「村が見えてきましたよ高町さん!」
「ああ、そうだな」
時間はもう夜。
リリィとフェイトが接触していた頃、恭也達はようやく村にたどり着いた。
「本当だったらもっと早く着いてた筈なのに……僕達の所為で……」
「気にするな。おそらくあの化け物が今まで馬車を襲っていたんだろう。どの道倒さねばならない相手だった」
「でも……」
恭也達は見事ガーゴイル達を全滅させた。
だが、助けれた者は六人だった。
残りの者は駆けつけた時には既に事切れていた。
亡くなった者達を弔い、簡単に墓を作っていたおかげで到着が夜になったのだ。
「むしろこっちが礼を言いたいくらいなんだ」
「は?」
「君達が居てくれるおかげで俺は平穏無事に居られるんだ」
「はぁ…?」
「え〜っと……よく解りませんけど、それはもしかしてあそこで異様なオーラふりまいてるあそこの二人に関係してます?」
「俺にはよく解らんが、多分関係している」
最初に助けたドルイド科の片割れの女の子が二人……フィアッセとロベリアの方へと向いて尋ねた。
視線の先には互いに睨み合ったままピクリとも動かないロベリアとフィアッセ。
ちなみに二人はガーゴイル退治の後からずっとこの調子である。
何だか二人の背後に龍だか虎だかの背景が見えるのはきっと気のせいだと皆が自分に言い聞かせていた。
「恐らく、俺一人ではあの二人におもちゃにされ何か大切なものを奪われていただろうな」
「え、え〜っと……頑張ってください」
「明日にはきっといい事だってありますよ!」
遠い目をしてそんな事だけは敏感な恭也が呟く台詞にドルイド科の二人はそんな言葉しか言えなかった。
黒き翼の救世主 その31 破滅の黒剣士 V
村に到着すると村の皆が呆然とこちらを見ていた。
何か変なことでもしてしまったのだろうか?
「あ、あんたら何処から来たんじゃ?」
「フローリアにある喫茶ファミーユの使いです。荷物を受け取りに来ました」
「私達はフローリア学園からです。事情があって共に行動しています」
「フローリアから?! 魔物に襲われなんだのか?」
「森に巣くっていたガーゴイル達は、私達と救世主クラスである高町さんで退治しました。もう大丈夫ですよ」
しん、と辺りが静寂に包まれる。
そして一拍おいて歓喜の声が支配する。
「よっしゃーー!」
「神は……いえ、救世主様は私達を見捨ててはいなかった!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いや、俺は救世主候補では……」という弁明もそれ以上の歓声にかき消され恭也はまぁ、後で話せばいいかと騒ぎが収まるのを待った。
ちなみに、フィアッセとロベリアは未だ馬車の中で睨み合ったままである。
「……っ!?」
殺気ではない……だがしかしそれに酷似した闘気のようなものが浴びせられ恭也はそちらを振り向いた。
振り向いた先には紫がかった青い髪を両サイドにお団子状にしてまとめている少女がいた。
その少女は恨めしげに恭也達をにらんでいた。
(何か彼女の気に障るようなことをしたか?)
恭也はここに来てからの行動を思い返すが、来たばっかりなのだ。
当然、その様な心当たりがあるはずもない。
考えても埒が明かず、また見られ続けるのも居心地が悪い。
だから直接聞いてみることにした。
「……あの、何か?」
「……盗った」
「……は?」
「私の獲物、盗った……」
う〜う〜唸りながら少女はそう言った。
「獲物?」
「街道筋の魔物!」
「……ああ」
この少女は恭也が魔物を倒したことに甚くご立腹とのことらしい。
しかし、感謝されこそすれ、何故に恨まれなければならないのか。
「これ、エスカ! 救世主候補様を困らせるんじゃありません」
「おばーちゃん……でも……」
「すみません……この娘は闘うのが好きで魔物達を倒しに行こうとしていたみたいで……」
「せっかく思いっきり闘えると思ってたのに……この前だって……」
二人の話はこうだ。
このエスカという娘は強い戦闘力を持っているのだそうだ。
だが、過去にそれが元で友達を失い、今まで修道院でひっそりと暮らしていたらしい。
そんな折、破滅の行動が活発になってきだし、救世主候補も続々と集まっているのを見て、この力が役に立てるのなら……この娘がそれを望んでいるのなら……
ということでフローリア学園を目指している最中に魔物の噂を聞き、退治しようとしていた所で現在に至るということなのである。
「う〜う〜」
「ふむ……」
恭也は話を聞き、この娘の力になってやりたいと思っていた。
この娘の境遇があまりにも恭也や美由希の境遇に似ていたからである。
恭也は美由希に剣術を教え込むことで闘いたいという欲求を消化してきたし、耐え切れなくなって武者修行に出たりもした。
美由希に至っては、その剣才故にエスカと同じく友達を失っている。
だから解るのだ。
闘えない悲しみが……全力を出せない寂しさが。
ならば……
「俺でよければ相手になろう」
「ほんとっ!?」
見たところ、かなりの使い手だ。
下手すれば救世主候補の彼女らよりも……
「ああ、だが、俺は自分の戦いを見られるのはあんまり好ましくない。だから皆が寝静まってからでもいいか?」
「うん!♪ わかった!」
子供のように無邪気な笑顔のエスカを見て恭也は父が生きている頃の自分を見ているようで、少しだけ微笑んだ。
街道筋の魔物を退治した恭也達一行はその村で英雄扱いとなった。
村長の厚意で宿を無料で利用でき、ご馳走も振舞われた。
そして、一行が宿に腰を下ろし、寝静まった頃……
ギシリ……ギシリ……
宿の廊下の床がしなり音を鳴らす。
そこには裸足のまま、枕を胸に抱いてそろりそろりと歩く茶色がかった金髪の女性が一人。
真剣な面持ちで一歩一歩進んでいくその女性の名はフィアッセ・クリステラ。
彼女は今夜、勝負を決めるつもりなのである。
元の世界に居る皆が恭也を意識しだしてからというもの、決定的なチャンスを作れず、また作らせずにいる膠着状態になっていた。
そして異世界へと呼び出され恭也と離れ離れにされ、その間フィアッセは気が気ではなかった。
自分だけが恭也の傍に居ない。
自分だけがこんな世界の果てに居る。
異世界で暮らしてゆく不安もあった。
訳の解らぬ化け物とも戦わさせられた。
だけどそれよりも恭也が居ないことだけがフィアッセの心を蝕んでいた。
ついさっきまで当たり前のように居た最愛の人がいない。
ただそれだけがフィアッセを蝕んでゆく。
生きてゆく為だけに働く日々になり、彼女の世界から色が抜け落ちてゆく。
ゆっくりと、少しずつ、気付かないほど微量に色が薄くなってゆく。
気が付けば、そもそも『色』という概念そのものが存在していなかったかのように。
世界はこんなにも退屈なのだ、と思わせるのに足りる景色になってゆく。
だが、それも彼の出現で変わる。
無理矢理呼び出された異世界で暮らして数ヶ月、もう会えないと思っていた愛しい人と出会えた。
その瞬間、世界に色がついた。
モノクロの世界に色がつき、世界が輝きだす。
こんな世界の果てまでも自分を追ってきてくれる愛しい人。
この世界の果てに価値が無ければ無いほどに、その事実は価値が大きくなる。
昔読んだ本の一つにこんなのがある。
よくある王子様が捕らわれのお姫様を助けに行く、まさしく絵に描いたようなチープな話。
現実にそんなことは存在しない。
そもそも、何処にお姫様をさらう様な悪者がいて、あまつさえ堂々と城やら塔やらに立て篭もるというのだ。
でも、ありえないからこそ憧れる。
だが、現実に彼女はお姫様になり、彼は異世界くんだりまで駆けつけた王子様となった。
その王子様が元々想っていた愛しい人ならそれはもう運命とよんで差し支えないレベルだ。
そんな運命の人との異世界での生活。
もう手放す気は無かった。
行く当てのない恭也を自分の家へと引き込み、恭也を虜にするつもりでいた。
急ぐことは無い、ゆっくりと……だけど確実に……恭也の方から手を出させるように仕向けて……彼女は恭也のモノとなるつもりでいた。
だけどそんな願いも一日で崩れ去る……イレインと久遠の存在によって。
特にイレインなど露骨に恭也を誘っている。
こと此処に至り、彼女はもはや矜持も手段も選んでいる場合ではない事に気付いたのだ。
恭也に手を出されることが最善だったが、最善を求めて恭也を盗られてはお話にならない。
だからもう恥も外聞もなく恭也を襲い、契るのだ。
そんな決意を密かに固めていたフィアッセにとって久遠、イレインが離れるこの機会は絶対に逃せない。
だというのに、ここに来て更にロベリアなんてのが現れる始末。
ここはロベリアに何かされる前にとっとと恭也と……と考え恭也に与えられていた部屋の前まで来て……
「……ふっ!」
「……ちっ!」
目隠しと白いシーツ一枚を身体に巻きつけただけのロベリアが居たので迷わずレバーブローを叩き込もうとするフィアッセ。
最早彼女に自重という言葉は存在しないらしい。
対するロベリアは不意打ちのレバーブローを片手で受け止め、お返しとばかりにストマックブローを叩き込もうとする。
しかしそれをフィアッセが片手で受け止めていた。
仮にも破滅の将のパンチを受け止めるフィアッセ。
きっと何か愛のパワーとか何かその辺りの理不尽な力でも出てるんだろう。
(いきなり何するんだい!)
(そっちこそこんな時間になにしてるのっ!?)
(何って、見て解らないのかい? 夜這いだよ。よ・ば・い)
(そんなことして恥ずかしくないの!?)
(そりゃ、アンタに言いたい台詞だね。なんだい? そのスケスケの寝間着は? 破廉恥にも程があるね)
(そっちなんてシーツ一枚じゃない!)
(ぐぬぬぬぬ……)
(ううぅぅぅ……)
見る人が見れば千日戦争の構えに入ってる二人はどちらからともなく構えを解き、こう提案した。
(こうなったら恭也に決めてもらおう)
そして二人は恭也の部屋へと侵入し……
「「ふ……ふふふ……いい度胸だよ、恭也……他の女の所に行くなんてね……」」
無人の部屋を見て、二人は暗い笑みを零すのであった。
ちなみに原因が女だと断定していることに二人の恭也への信頼が如実に現れているのは恭也の自業自得としか言いようが無かった。
あとがき
ちょっと短めですが更新しちゃいました秋明さんです。
最近忙しくてSSが書けないよっ!?
でも、コツコツと書いてたりするんで、たまに見に来ると更新されてたりするそんなSSですw
そんなこんなで次は年が明けるまでにだしたいな〜と思いながらオサラバです。
でわ〜