「…私は今日始めて悪意のない殺意という物を知りました」

 げんなりとしたダウニーを先頭に設備の案内が続く。

 後ろに続く面々の元気も薄い。

「酢茶はきつかった………」

「しばらく酸っぱい物と苦い物は食べたくない」

 大河とデュオはそれぞれ未亜とアリスをかばうために多量に摂取して、ダウニー並みのダメージを受けている。

 かくして救世主候補は一般市民に殺されかけたのであった。








































Wiz☆Savior

第2話 グレバトス教と魔法使い達の夢





























「こちらが教会ですね」

 敷地の端に配されている教会はステンドグラスが中のロウソク灯りで淡く光っていた。

「ふと思ったんですけど、何教なんですか?」

 興味があったのか、未亜がダウニーに疑問をぶつける。

「そうですね、主にグレバドス教がメインでその他は個室に皆さんの宗教を持ち込んでいる感じですね」

「グレバドス教?」

 ええ、と頷きながらダウニーが語り出す。

「救世主を超えた十二の勇者が世界に平和をもたらすという教義を持つ宗教です。
 有名な話にはゾディアックブレイブがあります」

「へぇ、一体どういう話なんだ?」

「五百の昔、まだ大地が破滅の影響を免れていなかった時代、
 救世主無き大地をルカヴィ(破滅に属する悪魔の意)が支配していた。
 この大地を救わんと十二人の勇者がルカヴィたちに戦いを挑んだ。
 激しい死闘の末、勇者たちはルカヴィたちを魔界へ追い返すことに成功し、大地に平和が訪れた。
 十二人の勇者たちは黄道十二宮の紋章の入ったクリスタルを所持していたため、
 人々は彼らを黄道十二宮の勇者、ゾディアックブレイブと呼ぶようになった。
 その後も時代を超えて、私たち人間が争いに巻き込まれる都度勇者たちが現われ世界を救った…。
 一般では御伽噺として扱われていますが、世間ではそれなりの信者がいます」

「へぇ〜、世界によっていろんな宗教があるんだな………」

 ダウニーの言葉に軽く頷き、一行は教会を後にした。







「ここが正門です。門は6時になると閉まりますので注意してください」

 そういってダウニーが門の開閉レバーを握る。

「なあ、アリス………」

「なんじゃ、デュオ?」

 ダウニーが門を閉める中、デュオとアリスが大河たちから数歩離れる。

「力の流れを感じる。俺たちの結末をつけた時に似た………」

「うむ…膨大なエリティルが巡っておるな」

 即座に自分達の足元を見る。

 向こうの方が騒がしいが、気にしない。

「あるな………地下に、アレが」

「まあ、根の世界と言っておったからあるじゃろう。アリスらの世界とは桁違いのがな」

 とりあえず、と前置きをしてカドゥケウスを召喚するデュオ。

「大元がどこにあるのか、今から探る」

 杖先で地面を突き、じっくりと魔方を練る。

 そのころの向こう側は門から走ってきた男と大河が何かを話し合っている。

「すまぬな、アリスがこういう事出来れば問題ないのじゃが………」

「アリスはあんな物身体の中にあるから、威力はともかくこういう動作には向いてないからな」

 そういいながらデュオは意識を流れの先へ、先へと向けていた。

「………あった、ここの地下。この学園のど真ん中」

「うむ、困った事にならなければいいがの………」

 ちなみに、今現在向こう側では未亜の説教タイムが始まっています。








「というわけで、俺の名前はセルビウム=ボルト! この学園の傭兵科に通ってるッス!
 可愛らしいお嬢さん、よろしければ俺とこれからデートでもいかがっすか!」

 先ほどまで大河と一緒に怒られていた男、セルビウム=ボルトがアリスの手を握りながら、いきなり口説いていた。

 節操のない男である。

「なにがというわけで、だ。いきなり口説くな」

 一音節の水鞭でセルを叩き飛ばす。

「い、いたいっす…お兄さん」

「お兄さんって呼ぶな」

 すがりつくセルを蹴り飛ばし、

「まあ、自己紹介がまだだったな。俺はデュオ=ファーネク」

「アリスはアリス=アリステル=ファーネクじゃ」

 ついでに踏みつけてから自己紹介をした。

「お、お兄さん、妹さんを俺に………」

「残念ながら俺に妹はいない」

 オマケと言わんばかりに足をグリグリと動かす。

「じ、じゃあお隣におわす方は?」

「姉だ」

 セルの表情が固まる。

「うむ、アリスはデュオのお姉さんじゃ」

 無い胸をそらし、自信満々に語るアリス。

「………ドッキリ?」

「んなこたぁない」

 セルが後ろにいる大河に視線で訴えるが、大河の視線が紛れもなく姉だという返答をする。

「そんなのありかよ………」

 一瞬で力尽きたセルを尻目にさっさと寮へと向かうデュオ達だった。







「ヨーロッパのお屋敷みたいだね」

「魔術学院の男子寮に似ているな」

 未亜とデュオがそれぞれ寮の外観に感想を漏らし、中に入る。

「誰かいませんか?」

「は〜い……あ、ダウニーセンセじゃん。あとついでにセル。やほー」

 入った瞬間に出迎えたのは三人掛けのソファに寝っ転がってクッキーを食べながら本を読んでいた少女だった。

 格好は白いワンピースなのだが、姿勢が姿勢だけに清楚さ等は一切感じない。

 当然ながらセルを除いた後ろの四人は唖然としている。

「礼儀は正しくしなさい、クロスクラン。こんな所でクッキーかじりながら本を読まない」

「はいはーい………全くダウニーはそういうところが小煩い…」

 クロスクランと呼ばれた少女が起きあがり、本を閉じる。

「………シズナの方ですね? ユキナはどうしました?」

「起きてるけどさっきまで寝てた。今完全に惚けてるわ」

 立ち上がり、身体を伸ばしてダウニーに向き直るシズナ。

「新しい救世主候補が入ってきたので寮長を呼んできてください。後は任せました」

「はいはーい、おーいべりおー、べりおー………って救世主候補!? ちょっとマジですか! とっととでてこーい、ベリオ!!」

 凄まじい速さで駆け抜けていくシズナ。

 そんな彼女に軽くため息を漏らしつつ、後ろの四人に向き直る。

「先ほどの彼女がフローリア学園傭兵科クラス主席のシズナ=クロスクランです。
 彼女に後の事は任せましたので………」

 そう言って、そそくさと退散するダウニー。

 まるで災難から逃げるような素早さだった。








続く






 それは飛び散る血しぶきのような………後書き。



 どうも、タイトルに微妙な偽りありな第二話でした、森部です。

 いやぁ本来はもっと早く投稿する予定だったのですが、車事故っちゃいまして………

 あ、ケガとか一切無し、車も修理費6万で済んだので問題なしです。

 その結果後処理忙しくて、ついでに追試も受けてたので………

 まあ、遅れた事をお詫び申し上げます。

 今回もクロスネタが含まれております。分かった方はぜひとも連絡を。

 調べないで分かった方ウェルカム!! 熱く語りましょう!!!!

 では〜