ガキン!
ガキン!
刃と刃がぶつかる音が響く。
片手小太刀、もう片手は無手の俺は片手を後ろに隠しながら飛針を握る。
「はぁっ! せいっ!」
「…………」
イレインの猛攻を凌ぎながら思う。
勝負は短期決戦か否か。
イレインは自動人形だ。
故に電力がなくなれば動かなくなる。
だが、仕留めるなら今しかない。
今はまだイレインは本気になれない。
嘗て戦った際のミス……急激な電圧変化や運動によって生じるジャム状態を回避する為だ。
……となると、ここは一気に倒したい所だが……その為には小太刀二刀になる必要がある。
だが、リコさんの存在がそれを許さない。
俺の手がふさがれば遠距離攻撃がなくなり、何か拙い呪文を撃たれる事は目に見えている。
ブォン!
イレインの回し蹴りが頭上を通過する。
屈んで避けて足を払おうとして、そこに魔法が打ち込まれる。
俺はそれを回避して間が開き、またイレインが切り結びに来る。
それの繰り返しなのだが……逆にイレインが間をあけた。
「ふふ……待たせたわね、恭也。電圧再変更! Lv4からLv5・対自動人形用にシフトォ!」
黒き翼の救世主 その16 黒VS赤V
本気状態になったイレインはまさしく異常とも言えるスピードとパワー。
高町恭也が弱いわけじゃない。
召喚器無しでも十分に渡り合えるだけの実力があることは認めざるを得ない。
だがそれは身体能力が救世主候補と同格というわけじゃない。
悔しいけど私達、救世主候補をはるかに上回る技や直感力、戦術や総合的な戦闘経験で身体能力の格差を補っているから戦える。
故に高町恭也は救世主候補と同格の力を持っているが、基本的に一撃決まればそれで終わり。
なんだかんだ言っても、人間なのだから。
その彼をイレインはそのパワーとスピードで押し切ろうとしている。
彼女のトップスピードは救世主候補の私達魔術師組を越え……前衛系のカエデやバカ大河と同格。
どうして……
どうしてそんなに簡単に強くなれるのだろう?
高町恭也はわかる、彼の強さは日々弛まぬ努力の成果だというのはこの戦いを見ていれば解る。
彼は自分の強さがどれ位で相手の強さがどれ位でというのを理解して、この戦いに臨んでいる。
相手の理不尽なまでの強さを受け入れて戦っている。
彼はずるいとは思わないのだろうか?
己が積んできた研鑽が、生まれ持った資質だけで叩きのめされようとしている事を。
生まれ持った能力だけで救世主候補を上回る力を持つフィアッセ・クリステラ。
それに昨日見た……銀髪救世主と激突した、おそらく本気になったバカ大河。
さらにそのバカ大河と未亜、ダウニー先生、セルビウムをも退け、四人を瀕死の重傷にまで追いやったあの謎の大剣を持った救世主。
そしてこのイレイン……
皆、努力して手に入れた力じゃないだろう。
だから……出来る事なら高町恭也に……
ああ、わかった、わかってしまった、どうして一般科の奴らが高町恭也に肩入れするのか、その理由が。
彼が勝つことで自分に言い聞かせたかったんだ。
今までしてきた努力は無駄じゃない、って。
努力を重ねれば持って生まれた才能を上回る事が出来るんだ、って。
だから……勝って欲しい、彼ならもしかしたらこの状況からでも……と思ってしまう。
そんな事を思いながら見ていると、イレインが大技を出したのだった。
「くっ!?」
「ふふっ、恭也には説明する必要もないわね。『静かなる蛇』に掠りでもしたら即戦闘不能だから……直撃して死んでも恨まないでね」
イレインがバチバチと火花が散っている鞭を振るう。
嘗て恭也はあれを小太刀で断ち切った事があるのだが、その時もあまりの電撃に電撃が小太刀を伝い身体が完全に痺れて動けなくなったのだ。
「さぁ、覚悟は出来た? 一応、私もこの能力測定に参加したんだから恭也に勝てば恭也を一日好きにしていいのよね? ふふっ、どんな事してやろうかしら」
「……何でもいいが自分が負けたら俺の言う事を何でも聞かないといけない事は理解しているのか?」
「別にそれはそれでかまわないわよ、何? 逆らえなくして私を抱きたいの?」
「どうしてそうなる……」
「え? だって負けたらそーゆーことされるって聞いたけど……実際の被害者も居るとも聞いてるわ」
じ〜、と皆の視線が救世主クラスに集まる。
ある者は顔を真っ赤にし、ある者は何故か自慢げな表情になり、またある者はその自慢げな表情の者を弓の召喚器で思いっきり殴りつけていたりした。
その様が半ば事実だと言っているようなものだった。
「ほら、わかった?」
「わかりたくなかったんだが……」
「さて、そういうわけで恭也、覚悟っ!」
再びイレインが恭也に襲い掛かる。
メインウエポンはブレードから『静かなる蛇』に変わっており、イレインが高笑いしながら鞭を振るいまくっている様は、まさしく女王様である。
まぁ、皆がそう思っている中、大河とベリオだけは、別の人物に似てるな……鞭振り回して高笑いするとことか……等と考えているのだが。
そんな思いを余所に全力で回避する恭也。
もはや攻撃の余裕はない。
片腕で鞭を振るい、片腕のブレードで防御するイレイン相手に攻撃を仕掛ければ『静かなる蛇』の餌食になるのは目に見えている。
鞭というのは防御には向かないが、その変則的な動きと遠心力の乗ったスピードはそうそう見切れるものじゃないのだ。
恭也が遠距離攻撃に手を割く余裕がなくなった事に気付いたリコは二、三発、牽制の魔法を打ちこみ、本当に余裕がない事を確信して大呪文の詠唱に入る。
確実に恭也を仕留める包囲網が出来ていく。
何とか勝機を見出そうとする恭也に……
(恭也さま……もしかしたら僕、お役に立てるかも知れません)
(御架月?)
(実は…………………………って言う事なんですけど)
(…………………………………………わかった。それに賭けよう)
(…………御武運を、恭也さま)
イレインの鞭を勘だけで避け続ける恭也。
そのイレインが繰り出したフェイント気味の中段回し蹴りが繰り出された時に心を決めた。
この一瞬しかない。
この一瞬に全てを賭ける……そんな思いで恭也は避けかけたその回し蹴りを両手に取り出した小太刀でガードする。
相手は自動人形、回し蹴りとて常識外の破壊力を持つ。
故にブレードも受け流してきただけなのだが、ここにきて完全に受けた。
その威力にガードごと吹き飛ばされる恭也。
受身を取ったものの、完全に態勢が崩れる。
この長い戦いの中で初めて見せた恭也の隙。
「くっ!」
「はぁっ!」
柳の様に全ての攻撃を受け流してきていた恭也がとうとう見せた隙に走りこんできたイレインの鞭が襲い掛かる。
恭也は四つん這いの態勢のまま、大きく後にジャンプして間を取る。
イレインは追ってこない。
もうリコの呪文が完成し、撃ち出されようとしたからだ。
あとは恭也がリコに近寄らないようにするだけでいいのだ。
そして、これこそが恭也の狙い。
今、この瞬間だけはイレインはこちらに攻撃してこない。
不自然じゃないように間を取る事こそ恭也の狙いだった。
これを撃つには、短い時間ではあるが極度の集中を要する。
その短い時間を稼ぐ為の布石。
蹴り飛ばされ、追い討ちを無様に回避して仕方なく間を取った風に思わせる。
こうして恭也は距離を稼いだ。
そしてここからが彼の正念場だ。
恭也は小太刀を背中に仕舞い、御架月の鯉口を切り、正眼に構える。
そして恭也が意識を自己の中に眠る『光』へと埋没させていく。
御架月に霊力の扱いを学んで一週間、この『光』こそが霊力なのだと知った。
恭也はまだ霊力を習い始めて一週間……本職の退魔師ならすぐに出せるのらしいが、恭也にはこれが限界だった。
恭也は内に燃える『光』を外に引きずり出す。
「神気発勝……」
『なっ!?』
この場に居る全ての者の目が見開かれる。
恭也の構えた打刀から黄金色の炎が吹きだしたのだ。
霊力を知っているフィアッセやイレインも霊力が扱えるとは聞いていたが、まさか『神気発勝』まで出来るとは思っていなかったし……
霊力を知らぬ者は当然、その正体不明の力に目を白黒させている。
魔力ではない何かが恭也の持つ刀に宿っている。
そして思った。
これこそが高町恭也の奥の手なのだ……と。
そう誤解した。
私ことイレインは思う。
まさか、その刀で向かってくる魔法を全て叩き落すつもりなのかと。
霊力のこもった武器は、実体を持たぬものを切ることが真骨頂だと聞いた。
ならば魔法を斬る事も可能という事になる。
だが出来るのだろうか、不慣れな一刀流で。
そう思っているうちにちっさいのの全力であろう魔法が打ち出される。
何だかわからない光の筋みたいな物から、氷弾、果ては隕石まで、この闘技場を埋め尽くさんばかりの量の攻撃手段が全て恭也とその周りすべてに打ち込まれ降り注ぐ。
全方位からの無差別広範囲攻撃。
こんなもの防げる筈が……そう思いながら恭也を見る。
恭也の御架月が大上段に振り上げられる。
その時、私は己の失策を予感した。
まさか……そういう思いが思考を埋め尽くす。
振り上げられた御架月から吹き上がる黄金色の炎が勢いを増した時、私は叫んでいた。
「避けなさい!! ちっさいのっ!!!」
大上段に構えて意識を集中する。
自己に埋没した『光』を全て引きずり出して御架月につぎ込む。
正真正銘、この一太刀しか撃てない。
だが、威力は凄まじいものがある。
この技なら目の前にある迫りくる魔法の数々を打ち落とし、貫通すると信じている。
(神咲一灯流……)
御架月からさらに勢い良く炎が吹き上がる。
イレインが気付いたのか何かを叫んだようだがもう遅い!
(真威・楓陣刃ぁぁぁぁぁっ!)
勢い良く御架月を振り下ろすと黄金色の光の渦が大地を削り、魔法を蹴散らしながら一直線にリコさんに向かって奔って行く。
リコさんはほぼ無防備、大技の直後で完全に虚を突かれている。
だが、これではまだ完璧ではない。
完全を整えるなら……
(神速!!)
その瞬間、世界から色が失われる。
撃ちはなった楓陣刃を追いかけるようにして走ってゆく。
ジャッ、ジャッ、と大地を踏みしめる音が鳴るが、その音全てがほぼ同時に起こる。
そうして俺は…………
(恭也ならっ!)
絶対にここで神速を使ってくる。
この魔法の包囲網を抜けるには楓陣刃で出来た穴から抜け出すしかない。
数瞬後には魔法が雨あられと降ってくるのだ。
ちっさいのを倒しても恭也自身が無事じゃすまない、そうなれば私だけが無傷で勝利だ。
ならば恭也の取る方法は一つ、神速しかない。
楓陣刃の光の中にうっすらと黒い影が見える。
楓陣刃の強烈な光の所為で非常に見づらいけど、人影が見える。
電圧を一時的にMAXを越えさせる。
そうして更に処理速度を増した私に人影が向かってくる。
先に私を倒す気、恭也?
「そうは問屋が卸さないわよっ!」
限界を超え、軋む身体を叱咤して鞭を振るう。
この状態なら、ほんの数瞬だけど神速に対応は出来る。
人影はこちらが反応できるとは思っていなかったのだろう、鞭を回避できない。
(もらった! ついに恭也をっ!)
そして鞭が人影を捉えた。
それはまるで手品のようでした。
イレインさんの叫びで現状を把握。
大技の後ですぐには魔法は使えませんが、何とか身を捻って黄金色のビームを回避……
「…………御神流・裏……奥義之参」
「…………っ!?」
声にならない叫び。
光の帯の後にジャッという音とまき起こる旋風。
その次の瞬間、彼、高町恭也は私の2m前にまで迫っており、まるで弓を引き絞るような態勢で小太刀を構えていた。
そんなっ!? どうしてここに高町さんがっ!?
混乱する私を余所に彼は必殺であろう突きが繰り出される。
「射抜!」
「くぅっ!?」
赤の力を全て運動能力に回してその突きを回避した……
そう思った。
だけどその小太刀がまるで手品のように翻り…………
(…………え?)
完全に恭也を捉えた。
捉えた筈だった。
だけど、まるで手ごたえがない。
戸惑う私に……
「なっ!?」
鞭を振り切った状態の私に向かって飛んできた霊剣・御架月。
しかも何故か刃ではなく、柄の方を前にして私に向かって飛んできていた。
「ぐっ!?」
御架月の直撃を受けてバランスを崩す、そこに現れる人影。
反射的にブレードを振るう。
ブレードがあまりにもあっけなく相手を切り裂く。
だが、まったく手ごたえがない。
馬鹿な、そんなわけ……
完全に戸惑う私に恭也とは違う聞き覚えのある声が聞こえ……
「ごめんなさい、イレインさん!!!」
何処で聞きつけたのか、私の首筋にある緊急停止スイッチを知っていたらしいアイツがそれを押した所で、私の意識は闇に落ちていった。
あ……あんた……あとでおぼえとき……なさい……よ……
楓刃波の光が収まり、盛大に壁を破壊した後の闘技場を皆が見る。
そこにはいつの間にやらリコ・リスの首筋に刃を当てた高町恭也と……
ガックリと膝をついたまま動かないイレインとその横に転がる霊剣・御架月、そして……
「はぁ、絶対後で何かされるよ……」
……と頭を抱える銀髪の幽霊の姿があった。
あとがき
多分、一番気合の入った回じゃなかろーかと思う16話。
結構、戦闘シーン頑張ってみたんですけど如何でしたかねぇ。
まぁ、戦闘ってあんまり書かないんで得意じゃないんですけど、KIAIだけは入れまくってますんで、見れるくらいのものになってたら幸いですw
Web拍手は近日更新予定。
何のSSS書くかは気分次第です、何かこれと思う候補あったら拍手で言ってくださいねw
まぁ、それだけじゃなくて感想とかあれば尚良しなんですけどねw
っていうか、Web拍手って簡単な感想貰う為、読者様が簡単に書けるようにする為のものなのに、秋明さん、本来の使い方してませんねっ!w
まぁ、いいかと思いつつ、ここでおいとまします。
それではーw