「はぁ……なんであんな事言っちゃったんだろ……」


 測定試験から二日経った後の放課後、私ことリリィ・シアフィールドは溜め息をついていた。

 基本的に救世主クラスにあの二人……フィアッセ・クリステラとイレインはいない。

 日中はフィアッセ・クリステラは食堂で働いているし、放課後も学園内にはおらずに何処かに出かけている。

 イレインの方はよく解らないが、かなり気分屋だと聞いているので、予測を立てることは無駄な労力だろう。

 あと、理論は不明だけど謎の召喚器もどきの霊剣・御架月。

 彼は常に高町恭也と一緒に居る。

 まぁ、高町恭也の武器でもあるのだから当たり前の話ではあるのだけど。

 御架月は二日前のことは一切話はしないし、それを匂わせもしない。

 だから高町恭也は何も知らない。

 だけど、だからと言って二日前の出来事がなくなるわけではない。


 ……別に言葉にするつもりは無かった。

 たとえ誰が欠陥品であろうと気にはしない。

 本当に欠陥品ならば誰が言うまでも無く、欠陥品だという事実が結果として出てくる。

 欠陥を抱えた者が私に勝てる筈が無い。

 欠陥を抱えた者がいくら努力しようが、同じだけ努力した正常なる者に勝てる道理は無い。

 だから言葉にするまでも無い、言葉にしなくても結果として出てくるのだから。


 だけど高町恭也はその道理を根底から覆す存在だった。

 欠陥を抱えて戦っているくせに、救世主クラスの誰よりも強い。

 だが、同時に誰よりも危うい。

 確かにこの救世主クラスは非常にバランスが悪い。

 戦力という面ではなく、その在り様がである。

 そもそもの大前提として、異世界から召喚されるのだから、思想等の差異があることは避けられない。

 それに皆……私も含めて元居た世界で何かしらあった者ばかり。

 元の世界の事を聞くと大抵、みんな誤魔化すか口を噤むかのどちらか。

 あの能天気さしかとりえの無いバカ大河でも元の世界の事はあまり語ろうとはしなかった。

 肉体ではなく精神に傷を負った者ばかり。


 だけど、彼は逆。

 真っ直ぐに生きてきた癖に身体が曲がっている。

 それは即ち、やりたい事に身体がついて来れない事を意味している。

 そういう奴が一番危険なのだ。

 やれると思って無茶して死んでいく……それの典型だ。

 高町恭也のスタイルはまさにそうなる為に生まれてきたとしか思えない。

 彼には人間として優秀な身体能力と卓越した技巧があるだけである。

 召喚器という莫大なエネルギー原を持たない彼は攻撃力という点では最弱だし、防御や耐久性といった点でも同じである。

 だけど、暗殺能力なら彼が一番だ。

 先のリコ戦がいい例である。

 圧倒的火力と、瞬間移動による機動性、召喚による手数、戦略性……全てがリコに分があった。

 だけど、最終的に勝利したのは高町恭也だった。

 リコよりも彼が勝っていたもの……リコに聞いたらそれは勘だと即答した。

 何を馬鹿な事を、と言ったらリコはこう答えた。


 『戦術理論に対応するにはより深い戦術理論か圧倒的優位性を用意すれば事足りますが、直感には対処法がありません』

 『そんなあやふやなものに負けたって言うの?』

 『確かに直感に確実性は無いと思いました、ですが流石に数十回も手間をかけて作った必至の状況を、数十回全部、勘だけで抜け出されれば考えも変わります』

 『…………』

 『彼とはもう二度と戦いたくないです。勝てる気がしない以前に私達とは質が違いすぎます』

 『どういうことよ?』

 『私たちは戦う者で、彼は殺す者だということ。高町恭也には全てを殺しうるだけのスキルもその心構えもあると言うことです』


 だから一番、危なっかしい。

 彼の戦いとは守る為のものではなく、殺す為の戦いである。

 故に彼の戦いの場はたとえ欠陥品であろうと一番苛酷な場所になるだろう、必然的に。

 だから彼に欠陥があると聞いた時……

 思わず、ああ口にした。

 戦士である事を貫いて死ぬよりは……欠陥品として生きて欲しいと思った。

 ……強さに対する嫉妬が全くなかったとは言い切れないけど。
















 黒き翼の救世主 その18 白桃色の生活 お茶編T




















 「ダーーーーーーーーリィーーーーーーーーーン!」

 「ごぼあっ!?」


 道を歩いていると、いきなり横腹に頭突きをぶちかまされてもんどりうつ大河。

 そんな大河を心配そうに見つめる一対の瞳。


 「はれ? ダーリン、どうかしたですの?」

 「あ……が……が……」

 「ああー! ナナシに会えて感動に打ち震えてるに違いないですの」

 「違うわ!」

 「とにかく、ダーリンに会えて嬉しいですの」


 わぁ〜い、と万歳して喜ぶナナシ。

 喜色満面のナナシに、大河がわき腹を押さえながら立ちあがって拳骨を頭に落とす。


 ボグ!

 ポロ……


 「いや〜ん、頭が取れちゃったですの」

 「なんでそんなに楽しそうなんだ……」


 呆れ返ってとりあえず頭を元の位置にくっつける大河。

 頭をつけると、キョトンとした表情からまるで花が咲いたかのような笑顔になるナナシ。


 「ありがとうですの♪ 今日はダーリンにプレゼントを持ってきたのですの」

 「プレゼント?」


 はてな? と首を傾げる大河。

 言っちゃ悪いが死体に経済力があるとは思えないし、ナナシ自身も経済観念なんか持っていなさそうだからである。


 「これですの!」

 「……ティーポット?」

 「はいですの! ナナシのお隣さんのミイラさんから譲ってもらったですの!」

 「もらい物をプレゼントにするなとか以前に、ミイラの墓に入っていたティーポットなんて…………いや、待てよ?」

 「はにゃ?」


 プレゼントをつき返そうとしていた大河の手が止まり、何か思案しだしたのをみて首を傾げるナナシ。

 そんな視線に気付かぬまま大河は思考をめぐらせる。


 (ミイラ……っていうと王様とかの死体だよな……いや、元の世界と違うから何とも言えんが)

 (まぁ、仮にミイラが偉い人の墓だったとして、そこに入っていた物は大抵宝物の類だった筈……)

 (……で、今俺がつき返そうとしているものは、そのミイラの遺品……もしかしたら俺って物凄くもったいない事しているのでは……?)


 「ダーリン?」

 「……え? ああ、わりぃ、じゃあナナ子、貰ってもいいか?」

 「はいですの♪ じゃあそれを使って一緒にお茶を飲むですの」

 「お茶って言っても、お茶っ葉なんていう気の利いたもの俺は持って無いぞ」

 「だったら一緒に買いに行くですの! ダーリンとデートですの!」

 「デートかどうかはさておいて、たまにはナナ子と買い物もいいか……」


 こうして、後に歴史上に残るかもしれないほどの大惨事となる『救世主・お茶列伝』の幕が上がったのであった。















 「って言っても、どこにお茶っ葉なんて売ってるんだ?」

 「ナナシも知らないですの〜」


 お茶っ葉購入部隊の二人はのっけからつまずいていた。

 まぁ、セルに連れられてでしか学園外に出なかった大河と千年もの眠りについていたナナシに解れという方が無茶なのかもしれないが。


 「仕方ない、誰かに教えてもらうか」

 「はにゃ?」

 「未亜は俺と同じだから無理だろうし、カエデも日が浅いし無理だろう……セルにお茶の趣味があるとも思えないし……リコは飲むより喰う方だし……ベリオは……」


 そこまで言うと大河はナナシの方を振り向く。


 「はにゃ? そんなに見つめちゃ照れちゃうですの」


 「…………」(ベリオは無理だな、何かの拍子でナナ子の首でももげた日にはどうなるかわからん……)


 ここまで来ると、選択肢は無いも同然だった。

 大河の友好関係のおそらく最も汎用度の低い人物しかいない。


 「しかも丁度タイミング良く見つかるし……」

 「ダーリン?」


 大河がリリィの事を考えたまさにその瞬間、そのリリィ本人がふらふらと図書館に向かうところであった。

 大河は気乗りしないまま、リリィを呼び止める。


 「おーい、エセ魔術師」

 「はぁ……何よ? 今はあんたとバカやるような気分じゃないんだけど……?」

 「バカやらせるのはお前の所為だろ……っとそれはどうでもいい。なぁ、リリィ?」

 「何よ?」

 「お前、この近くでお茶っ葉売ってる場所知らないか?」

 「お茶っ葉? なんでアンタがそんなもの欲しがるのよ?」

 「実はこのティーポットを使ってみようかと思ってな……」


 ほれ、とリリィにナナシからのプレゼントを見せ付ける。

 最初、リリィは胡散臭げにそれを見ていたが、時間が経つにつれ表情が険しいものになっていく。


 「リリィ?」

 「……これ、どうしたのよ?」

 「はいはーい! それはナナシからダーリンへのプレゼントですの!」

 「あんた誰よ?」

 「ナナシはナナシですの。ダーリンの婚約者ですの♪」

 「違うわ!」

 「あ……あんた、ベリオやカエデ、リコだけじゃ飽き足らず、こんな能天気そうな娘にまで……恥を知りなさい! ブレイズノン!」

 「ごばぁっ!?」

 「ダーリン!?」


 リリィの呪文を受けて爆音と共にキリモミ回転しながら吹き飛ぶ大河。

 ベチャ、と無様に着地する大河に目もくれずしげしげと大河から奪い取っていたティーポットを見つめるリリィ。


 「何これ……幾重にも封印されててわかり辛いけど、すごい魔力だわ……一体何が封印されているのかしら」

 「……てめ……ちょっとは俺の心配を……」

 「んー…………ちょっと簡単には解けないみたい……何か魔力的な解呪以外にもある一定の条件を満たさないといけないみたいね」

 「話を……聞け……ガク」

 「わー、ダーリン、死んじゃ嫌ですのー!」


 こうしてお茶っ葉購入部隊は少しだけ規模を大きくしたのであった。

 なお、リリィがいつもの自分に戻っている事に気付くのはもう少し後のことである。




















 あとがき


 やっとナナシ出せましたよっ!

 そして18話は日常編ですよと言ってみる秋明さん。

 17話がアレでしたからね、ちょっと雰囲気を変えてみようとw

 まぁ、17話のあの会話は意図的に一方通行な会話にしたので仕方ないのですがw

 もう、一方的に話を断ち切ってくれたフィアッセの能力が作者にとってありがたいくらいに、使い勝手がw

 それはそうと、近々Web拍手更新予定なので、気が向いたらみてくださいねーw

 それではーw