秋……
野山が綺麗に色づく季節。
彼女に出会ったのも、こんな頃だった。
目の前にはイチゴサンデーとバニラアイス。
僕達は百花屋にいた。
あの時と同じように二人で、あの時と同じものを注文して。
あの時と違うのは……
顔を合わせている二人が本心から笑顔でいることだろう。
「本の売れ行きはどうですか?」
「うん、順調だよ。栞ちゃんの挿絵も評判がいいからね」
何であゆも連れず栞ちゃんと二人っきりで百花屋にいるのか?
別に下心があって密会をしてるわけじゃない。
いや、まあこんなかわいい子と向かい合ってイチゴサンデーを食べるのはとても嬉しいわけだが。
何のことはない、栞ちゃんが挿絵を描いてくれたあの冬の奇跡を題材にした物語が売れたのでそのお祝いに二人で会う約束をしたのだ。
ちなみに、あゆは栞ちゃんとの約束を果たすために勉強中。
本当は連れてきてやりたかったが、今が頑張り時だから甘やかすわけにも行かない。
帰りにたい焼きを買っていってやろう。
「『Angel Promise』って素敵な名前ですよね?」
『Angel Promise』、その話題の本の題名だ。
栞ちゃんのほのぼのした挿絵と、微笑ましい奇跡の物語が受けているらしく、今ちょっとしたブームになっている。
もちろん、こんな洒落た題名をつけたのは栞ちゃんだ。
「読者が『夢の印税生活』なんて発言を知らなければね」
「そんなこという人、嫌いです」
しかし、あの時は冗談だったとはいえ……
研究の片手間に書いた手記がここまで売れるとは思いもしなかった。
地元テレビがドキュメンタリードラマを作らせてほしいという依頼まで来ていたりする。
しかも、たまたま挿絵画家として栞ちゃんの写真を載せたら、テレビ局の目にとまったらしく、栞ちゃんへの出演依頼も考えられているとか…
ブラウン管でこの子が持ち前の小悪魔的な演技力を発揮するのかと思うと、正直……怖い。
「それはそうと、今も絵を描いてるのかい?」
睨んでる栞ちゃんが怖いので話題を変える。
「はい、今日も持ってきてますけど見ますか?」
そういって栞ちゃんがスケッチブックを取り出す。
「待った、今それどこから出したんだい?」
「ポケットからですよ」
ニコニコ顔で答える栞ちゃん。
有り得ない……、どう考えてもポケットに入る大きさじゃないぞあれは……
何か恐ろしいものを感じるので、そのことは考えないでおこう。
「はい、どうぞ」
栞ちゃんはスケッチブックの最近描いたらしき絵の部分を開いて差し出す。
「ありがとう」
手にとってぱらぱらめくってみる。
…………。
……。
あれ?
「何だ? 狐の絵ばっかりだけど……」
相変わらずほのぼのとしたタッチでどこか癒される画風。
練習を積んだせいか以前よりうまくなっていると思う。
それはともかく、何故か栞ちゃんのスケッチブックは狐の絵、正確には怪我をした子狐と少年を描いたものばかりだった。
「月宮さんのお話で一番頭に残っていたんです」
僕が首を傾げていると栞ちゃんは苦笑いしながらそう説明してくれた。
そうか……。
聞き上手なこの子には分かってしまうのかもしれないな。
「君には……本当のことを話してもいいかもしれない」
「……え?」
何のことか分からず驚く栞ちゃんに懐から取り出した手帳を渡した。
「あの……これは?」
「何も言わず読んでくれないかな」
「……? わかりました」
納得いかない顔をしていたが、栞ちゃんはその手帳を開き読み始めた。
本当にお話好きの子だな。
釈然としない顔で読み始めたのに、数分後、栞ちゃんは紙面を食いつくように眺めていた。
コーヒーでも頼んで静かに待っているとしよう。
…………。
……。
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