She takes her courage in both hands!
1.He fell anoter world.
2人の少女が、美しい翼を広げ、醜悪な怪物と戦いを繰り広げていた。
「ヒカリ!こいつを弾き飛ばして!!」
剣を持った少女がもう1人の少女――ヒカリ・ホーリーを呼ぶ。
「わかった…!ミライ、跳んで!!」
ヒカリが左拳に装着された宝石を剣を持った少女――ミライ・セイヴァーへと向ける。同時に、ミライは背の剣のように鋭い六枚翼を広げ、飛んだ。
「バーンオブスタクル!!」
宝石から赤い光の壁を放ち、ミライと相対していた怪物を弾いた。
「…一気に!」
ミライが空中で一回転。六枚翼から光の剣が生まれ、大地へと向く。同時に、ミライの網膜に六つの円と、それに重なる6体の怪物の姿が映る。
「見えた!ソードバレル、ダウンフォール!!」
その声と共に、剣が降り注ぐ!!
目を、覚ました。
「…夢?」
少年はあまりにリアルな戦闘を思い起こし、あれが夢だったのかと思う。
だが、それよりも、
「やば!遅刻!!」
遅刻寸前の学校こそが何よりも優先すべきことだった。
少年には共に過す家族などいない。両親と3人で行った旅行の帰りのバス事故で両親は死に、幼いからと近所に預けていた妹は無理矢理に里子に出した。泣きながら伸ばしてきた手を容赦なく振り払ったことを、少年は間違いだとは思っていない。そのとき、僅か七歳の判断であったにもかかわらず、だ。
事故の後、生存者が少年1人であると報道された。
話を戻そう。
朝食など摂っている時間はなかった。財布だけ掴んで飛び出した。
途中、パックに入ったゼリーを購入、そのまま校門を駆け抜けた。まだ油断は出来ない。教室に入るまでが勝負なのだから。
が、その勢いは教室を前にして失われることになる。
突然、足をかけられて少年は前のめりに転倒してしまった。
「あら、ごめんなさい。廊下を走っている人がいるものだから止めようと思ってたんです。よく見れば御雪さんではないですか?やっぱり、悪魔憑きは違いますね」
1人の少女が、突き出した足をそのままに悪びれもせずに倒れたままの少年に声をかけた。
その言葉には多分に蔑みが含まれていた。
だが、少年は気にせずに立ち上がる。すぐにパックゼリーと鞄を拾うと歩き出した。
「どちらに?」
「教室。遅刻する」
それだけ言って、教室に入った。
「御雪、聖」
少女が呟くと同時に予鈴が鳴り響いた。
昼休み。
少年――御雪聖は1人になれる場所を探していた。
「御雪さん、こっちへ」
屋上へと続く階段から1人の少女が聖を呼んだ。短く髪を揃えた快活な印象の少女。聖はその少女を知っていた。
「…堀」
堀光莉。朝に、聖があの少女に絡まれた日には必ず昼食に誘ってくる、1つ年下の少女。
何を言っても聞かない。それを分かっているから、聖は黙ってついて行く。
そして、辿り着くのは屋上の更に上、貯水タンクの上。
「いつもすみません…」
光莉はいつも謝罪から入る。
「あんたが謝ることじゃない」
聖の答えも決まってこうだった。だが、どちらも言っても聞かない人間である以上、これが挨拶と言っても過言ではないかもしれない。
「「………はぁ」」
同時にため息を吐く。
悩みの種、それも共通。こんなことを繰り返すうちに2人は友人と呼べる関係にまでなった。表立ってはそんな素振りを見せたりはしないが。
「まぁ、星馬のことは気にするな」
気にするだけ無駄だ、と聖は自分の胸の中で続けた。
「未来さんは難しい人ですから」
複雑な表情の光莉。
星馬、未来。朝、聖に絡んだ少女で、光莉の幼馴染だった。
「取り敢えず、俺は行く。変な噂を立てられたときに困るのはお前だ。だから、少し遅れて戻って来い」
それだけ言って、聖は貯水タンクから飛び降りていった。
見送って、光莉は溜息を吐いた。
「そろそろ出てきてくださいよ、未来さん。御雪さん、絶対気付いてましたよ」
そう言うと、光莉から死角になる場所から少女、未来が出てきた。その表情は暗い。朝の、聖に絡んだときの高圧的なソレとは明らかに違った。
「そんな顔するくらいなら素直になったらどうなんですか?」
沈んだ表情で自分を見上げる未来を見て、呆れ半分で苦笑する光莉。未来の本当の気持ちを、光莉は、光莉だけは知っている。
未来は、1人で懸命に、強く生きている聖に憧れに近いものを抱いていた。強さの訳を知りたくて、近づいたとき、どうしていいかわからなくなり高圧的になってしまった。そんなつもりはないのに虐めになってしまった。
それが間違いだった。
未来には引き際が見えなかった。気付けば、聖を虐めるグループのトップになってしまっていた。
「わかんないのよ…」
朝の面影などどこにもない。そこには自分の過ちに怯え、震える少女がいた。
「どうしたらいいのか、わかんないのよ」
一日が終わった。
「…今日のは結構効いたな」
朝のアレは効いた。
今でも痛む。
「まぁ、寝るだけだしいいよな」
これからシャワーを浴びて、それから…などと、いつもと同じように考えていた。
「あ…れ?」
眩暈がした。
立っていられない。
何故、何故、何故…?
わからないが、倒れた。
ミライとヒカリは今度は小さな町を守って戦っていた。
だが、前よりも敵が多い。
「薙ぎ払え!!プラメイジ、ユナイト!!」
ミライの翼から光の刃が生まれ、1つに融合する。
「バスター、フォール!!」
1つになった巨大な剣が地に降った。
直撃を受け、消滅する怪物。飛び散る石礫で圧死する怪物。
ミライへ向かう余波はヒカリが結界で防ぐ。
「ソルイージス!」
右手の宝石で防ぎつつ、何かあったときのために左の宝石にも力を込める。
何かが落ちてくる。
2本の腕、2本の脚。人の形をしている。
「魔人!?」
ミライがその姿を見て叫ぶ。
魔人となれば、圧倒的な能力差で優勢に進めている戦闘の状況が変わってしまう。ならば、とミライは剣を構えて上空に向かって疾駆する。
「違う!!」
だが、ヒカリは気付いた。魔人ではなく、人間だと。
「受け止めて!ソルイージス!!」
宝石から広がる結界が盾となり、形を成す。そして、落ちてきた人間を優しく受け止めた。その姿は聖だった。
聖は気を失っていて、目を覚ます気配はない。そして、ミライもヒカリも空を飛んでいる。
このまま落としてしまったら大惨事だろう。
「ミライ、何とかして」
そう言って、後ろに下がるヒカリ。
「薄情者!!」
叫びつつ、怪物の一体を斬り捨てるミライ。何とかするしかない、と理解は出来ている。それでも言わずにはいられなかった。
「アークセイバー、私の叫びに応えなさい!!」
叫びと共に、ミライが持つ、光の剣が輝きを増し、伸びた。
「ピアレス……スレイ!!」
そのまま光剣――アークセイバーを振り下ろす。
「パーゲイション!!」
大地に叩きつけられたアークセイバーから光が溢れ、飲み込まれた怪物が消滅する。
光が収まった頃には全ての怪物が消滅していた。
「…今までよりも、力が湧いた」
光を出し尽くし、柄だけとなったアークセイバーを見ながら、ミライは呟いた。
未来は眠る前に小さな決心をした。
「…絶対、謝ろう」
いつになるかも分からないし、許してもらえるかどうかも分からない。それでも、決めた。
夢を見たかった。
よく見る、自分と光莉が世界を守る勇者になって戦う夢。
聖に一緒にいて欲しかった。聖を守りたかった。
いつも、傍にいられたらいいのに。せめて、夢だけでも。
そんなことを思いながら眠りに就いた。
「……」
聖は目を覚ました。
自分を心配そうに見つめる人がいる。
「…堀?」
妙なシチュエーションだった。
変に柔らかいベッドの上で寝かされている。第一、どうしてこんなところで寝ているのかも、どうして光莉がいるのかも聖には分からなかった。
「?確かに、私はホーリーと言いますけど、どうしてご存知なのでしょうか?」
“ヒカリ”は言った。別人にしては似すぎている。聖はそう思いながら自分の知人を思い浮かべる。
と言っても、聖の知人はそれほど多くはない。
「…目が覚めたの?」
奥の方から、声がした。
声の主、ミライはアークセイバーを持ったまま聖に詰め寄った。
「ミライ!!」
ヒカリの制止の声を無視し、ミライはアークセイバーを聖に突きつけた。
「あんた、何なの?」
「……」
聖は何も言わず、アークセイバーへと視線を向ける。恐怖は感じない。
「答えなさい!!」
声を荒げるミライを見つつ、聖は昨日見た夢の続きに入り込んでしまったのだと理解した。そんな非現実的なことあるわけないとは思うが、そうでも思わないと説明がつかないのも事実なのだ。
未来と同じ顔をしたミライ、光莉と同じ顔をしたヒカリ。自分はこの二人と一緒にいたいという願望でもあったのか、と思ってしまう。
(いや、あったな)
心の中で苦笑し、自分が未来を割りと気に入っていたことを思い出した。あの素直になれないところが面白い。
それで痛い目に遭うのは勘弁して欲しいところだろうが。
「コレをどけろ」
だが、物騒なモノを突きつけられての会話など、願い下げなのが聖の心情。
「質問に答えるならどけてやってもいい」
「どけるなら答える」
聖の言葉にミライが憤慨する。
「貴様ッ!!応えろ!!アークセイバーッ!!」
感情のままにアークセイバーを振りかぶるミライ。だが、アークセイバーは応えない。刃が形成されない。
「応えろと言っている!!アークセイバー!!」
必死になってアークセイバーを発動させようとするミライ。
「ソルイージス」
そんなミライと聖の間にヒカリが割って入る。
「ミライ、何が気に入らないの?そんな態度じゃ誰も何も言ってくれないよ?」
宝石――ソルイージスを油断なく構えるヒカリ。そんな中、ソルイージスの力がいつもより強いことに気付いた。
誰かを守る戦いはいつだってしてきた。違いはどこから来たかも知れない、天から降ってきた人を守っているだけ。
「煩い!!ヒカリは黙ってて!!」
その叫びはどこか悲痛なものがあった。
認められないものに恐怖を抱き、排除する。ヒトとして、当然の心理。それが働いている。
人間相手にも、応えてくれたアークセイバーが応えてくれない。光剣アークセイバー、刃翼プラメイジセイバーに絶対の信頼を寄せていたミライにとって、応えてくれないというのは恐怖でしかなかった。
「下ろしてくれさえすれば、質問には答える。勿論、何もしない」
聖は両手を広げてみせた。
敵意など存在しない。
ミライはゆっくりとアークセイバーを下ろした。鋭い視線は残したまま。
「さて…答えると言ったまではいいが、何と言うべきか」
何をどう言えばいいのだろう。まさか、ここは自分の夢の中です、と言うわけにもいかない。
「名は御雪聖。聖とでも呼べばいい。
生まれは…この世界でないのだけは確かだろう」
聖の言葉を聞いたミライは嘗めているのか、と言わんばかりにアークセイバーに手をかけた。刃が形成できずとも、鈍器ぐらいにはなる。
「待って」
そんなミライをヒカリは手で制した。
「彼は…聖さんはミナモの人間で間違いないと思う」
To be continued…
「だったら、同じ人間が存在することになるじゃない」
「違う。コナタに存在がないから、ふとしたことでミナモから零れ落ちたんだと思う」
「ミナモだの、コナタだの、分かるように話してくれ」
「欠席…?」
「うん……この前、やりすぎちゃったのかな」
Next The other side of the world.