‐次の春まで、続く夢‐
第十話 『田中先輩の彼女』
チャーチャーンチャー
枕元でやかましく鳴る着メロに起こされたのは、正午過ぎだった。
携帯を手にとって見ると、公衆電話からかかっているようだ。
「……はい、もしもし……」
「あ、安藤君、宮西だけど」
宮西……?あ、まさか……
「み、美久先輩!!?」
あの美久先輩から電話がかかってくるなんて、初めてのことだった。
しかもモーニングコールですか。
「お、おはようございます!!」
「えっ、あ、おはよう。……ってもう昼なんだけど」
「あっ」
「今起きたの?だらしないねぇ。それより、ちょっと大変なことになってるんだけど」
「はい?」
「平吾が倒れたの」
「平吾……えっ、田中先輩が!!?」
田中先輩が倒れた!?
「あ、ちょっと大げさだったかも。で、とりあえず市民病院にいるんだけど、安藤君、今から来られる?」
「市民病院ですね、すぐ行きますんで!!」
そう言って俺は通話を切った。
先輩が倒れた……、昨日の打ち所が悪かったのか?とにかく病院に行ってみないと。
俺はパジャマの上からスポーツウェアを羽織り、朝食(昼食)もとらずに病院へと向かった。
いざ病院に来て思い出したが、先輩たちはどこにいるんだろう?
市民病院といっても結構広いし、連絡を取るにも病院内だから携帯は使えないし(だからさっき美久先輩、公衆電話からかけてきたのか)……
「あの〜、安藤安志さんですか?」
ロビーで途方に暮れていた俺に、一人の女性が声をかけてきた。
「あ、はい、そうですけど……?」
「美久から電話あったんでしょ?何か急に電話切るって文句言ってたわね」
「あ、美久先輩の知り合いの方ですか?」
そう言うと、目の前の女性はクスリと笑った。
「美久が先輩ねぇ〜、フフフ」
「?」
「まぁとりあえずついて来て」
そう言ってスッスッと歩き出すその女性。俺もとりあえずその後について歩き出した。
俺の前を歩くこの女性、スタイルもよく、はっきり言ってかなりの美人だ。
それにしてもこの人、どこかで見たことある顔だけど……
「あの〜、ところでどちらさまですか?」
廊下を歩きながら、俺はその人に尋ねてみた。
「あ、そういえば言ってなかったわね、ゴメンゴメン」
そう言って微笑む姿も、どこかで見たような気が……
「はじめまして、宮西恭子といいます」
「えっ、宮西?」
「そう。美久の姉です」
「ええぇーーーーーー!!?」
思わず大声を出してしまった。
「安藤君、ちょっと、驚きすぎ」
そういやここ病院だよ、何かみんなこっちの方睨んでるよ……
「でも、美久先輩にお姉さんがいるとは知らなかったから」
「知らなかったの?まぁとりあえず美久がいつもお世話になってます」
「いや、そんな、こっちがお世話になってますから」
美人姉妹とはまさにこのことだな。
……宮西家に養子に行きたい。つい思ってしまいますな。
しばらく歩いて、ある大部屋の中に入った。
そこは10台くらいベッドがあって、それぞれがカーテンで仕切られている。
その中の一角に俺たちは入った。
「あ、安藤君。急に電話切らないでよ」
「ちょっと焦ったもんでつい……」
ベッドの横の椅子に座って、美久先輩が小説か何かを読んでいる。
ベッドには……
「田中先輩……」
先輩が頭に包帯を巻いてベッドで眠っていた。
「……何があったんですか?」
「あーあー、そんな深刻な顔しなくていいから」
「はい?」
さらっと言う美久先輩。
「でも倒れたんじゃ……?」
「言い方が悪かったわね。本当は家の階段踏み外して落っこちたのよ」
「はぁ?」
「ちょっと頭切ったみたいだけど、大した事ないみたい。まぁ結構血は出てたみたいだけど。今はただ睡眠不足で爆睡してるだけ」
「……そうなんですか」
確かに階段から落ちたのは大変なことかもしれないけど、美久先輩の言い方が大した事なくて、何か拍子抜けしてしまった。
「……ところで、何で先輩たちはここに来てるんですか?」
「何でって、そりゃあ夜中に隣の家へ救急車がやって来たら、ビックリしてついて行くでしょうに」
そう言えば田中先輩と美久先輩は隣同士だったな。
「それにお姉ちゃんがうるさくてね」
苦笑する美久先輩。
「あんまりそういう事言わないでよ」
後ろで恭子さんが恥ずかしそうに言う。
「あのー、恭子さんって田中先輩とも面識があるんですか?」
「面識があるって言うか、何て言うか」
「はい?」
少し間をおいて恭子さんが言う。
「田中君の彼女なの、私」
「え、ええぇーーーーーーーーーー!!!??」
自分でもびっくりするくらいの大声を出してしまった。
ここ病室内だよ、みんなこっち睨んでるよ。
……それよりも、ウソでしょ?
「あ、あのぉ〜、本当の話ですか?」
「うん」
にっこり笑って頷く彼女。
有り得ない、あの先輩の彼女がこんな美人だなんて……
「……何か頭痛くなってきた」
「大丈夫?」
少し心配そうに俺の顔を覗き込む、田中先輩の彼女。
……そんなに近づかないでくださいよ、顔紅くなりますから。
しかもこの人が、よりにもよってあの男の物だなんて……。
あぁ、なんて世界は不平等なんだろう。
「美久先輩……、本当ですか?」
「残念ながら」
「……」
ベッドで眠る田中(あえて呼び捨て)の首を絞めたくなってきた。
「じゃあそろそろ行くね」
「あ、うん」
恭子さんが置いてあったバックを手に取る。
「ん?帰るんですか?」
「ちょっと用事があってね」
「はぁ」
「それじゃね、アンアンくん」
「アッ、アンアン!?」
な、何故その名を!?
てか先輩以外の人に呼ばれると恐ろしく恥ずかしい……
しかも女性に……。
「あ〜、赤くなってるぅ〜」
「え、あ、その……」
……勘弁してくださいよ。
「じゃね」
そう言って恭子さんは病室を出て行った。
「……アンアンねぇ」
「センパ〜イ、言わないでくださいよぉ〜」
「フフフッ」
美久先輩まで……
「平吾がよく言ってるわね」
「余計なことを……」
本当に首絞めようかしら。
「……安藤君」
「はい?」
急に美久先輩が、真剣な顔つきで問いかけてきた。
「昨日の夜、君たち何してた?」
「えっ、昨日ですか?」
昨日といえば、学校に泊り込んだ日だ。
「部活の時、学校に泊り込むって言ってたよね。本当にやったの?」
「やりましたね」
「そう。じゃあ変だよね」
先輩が考え込む。
「泊り込んでたら、平吾が家にいるわけないよね?」
「あ、途中で切り上げたんですよ」
「え?」
俺は美久先輩に昨日のことを話した。
「……謎の少女ねぇ。じゃああの絵はその娘が描いてるって事?」
「そういうことですかね。でもビックリしましたよ、急に先輩が倒れたなんて聞いて。俺てっきり打ち所が悪かったのかなって思って」
「大変だったんだ。あっ、そういえば親御さんが言ってたけど、彼、夜中にふらふら〜っと家に帰ってきて、それでなんかボーってしてたって。それで階段から落下したそうだけど」
「家帰ってすぐに怪我したんですか」
「多分ね。……それに様子もなんか変だったらしいわよ。何を言っても聞こえてないような感じで。まるで寝ながら歩いてたみたいだ、とか」
「そうですか……」
やっぱり打ち所が悪かったんだろうか?
グゥゥゥゥ
「あ」
俺の腹の虫が鳴った。
そういや、起きてすぐ何も食わずに飛び出してきたんだったっけ。
「お腹空いてるの?」
「……お恥ずかしながら」
「そう、もうこっちは大丈夫だから。安藤君は帰ってもいいよ」
「はぁ」
「ゴメンね、急に呼び出したりして」
「いいですよ。美久先輩は帰らないんですか?」
「私?……親御さんが戻ってくるまでここで本でも読んでるわ」
「そうですか」
田中先輩も見たところ大丈夫そうだったので、俺は病室を後にした。
‐続く‐
あとがきと言うか美術部思い出話
どーも、舞軌内です。
美術部思い出話、今回は展覧会のお話。
前回の文化祭の回の時にチラッと述べましたが、美術部における運動部のインターハイみたいな物は、年に一回開かれる県レベルの展覧会です。
我々美術部員は文化祭の展示のために作品を作っていくんですが、それともう一つの目標として、この展覧会向けの作品を作っていました。
この展覧会に出品できるのは1,2年生だけ。3年は受験の都合で出品できないんです。
なおかつ1年生の時は先輩を立てると言うこともあり、基本的には2年生の時だけがチャンスです。
で、私もなんぼサボってたと言っても美術部員の端くれ、一応作品作ろうとか努力はしてました。
が、展覧会一ヶ月前に顧問に『お前は出品無しな』と宣告され、ショボーンでございます。
なので実質、展覧会本番に関しての思い出は大して無いんですけどねー(ぇ
本番じゃなくて準備には参加させていただきました。てか、参加させられました。
展覧会会場は県民会館みたいなところなんですが、そこに県内すべての高校から集められた作品を展示するわけです。
その展示作業をするのは、これまた県内の各高校から召集された美術部員たち。
それで驚いたのは、男子部員の多さ。
美術部が女の子の園だって言う妄想は、こんなところでも打ち砕かれたわけです(ぉ
何か今回は薄い思い出話になりましたが、まぁこの辺で。