ときめきメモリアル
for Kanon Ladies
(Kanon:) |
第2話 再会
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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「必ず……会いに来るから」
それが遠い昔の約束だった。
……華音高校学校、始業式の日。
俺は相沢祐一。
きょうから、この華音高校に通うことになった転校生である。
(大きな敷地にでかい校舎、アメリカの学校と変わらないな)
校内を歩きながら、俺はふと自分のことを考えていた。
だが、俺の顔立ちからすれば、傍目にはぼーっと歩いているとしか映らないだろうな。
ちょっと前まで、両親と一緒にアメリカで暮らしていたが、久しく両親の親戚のいる
日本の北の街にやってきた。
両親はドイツへ転勤したが、俺がついて行かなかっただけだ。
ドイツ語ができない俺にドイツにいけと言うのがそもそも無理な感じがしたためだ。
それに両親と言っても、今の両親は実の親ではない。
俺が8才の時に、孤児院にいた俺を養子にしてくれたのが今の両親である。
両親にはとても感謝している、実の親ではなくとも本当の親子に思っている。
将来立派な大人になったら両親にはたっぷり恩返ししたい。
しっかり勉強して、りっぱな仕事に就きたい、それでたっぷり稼ぎたい。
親が言うには「可愛い嫁さんを貰って幸せになりなさい」だそうだが、結婚してもこんな両親から離れようとは思ってない。できることなら、俺と妻と更には二人の子ども達に囲まれるような両親の姿を見たいものだ。
(可愛い嫁さんか……)
俺は17才、まだ結婚には早いし、恋愛だってあまりしたことはない。
別に女嫌いというわけではないし、告白も何度かされたこともある。
ただ、育てて貰っている親の喜ぶ顔がみたいから、学業では優等生で居続けたかったし、そのために単に恋愛がそっちのけになっただけだろう。
それにアメリカの女性は積極的過ぎて、どうも自分の性に合わなかった。
だが、俺は口調が軽く、どうも女性を無意識に誘惑するらしいから、気をつけないと。
それで何度苦い思いをさせられたか分からないしな。
(それに俺には約束した女の子がいるから……)
幼かった頃、一緒に遊んだ少女達、とりわけあの少女の笑顔は忘れられない。
少女達も俺と同じぐらいの年だから、今は女性と言った方がいいのかもしれないな。
(今はどこで何をしてるのかな?)と思うが、もはや消息も知りようがない。
みんなで過ごした孤児院は今はもうないと聞いた。
こんな約束に縛られている自分が少し滑稽だが、俺の性格なのかもしれないな。
(昔は誰もいない教会に入り込んで、よく遊んだな。
そう、"あんな感じの教会"だったな……うん?)
この建物は……あの教会?
嘘だろう?……何で、ここにあるんだ?
扉開いてるな〜、ちょっと入ってみようか。
(あの像は……やはり、ここはあの教会なのか……)
祭壇も椅子の感じも、俺の記憶にある教会のものと瓜二つだ。
「あの〜、この教会に何かご用でしょうか?」
神父か?
いや、制服姿だな、ここの生徒か。
うーんと、確かこの高校はネクタイやリボンの色で学年分けができるって言ってたな……あの色は1年生か。
「ああ、ちょっとこの教会が気になってね。君はここの学生だね?」
「貴方も学生ですね、2年生ですね。
でも、今は始業式の最中ですよ、こんな所に居て良いのですか?
それとも 始業式そうそうサボリですか。(クスッ)」
「サボりだ」
「え?」
「冗談だ。
本当は今日転校してきたばかりで、クラスも教室も分からない。
始業式に出ても、どこに座ればいいかもわかんないんだよ」
「ふふふ、面白い人ですね。
でも、サボリはいけません。
始業式が終わる頃に私が職員室に案内してあげますね。
ですが……」
「ですが?」
「それまで、私につき合って暇を潰してくれませんか?」
「へぇ? まあ、良いけど」
「私、1-Bのクラスに居る美坂栞って言います。
"栞"と気軽に呼んで下さっていいです。
今後ともよろしくお願いしますね」
「あ、俺は相沢祐一。
祐一と呼んでくれていい。あまり名字で呼ばれるのは慣れてないから。
クラスは不明だ」
「名字で呼ばれるのに慣れていないというのも変わってますね」
「ついこの前まで、アメリカにいたんだ。
だからファースト・ネームの方が慣れてるんだよ」
俺が笑ってそう言うと、その娘は少し動揺したような表情を浮かべた。
もしかして、知り合いなのか?
俺の知り合いにこんな馬鹿丁寧な言葉を使う娘は記憶にないが。
それとも俺がアメリカに長くいたから、覚えがないというのか?
まあ、いいや。それよりもこの教会の事の方が気になる。
「この教会は出来てから長いのかな?」
「ええ、私が幼い頃にはありましたから、10年はゆうに過っていると思います」
「そうか。君はこの教会のこと知っているの?」
「ええ、お姉ちゃんと一緒に、子どもの頃からこの教会にはよく来てました。
ですが、私はあまり信心深い方ではないですよ」
「お姉ちゃん?」
「あ、言ってませんでしたね。私の姉で、ここの2年生なんですよ。
クラスは、確か、2-Aだったと思います。
今もお姉ちゃんとこの教会の前で待ち合わせしてるんです」
「そうか。ところで、昔、この教会のそばに孤児院がなかったか?」
「え? ありましたよ。5年前ぐらいに壊されて、今の高校になったんです。
孤児院があったなんて、よくご存じですね」
「やっぱり、そうか。実は、俺はそこの……」
「そこの?」
「いや、何でもない」
孤児院に居たということはあまり言うべきじゃないな。
境遇がどうのというより、今の親に育ててもらっているから、できるだけ人前で口にすべきことでもないだろう。
だが、これではっきりした。
(この教会は昔、俺が孤児院にいた頃の、隣にあった教会なのは間違いない。
今は高校の敷地内にあるんだな。
でも、そう思うと、ここもあまり変わっていないな)
俺は、教会のあちこちに視線を向けながらそう考えていた。
「祐一さん……? どうかしました?」
「あ、いや、何でもない。ちょっと懐かしくなってね」
「この教会に来たことあるんですか?」
「ああ、多分、大分昔のことだが」
「昔とあまり変わってませんよね、ここ」
「ああ、そうだな」
そうしているうちに、鐘が鳴った。
「あ、多分、始業式も終わりですね。……祐一さん、それでは行きましょうか」
「どこに?」
「まずは職員室です。クラスを知らないと、これから困りますよ」
「そうだな。じゃ、案内を頼む」
「はい」
俺たちは教会を出て、職員室に向かおうとしていた。
その時に、美少女、いや在校生の娘か、が声をかけてきた。
「栞〜、もう来てたの?」
「うん、お姉ちゃん。始業式はもう終わったの?」
「ええ。長引いてね、今終わったところよ。
ところで、そちらの男子生徒は?」
「転校生なんだって。それにクラスも分からないんだって。2年生らしいんだけど」
「そう、じゃ、私これから職員室にいくから、一緒にいきましょう。それに……」
「それに?」
「多分、今日私のクラスの新担任から聞いた転校生、彼だと思うわ。
彼、うちのクラス2-Aにくる転校生じゃないかしら。
でも、男子生徒は皆、がっかりするでしょうね」
「君は、この子の姉さんだよね?」
「あ、ごめん、紹介まだだったわね。
私、2-Aの美坂香里。香里と呼んで。"一応"、栞の姉よ」
「あ、俺は相沢祐一。祐ちゃんでもいいぞ。
香里さんか、ところで"一応"ってのはなんだ?」
「祐ちゃんてのはちょっとね……相沢君でいいわ。
一応って言ったのは……私と栞って、ほら容姿も性格も全然違うじゃない?
だから、姉妹と言っても誰も信じてくれないのよ」
「お姉ちゃん! "容姿"ってひょっとして私の胸のこととか言ってます?」
「……栞、ごめんなさい」
「もう!お姉ちゃんたら」
俺には十分に仲のいい姉妹に見えるけどな。
それに、栞も姉さんの前では子どもっぽい口調になるんだな。
彼女らの話では、香里は学年主席の成績で優等生、栞は普通の成績で活発な子らしい。
外見も、香里はスタイルがいい方だが、栞はどっちかといえばスレンダーという感じだ。
確かに外見だけ見たとこでは、2人が街を歩けば姉妹とは想像できないかもしれんな。
ま〜、なんか、この娘たちとはいい友達でいられそうだ。
だけど、最初に出来た友達が女の子とは……先が思いやられる。
ちょっと気になるな、聞いてみよう。
「なあ、"男子生徒は皆、がっかりするでしょうね"ってどういう意味だ」
「言葉通りよ。君、そこそこハンサムだし体格もいいからね。
これで頭がよければ、3拍子揃ったナイスガイだもの。
女子が放っておかないし、男子は嫉妬の炎を燃やすわよ」(笑)
「そうか、自分ではそれほどとは思ってないが。
こう見えてもそれほど女の子とつき合ったことはないぞ」
「嘘! それじゃ、周りの女の子は蛇の生殺しね。
ひょっとして、趣味があっち方面だったとか……わ〜びっくり」
「香里〜」(ジト〜)
「冗談よ〜、本気にした? でも、そのぐらいハンサムなのは事実よ。
たまには鏡の前で自分の顔をよく見た方がいいわ」
「お姉ちゃん?やっとお姉ちゃんにも春がきた、みたいにはしゃいでいるけど?」
「あら、栞も言うわね。私のいく前に二人っきりで教会でラブしたのはだれかな〜?」
「お姉ちゃん!」
「おいおい」
「祐一さん、こんなお姉ちゃんは放っておいて、急ぎましょ」
「あら、栞、彼は私のクラスだと思うわよ」
いや、確かに二人とも可愛いが……俺はまだ彼女をつくりたいとは思ってないぞ。
それよりも……どっと疲れた。
なんか、目の前に担任教師の姿が見えて、なんかホットした気分だよ。
「え〜、みんなに転校生を紹介する。相沢祐一君だ。仲良くしてやってくれ」
「相沢祐一です。よろしくお願いします」
「えーと、席は……美坂、お前の隣開いてるな?」
「は、はい」
「じゃ、美坂、今年も学級委員なんだし、ついでに相沢に学校の案内とかしてやってくれ」
その瞬間、職権乱用だ〜、という教室の女子の多くの溜息の声が聞こえた。
後でクラスメートの女子にそのことをきいたら、美坂香里は学年で3本の指に入る美人だから、彼女が本気になったら、自分たちは彼女の魅力に勝てないからだそうだ。
それでも、美坂香里がことごとく男子の告白を袖に振ったので、それが他の女子にとっては救いだったらしい。
俺は自然と、(なるほど)と、うなづいていた。
確かに香里が本気で男性にアタックしたら、落ちない男子がいるのだろうか?
そういう俺だって、彼女を断れる自信はない。
その一方で、男子の視線が妙に熱い。
よく見れば、俺の周りに女子がかなり固まって集まっている。
バランスが妙に悪い気がして、どうも居心地が悪い。
狙ったつもりはないが、これじゃ、まるでハーレムだ。
香里の目利きも正しかったようだな。
「……香里、学校の中の案内、頼んで良いか?」
「良いわよ♪いきましょうか」
("香里"ですって……はぁー)とクラスメートの女子が周りで言っていたが、俺は無視して教室を出た。
こら、香里。嬉しそうに手を組むな。……余計ややこしくなるだろうが。
「私のいった通りでしょ♪」
「ご慧眼、恐れ入るよ」
「ふふふ♪」
「何が嬉しいんだ?」
「だって、相沢君やさしそうだから、学校案内したらきちんとお礼してくれるよね?
百果屋のミルフィーユ、楽しみだわ〜♪」
「な……な……それは……はぁ〜分かったよ。今日は世話になりそうだし。
だが、栞となにか約束してなかったか?お姉ちゃんと待ち合わせといってたぜ?」
「あ……!!」
栞との約束を思い出した香里は俺をひっぱったまま教会の方に向かった。
俺への学校の案内はどうした?と言いたいが、まあ、もうどうでもよくなった。
栞は座り込んで、教会の前の砂地に"私を見捨てたお姉ちゃんなんて大嫌いです!"なんて書いていた。
そのくせ、メッセージの前で笑っていたりする。
「栞〜、こめん。待った?」
「え〜、たっぷりと……」というと、俺の方をジト〜と見た。
「それよりも……お二人とも、なにげに随分と仲良くなってませんか?」
「そんなことないぞ」「そんなことないわ」
「もう、いいです。
お姉ちゃん、こんなに遅れたんです、その罰は分かってますね」
「わかったわよ、栞。百果屋のパフェでいい?」
「そんなお姉ちゃん、大好きです♪」
「ま、おれも香里に拉致されたことだし、どうせなら一緒にいくか、栞?」
「はい♪」
嬉しそうだ。
こんな栞の表情をみると、俺はなんともない安らぎを感じる。
「相沢君、拉致ってね〜」
「違ったか?」 俺はいたずらなの笑顔を浮かべて返した。
「もう!」
怒ったような拗ねたような香里、だが顔に似合わず愛らしい。
それに、今日は一日中、こいつのいろんな表情を見た気がする。
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この時、祐一はまだ気がついていなかった。
夕日に背中を照らされた3人の影が仲良く並んでいる。
香里・栞、それは祐一がいちばん会いたかった二人の少女、その成長した今の姿。
それは10年前、3人の間で交わされた再会の約束……ちょっとばかり嬉しい偶然の出来事で果たされた約束の形だった。
祐一・香里17才、栞16才の春、彼らの淡い恋は再びはじまっていた。
★★★★★「祐一の好感度ゲージ」★★★★★
ポイント数 感情 祐一のいらいら爆弾
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香里 5 普通 なし
栞 5 普通 なし
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(つづく)
香里:「作者……ちょっと来てくれる?」
作者:「なんでしょうか」(恐恐恐
香里:「私、随分軽い性格で描かれてません?」
作者:「そんな事ないと思うが?」(笑恐笑恐笑恐
(バギボギバギ)……うぐぅ〜
栞:「お姉ちゃん、そこまでやらなくても!」
作者:「栞、お前って、いい奴だったんだな、今まできがついてやれなくてすまん」
栞:「だって♪ このSS、私が主役だもん!」
香里:「作者……ということは私は引き立て役?」
作者:「ナイスなアシスト役かと」(笑恐笑恐笑恐
(バギボギバギバギボギバギ)……うぐぅ〜
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