ときめきメモリアル
for Kanon Ladies
(Kanon:) |
第3話 回想
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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「そうか。ところで、昔、この教会のそばに孤児院がなかったか?」
「え? ありましたよ。5年前ぐらいに壊されて、今の高校になったんです。
孤児院があったなんて、よくご存じですね」
「やっぱり、そうか。実は、俺はそこの……」
「あ、いや、何でもない。ちょっと懐かしくなってね」
「この教会に来たことあるんですか?」
「ああ、多分、大分昔のことだが」
「昔とあまり変わってませんよね、ここ」
「ああ、そうだな」
【栞】
相沢祐一さん……不思議な人ですね。
--- 教会を懐かしいといったり、
--- ここに孤児院があったこと、
何故知っていたんでしょうか。
普通、教会や孤児院などを意識する人など、それほどいないでしょうに。
ましてや、それを懐かしむようなあの雰囲気……変です。
それに、昔とあまり変わってませんよね、と話を振ってみたらやはり、
昔を知ってそうなそぶりをしてましたね。
私は7才ぐらいまで姉ちゃんと一緒に孤児院で暮らしていました。
今は実の両親と一緒に暮らしていますが、幼い時を過ごしたあそこには多くの
思い出があります。
寂しい時はいつもお姉ちゃんが居てくれて、慰めてくれてました。
そして、もう一人、あの男の子……多分私の初恋だったのかな。
あはは、そういえばあの男の子と約束したんだっけ。
「今度会う時、お姉ちゃんか私のどっちをお嫁さんにするか決めるんだよ。
その時は、お姉ちゃんにだって負けないんだからね」
「必ず……会いに来るから」
いつも私をからかってばかりで、私はいつも泣いてたっけ。
そして、私が泣くといつもあやしてくれて笑わせてくれて……いつも側に居てくれた。
お互いがどこの家の生まれかもしらない、でも、そんなのは関係がなかった。
目の前にいたあの男の子に……私は淡い恋をしてたんですね。
(ユウ君……今どうしているかな。あの約束、まだ果たされてないよ)
気になるな〜、お姉ちゃんはどう思ったのかな。
聞いてみよう!
【香里】
「大きくなったら必ず会おうね。
その時は私ももっと綺麗になっているんだから。
だから、絶対"でーと"しようね」
「必ず……会いに来るから」
(どうして会いにこないのよ〜!)
私は机の上にある人形、そう、彼との思い出のある小さな人形を眺めていた。
(私、あの頃より綺麗になった……よね?
どうして今でも私の前に現れないんだろう)
鏡に映る自分の姿を見ると、時々、あの時の約束を思い出す。
大きくなって綺麗な女性になれば、その時必ずユウ君に再び会える、
……私はそう信じていたのに。
(私、待ってるのよ、貴方を。大人になった貴方を……ユウ君。
私の初デート、あなたとするって決めたのに、それなのに……馬鹿)
【栞&香里】
「お姉ちゃん、入っていい?」
「ええ、良いわよ。栞」
「ねえ、お姉ちゃん、孤児院にいた頃のユウ君の事、覚えてる?」
「え? 栞、いきなりどうしたの。(なんてタイミングよ〜、もう)」
「私幼かったし、お姉ちゃんなら何か知っているかなと思って。
(あれ?机の上のあの小さな人形は……確かユウ君のプレゼントだ)」
「え、ええ。
後で院長先生から聞いた話だと、養父母ができて引き取られたんだって。
そして、姓名も変わったと聞いたわ。
その後に何かの事情で、親と一緒に街を出ていったと聞いたわ。
(あの栞の表情……まさか?……あ、これ、見られたのね!)」
「そう。あの子、結局また来なかったね」
「私達もあのあとすぐに両親の元に帰ったから、もしかしたら、入れ違ったかも
しれないわ」
「ちょっぴり残念です。
でも、お姉ちゃん……?」
「何?」
「もしユウ君が大きくなったら、祐一さんみたいな男性になってるかもね」
「!!!??」
「でも、例えお姉ちゃんでも、同じ相手を好きになった時は、私、遠慮しないからね」
「いいわよ。私に勝てる?」
「うー、お姉ちゃんずるいです。可愛い妹に譲ってあげる気持ちはないんですか?
(今は負けてるけど、きっと、努力して勝っってみせますから)」
「私の可愛い妹だと自称する、可愛い妹は居ないわ。
(祐一さんのこと、栞も好きみたいね。ふふふ)」(クスッ)
「それは私への宣戦布告ですか?
(やっぱりお姉ちゃん、祐一さんの事好きみたい。う〜、強敵だよ〜)」
「言葉通りね。(今回も遠慮なく、お姉ちゃんが勝たせて貰うわ)」
【祐一】
「大きくなったら必ず会おうね。
その時は私ももっと綺麗になっているんだから。
だから、絶対"でーと"しようね」
(香里……)
「今度会う時、お姉ちゃんか私のどっちをお嫁さんにするか決めるんだよ。
その時は、お姉ちゃんにだって負けないんだからね」
(栞……)
二人ともいい女になったな。
それに比べたら、俺なんて……
俺はお前達からお嫁さんを選ぶなんて……あはは、そんな夢みたいなこと。
「な〜、北川」
「この前、お前が言っていた話、あれは……」
「俺の親から聞いた話だが、たぶん、正しいと思うぞ」
「そうか」
こいつは北川潤、同じクラスメートだ。
クラス一の情報屋ともあだ名されているが、本人はそれほど意識してないようだ。
要は世話好きな性格ともいうのか、いろんな男女の情報を把握しているのだ。
だから、なにげに日常から、学年で恋するカップルの相談をよく受けている。
とにかく勘の鋭い奴である。
俺が北川と話したのはもう一つの理由があった。
そして、俺の実の親が事故で亡くなる前までは、2つ隣の家にいた俺の幼なじみというか遊び相手だったらしい。
つまり、北川は、俺の過去を知る一人とも言える。
そして、北川は美坂香里を想っている。
「お前は美坂香里の事、どう想っているんだ?
彼女はお前にかなり好意を持っているだろうな。
それに栞の事を不幸にしようものなら、姉として美坂も黙ってないぞ?」
「俺は多分、……」
「……そうか。
北川の前では、俺の感情など、隠し通せないだろう。
俺は率直な気持ちを言わざるを得なかった。
「あとは俺がなんとか場を作ってやるから、自分の気持ちには素直になれよ」
「ああ」
(つづく)