ときめきメモリアル
for Kanon Ladies
(Kanon:) |
第1話 伝説のお姫さま
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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伝記は語られた……語り手の幼い少年によって。
ある日、姫は王家の定めに従いフランク王国の王子に嫁ぐこととなりました。
姫を乗せた馬車の一行は、プロシア公国を出発しフランク王国に向かっていました。
(私は恋する人と結ばれぬ定めをもつ姫。
これから嫁ぐフランク王国の王子のことを、たとえ嫌いになったとしても、
永遠の愛を誓わないといけない)
姫は夜空の星をみつけ、ギリシアに伝わる神話のプシュケ(※脚注参照)を思い浮かべる。
自分の嫁ぐ相手が誰かを知らない、会ったことも噂を聞いたこともない。
そんな正体のわからない未来の夫がいかなる者であっても、自分は幸せになりたい
翌日、野原に身を横たえた姫は、舞っていた蝶を手に止め心に思った。
(蝶……プシュケの化身。
彼女のように、私も盲目に夫の愛に包まれていればいい
余計な事を考えてはいけない。
そうしないと私は幸せになれないから)
そんなひとときも束の間の出来事であり、馬車の行は再びフランク王国へ向かった。
突如、暗雲が空を包み、けたたましい雷鳴が空を駆け抜ける。
一筋の光が馬車の渡っていた橋の上に降り注ぎ、橋は炎に包まれた。
姫を乗せた馬車は転落し、姫は水中に身を投げとばされた。
川の激流が姫を包み、姫を何処かへ連れ去ってしまった。
……それから幾日もたってのこと、
「ここは?……」
姫は目を覚ました。
姫は川の激流にのまれながらも、奇跡的に命を取り留めていた。
「ここはマイセン公国ですよ。やっと、目を覚ましましたね」
そばにいた男性が彼女をそっと介抱しながら答えた。
「朝、川辺にいった時に、あなたが倒れているのをみかけ、ここに連れてきました」
「あなたは誰ですか?」
「私のことはリガードとよんでください。貴方のお名前は?」
「リガード……。
私の名前は……えっと……すいません、思い出せません」
「そうですか、名前を思い出せませんか……困りましたね。
では、とりあえず、私は貴方をサリアと呼ばせて頂きましょう」
「サリアですね、分かりました」
リガードとサリア、それは彼らの本当の名前ではなかった。
「実は私も、どこかに行く途中で、川に流されてしまい、ここに辿りついたのです。
本当の名前もどこの誰かもわかりません。
ただ、ここがマイセン公国の領土であることだけはわかりましたが。
記憶を取り戻すまでは、似た者同士、仲良くやりましょう」
「そうなんですか……ふふふ、似たもの同士……」
それから、リガードとサリアの共同生活が始まった。
だが、二人は容貌といい、性格といい、類希なものを持っている。
その二人が互いを恋するのに、それほどの時間は必要ではなかった。
やがて、リガードは時折浮かぶ記憶によって、自分の名がサファイアであること、自分が王家の王子であることを思い出した。
そして、もうひとつの事、自分には親の定めた婚約者がいたことを思い出した。
しかし、その記憶を取り戻した時、王子の側には、自分が愛する女性-サリア-がいた。
サファイア王子はリガードのまま生きる決意をした。
サリアを愛しこの二人の生活を過ごすことが今の彼の全てと思えたからだ。
しかし、そんなサファイア王子の気持ちの変化にサリアは気がついてしまった。
彼の語る言葉に真実がない、嘘がある……女の直感である。
それでも、サリアはリガードを信じていたかった、彼女の彼を愛する気持ちのままに。
だが、サファイア王子の嘘はサリアに感づかれてしまった。
そして「本当の私は王女と婚約している」との言葉に、サリアの心は切り裂かれた。
サリアは二人の居室から飛び出し、雨の中を森の中に走り去ってしまった。
その様子をみたサファイア王子も慌てて立ち上がり彼女を追った。
雨の中、視界もはっきりしない、足下もおぼつかない、そんな状況の中でサファイア王子はサリアを追い求めた。
……そして、彼は足をすべらせ、崖下に転落し、頭を強打した。
その姿を目前で眺めたサリアは、悲しみの叫びをあげ、崖下に転落したサファイア王子を求めて崖を下った。
サリアの胸に抱かれたサファイア王子はかろうじて生きているものの、もはやその生が風前の灯火であることはサリアも感じていた。
「リガード、ごめんなさい。
私が逃げたばかりに、こんなに辛い目に……」
「サリア……俺の名はサファイア、それが本当の名前だ。
だから、今は俺をそう呼んで欲しい。
私はフランク王家の王子だった、その定めで、プロシア公国の"エメラルダ姫"と結婚するはずだった。
サリア……お前の本当の名は違うかもしれないが……私はお前と出会えて良かった。記憶が戻っても、私はお前と一緒にいたかった……」
("エメラルダ姫"……????!!!!)
サリアは、その響きに懐かしさを感じた。
そして、その懐かしさがトリガーとなって、走馬燈のようにサリアの記憶が蘇る。
(私は……"エメラルダ姫"……プロシア公国の姫。
リガードは、いえ、サファイア王子は……私の夫となる人……だったんだ)
「サファイア王子……
私は……エメラルダ、今思い出したわ。
それが、本当の私の名前……あなたと一緒になるはずだったプロシア公国のエメラルダ、それが本当の私なのよ!
でも、そんなことは、もういいの!
サリアとリガードでもいい……
生きて!
私を一人にしないで!
私!私!あなたのこと、愛してるの〜……」
しかし、エメラルダの必死の叫びは彼に届かなかった。
少年は伝記を途中で終えた
少女「悲しいね」
少年「疲れた〜。もう良いだろ?」
伝記の本を閉じると、少年は少女に言った。
少女「お話、これでお終いなの?」
少年「いや、まだ続きがあるけど」
少女「じゃ、まだ駄目!
と言いたいけど、もう日が暮れちゃったね。
読んでくれてありがとう」
ここは教会の中。
窓のステンドグラスは、夕日の光を受けて、綺麗な7色で輝いていた。
女神像の近くで、少年と少女が、誰もいない教会の椅子に腰掛けていた。
少年「お腹ぺこぺこだよ〜」
少女「じゃあ、夕飯食べに行こうよ。
お姉ちゃんも手伝ってるし、早くいかないと怒られちゃうよ」
少年「そうだな、行こう!」
少女「うん」
少年は少女の手を取って、教会の扉から外に出た。
この少年と少女は幼なじみと言っていい間柄である。
幼なじみというと、家が隣同士とかが一般的かもしれないが、この二人は違った。
彼らは同じ所に住んでいるが、それは、教会の横に隣接する孤児院だった。
少年と少女は共に孤児という同じ境遇にあった。
少年は両親を事故で失い、孤児院に引き取られた。
少女は両親が行方不明となり、孤児院に引き取られた。
少女には1才年上の姉がいて、一緒の部屋で暮らしていた。
少年は少女より1才年上であり、少女の姉と同じ年齢であった。
互いに知り合った少年・少女はいつのまにか幼なじみの間柄となっていた。
食事時でも勉強時でも、遊ぶ時でさえ、この3人はいつも一緒だった。
そしてこの3人は、良くこの教会を遊び場にしていたのである。
「「「いただきまーす」」」
夕食時、少年少女達の高い声が食卓に響き渡った。
そんな3人の関係も、ふとした出来事から終焉を迎えた。
数日後、少年の養父母を申し出た夫婦に連れられて、孤児院を後にした。
少年が8才の時の出来事だった。
少女と少女の姉の二人は少年と、別れ際に約束をする。
「大きくなったら必ず会おうね。
その時は私ももっと綺麗になっているんだから。
だから、絶対"でーと"しようね」
「今度会う時、お姉ちゃんか私のどっちをお嫁さんにするか決めるんだよ。
その時は、お姉ちゃんにだって負けないんだからね」
「必ず……会いに来るから」
みんなでいつも遊んでいた教会で、そこで交わされた幼い約束。
しかし、その約束は長い間、かなうことがなかった。
少年との別れから1月ほどして、少女達もまた、実の親が見つかり孤児院を後にした。
少女の親は離婚して母に引き取られたが、離婚し母子家庭のつらさに耐えられず二人を
孤児院の前に置き去りにして去っていったのが、二人が孤児院に来た理由だった。
数年後、母に会った父がその事を悔い、母と再婚し改めて二人をこうして迎えに来たのだ。
少女達がそれぞれ8才と7才の時の出来事だった。
そして約10年後……
少年17才、少女17才&16才になった年、偶然にも、少年が再び少女達の前に姿を現すこととなる。
そして、「KANONメモリアル」の幕開けとなる恋物語が展開された。
(つづく).
ギリシア語で『魂』の意味で、その彼女の恋愛から「不滅の魂」をも表す。
また、動物では、不死を示す彼女のイメージから「蝶」に例えられる。
神話では、愛の神エロス(キューピット)の妻となる女性として登場する。
エロスは美と嫉妬の神アフロディーテの息子であり、二つの矢「恋の矢」と「嫌悪の矢」を持ち人の心を変える力をもつ。
その「恋の矢」を射られると目の前の人に恋をする、一方の「嫌悪の矢」を射られると目の前の人を嫌い拒絶する。
ある王の許、3姉妹の末妹としてプシュケは生まれた。
3姉妹はとても美しかったが、とりもなおさずプシュケは絶世の美女と評判だった。
だが、なぜかプシュケには婚姻の申し出がなかった。
プシュケは美の女神アフロディーテの嫉妬を買い、その呪いを一身に浴びたからだ。
プシュケの美をさらに妬むアプロディーテは、彼女にさらなる試練を与えようとした。
息子エロスに命じ、その「恋の矢」の力をもってして、プシュケを身分不相応な相手と結婚させ恥をかかせようとしたのだ
しかし、プシュケの美に目のくらんだエロスは誤って「恋の矢」で自分自身を傷つけ、
自分の目の前にいたプシュケに恋してしまう。
しかし、神である自分自身と人間であるプシュケとの恋はすんなりとはいかない。
そもそも神の姿を人間が見るということは重大な禁忌とされている。
エロスはプシュケの両親に神託を与えた。
「娘をエロスの神殿に捧げよ。
そうすれば、神の寵愛によって娘プシュケは幸福になる。
しかし、娘は夫の姿を決してその目で見てはいけない」
そう、エロスは自らの正体を隠してプシュケーを自らの館に招き、妻としたのだ。
プシュケは、幸せに暮らしていた。
エロス神の寵愛を一身にうけたプシュケは、はじめは正体のわからない夫であったが、
その夫を次第に信じ、神託の言葉を守って、夫と幸せに暮らしていた。