「は? 男女で日程が別?」
一年ちょっと前くらいまでは当たり前のようにやっていた、休憩コーナーでの駄弁り。
それを少し懐かしく感じつつ、自販機からゴゴティーを購入していた。
反射で出た俺の発言に対し、鷹揚に頷く根性バカ。
「おうよ。男子も女子も平等にってモットーだな。どちらにも、二人の解説プロ両方のファンが居るだろう? だからこそ俺たちは、熱い心を持ってそのファンであり選手である、将来の星たちを腹の底から応援してやらなければならない!」
「いや解説しろよ」
キャップを開けて、ゴゴティー飲む。うむ甘い。俺は低カロリーじゃない時代のゴゴティーのが好きだったが文句は言わない。
にしてもそうか、両方の解説すんのか。
「長野の日程は知ってるか?」
「いや知らないが。だいたい女子が先にやってから男子だな。男子は女子の、女子は男子の応援に行けるようにはなっている」
「なるほど、体育会系が喜びそうなプログラムだ」
「おうよ! 麻雀もスポーツだ! 何故この熱い競技に応援団がつかないのかと、俺はいつも疑問に、いや不満に思っている!」
「雀卓の後ろに応援団とか嫌だよ。うぜぇし暑いし鬱陶しい」
「なにぃ!? お前は今応援団をバカにした!」
「バカにしたのはお前の脳みそだよ」
「俺の脳みそをバカにしたということは、俺の筋肉、いや根性、いやハートをバカにしたということだ! 午後の対局はコテンパンにしてやるからな!」
「お前の脳みそ=筋肉=根性=ハートなのか。深いな」
「あ、いや。真面目に考えなくてもいいが……」
「ちなみに今日お前との対局はないからな」
「うるせぇ!」
漫才。うん。
まぁ、そうは言ってもアレだな。そういうことなら和人の対局も見れるし風越の子たちの対局も見られるわけだ。少し安心なのと、期待に胸が膨らむな。
「ところで御堂よ。お前、出立はいつだ?」
「出立? なんの?」
「長野にだよ! 解説がいつから始まるのとか分かっとけよ! っつーか早いところはもう始まってんだぞ予選!」
「え? 東京でやるんじゃないの?」
「やらねぇよ! なんで長野の少年少女がわざわざ予選のために東京来るんだよボケ!」
「あぁ……藤田さんが居るから大丈夫でしょ」
「……藤田さん、明日から公欠取ってるぞ。おそらく解説の為だと思うがな?」
「……」
「……」
「……公欠、取ってくるわ」
「おう、行ってこい天然ボケ」
そうか、東京でやるんじゃないのか。IHは東京なのにな〜。あ、だから予選なのか。
なるほどな〜。深い。
それにしても、これからとうとう解説役が始まるわけか。
雨宮と別れ、ゴゴティーをゴミ箱に入れてから会館ロビーへと赴く。
休憩中ともあって色々な人とすれ違うが、一年経つと顔ぶれも違ってくるもので。
来年も高校や大学を卒業した人たちが来るのだろうな、と思うと感慨深い。
と、ロビーへ到着。総合受付とは別にプロが利用する受付があるのだが、そこで様々な業務を受け持っているのだ。
受付近くには対局場の一つとつながる通路があり、そこから見慣れた和服姿の少女が姿を現す。……ホントは少女じゃないんだが、どうみても十代後半にしか見えない。後半でもないかもしれない。
「あ、東南ぃ!」
「ん? あぁ咏か」
ぴょこんと登場した咏は、いつもと変わらない、腹に一物抱えてそうな笑みを浮かべながら俺のもとへと歩いてくる。
咏が余裕を持って行動するときには必ず何か裏があるのだが、今回はなんだろうか。
と、いうより。あのキスをしてしまった日から数えてまだ一週間経っていないこともあって俺としては正直顔を合わせたくなかったんだが……。
「あんだよ東南〜、会った瞬間目逸らすとか、気分悪いぞ」
「いや、悪い悪い。で、どうした?」
「いやべっつに〜? 東南が居たから来ただけだぜ〜?」
梅雨入りしたこともあってジメジメした空気が籠るなか、咏はセンスを取り出してゆったりと風を送り込んでいた。ってそんなことしてる場合じゃなかったわ。
受付の女性に頼んで、俺の対局日程を出してもらう。
少々お待ちください、と言った彼女が裏の部屋に居なくなったタイミングを見計らってか、咏が俺の隣にひょいっと顔を出した。
「んで、その後どーよ? 長野に決まったっつーから、あの子たちのところ行くんだろ?」
「いやソレが日程忘れててさぁ。今から明日以降の試合をキャンセルする予定」
「あい?」
センスを顎にやって小首を傾げる咏は大変可愛らしいのだが、目が笑っていない。
目は口ほどに物を言う、をベースに彼女の瞳に翻訳機をあててみることにしよう。
『な〜に言ってやがんだこのボケは。明日になるまで気づかないとかホントに抜けてるっつーかアホっつーか――』
……やめよう。心が折れそうだ。咏に言われていると思うと余計に荒む。
若干ブルーな気持ちになって、とりあえずの瞳の解読を止めた。
すると、じっと見られていたことが不快だったのかは知らないが、不満そうに頬を膨らませて彼女は口を開いた。
「何見てんのかは知らんけど、東南。一言言うことがある」
「な、なんだ?」
「な〜に言ってやがんだこのボケは。明日になるまで気づかないとかホントに抜けてるっつーかアホっつーか――」
うが、本当にドンピシャだとは思わなかった。やめてくれ……雨宮にボケ呼ばわりされただけでも堪えてるんだ。
そんな心情など知ったことかと、食い入るように俺の目をみてグサグサと心のナイフを刺していく咏。
ていうかだんだん寂しくなってきた。俺ってそんなに天然ヴォケだろうか?
と、ぐちぐち抉ってくれやがった前の和服少女が、ちょっと目を逸らす。
なんだろう。ここまで言っておいて、まだ俺の目を見れないほどに言いにくいことでもあるのだろうか。
袖口を口元に当てて、ちらちらと俺の様子を伺うようなしぐさをする咏。
妙に可愛らしいが、これから来るであろう特大の言霊ナイフに身構える必要がある俺。
「――でも」
「あん?」
逆接?
「でも、そういうところも――好き、だよ?」
「ぶふぉ!?」
なんで公衆の面前で告ってくれちゃってんですか三尋木先輩!?
ふ、不意打ちにもほどがあるというか、今言う時に見せたはかなげな表情が目に焼き付いたままというか……あぁ煩悩退散だコラァ!
ブンブンと頭を振っていると、視界に妙なものが入った。
――ん? 今、受付嬢戻ってきてなかったか?
錆びた蝶番のような、そんな動きで目の前の受付に顔を向けると。
「み、三尋木プロの告白現場ゲット!! ま、まさかおつきあいされてたなんてぇ!!」
「ちょ、戻ってきたならそう言ってくれ! うわ恥ず!? 何この羞恥プレイ!」
「キャー! 甘酸っぱい空気が……イヤむしろ甘々しい雰囲気が!」
「甘々しいってなんだよ! こちとらプライドズタズタだわおい!」
目をキラッキラさせた受付嬢がキャーキャー騒いでいた。これを他の人たちにも聞かれてたらコトだぞ……。
そう思いつつ額に手をあてて天井を仰ぐ。
「ねぇねぇ東南ぃ」
「……もう勘弁してくれ」
何やらくいくいと着流しを引っ張る感覚。なんだろうか。ここまで引っ掻き回しておいて、何をする気だ咏……?
視線を天井から、俺の胸元に移す。そこにはやはりというべきか。俺の着流しの裾を親指でつまみながら、上目遣いで俺を見上げる咏がいた。
その表情はどこかニヤついており、俺が出会い頭に感じた嫌な予感が的中したことを彷彿とさせる。
「惚れた?」
「最初っからそういう狙いかお前!?」
「え〜……でも、恥じらいのある感じで告白するといいって、メールで福路が」
「何を年上に恋愛教室やってんのあのお母さん!?」
でも彼女なら、咏相手にも頭を撫でながら恋愛を説く姿が容易に想像できる不思議。
「あ、あの! 御堂プロの対局日程持ってきましたから――」
「ん、どうしました?」
「――二人のなれ初めについて小一時間ほど!」
「待ちたまえ。キミは何か大きな間違いを犯している」
もうこの受付嬢ダメだ。
っつーか人のなれ初め小一時間とか暇だなアンタ。
ホント、女の子っていうのはいつになっても理解できない。アイクに相談したら
『そもそも男とレディーというのは、別の生き物なのデス』
とか悟ったように言われたし。アイツは女誑しだからしょうがないにしても。
『根性で話せば心は伝わる! コンジョウ・イズ・ワールド!』
いやテメエには聞いてねぇよ。
と、俺が若干諦めかけて回想に浸っていると。
「あたしと東南の出会いは中学なんだ」
「長いおつきあいなんですね!」
「なんで馴れ初めの話始めてんだ!」
咏がクネクネと恥ずかしそうにしながら一個一個思い出みたいにして語っていた。
あの遊園地の日から、コイツかなり積極的で対応に困る。
『もうお嫁さんでいいんじゃない?』
!? お前いつかの悪魔のささやき!
……落ち着け。落ち着くんだ御堂東南。幻聴が聞こえるなど末期だぞ。
とりあえず、なんかのろけ話のような展開に転がりつつある二人を制して。
「はいはい、とりあえず俺の日程明日からキャンセルできてます? 協会から連絡行ってればいいんですけど」
「むぅ〜。あたしだって恥ずかしいんだぞ……?」
隣で愚図ってる昔馴染みは気にしない。
受付嬢はパラパラと書類をめくっていく。表紙と背に俺の名前があることからも、俺の日程表だろう。
「えと……あ、明日からの対局は全て、奄美島優斗様名義でキャンセルされています」
「流石和人の親父だけあるな……」
「え? 和人?」
四風会で呑んだあと、すぐにキャンセルでもしてくれたのだろうか。ありがたい。
と、そこで久々に聞く名前に、咏が疑問符を浮かべる。
「あぁ、アイツ高校は龍門渕だってよ。去年優勝してるっぽいし……楽しみだ」
「いーなー。あたしアイツに五百円貸したままなんだよ〜」
「チャチぃなおい」
和人の対局も見れるし、あの三人の少女が頑張る姿も見られる。これから楽しみだな。
「……でも、三週間くらい東南のこと見られないのかぁ」
「……この一週間、甘えん坊全開なのな? お前」
「いつか振り向かせてやるって言ったんだ! 見てろバーカ!」
ちょろっと舌を出すと、すたこらさっさの効果音よろしく踵を返して対局場に戻っていく咏。そうか、少しの間咏とは会えないんだな。
「っと行けね。藤田さんに聞いて場所とか調べないとな」
まさか明日に迫っているとは知らなかったが、とりあえず。長野に向けて出発だ!
@
「藤田さんないわー。俺のことほっぽって昨日雀荘でカツ丼食ってたとか。だから焼き鳥なんすよ。高校生にやき入れられるんすよ」
「黙ろうか御堂プロ」
藤田靖子を追いかけるようにして長野へと向かった東南だったが、どうも彼女の目的はIH前に色々と確かめることだったらしく。
幸いホテルの方は確保できたものの、靖子と違って長野での対局がない東南は、十日ほど手持無沙汰の待ちぼうけを喰らうことになったのだ。
昨日の夕飯くいっぱぐれた東南は、雀荘でカツ丼を食していたという靖子に怨嗟の声を浴びせるも、彼女は取り合う気はないようで。
一夜明けて今日は、靖子も休みということもあって二人である場所へと出向いていた。
歩いている最中にパイプを取り出した靖子は、それに火を点けて、ゆったりと一服する。
歩き煙草ならぬ歩きパイプがこの地区の条例で許可されているのかは知らないが、あまり人通りもない、二車線と無いこの道路。咎めるような人も居なかった。
「またチマキっすか」
「もはや煙草ですらないな。ちなみにパイプというのだけどな? コレは」
紫煙に慣れていないわけではないのだろう、別段嫌そうな顔でもないのだが、東南はそう言って苦笑した。
靖子も別の意味で苦笑したものの、その割合の殆どは東南に対する憐みでできていたことを、彼女はしっかりと心の内に仕舞っておいた。
木漏れ日の心地いいこの道を歩いて数十分だろうか。出発から数えても数回目の車が通り過ぎていった時、のんびりと後頭部で手を組んだ東南が、この来訪の理由を問う。
「んで、なんで急に龍門渕高校に?」
「今日は対局もないし、キミの教え子に会ってみたい。龍門渕高校なら、知り合いも居る」
「あぁアレでしょ。藤田プロがシバかれた高校せ――いだだだだ!? 吸い殻人の手に落とすとかバカ!?」
「すまない。不愉快になってつい、な」
「……ま、良いっす。和人んところに遊びいきましょう」
くだらない話に興じる二人。
傍から見れば、暖かく半袖で過ごせるようになってきたこの時期ということもあって一足早い避暑地への観光程度なのだが、少し麻雀に造詣が深い人間ならば、この二人が何者かはすぐに分かるだろう。
東南は吸い殻で汚れた右手を拭きながら、靖子の隣をまったり歩む。この男にとって、こう言った避暑地やら散歩にちょうどいい道というのは観光名所にも匹敵するほどの大好物であったから、気分も良い。
「んで、その天江衣って女の子はどのくらい強いんです?」
「御堂プロ相手は分が悪いだろうが……私個人としては、その奄美島くん相手にも善戦できる技量だと信じたい」
「ソレ、相当な実力ですけど」
居るわけがない、とまでは思っていないのだろうが、東南としては信じ難い話だった。
何せ、二年前はそれこそ週一以上のペースでプロ相手に戦っていた可愛い教え子である。
それを、片田舎の少女が相手取れるなど、ちょっとした奇跡ではないだろうか、と。
「ところで、龍門渕にアポ取ってるんですか?」
「いいや。まぁ、居なかったらいなかったで」
「案外藤田プロもずさんなところありますよね」
「そう言ってくれるな。私も、そうやってスケジュールなど組まずに気の向くままに歩いていたいこともある」
「あなたは何故プロ雀士になったのですか?」
「そこに雀卓があるから……無理がないか?」
気の向くまま、そんなフレーズに、ふとくだらないことを思いついた東南だったが、予想外に靖子がノッてくれたので満足げだった。
変なところで子供っぽい男である。
「まぁ、和人が居なければその場で呼び出すだけですから。一分以内に来なかったら無いこと無いことマスコミに喋るって」
「ただの嘘じゃないか。ま、そういうことにしよう」
二人は顔を見合わせて良い笑顔で笑いあう。その標的はここに居ないのだから、そんな笑みに突っ込む人間は誰も居なかった。
@
「何か凄まじい悪寒がしたんだが」
「バカも風邪ひくって言うし、それじゃない?」
「なんで素直に『風邪じゃない? 大丈夫? ボクが手取り足取り看病してあげようか?』って言えないのかなはじめは」
「言いたくもないよ!!」
ほど近くの峠道でパシリ宣告を受けているとは露知らず、学生麻雀最強の少年――奄美島和人は、部の同期である国広一とともに、部活のための買い出しに出ていた。
学校からほど近い商店街でメモ帳片手に買い物をする一の姿は、普段メイドをやっていることもあって板についており。和人は荷物持ちとして、若干ふらつきながらも数袋にも及ぶビニールで両手を塞いでいた。
「ところでさ、はじめさん。本当にセメントブロックなんてメモ帳に書いてあった? 俺がセクハラ発言するたびに石屋に出向いて買ってる気がするのは気のせい?」
「気のせい気のせい」
重さの大半を占めるセメントブロックは、勘が良ければすぐに分かるほどあからさまな嫌がらせなのだが。この少年も師匠同様鈍いらしく、彼女の口上を信じ切ってしまっていた。
「そうかぁ、気のせいかぁ……重いなぁ……」
がっくりと肩を落としつつも、健気にセメントブロックが五、六個入ったビニール袋を引っさげて歩く和人。
「も、もう。なんで信じるかな……」
信じ切られていることに若干嬉しさを感じながらも、はじめとしては今更嘘だと言うわけにもいかず、和人に聞こえないように独り言を垂れていた。
メモ帳を見れば、既に買い物リストは全て埋まっており。後は荷物を持って帰るだけとなっている。
ふと、和人を一瞥すれば。
「……なんでセメントブロックなんか……後で透華に文句言ってやる……」
不憫な少年は恨み節に夢中であった。
どうしようか。さすがに可哀そうだし、何かしらの理由――そこに置いておけばハギヨシが処理してくれる、とか――でっちあげて、
少し楽にしてあげようかとも考え始める一。
「ね、ねぇ和人?」
「ん? どした?」
一の声に反応して、顔を上げる和人。
若干の辛さを滲み出させてはいるが、それでも一の前で気丈に振舞おうとする様が見て取れた。
これには少し、一も胸が締まってしまい。
「重い、よね? 大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。後で透華に罰ゲームとして色々お触りしてやるから」
「――もう一個セメントブロック増えるから頑張ってね」
「マジか……」
一瞬でその気が萎えたはじめ。
せめてその対象が一自身だったなら、もう少し反応も違ったのだろうが。
スタイル抜群の透華を引き合いに出されては、憤懣やるかたない感情が表に出る。
「重いなぁ。重いが増えるのかぁ。せめて想いが増えてくれたらなぁ……」
とうとう訳の分からないことを言い始めた和人だったが、それでセメントブロックが減るはずもない。
だが、再度その切ないオーラが一を中てる。
もしこの二人がくっついたら、なんだかんだで浮気を許してしまいそうな匂いもするが、それ以上に和人は尻に敷かれるのだろう。
想像してみると、意外と微笑ましい夫婦かもしれない。
「か、和人」
「はじめ〜。俺の腕って、まだある?」
「あるから!」
腕の感覚ももうないのだろう和人に、今度こそ憐憫の情が湧いて出る一。
だからこそ、墓を掘る……否、自爆する。
和人の若干前を歩いていた一は、クルリと後ろを振り返り。
後ろ手を組んだまま和人を覗き込むと、羞恥に頬を染めながらも、彼が喜ぶであろうことを提示してしまった。
「ぼ、ボクでいいならその……触っても……いいから! 頑張って……ね?」
「俺超元気です!!!!」
「わああああああああ! やっぱ今の無しぃ!」
「……重いなぁ……はじめぇ……俺、肩がもう無いかもしれない……」
「そんなに違うの!? 男の子って分かんないよ!!」
自身の自爆もそうだったが、それ以上に彼のセクハラ……もといエロに対する熱意に驚愕する一。
だが反面、自分でもいいんだ、自分でそんなに喜んでくれるんだ、という感情が、胸の内を小さく温めていて。頬に火照りを残したまま、和人とは反対に少々機嫌もよく前を向いて歩き出す。と。
「和人お前こんな可愛い彼女居たのかぁ。っていうか尻に敷かれてるな」
聞きなれない……否、どこかで聞いた声が、その耳に届いた。