閃光が空間を満たす。

『―』の全身から放たれた力が全身を容赦なく壊す。

 後一撃。

 たったそれだけが足りなかった。

 ベースがただの人間だからか、

 それとも純粋に力が足りなかったか、

 今となっては分からない。

 意識が、

 消えていった。

 最期の一瞬に、

 強烈な力に引っ張られた気がした。






































 抱き合った二人の心臓を剣が貫く。

 時を滅ぼす力の宿った剣が二人の存在を無に帰して行く。

 『―――』の手から『打ち砕く者』が落ちる。

 意識が白く染まる。

 もう、『―――』の事しか考えられない。

 意識が一気に閉じる。

 最期の一瞬に、何か強い力に引きずられた気がした。































 目が覚めると、そこはただ蒼い空間だった。

「目が覚めたか?」

 辺りを見回す。

 そこには蒼い、果てしなく蒼い本があった。

「ここは………」

「我を手に取るか、神を殺す真の救世主」

 書から聞こえてくる声に従い、手に取る。

「だけど、俺は確かに死んだはずだ。それなのに………」

「確かに、汝は意識の残りカスに過ぎない。しかし、私はその意志を欲する。最も神に近づいたお前の意志を」

 深い蒼から空色に、空色から群青に、グラデーションを描く。

「時は来た。今こそ全てに報いを、神に裁きを下す時」

 残った意識が吸い込まれ、全てがある一カ所に流れ込む。

 そう、あの始まりの日に。







































 蒼い空間が広がっていた。

 ただ、漂っている。

「………アリスと一緒ならよかったんだけどな」

 いつか見た蒼が広がる空間。

 ただ蒼が広がる世界に差した影。

「………お前が、ヨルムンガント」

 漂いながら杖を構える。

 ――― 生き延びろ

「アリスが居ない世界には興味ないな」

 ――― このままでは世界すら無くなる

「なんだって………」

 ――― 力を貸せ、我は其の存在を認めない。故に汝の力となる

「無理だよ、俺にはもう、戦う理由がない」

 ――― だが、我が敵は今だ健在である。

「なんだって………!?」

 ――― その持ち手と共に今だ狭間を漂う。

「アリスが………生きて………!」

 ――― 我が力は今だ汝と共にあり、かの力もまた共にあり

「………ヨルムンガント、お前、世界すら無くなるって言ったな?」

 ――― 然り

 この瞬間、確固たる理由が出来た。

「なら、お前が言う敵とやらを倒そうじゃないか。アリスと、今度こそ生きてやろうじゃないか」

 ――― たとえそれが茨の道でもか?

「そうだとしても、世界を飲み込むほどの力をも利用し尽くして倒してみせるさ」

 ――― ふふふ、我をここまで楽しませるとは何時振りか… 認めよう、我は汝の剣なり! 世界を飲み込む蛇なり!

 蒼の中に光が差し込む。

 膨らむ。

 漲る。

 浮かぶのは波。

 全てを飲み込む波濤。

「成すべきは」

 ――― 揺らぎの中に

「波の合間に」

 ――― 流れの上に

「渦巻く底に」

 ――― 一粒の滴に

「我は命じる」

 紡いでいるのはエリティルでは無かった。

 膨大な熱が思考を焼いて、身体を変えていく。

 ――― 我は命じる

『我が命ず―――!』

 吐き出す。

 膨大なまでの蒼が消え失せ、世界が闇へと変わった。





































 目が覚めるとそこは石畳だった。

 視界には未亜。

 端っこには制服を着た男。

 歳はそう変わらないだろう。

「ここは………どこだ?」

 横で未亜が起きあがる。

 何故だろうか、視界が涙でにじむ。

「うぅん………お兄ちゃん?」

 未亜の身体を見て、ケガがない事を確認してほっと胸をなで下ろす。

 それから今だ目の覚めない男を見る。

 いわゆるローブなのだろうか、コートみたいな形状の制服。

 当然大河たちの知っている範囲にはない制服。

「ううん、アリス……にゅるる〜…かじりつくな〜」

 奇怪な言語と共に飛び起きる少年。

「………にゅるる〜?」

「………なんだこいつ?」

「夢か………って、ここどこだ!?」

 少年は自分の腕を確認すると同時に辺りを見回す。

「残念ながら俺たちも分からない」

「そうか、ってお前らは?」

 大河を指さしながら少年が問う。

「俺は当真大河だ。こっちは妹の未亜」

「未亜です、え〜っと………」

「デュオだ。デュオ=ファーネク」

 とりあえず大河と握手しながら自己紹介するデュオ。

 その腕には二匹の蛇が絡まる腕輪がはめ込まれていた。

「で、お互い親睦を深めたところでちょっといいかしらぁん?」

 巨乳を誇示するような服装の女性が立っていた。









「で、今に至る………と」

 デュオと大河が今立っている場所は闘技場。

 周りには見物に来た大勢の生徒。

 大河は素手、デュオは杖を持っている。

「はしょりすぎだ」

「大変面倒なのですが、いきさつを簡単に説明しよう。

 その1・TECM○の格闘ゲーム並みに胸がでかい巨乳教師が俺の妹事未亜を救世主候補と呼ぶ。
 その2・そしてここが異世界だと説明される。
 その3・その証明に空中浮揚術なるびっくり術を見せつけられる。
 その4・そこから学院長からありがたーく、わかりにくい説明を受ける」

 途中から体育座りで話を聞いていたデュオが手を挙げる。

「はい、デュオ君」

「学院長の話を補足するとこの異世界が全ての多次元世界の中心点で根の世界と呼ばれていて、
 1000年一度、破滅という軍勢が世界を滅ぼす為に動き出す。
 それを防ぐために異世界から召喚器という考える武器を呼び出せる存在を召喚している。
 今までの事例から呼び出せるのは女性のみで、候補者は未亜しかいないのに何故か大河が出張って試験を受ける事になった」

「はい、デュオ君、よくできました〜」

「元はお前の責任だ。そのせいで俺まで引っ張られたじゃないか」

「気にしない、そんなんじゃ男としてやってられないぞ?」

 納得したわけではないが、とりあえずは現状をしっかりと見つめる。

「しっかし、ほとんどお祭り騒ぎだな」

「だよな」

 目の前には二体のゴーレム。

「とりあえずは」

「三十六計逃げるにしかず!」

 二人同時に別方向に逃げる。

 ゴーレムもそれに併せて追従する。







 手早く音節を整え、詠唱を実体化させる。

「基礎中の基礎だが!」

 射弾の魔方でゴーレムを外壁に叩きつける。

「まだまだ!」

 手早く一音節の水鞭を唱える。

「うおおお!!」

 立ち上がろうとするゴーレムを打ち据え、徐々に削る。

 しかし、それでもゴーレムは立ち上がる。

「………ぐぁああ!!」

 声の方向に振り向く。大河がゴーレムの一撃を食らっていた。

 その一瞬気を取られた瞬間にゴーレムが雄叫びを上げ、拳を振るってきた。








「どうすれっていうんだよ!!」

 あんな岩の固まりを殴ったら拳が危うい。

 かといってあいつを倒すにはどうするか。

 そう考えている内にゴーレムの一撃が迫る。

「どわっ!」

 かろうじて避けるも地面に当たった拳が地面を抉る。

 強烈なつぶてが大河の頬を掠める。

 それを見て青ざめつつも攻撃を回避。

「ちょっと、待て! おわあ!!」

 つぶてが足を切り裂く。

「つぅ!!」

 一瞬の痛みで動きが止まる。

 チャンスとばかりにゴーレムが腕を振り下ろす。

「ぐぁあああああああああ!!」

 一瞬の激痛、空気が全て吐き出される。

 ゴーレムが倒れた大河に二撃目を繰り出そうとした。






『こんな所で………、死んでたまるかよ!!』






 その一瞬、二体のゴーレムに変化が起きる。






 ――― 我はそれを認めない

 拳が振りかざされる刹那、杖を捨てる。

 同時に二匹の蛇が絡みついた杖が顕現される。

 聖と邪、光と闇、全ての矛盾を象徴したカドゥケウスの杖。

(所詮これは初心の魔術師が自分でも制御出来ない力を加えただけの土人形。ならば、物の数ではない)

 数年の歳月をかけて作られたゴーレムを構成する魔術式を見やる。

 式の刻まれていない場所など無いとばかりに文字がゴーレムの身体を埋め尽くす。

(しかし、所詮これは土人形。綻びは、この部分)

 ゴーレムの腕が振り下ろされる。

 しかしそれよりも早く膨大なエリティルが闘技場を満たす。

 唱えるのは魔方ではない。

 ただ、カドゥケウスの先端をゴーレムに向ける。

「我は認めない―――! 砕け散れ!!」

 たったそれだけで、

 ゴーレムの身体が崩れ落ち、砂に変化していった。






 突然、大河の周りがモノクロに染まる。

『我が主よ、我の名を呼べ』

『私の主よ、私の名を呼べ』

 二重で声が響く。

『む、なんだお前は。これは私の主だ』

『なんだと、後で来た古器の癖に。生意気だ』

 なんだか知らないが喧華になっている。

「あのー、すみません。どういう状況ですかこれは?」

 響く声に何となく問いかけてしまう。

『いや、我は汝の剣となるべく呼びかけたのだが』

『このいらん召喚器が汝をかすめ取ろうとするのだ』

「えっと? どうなってるの」

『なんだと、このポンコツ古器め。汝などいなくともこの力で全てを守り通せる』

『言ったな腐れ召喚器、なんならこの場で決着付けてもいいぞ?』

 何だか動けない状況から一転してとんでもない事になっている。

 ああもう! どっちでも良いから! と投げやりに思いつつ二人? の舌戦に耳を傾ける。

『ふぅ、汝の意志は分かった』

『ここらで妥協しようではないか』

「はい?」

 さっぱり事情が掴めない大河にたたみかけるように二つの声が響く。

『『さあ、我らを呼ぶがいい!』』

「ええい、くそ! もうどうにでもなれ!!」

 モノクロの世界を抜け出すように。

 叫ぶ。

「トレイター!! オーヴァー!!!」

 顕現される無骨な作りの一本の剣にどこまでも蒼い一冊の本。

 振り下ろされる両の岩拳。

 一瞬にして入ってくる知識を受け止め、

「………途絶!」

 一瞬で世界を再びモノクロに染める。

『これが我が力、時空だ』

 動きが止まったゴーレムに剣を振り下ろす。

 堅い岩肌に弾かれる。

「うおりゃああああ!!!」

 軽く飛び上がると同時にトレイターが突撃槍に変化する。

 そのまま先端が胸に突き刺さり、貫く。

『然り、それが我が力なり』

 モノクロの世界が終わり、ゴーレムが倒れ伏す。







「やれやれ………何とかなったか」

 ふと大河の方を見ると胸を貫かれたゴーレムが一体。

 カドゥケウスを見つめる。

「校長が封印を解いたって言ってたから………」

 ――― そのおかげで汝も我も最大の力を振るえる。

「つまり、時を滅ぼす者も使える、か」

 ――― 然り

 カドゥケウスを腕輪にするように念じる。

 杖がほどけるように腕に絡みつき、腕輪に変化した。

 その一瞬、背後が陰った。

 振り向くとゴーレムの腕だけが動いてつかみかからんとしていた。







 ゴーレムを貫き、着地した。

 後ろで大質量が倒れる音が響く。

 ふと手元を見るとオーヴァーが消えていた。

 とりあえず立ち上がり、トレイターを掲げる。

 その瞬間に歓声が上がった。

 歓声に対してトレイターを振り上げて答える。

「凄い! お兄ちゃん!」

 未亜が歓声を上げながら近づいてくる。

 その瞬間にふと陽光が遮られる。

 真後ろには胸を貫かれたゴーレムが拳を振り上げていた。








「にゃーーーーーーーーーーー!!!!」

 頭が理解する前に身体と口が勝手に反応した。

 咄嗟にカドゥケウスを杖にして頭上から響く声に全力で防壁を張る。

 声の主の事だから絶対に完膚無きまで破壊する!

「デュオーーーーーーーーーーー!!!!」

 一瞬にして三音節魔方を複数展開した一音節多重詠唱の火球―――もはや隕石規模の大きさの物が落ちる。

 ゴーレムの腕どころか元々の身体の成れの果てまで一瞬で消し飛ばす。

 爆風に一瞬飛ばされそうになるが踏ん張りきったところで、

「さーちあんどきゃぷちゃーーーーーーなのじゃ☆」

 顔面にダイブしてきたのは我が姉君だった。








 振り上げられた拳がスローモーションに見える。

 今さっきの一瞬でトレイターは消してしまった。

 呼び出してる時間はない。

 消しても身体能力の向上効果が続いているのか、それともハイになっているのか。

 そのおかげで、見えた。

 ゴーレムの拳に突き刺さる、一本の矢。

 ゴーレムの動きが止まる。

「…………せない」

「……あ」

 そして大河はそれに気付く。

 振り向いた視線に見える、小さな影。

 いつの間に握られたのか、その手には一本の弓。

「未亜の…お兄ちゃん……」

 恨みの籠もったゴーレムの雄叫びが響く。

「未亜のお兄ちゃんなんだから……」

「み、未亜?」

 何も持たない右手で、弓を引き絞る未亜。

 それは何も知らない者が見れば、とても滑稽な物に見えるだろう。

 だが一部始終を見守っていた民衆は、固唾を呑んでその未亜の行動を見守っている。


「あんたなんか……」

「あ……」

 何も持たない右手に光が収縮して行き、一本の矢が形成される。

「あっちに行っちゃえぇぇ!」

 未亜の放った矢は正確にゴーレムの頭部を捉え、ゴーレムは凄まじい音を立てながら倒れた。








「嘘でしょう?」

「そんな……こんなことが……」

 驚きを隠せずにいるミュリエルとダリア。

 信じられないという風に、闘技場の中を見ている。

 未亜の覚醒は二人とも想定内だった。

 デュオという召喚された男がほんの一瞬でゴーレムの式を分解した。

 大河という本命の未亜と一緒に召喚されただけの男が召喚器を呼び出した。

 最後の最後で反撃しようとしたゴーレムを突如現れた少女が完膚無きまで破壊した。

 この3人はあからさまにイレギュラーだ。

「あはは……あはははははっ♪」

 ダリアの笑い声が響く。

「アテが外れちゃいましたねぇ学園長。それも斜め上方向に♪」

「そう、かしら……」

「ありゃりゃ? もしかしてこうなることも予想してました?」

「いえ……そう、ね。どうだったかしら」

「はぁ……なぁんか頼りないお返事」





 最大限に前途多難な物語が、幕を開ける。









Wiz☆Savior 開幕








あとがきっす。

ハイドーも、駄文書きの森部っす。

性懲りもなく新連載。

………ダメ人間め。

これだから気分屋は………

と、ののしられつつも気分を新たにGO!