‐次の春まで、続く夢‐

第八話 『ミステリーバカ二人』








その日も山名先生は出張でいなかった。

「いよいよだなぁ、怪奇現象の正体、突き止めてくれるわ」

「楽しそうですね、先輩」

「もちろんよ、これが面白がらずにいられますかいって」

放課後の美術室は、田中先輩がいる以外、昨日とまったく変わったところはなかった。
いや、実際は昨日割った石膏の像が無くなっている。
幸い誰も気がついてないみたいだが……

「どうしたアンアン?」

「え、いや……なんでもないです」

「そうか?」

「……でも本当に大丈夫なんですか?」

「言ったろ?警備員は既に我々の味方だ。向こうも怪奇現象で困っておられるわけだし」

今日、俺と田中先輩は学校に泊まり込んで、美術室の怪奇音の正体を突き止めにかかることになっていた。

「……それ、寝袋ですか?」

「まぁ一応用意はしたが、寝るわけにはいかんからな。事実が分かるまでは」

「はぁ……」

「ちゃんとアンアンの分も用意してるから安心しろ」

「そうですか」

まぁ別に、俺もこの手の話とかは嫌いじゃないから、ちょっとばかしドキドキしている。
でも口に出して言うと間違いなく先輩が喜んで、とんでもないことになりそうなので黙っておこう。




「あれ?……この絵……」

画材置き場の方から、友恵の声が聞こえてきた。

「どうかしたか?」

「あ、やすくん。今日、先生来てないよね?」

「出張だな」

「……あれ見て」

友恵が指差した先には、昨日見たうまい人物画があった。

「ん、あの絵がどうかしたか?」

「昨日と違うでしょ」

「え?」

そう言われたが、何がどう違うのかさっぱり分からない。

「いや、どこが?モデルの人がオッサンになってるとか?」

「違うって。昨日より進んでるでしょ」

「あ……」

友恵の言う通り、その絵は昨日見たときよりも色が付けられていた。

「確かに進んでるけど、それがどうかしたか?」

「……あの絵って、先生が描いたんだよね?」

「あー、部員全員が違うって言うんだから、先生だけだろうな、描いた可能性があるのは」

「だったらおかしいよね?」

「何が?」

「絵が進んでるのって」

「……そう言われれば確かに」

確かにおかしい。
山名先生は昨日は出張でこの絵に触っていないはずだし、今日も朝から出張でいない。

「……朝早くから来て、描き進めたんじゃないのか?」

「でも、何でそうするの?」

「……それもそうだな」

「誰かが描き加えたのか、それとも……」

「……元から先生が描いたんじゃなく、誰か別人が描いた絵だったとか」




シャッシャッ

「!?」

「やすくん、どうかした?」

「何だこの音……」

シャッシャッ

「この音?」

「シャッシャッいう音」

「あぁ、何ってほら」

友恵が画材置き場を出る。俺もそれについていくと、

「油絵描いてる音じゃん」

教室では部員が静物画を描いていた。

シャッシャッ

キャンパスに筆が擦れる音が響く。

「……ちょっと、田中先輩!」

俺は田中先輩を呼んだ。

「ど、どうしたアンアン、急に大声なんぞ出して」

「先輩、あの警備員が聞いた妙な音って、この音じゃないですか?」

シャッシャッ

回りを気にせずに絵を描き続ける部員の人。よほど絵の世界に没頭しているらしい。

「シャッシャッて音だな。そうか……絵を描く音か」

「……ねぇ二人とも、何の話してんの?」

頷く先輩の横から、友恵が聞いてくる。

「なるほどねぇ、全て繋がったわけだ」

「何を気取ってんだ、アンアン」

「……先輩、人がせっかくいい気分で自分の推理を口にしようとしてるのを、頭から阻害しないでくださいよ」

「だから、何の話?」

「つまりはこういう事。画材置き場のあの絵を描いたのは、山名先生ではなく、別の人物だ。そして、その人物がこの絵を描くときの音が、警備員のいう怪奇音の正体、と」

「……画材置き場の絵って何だ?」

「え、何、怪奇音?何それ?」

二人とも情報が片方ずつ不足しているようだ。
俺は二人に怪奇音のこと、絵のことを事細かに説明した。

「……だから、あの絵と変な音には何らかの繋がりがあるって言うこと」

「うおお、アンアン、今俺は猛烈に感動しているぞ!そこまで考えられるように成長するとは……、俺は嬉しいぞ!!」

「ありがとう、先輩!!」

がっちりと握手する先輩と俺。

「で、今晩ミスコン部が泊まりがけで調査するって事?」

「そう。どうだ?友恵も参加するか?」

「いいよ、私は遠慮しとく。気にはなるけど……正直この手の話、苦手だから」

「まぁしかたないか。では先輩、作戦会議といきましょうか」

「お、アンアン、ノッてきたねぇ〜。よっしゃあ、やったるかぁ!」

そうして俺たちは、作戦の機密性を守るため(部屋で絵を描いている部員の皆さんの邪魔にならないように)、主のいない美術準備室で作戦を練ることにした。








「……やっぱり安藤君も同類だったか」

「あれがいわゆる、男の友情ってやつですかねぇ」

「さぁ」

何か後ろのほうで友恵と美久先輩の話し声が聞こえてきたが、あえて無視。
……どうせ子馬鹿にされてるのは間違いないし。








‐続く‐






あとがきと言うか美術部思い出話

どうも、自己満足SS垂れ流し作家舞軌内ですー(ぇ
一次もいいけど、久しく二次創作を書いてないものだから何か書こうかとは思ってますけど。

美術部思い出話、今回は顧問の話で。
私らのいた時の美術部の顧問は何故か三人いました。
まぁ正式な顧問は一人、後の二人は美術が趣味な教員が補助要員的な立場でやっていましたけど。

で、正式な顧問かつ美術室の主だったのは、この話同様若い男性教諭でした。
面倒見がよく、寛容なところはあってもそれでいて締める時は締めるというメリハリの利いた人でした。
ルックスもそこそこ良く、女子部員からの人望も厚かったですねぇ。
ちなみに先生は美術部のみならず、男子テニス部の顧問も兼任していました。
うちの高校のテニス部は県内でもトップクラスの成績を残してましたから、腕も結構立つようで。
そういや若かりし頃の自分のテニスプレイヤーな姿を映したビデオを、我々部員に自慢げに見せてたりもしましたね。

とりあえず高校三年間を通じてお世話になった人ですからねぇ。
担任とかと比べても、一番接する機会が多かった教員ですな。恩師と呼んで構わないでしょう。
いつか機会があれば、顔見せでも行きたいとは思ってます、ハイ

……何か本当にただの思い出話になってしまいましたな。まぁいいか。
では、今回はこの辺で〜