ときめきメモリアル
for Kanon Ladies
(Kanon:) |
第5話 真相
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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(ユウ君はやはり……祐一さんだったんだ)
-------祐一が3年生の12月のある日
「北川君、ちょっといいかしら?」
「何だ?」
昼休みになったばかりの時、香里は北川に声をかけた。
「相沢君の事で知りたい事があるのよ。北川君に頼みたいこともね」
「美坂の相談なら無論乗らせてもらうが、相沢か、情報料は高いぞ?」
「情報料の事なら、分かってるわよ。いくらで手を打つの?
今月、私、財布がピンチなんだけど」
「美坂なら、別にお金でなくてもいいぞ。
愛情がこもってれば手作りでもデートでも何でもOKだ。
内容によっちゃ、情報と交換でもいいぞ?」
「まったく北川君は相変わらずね。
でも、背に腹はかえられないし……
じゃ、この弁当1つでどう?一応私の手作りよ」
「美坂の手作り弁当か……じゃ、屋上の扉の前の踊り場にでも行って食うか。
ここで話すような事でもあるまい?」
「いいわ」
(あれ、お姉ちゃん?それに、一緒にいるのは北川さんだったっけ?)
姉と一緒に昼食をとろうと姉の教室に誘いに来た栞が、教室から出ようとした二人を
見つけた。
(ちょっと、様子が変ですね。つけて見ましょうか)
全く妹というのは好奇心旺盛なものである。
栞は二人のあとをついていった。
香里は北川と一緒に歩を進め、階段を上がっていく。
栞は二人から距離をおきながら、二人の後をついていった。
「はい、約束のものよ」
「お〜、これが噂の香里の手弁当か。感激だな〜♪」
「ふーん、そんなもんなの。
でも、これあげると私の昼食がなくなるから、北川君のパンを代わりに貰うわね」「おう、こんなの、いくらでも食ってくれ」
香里の手弁当は、ファンクラブからすればプレミア並の価値がある。
虹野沙希の手弁当と並ぶだけの人気と評判がある。
北川はにんまり気分で、弁当を食べ始めた。
「とりあえず、北川君の知ってる相沢君のこと、教えてくれない」
「そうだな、まず、相沢にはもうひとつの名前がある。『長瀬 優一』だ。
相沢は今の両親に引き取られた時に『相沢 祐一』と姓名が変わっている」
「え? ナガセ ユウイチ?」
「あいつが『長瀬 優一』の時、俺はあいつの2つ隣の家に住んでいた。
当時は俺も5才ぐらいだったから、あまりよく覚えていないが、家の両親が
『長瀬 優一』の事をよく覚えていてな。家同士、仲がよかったそうだ。……」
北川はゆっくりと話はじめた。
「母さんがいうにはだな、俺が5才ぐらいの頃、長瀬さんの父親は学習塾の講師を
していて独立して自分で教室を開こうとしていたらしい。
しかし、長瀬の父は仲間に騙されお金を奪われてしまい、資金繰りに奔走していた時
長瀬の母と一緒に乗った車がトラックと衝突したのだそうだ。
長瀬の両親は亡くなり、家は借金のカタに差し押さえられてしまった。
『長瀬 優一』はその後、警察に保護され、身よりがなかったので孤児院に収容された。
長瀬家と仲のよかった家の両親は、残された『長瀬 優一』が孤児院にいることを知り、
哀れにおもってか、時々、孤児院に様子を見に行っていたそうだよ。
それに、親がわりとばかり、役所とか警察とかいろいろと相談に行ったそうだ。
それから程なくして、長瀬の母方に、行方の知れなかった実兄がいることが分かった。
俺の親は、母方の実兄に連絡を取り、知る限りの事情を伝えた。
その実兄は結婚していて、今祐一の世話をしている相沢家の養父母がその二人だ。
二人は『長瀬 優一』を引き取り、『相沢 祐一』として育てた。
名前を変えたのは、両親の悲しい事件を幼い祐一の記憶に残したくなかったからだと、思うが、それはよく分からない。
それから、相沢家は仕事の都合とかで、海外に行ったそうだ。
そして、相沢がこの学校に転校してきて、家の親とたまたま会って声をかけられたんだ。
俺は親が相沢と話しているこの話を知って、相沢とこの前、話をした。
相沢個人について、俺の知っている事は、今美坂に話した通りだ」
「そうだったの」
「もう一つ、話しておくことがある。これは美坂姉妹の事だ。
家の親は相沢の世話をするうちに、美坂姉妹が孤児院にいることも知った。
ちなみに、相沢こと長瀬と美坂姉妹って幼なじみのように仲がよかったそうだな」
「ええ、妹も一緒に、彼とよく遊んだわ」
「うちの母親は美坂家の両親とも仲が良かったんだよ。
どうやったのかわからないが、美坂の父と連絡を取れたらしい。
その後は、美坂も知っての通り、両親がよりをもどして美坂姉妹は親元に帰った」
「そう。私達、北川君のお母さんには感謝してもしきれないわね。
今まで知らなくてごめんなさい。今度妹と一緒にお礼にいくわ」
「まあ、いいさ。
うちの母親はそういう世話をするのが好きでやっているんだから。
役所の民生委員なんてやってるぐらいだし。
まあ、そのうち、うちの母親には元気に挨拶でもしてやってくれや。
娘をほしがっていたから、こんな美少女二人に感謝されたら喜ぶぞ、
うちの母親は」
「じゃ、今度、栞と一緒に北川君の家に遊びに行かせてもらうわね」
「美坂、一応言っておくが、この話をしたのは美坂が相沢の幼なじみだからだ。
本人の前では、内緒にして知ったような顔をしない方がいいとおもうぞ。
本人がお前達姉妹に自分の話をしていないのには何か理由がありそうだから」
「分かっているわよ」
「それにだな……美坂、お前相沢の事好きだろ?」
「な、なにを言うのよ、突然!」
「美坂、これは俺の想像だが、多分お前の気持ちは……」
「"伝わらない"……そう言いたいんでしょ?」
「分かっているようだな。だが、悔いを残すなよ。
……さーて、弁当、とっとと食べてしまわないとな」
「いっておくけど、その弁当、手抜きしてないからね」
「お、そうか♪ それはラッキーだな。男冥利につきるというもんだ」
「まったく、もう。(私もこんな人を好きになっていれば良かったかもね)」
【栞】
私は踊り場の1つ下の階から、北川さんとお姉ちゃんの話を聞いてました。
(ユウ君はやはり……祐一さんだったんだ)
お姉ちゃんは階段をゆっくりと下りていって、目の先に見える私を見ました。
(あ、栞……まさか、聞いちゃったの?)
しかし、お姉ちゃんは私に声をかけてくれず、そっとその場を立ち去った。
私が泣いていたから。
その日の放課後……
「栞、今度のクリスマス、どうするんだ?」
「祐一さん、一緒に祝ってくれるんですか?」
「ははは……祝いたい気持ちは十分なんだが……なんていうかその……
実はな栞、俺、お金があまりなくてだな……いいプレゼントとかあげられそうに
ないんだ。そのかわり、俺にできることなら、何でもするから」
「はぁ〜、祐一さん、乙女の待ちわびてる年1度のイベントですよ?」(ジト)
「すまん。本当にすまん」
「いいですよ。
祐一さんも居候同然の身ですから、最初からプレゼントは期待してません。
でも、祐一さんにしかできないプレゼントはちゃんと頂きますからね。
約束ですよ」
「はぁ〜?約束って言われても」
「祐一さん、これからちょっとつき合ってくださいません?」
「ああ……」
(祐一さん、私が一番欲しいのは、あなたと楽しく過ごす時間ですよ。
今、私が欲しいプレゼントは……)
私は教会に祐一を導いた。
私は教会に入ると、像の前に祐一を連れて行き、そして、本棚から1冊の本を取り出し、祐一に渡した。
「私、この本が好きなんです」
これは、私がよく祐一に読んでもらった本、大好きな物語。
「子どもの頃、よくこの本を、大好きな男の子に読んで貰ってました。
私はその子と過ごす時間がとても幸せでした」
今、目の前に、その男の子がいます。
「やがて、男の子は私の許を去ってしまいました。
私も、この本は途中までしか話を知りません。
今でも、その話の続きをその男の子と一緒に読みたいと願ってます」
心臓が高まっている。
「今、祐一さんだけは私のこの願いを叶えられるかもしれませんね。
そうですね、『ユウ君』」
「栞……」
「私、待って……待っていたんですから〜〜〜〜。
ユウ君の事、ずっと待っていたんですから〜〜〜〜!
どうして本当の事を教えてくれなかったんですか!」
「……」
「ずるいですよ〜、ユウ君。
私、もう少しで"祐一さん"に心を奪われるところだったんだよ。
ユウ君のこと、信じれなくて、忘れてしまいそうだった。
ユウ君のお嫁さんになりたいっていったじゃない。
忘れたの〜、ユウ君。
どうして……どうして……もっと早く私に全て打ち明けてくれなかったの」
祐一さんは、ようやく口を開いて話してくれた。
「ユウの頃の事を思い出すと、本当の親のことを考えてしまう。
俺は養父母に、その事を知られて、養父母を傷つけたくなかった。
だから、俺は、自分の中からユウを捨てて祐一としてやり直すことにした」
……強いんですね、祐一さん。
「でも、ユウの時の、栞や香里と過ごした思い出を忘れてはいない。
もし、その思い出がなかったら、俺は祐一としてやり直す勇気もなかった」
……覚えていてくれたんですね、嬉しいです。
「祐一としてこの学校にやってきて、成長した栞や香里と再会した。
でも、もうおれは祐一であってユウではない。
だから、ユウに戻って栞達との約束を果たすことはできなかったんだ。
それに言えなかったんだ……俺は祐一であって、もはやユウではないと」
……それでも、言って欲しかったですよ。
……ユウ君は約束を守ってくれる、ずっと私は信じていたんですから。
「祐一の俺が栞を好きになっていた。
祐一の俺が栞に恋をしている」
「そして、私はユウ君ではなくて、祐一さんに恋をしてしまいました。
ずっと待っていた昔のユウ君の面影を求めて、今の祐一さんに恋をしてしまいました。
でも、今の祐一さんは……今の祐一さんが……今の私の想人なんです」
「お互いに、今の相手に恋をしている……昔の二人ではなくて」
「私、後悔してます。
ユウ君を信じてあげられなかったこと、後悔してます。
ユウ君のお嫁さんになりたい、その気持ち、嘘じゃないです!
でも、今の祐一さんを好きな気持ちも、嘘じゃないです!
でも、私……私……祐一さんを裏切ってるんです」
「栞……」
「ユウ君を想い祐一さんを好きでいる……それは祐一さんへの裏切りなんです。
こんな私……こんな私、大嫌いです!
祐一さんが好きでいてくれると尚更……こんな私、大嫌いです!」
私は泣き崩れてしまった。
(今の私の顔、見られたくないです)
私は教会を飛び出してしまった。
香里:「作者〜、よくも栞を泣かせたわね! 覚悟なさい!」
作者:「ひぇ〜。助けてくれ〜」(恐恐恐
(バギボギバギ)……うぐぅ〜
香里:「いい気味よ」