「う〜ん、なんだろ? クロノくんの用事って……」

 「最近、忙しそうにしてるけど……また何かあったのかも」


 てくてくとフェイトちゃんと二人でアースラの廊下を歩いてブリーフィングルームに向かう。

 今度は何だろう……相変わらず事件は起きるし、最近では私達の方でもお兄ちゃんが異世界に旅立っちゃってるし。


 「あ、もしかして恭也さん、捕捉できたのかも」

 「だといいんだけど……」


 実はそっちはあんまり期待できないんだよね。

 この前、クロノくんに頼んでみたんだけど、どうもかなり難しいらしいし……

 そうこう言いながら部屋の前に到着。


 『失礼しま〜す』

 「あ、二人とも! ……これで全員揃ったわね」















 黒き翼の救世主 その25 白き少女の旅立ち












 私達が挨拶しながら部屋に入ると、局員の皆さんやリンディさん、ユーノくんにクロノくん、それにはやてちゃん達がみんな揃っていた。

 この顔ぶれを見るに、かなりの大事件の予感。

 私が気を引き締めたところでリンディさんが口を開いた。


 「さて、皆さんに集まってもらったのは他でもありません……今までは極秘情報だったのであまり公に行動出来なかったんですが、どうも上の方もなりふり構っていられなくなったみたいで、情報規制が解かれた事件があるのです」

 「事件?」

 「……オリジナル・デバイスが紛失しました」

 『……ええ〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?』


 みんなが凄い声あげてる……

 そんなに凄いものなのかな……オリジナル・デバイスって……?

 キョトンとしている私とフェイトちゃんを見てユーノくんが念話をしてくれる。


 (なのは。オリジナル・デバイスっていうのはレイジングハートとか全てのデバイスの元になった最古のデバイスなんだ)

 (そうなんだ……)

 (それは厳重に監視、保管されていて、どんな大怪盗でも盗むのは不可能で、そんな厳重な監視が設けられるほど大事なモノなんだ)

 (それが盗まれちゃったってこと?)

 (おそらくは……ある意味僕達にぴったりな仕事になりそうだ)

 (どういうこと?)

 (リィンフォースの時も大概大事だったけど、今回はそれを上回るロストロギア事件だってこと)

 (ロストロギアって言っても一番古いデバイスなんでしょ? 今のデバイスの方が優秀なんだよね……?)

 (……多分、その辺りはクロノが今から説明してくれるよ)


 「こほん……皆も知っての通り、僕達の魔科学文明が発展したきっかけはオリジナル・デバイスだ。そして今でも僕達の技術力じゃオリジナル・デバイスを解明しきれていない。未だ未知の部分が山ほどある」

 「そうだったんだ……」

 「研究が出来なくなるくらいなら問題は……あるんだけど劇的に困ることは無いんだが……問題はそのデバイスが超強力なデバイスだってことにある」

 (強力なんだ……)

 「時の流れのうちにデバイスがかなり強化された今のデバイスでも勝てるかどうか解らない……むしろ負ける公算のほうが高い……そんなデバイスがある日突然紛失したんだ」

 「……つまり厳重な監視を潜り抜けてそれを盗むような使い手がそれを持ったという事が問題なのだな?」


 と、ザフィーラさんが物凄く渋い声で意見を述べる。

 普段は可愛いのに人型になるとかっこいい。

 ユーノくんはどっちでも可愛いって感じだけど。

 アルフさんは……人型に戻ると反則だと思う……いいもん、いいもん、まだ私は育ち盛りだし!


 「その通りだ。だからオリジナル・デバイスにあらかじめ打ちこんでおいたアンカーを頼りに場所を特定しようとして……つい最近、それを発見した」

 「へぇ、じゃあ、今から行ってそれをぶん取ってくればいいんだな!」

 「……ああ、その予定なんだが……まずはこれを見てくれ」


 クロノくんの言葉と同時にディスプレイに綺麗な大剣が映し出される。

 これがオリジナル・デバイスらしい。

 見ただけで解る。これは私達の使っているデバイスとは別物だと。まったく機械的な感じがしない。

 何だかゲームに出てくるマジックアイテムみたい。

 そして次に映し出されたのは静止画ではなくて動画で、その剣を握る銀髪の人と対峙する制服を着ている人が映し出される。

 あれ……この制服どこかで……?

 二人はどっちもボロボロで、男の人も剣を持っていた。

 銀髪の人は肩に剣を担いで空に飛び上がって、落下するように男の人に攻撃。男の人は一度かわしたけど、更に追ってくる人の剣を剣で受けようとして……斬られた。


 「今のが現所有者の映像だ。次がこの世界に関する資料だ」

 「何故そんなものを見せる必要がある? なるべく関わり合いにならないように、こいつからコレを奪えばいいだけだろう? 見たところ大した腕前でも武器でもない」

 「僕達も最初はそう思ったさ……最初はね」

 「……?」


 シグナムさんが首を傾げるなか、次の資料が映し出される……えーっと……棒グラフ?

 えっと……大気魔力浸透率?

 右側のは高くて、左側のはかなり低い。


 「このグラフは両世界間における魔力浸透率の違いを表したものだ。右側が僕達の世界で左側があっちの世界の浸透率を表している」

 「ちょっと待って……これじゃあ……」

 「僕達の世界の浸透率を100%とすると向こうの世界の浸透率は12.1%……僕達の世界の1/8以下だ」

 「え〜っと……どういうこと?」

 「早い話が、魔法の威力が凄く下がる。大気魔力浸透率って言うのは魔力を込めて魔法を発現させた時の発現しやすさだ。大気中に存在しにくくなるから射程も落ちる」

 「だけど1/8なんだよね!? 1/8でも今の人相手だったら……」

 「いいか、なのは? 仮にあっちで直径50cmの魔力球を出そうと思う。するとこっちの世界で直径約4mの魔力球を出すのと等しいんだ。それはわかる?」

 「え? それは、まぁ……」

 「でだ、まぁ直径4mの魔力球と言うと解りやすいがそれは誤解だ。これを三次元的観点から見てみるとよく解る。縦、横、高さが全て8倍されるんだ、つまり2の9乗……512倍……つまり元の世界の約0.2%程の力しか出せなくなる」

 「れ……れいてんに……ぱーせんと……」

 「……それにしても、いくらなんでもこの浸透率は異常すぎませんか?」

 「おそらく、何らかの事情で過去に何度も大気中の魔力を使うような兵器でも使われたのだろう。それが原因となっている」

 「しかし0.2%の力ではあちらに行っても何も出来ないのでは……」

 「いや、これは向こうの世界で一番浸透率の低い場所のデータだ。場所にも因るが実質1割ぐらいのパワーまでなら出せるだろう」

 「1割か……」

 「ならばレビテーションは使わない方が無難だな。うっかり浸透率の低い場所に入ったら何も出来ないまま地面にまっ逆さまだ」


 腕を組んで思案顔のシグナムさん。

 1割かぁ……それでも何とか戦えない事は……


 「あと、あちらの世界の情勢を説明しよう」


 クロノくんが手を振るうとその世界の地図が映し出される。


 「まず向こうの世界の名前はアヴァター。科学よりも魔法が発展している世界で……大きな特徴はこの世界が世界の根源にあたる世界だという事だ」

 「根源の世界?」


 あれ?

 アヴァター……?

 それって……


 「そうだ。この世界が滅びれば他の世界も連鎖的に崩壊する。そしてこの世界は千年毎に滅亡の危機に晒されている。その要因は『破滅』と言われる謎の集団で奴等は世界そのものの敵対者だ。そしてそんな破滅に対抗する為にその世界の人々は……」

 「救世主候補を他の世界から召喚する……そうだよねクロノくん?」

 「な……なのは?」

 「ちょう……どうしたん、なのはちゃん?」

 「……なのはちゃん?」


 これは偶然?

 それとも……


 「ああ、その通りだなのは……その救世主候補は召喚器と言われる謎の武器を操りその破滅に対抗する為に戦う」


 クロノくんが更に腕を振るうとまた画面が切り替わる。

 切り替わった画面の中に居たのは……















 「恭也……さん?」

 「なのはちゃんのお兄ちゃん?」


 画面の中の恭也は小太刀を抜き放たずにリコと戦っていた。

 能力測定試験の時の映像である。

 いつの間にかイレインと恭也が人外の速度で打ち合っている映像が流れる中、クロノが話を続ける。


 「先日失踪したなのはの家族、フィアッセさんとそれを追いかけて行った恭也さん達のいる世界でもある。なのはの話によるとフィアッセさんは召喚器を得ていないらしいけど……状況が状況だしなるべくは僕達の手で決着はつけるつもりだけど場合によってはフィアッセさん達と協力する可能性もある」


 画面の中の恭也が吹き飛ばされ、リコの全方位召喚呪文の準備が完了する。

 皆が画面の中の戦いに夢中になっているのでクロノも一度これを見ていたのだが、それに倣う。


 「みんな、見ておくといい。これが向こうの世界の救世主候補の力だ」


 クロノが呟いた瞬間、画面の縮尺が変わる。

 広い視点で見れるようになった画面一杯にリコの召喚したものが映し出されていた。


 「なっ!?」

 「……あ、あのぅ……向こうの世界って浸透率の低さのおかげでこっちの0.2%〜10%くらいしか威力でないんですよねぇ……それでコレですか?」

 「恭也さん、死んじゃいます!」

 「みんな、これからもっと驚く映像があるぞ」


 クロノがそう言った瞬間、恭也の持っている御架月が黄金色の炎を纏う。

 そしてそれを振りかぶり……真威・楓陣刃を放った。


 『…………』

 
 そしてその後、恭也の姿が掻き消えて……次の瞬間には遠く離れたリコの目前まで迫っており射抜の体勢をとっていた。

 誰もが無言のままにその映像が全て映し終え、消えた時にようやくエイミィが半笑いの様な声で言った。


 「なのはちゃん……いつの間にお兄さんに魔法を教えてたの?」

 「えっと……お兄ちゃんに魔法は教えてないけど……お兄ちゃんの前で魔法の類を使ったこともないし……」

 「それにもし魔法を教えてもらったとしても、恭也さんには魔力が一般人ほどしか無いから使えない筈だ。エイミィだって何度も会ってるだろ?」

 「そりゃあ……まぁ……でもあの光の剣は明らかに魔法じゃないかな?」

 「あ、それはもしかしたら霊力かも……お兄ちゃん、御架月さん持ってたし」

 「霊力? 御架月?」


 霊力と御架月のことを軽く説明するなのは。

 ふむふむと理解を示す面々。

 普通ならばただの与太話にしかならないのだが、さすがに魔法という名の非常識を持っている面々なので話はスムーズに進んだ。


 「しかし……魔法も無しであの実力とは……特に最後の動きは素晴らしい。一度手合わせ願っておくべきだった」

 「私も……」


 少し悔しそうに言うシグナムとフェイト。

 前衛で得物を持って戦う二人ならば、たとえ魔法なしの戦闘でも恭也との試合は得るものが多かっただろう。


 「さて、話がそれたが……救世主候補の実力も解っただろう? あの世界なら……いや、あの世界でなくても彼女らは別格だ。こっちの世界で救世主候補同士が試合なんてしたら街一つくらい軽く消し飛びそうだし。だけど僕たちにも使命がある。そこで一つ提案がある」

 「なに? クロノ?」

 「まずはあの世界での戦いに慣れる必要があると僕は思う。だから…………現地で強化合宿だ」














 お兄ちゃんとフィアッセさんが向こうに行ってしまったこともあって、お母さんをはじめとしてみんな心配そうだったけど、なんとか旅行に行きたいという私のお願いが通じて、表向きはフェイトちゃん達と旅行に出かけるということになった。

 そういうわけで……


 「じゃあ、行ってくるね!」


 フェイトちゃんやリンディさんに迎えに来てもらった私は玄関先でみんなに挨拶をする。

 シグナムさんとフェイトちゃんが美沙斗さんと手合わせしたがっていたけど、時間が無いのでまた今度ということになった。

 私は心の中でみんなに謝りながら、これからの事を考えた。


 ロストロギア、オリジナル・デバイス。

 根の世界、アヴァター。

 救世主と呼ばれる存在とお兄ちゃん。


 これは偶然? それとも必然の運命なの?

 そんな場所に今、私も……

 大丈夫だよね? レイジングハート?












 あとがき


 ども、何か色々書いてる秋明さんです。

 ついに動き出しました管理局の白い悪魔!

 しかしながらアヴァターではパワーダウン!

 ……っていうかね、パワーダウンしないとお話にならないよね?

 そんな感じで次は大河覚醒編ですーw