どこからが、夢の始まりだろう。

そして、どこまでが夢の続きだろう。

やがて、夢は終わりを告げる。

その後の夢は、一体どこへ行くんだろう……








‐次の春まで、続く夢‐

第一話『夢の始まり』








桜の花弁が舞う早朝の校庭を、男が二人、彷徨っていた。

「……本当に金塊なんてあるんスか?」

「あるはずだ。これはある確かな筋から手に入れた情報やからな」

「はぁ……」

俺の問いに自信満々で答える長身のこの男は田中平吾。
俺が所属するミステリーコンプリート部、通称ミスコン部の先輩であり部長だ。

「ところで、先輩が手に持ってるそれって何すか?」

「見て分からんか?」

「いや、分かったら聞いてませんし」

先輩の両手には二本の怪しげな金属棒が握られていた。

「お前それでもミスコン部員の端くれか?アレダよアレ、ダウジング」

「ダウジング、ですか」

「そう。実際の建築においても使われてるとかいないとかのアレだ」

「……どっちすか」

「細かいことは気にするな。気にしたら負けだ。行くぞアンアン」

そう言って田中先輩は進みだす。

「……いいかげん、そのアンアンって呼び方やめてくれませんかねぇ?」

「んなこと俺に言うな。恨むならお前の名付け親を恨め」

「無茶苦茶な……」

このアンアンと言う呼称は、俺の名前が『安藤安志(あんどうやすし)』で『安』の字を二つも含んでいる事から来ている。
某ファッション雑誌と被っているこのあだ名を決して気に入ってるわけではないが、他に提示された『激安超特価』とか『アンドロメダ星雲』とかよりはマシだが。

「まぁ案ずるな。このダウジンガー田中様の手にかかれば、金塊だろうが地下水脈だろうが一発ヒット!!」

「はぁ」




しばらく進んだところで田中先輩の足が止まる。

「どうかしましたか?」

「……きた」

「え?」

「アンアン、ついに来たで。この反応は……」

見ると先輩が持っているダウジング棒(?)が左右に大きく開いている。

「金塊キタァー!!!」

「え、えっ!?マジッすか!?」

「間違いない。この緑乃宮学園校庭に眠る、徳川家の隠し財宝そのものだ!!よし、アンアン、掘れ!!」

「え?」

「え?じゃねぇ、早く掘るがよろし!!」

「は、はい」

俺は用具質から失敬してきてたシャベルで、先輩の指差す場所を掘り始めた。

「……って、先輩も手伝ってくださいよ。何で俺一人が掘ってんすか!?」

「アンアン、年配者は敬わなければならないという儒教の教えを知らんのか?いっぺん韓国に留学して来い!!」

「いや、そうじゃなくて」

「それにアンアンが思ってる以上にダウジングは気力・体力を消耗する作業だ。今の俺には箸を持つ力も残されちゃいねぇ」

「……」

箸は持てなくてもダウジング棒は持てるのかと突っ込みを入れたかったが、疲れるだけだと思い、やめておいた。

「ここ掘れアンアン!!」

「……そのアンアンって部分を妙に色っぽく言うのやめてくれませんか?」




ガツン!!


「……先輩、今スコップの先になんか当たりましたよ?」

「金塊そのものだぁぁぁぁぁ!!!」

田中先輩が吼える。
正直、金塊など信じてなかった俺だが、今感じた手ごたえは本物だ。

「ど……、どうしましょう!?」

「とりあえず掘らんかい!!!」

「は、はい!!!」

……時価ウン億円の金塊が目の前にあるかも知れない。
うわぁ、考えただけで気が狂いそうだ……

「アンアン、何ボサーっとしとんじゃ!!俺のバラ色の人生はお前のその手にかかってるんだ!!」

「は、はい!!」

……今、何か不穏当な発言があった気がするが。まぁ今は金塊が先だ。

「ウン億円!!ウン億円!!」


ガツン!!ガツン!!


自然とシャベルを持つ腕にも力が入る。

「一生遊んで暮らせるぞぉぉ!!」


ガツン




ドゥワァァ!!!

ブシュウウウウウウウ………




吹き上げる水柱。

「うわぁ!?」

「な、何だ!?」

「せ、先輩、これ!!」

俺の指さした先には、穴の開いた水道管。
さっき感じた手ごたえはこれだったのか……?

「しまった!金塊じゃなくて地下水脈を探し当ててしまった!!」

水の出は一向に収まらない。

「ヤ、ヤバいっすよ先輩……、本気で」

さっきまでのバラ色の妄想から一転。俺たちは完全にパニック状態だった。

「……ほな、後は任した!!」

「せ、先輩!?」

「適当に言い訳でもしといてくれ!!ほな!!」

「ちょっ、先輩!!あぁ!!」

突如関西弁になったかと思うと、一目散に逃げていく田中先輩。

「そんな、後なんて任されても……」

今俺に出来ることは……

「……知らねぇ」

俺もシャベルを放り捨てて、校舎に向かって逃げだした。








まだ人気の無い校舎の男子トイレで、俺は鏡を見ながら息を整えていた。
幸い濡れた面積は思っていたほど大きくなく、放っておいても自然に乾く程度。
服が濡れている事で犯人だと気づかれる事はなさそうだ。
ただ、水に濡れただけなら問題ないのだが、泥汚れはどうしようもない。
服はそれほどでもないが、ズボンの裾とかが結構泥まみれになっている。

「雑巾……と」

近くにあった雑巾を手に取り、水に濡らして汚れを拭こうと考えた。
蛇口をひねる。

「……もう水道に影響が出ているのか?」

水の出が恐ろしく悪い。改めて自分らのやらかした事の大きさを思い知らされた気分だ。

今頃、現場はどんな騒ぎになっているだろう?
いや、そんなことよりも今はアリバイ工作のほうが先だ。
何かいい策は無いか……

「……そうだ」


早朝の自教室。一人机に向かって勉学に励む勤勉な学生が一人。
やってきた教師が尋ねてくる。

「お前、何してるんだ?」

「見ての通り勉強ですが」

「あ、あぁ。そうだ、校内で怪しい人物を見かけなかったか?」

「いえ。仮にいたとしてもずっと勉強に集中してたから気付かなかったかもしれませんが」

「そ、そうか。……ま、何か変なやつを見かけたら報告してくれ」

「分かりました」

去っていく教師。


……我ながら完璧なシチュエーションだ。
アリバイに加え、真面目優等生っぷりをもアピールできる、なんと素晴らしい構成内容。
こんな時のためにも置き勉は学生の必須事項だな。

そうと決まれば早速決行だ。
俺は誰もいないトイレを後にして、教室に向かおうと振り返った……ら




目の前に、うちの学園の制服を着た一人の少女が立っていた。




少女はただ、じっと俺の顔を見つめていた。
背丈は俺より幾分か低く、やや見上げるような格好でこちらを見ている。
廊下の窓から吹き込んでくる風に、少女の肩まである黒髪がなびいていた。


――――――水道管のこと、ばれたのか?


不安が頭をよぎった。
だが、少女はうっすらと微笑んで、一言。

「ありがとうございます」

そう言って礼儀正しく頭を下げてきた。


「……へ?」

……何でこの子は俺にお礼を言ってるんだ?何かしたっけ、俺?

「あなたのおかげで、もう一度チャンスができました」

「え、……何?」

チャンス?何のことかさっぱり分からない。

「本当にあなたのおかげです。では」

少女は、こちらに軽く会釈をして走り去っていった。
俺も思わず会釈を返して、ただただ少女の後ろ姿を眺めていた。




「……誰?」

少女の去った後には、一枚の湿った桜の花びらが落ちていた。








‐続く‐






あとがき

えー、大抵の方は初めまして、でしょうか。著者の舞軌内と申す者です。
こちらに投稿するのはクリスマスコンペに続いて二度目ですかねぇ。
あと『萌のみの丘』関連ではたまに絵を描いてたり、掲示板にもまれに顔を出したり。
また某所でニュースサイトをやってたりとよく分からん輩ですが、よろしくお願いします。

まぁ何と言いますか、これ、一次創作の学園モノの話です。
ジャンル的に言えば何でしょうかねぇ。割合ほのぼのとした話だとは思います。
連載ものですんで第一話読んだだけでは正直よくわかんないでしょう。
ぼちぼちと執筆していきますんで、その時はまたよろしく頼みます、はい。

……自分でも何書いてるのかよく分からんあとがきだなぁ。
まぁ、今回はとりあえずこの辺で〜