‐次の春まで、続く夢‐
第十三話 『儚く消える、それが夢』
朝、いつものように友恵と並んで自転車を走らせる。
話す話題は田中先輩のことだ。
「でもびっくりしたよなぁ〜。いきなり美久先輩から、田中先輩が倒れた!なんて電話かかってきた時は」
「そりゃビックリするよね」
「そういやあの時間、友恵はまだ友だちの家か?」
「えっ、う、うん。一応私のところにも連絡入ってたけど、ちゃんと話聞いて、大した事ないって知ってたから」
「俺だけ慌て損だな」
「だね。パジャマにちょっと上着て飛び出すほどの騒ぎじゃないのに」
「……?何で俺がパジャマで飛び出したって知ってんだ?」
「えっ!?……あ」
友恵がしまったという表情を見せた。
「……どうした?」
「え、あ、いや……」
「おはよーう」
と、後ろから声をかけられる。
「あっ、ミクミク先輩」
先輩の声を聞くなり、友恵はばっと振り返った。
うまいこと逃げられたって感じか。
「おはよう友恵ちゃん。それに安藤君も」
「おはようございます。……今日は田中先輩、休みっすか?」
いつもならこの辺で、田中先輩の声が聞こえてくるはずだが、今日はその相方の姿が見当たらない。
「……まだ、頭の怪我が治ってないんですか?」
「大丈夫。もう退院もしてるし、今日は単に寝坊してるだけ。まぁいつものことだけど」
「そうですか」
美久先輩のいつもどおりの口ぶりで、大丈夫だという事が分かる。
ちょっと安心した。
「二人とも急がないと、今日は朝礼があるんじゃなかったっけ?」
「そう言えば。ちょっと急いだほうがいいか。友恵、飛ばすぞ」
「あ、うん」
俺たちは少しペースを上げて学園へと向かった。
穏やかな日差しに照らされた中庭。
そこにあるベンチに一人腰掛け、このまさに春という感じを俺は味わっていた。
ついでに手元にあるコッペパンも。
昼休み、とろとろしていたため購買にパンを買いにいくのが遅れ、買えたのが一番人気のないただのコッペパン。
それに昼休みも半分以上過ぎているので、教室に帰っても皆食事を終えた後だろう。
戻って一人だけ食べてるのもなんだかなーと思っていたら、このいい陽気。
どうせ一人で食べるなら外で食べようと思い、こうして一人、中庭に佇んでいる。
それにしてもいい天気だ。
こうやってボーっとしてると、なんだか眠たくなってくる……
「安藤さん」
「おわっ!?」
突如、背後から声をかけられ、トリップしていた意識が身体に戻ってきた。
「あ、愛璃さん?」
「隣、いいですか?」
「お、おぉ、いいよ」
俺の隣に、ちょこんと座る愛璃。
……距離が近い。
「パンですか」
「ん、あぁ、買いに行くのに遅れて、大した物買えずにな。愛璃さんは、もう食事済ました?」
「あ、まだですけど」
「そ、そう?」
そう言っているが、彼女は何も持っていない。
「食べないんですか?」
「え、あぁ。……いただきます」
袋を開き、パンにかぶりつく。
愛璃はと言うと、ボーっと中庭を眺めているようだ。
「……」
「……お腹、空かないの?」
「え、私ですか?」
「うん、何も食べてないみたいようだし」
「うーん……、ちょっとは空いてるんですけどね」
照れ笑いする愛璃。
「……よかったら、食べる?」
「えっ?」
「あ、嫌ならいいんだけど。コッペパンなんか」
「……いいんですか?」
「え、うん」
俺は袋からコッペパンを全部取り出した。
そして、口をつけてない方を愛璃に向けて渡す。
「ホントに、いいんですか?」
「いいよいいよ。何だったら全部食べてもいいし」
「それはいいですよ」
苦笑する愛璃。
「それじゃ……」
愛璃はコッペパンを……俺の口をつけた部分からかじりついた。
「えっ!?」
「え?……どうか、しましたか?」
「あ、いや……いきなりかじりつくんだなぁって思って」
「あっ」
愛璃の顔がぼうっと紅くなる。
「……ちぎった方が、よかったですかね?」
「いや、それはいいんだけど……」
「どうかしました?」
「あー……、いや、俺のかじってる方からかじったから……」
「あっ」
さらに真っ赤になる愛璃。
「ご、ごめんなさい!ついうっかり……」
「いやいや、怒ってるわけじゃないから。ちょっとビックリしただけだけど……」
「うー……」
真っ赤な顔で俯く愛璃。
「……」
そして、また小さくかじりだした。……俺のかじっていない方から。
「……安藤さんは、もういいんですか?」
「え……、じゃあ俺も食べよっか」
そう言ってパンを受け取る。
でも……、両サイドから愛璃がかじってるし。
かと言って横からかじるのも変だし……
「……ハムッ」
結局最初に自分がかじってた方から食べた。
「……」
……何か食べてる横からじぃーっと愛璃が見てるんだが。
「どうかした?」
「え……いや、ちょっと……」
赤い顔ではにかんで笑っている……。
ものすごく可愛い。
「……間接……キスだなって思って……」
言ってまたいっそう赤くなる愛璃。
……俺も一気に赤くなった。
「あ……そうだった」
「……」
お互いに赤い顔して俯いている。
……傍から見たら妙な画だろうな。
俺は一気にパンを食べてしまった。
ちょっともったいない気がしながらも。
「……いい天気ですよね」
「ん、そ、そうだね」
……こう近いと妙に意識してしまう。
「……あ、あのさ」
「はい?」
「……前も聞いたけれど、あの、初めて会ったときのお礼って……」
「……」
黙り込んでしまったか。
と思っていたら、
「……安藤さん。昨日、どんな夢を見ました?」
「夢?」
逆に質問が返ってきた。
「昨日の夢……、何か見たような記憶はあるけどなぁ」
「楽しい夢でしたか?」
「んー、楽しかったかなぁ?」
「……そんなものですよね、やっぱり」
「え?」
少し、愛璃の表情が暗くなったように見えた。
「……なんか変なことでも言った?」
「……どんな楽しい夢でも、醒めてしまえば覚えてないんですよね」
「ん?」
「思い出のようには残らない」
「儚く消える、それが夢……」
「愛璃さん?」
「……安藤さん、私……」
「ん?」
「……いいえ、忘れてください」
「え?……急にどうしたの?」
「気にしないでください」
そう言って愛璃は立ち上がった。
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴り響く。
「……じゃあ、私はこの辺で」
「あっ」
愛璃は校舎のほうに去っていった。この前のような笑顔は見せずに。
……何だろう?何か、嫌な予感がする。
『儚く消える、それが夢……』
……あの言葉が、頭から離れない。
夢……
「あっ」
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。
早くしないと授業が始まる。軽く頭を振り、教室へと走った。
「ん?」
中庭から自分の教室がある校舎を見上げたとき、一瞬見知った顔が見えた気がした。
「……友恵?」
いやいや、そんなことより急がねば。俺は階段を駆け上がっていった。
……残念、5秒差で遅刻。畜生。
‐続く‐
あとがき
約一ヶ月ぶりの投稿、舞軌内ですー。
まぁSSそのものは出来てるんですけどね。このあとがきだけ後付け執筆中。
で、これまで語ってきた美術部思い出話、大抵の事は語り尽した感はあるんですけどねぇ……
なので思い出話は終了(ぉ
普通のあとがきに戻ります。
そういやコンペやってるんですよねー、萌のみの丘。
私、前回のクリスマスコンペん時も参加してますから、とりあえず今回も参加予定。
今回は二次創作で行こうかなーと思ってはいますけどね。ま、予定は未定。
……って相変わらず何がなんだかわかんないあとがきだなぁ。
これならまだない方がマシか?
ま、まぁ今回はこの辺で。