは、聖が気になる。うまくすれば助かるかもしれない。

「ヒカリ!!」

先に聖の下へと駆け寄っていたヒカリへと声をかける。

だが、ヒカリは俯いたまま顔を上げることはなかった。

それが、答えだった。もう、助からない。

「ねぇ…嘘でしょ?こんなの嘘でしょ?嘘だって言ってよ!!」

そんな答えを理解したくなくて、ミライはヒカリに掴みかかった。だが、そんなことで現実が変わるわけがない。

「私だって嘘だって言いたい!!けど、この現実を誰が招いたと思ってるの!!ミライでしょ!!何も考えずにあんなこと言うから…」

それきり、ヒカリは泣き出してしまった。

(そうだ…私の所為だ。私が)

ミライは何も言えなくなって俯いた。そんなミライの脚に、そっと手が触れた。力などいくらも入っていない、弱弱しい手。

それが誰の手なのか、考える必要もなかった。

「ヒ…ジリ?」

聖の手だった。もう声も出ないのだが、それでも何かを伝えようと必死に口を動かした。時には血が溢れてきて吐き出すこともあった。

必死になって伝えようとする内容を1つでも逃すまいと、ミライは口の動きを追った。

『俺が死ぬのは、自分の意思だ。お前を助けようとしたことも俺の意思。それを2人で気に病むことはない。こういう運命だったんだと受け入れてくれればいい。

 ただ、伝えたい気持ちがあるのに伝えられないことだけが心残りだけどな』

そう伝えようとしていた。

それをミライは理解した。伝えたい気持ちが何なのか。それだけは教えてくれなかったが、こんなになっても自分たちを恨まず、純粋に2人の仲を心配する聖に、ミライはどうしようもなく申し訳なく思った。

こんなに優しい人を、死なせてしまった自分。もっと強ければこんなことにはならなかったはず。

それでも、聖は言うだろう。

『気にするな』

2人は、聖が動かなくなってもその場を離れようとはしなかった。

だが、ここに来て異変が起きた。

まずは、巨大な地震。

そして、やむことのない嵐と雷。これが何を意味するのだろうか。

2人は気付けなかった。

この現象はコナタ世界全体で起きていた。

世界の果てと呼ばれるあたりでは、聖の死と同時に。

徐々に世界が姿を失っていく。

ここでミライはゼートライドの言っていたことを思い出した。

「…俺の、勝ち」

あの男は、こうなることを知っていた。

いや、正確には違う。

聖が死ぬと分かったとき、こうなることを理解したのだ。

アークセイバーもプラメイジセイバーも動かない。まるで、存在する理由をなくしてしまったかのように。

「…そういう、ことだったんだ」

ここでミライは気付いた。

この世界を作り出した存在が誰であるかということに。何故、自分とヒカリが光の双勇姫と呼ばれる勇者になっていたかということに。

「この世界は…ヒジリが、ミナモでの苦痛を消す為に作り出した、虚構…だったんだ」

苦痛を消す。

苦痛を魔物という形にして、打ち消す存在として自分の大切な存在を勇者に据えたのだ。そうすることで現実の辛い部分を気にせずにいられたのだ。

だが、聖自身も気付いていなかったが聖は未来のことが好きだった。好きな人から与えられる苦痛というのは世界に強い負荷を与えていたらしい。

そして、あの日。ミナモ世界へと流し込む負荷が限界を超え、聖自身がミナモ世界へと落ちてしまったのだ。

そう、最後の逃げ場所として存在していたのだ。

つまり、魔王を倒したところで、聖が新たな苦痛を感じてしまった時点で新たな魔王が生まれる。この世界はこんな仕組みだったのである。

「私は…創造主を、盾にしてたんだ」

これが現実だった。直に世界は滅ぶ。

だが、ミナモは滅びない。あれは聖が作った世界ではない。

もしも叶うなら。もしも叶うなら。

「ミナモの自分にヒジリを救ってほしい。私達は、消えてしまうから」

この日、コナタ世界は消失した。そこから、3つの光が裏側の世界、ミナモ世界へと向かっていった。
















光莉は未来とは時間をずらして聖の自宅へと向かった。

(ごめんなさい…)

後で弁償します。そう小さく呟いて、光莉は窓ガラスを割った。勿論、叩く周りにガムテープを貼り付け、音が出ないようにする細工は忘れない。

このためだけにこの方法を調べてきたのだ。前日のうちにバールを聖の自宅の庭に隠し、計画を立てた。

(…あまり、心配かけさせると駄目ですよ。未来さんなんてもう潰れそうですから)

ゆっくりと、1人で住んでいる割に広すぎる家の中を聖を探して歩いた。1階にはいない。

亡くなったと聞いている両親のものと思われる寝室に入った。

綺麗に整頓されているが、衣類や日用品などはそのまま置かれていた。これが、御雪聖という少年の真実だった。

1人で生きるには弱々しい存在。まだ、いなくなってしまった人の思い出を全て抱え込んだまま生きている。抱えきれないことに気付いてなくて、潰れそうになる。そんな時、ここに入り、また、妹の部屋に入り、抱えきれなくなった思い出を拾おうとする。

本当は、余裕などなかったのだ。

そこに、光莉は気付いた。

未来は聖の強さに憧れたと言っていた。

「強くなんて、ないですよ。未来さん」

聖は強くなんてない。ただ、弱さを見せないだけ。それは強さとは言わない。

そっと、部屋を後にする。

1階は全て見て回った。次は、2階。

1つ目の部屋。あまり物がなかった。だが、そこにある小さなベッドには薄いピンクの布団が綺麗に畳んであった。

小さな巾着袋があった。刺繍で名前が縫い付けられていた。

「みゆき……さな」

妹がいたとは聞いていなかった。そして、亡くなったのは両親だけと聞いていた。

いや、違う。

聖の性格を考えればわかる。

妹まで一緒に迫害されることを拒んだのだ。だから、どこか親戚に預けるか里子に出すかしたのだ。

「自分から、1人でいることを選んだんだ…」

そこは踏み込んではいけない領域だったのかもしれない。そっと巾着袋を元に戻すと、部屋を出た。

あとは物置などだった。

意図的に、この部屋を後にしたのだろうか。何となく、開けることが恐ろしかったのだろうか。

だが、聖を探す上で、もう避けて通ることなどできない。

ゆっくりとその部屋を空けた。

「御雪…さん?」

そこで目に入ったのは床に倒れる聖とそれを囲むように存在する3つの光だった。

何が何だか分からず、呆然としていると、後ろから誰かがやってきた。

「光莉?」

「未来…さん?」

光莉は驚いていた。目の前の状況もそうだが、未来が来たということもである。少なくとも、光莉の知る未来にはここまでの度胸はなかったはずだ。

少なくとも、人の家のガラスを割ってまで中に入ろうという泥棒のような真似をするような根性は。

「どういう…状況?」

訊かれたところで、光莉には答えようがない。光莉だってわかっていないのだから。

だが、ここに来て異変が起きた。

3つの光がそれぞれ散った。

1つは未来に。もう1つは光莉に。最後の1つは聖に。

その中に呑み込まれていった。

「あれ…何で、こんな記憶が?」

最初に呟いたのは未来だった。

未来の中には夢の中の自分――ミライが体験してきた旅の記憶、聖との出会い、聖への想いと後悔が宿っていた。恰も、自分が経験してきたことのように。

「どうして、こんなに泣きたいんだろう?」

言いながら、未来は自分の衝動を抑えられなくなった。なぜかは分からない。

それでも、未来も、光莉も、聖が戻ってこないような気がしていた。

「ごめん、なさい…」

その謝罪の言葉と共に、一粒、涙が零れ落ちた。













To be continued…












「聖さん…ずっと1人だったんですよ」

「…うん」

「それを、あなたは追い込んだ」










――帰らなきゃ

――伝えなきゃ

――君を、泣かせたりなんかしないから。だから…

――帰らなきゃ…

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