天と月の将 九話

集う者たち



























「いらっしゃいませー、あ、美由希〜」


「こんにちはフィアッセ、恭ちゃんきてる?」


「うん、奥の席にいるよ」


「ありがと」



祐一はこの店の従業員であろう女性に軽く会釈すると、美由希に続いて席へと向かう。



昼休みに自宅と言っていたが、『母さんもお礼がしたいて言っていましたから』と美由紀に言われ

放課後待ち合わせして祐一が、連れられてやってきたのは、洋風の喫茶店だった。

表の緑色の大きな看板には【翠屋】と書かれている。



この町にはここ翠屋を始め、同じ喫茶店の百花屋や

甘味処の花より団子、なが沢などが立ち並ぶ激戦区なのである。



大型校である風芽丘学園が近いため、お客の大半は風芽丘の学生となり

その学生を狙って、この辺りの飲食店では日夜熾烈な客取り争いが行われているのであった。

中でも、翠屋のシュークリームは人気が高かい一品である…………




「初めまして、二年の相沢祐一です」



案内された席に座る男性に挨拶する。

そこに座っているのは高町恭也、この店を経営している高町家の長男である。




「高町恭也です、俺に話があるそうですが?」



初対面の相手なので恭也も礼儀正しく応対する。




「ええ、その事について後もう二人呼んでるんですけど……まだ着てないみたいですね」


「あと二人って?」



一通り店内を見回した後、祐一がそう言った時

自分たち以外にも、他に呼ばれている人がいると言われ、少し疑問に思った美由希が聞き返す。




「もう直に分かると思いますけど、一人は高町さ―――」


「あっ、敬語いいですよ。相沢さんの方が先輩みたいだし、恭ちゃんもそのほうがいいよね」



祐一がそこまで喋った時、美由希が唐突にそう言った。

美由希の言葉に恭也が首を縦に振る。




「……助かる、結構辛かったんでな」



礼儀正しい口調を一変して変える祐一。

それと同時に祐一の周りの空気もガラリと変化を見せる。

その雰囲気の違いに恭也は、少し驚きの表情を見せ、美由希は




(な、何か別人みたいだよ)



と内心で思っていた。




「一人はあんたらも知っている人物、それからもう一人―――」



祐一がそこまで言った時、丁度その人物達が連れ立って店内に入ってきた。

その少女達は店員に案内されながら祐一達のいる席までやって来る。

一人目の少女は神咲那美。




「えっ! 那美さん!?」


「美由希さん!?」



那美と美由希はお互いの顔を見合わせきょとんとしている。

両者どちらにとっても意外だったのだろう。

もっともこの三人は神社で顔を合わせているので考えられなかった訳では無いのだが……




「使わして悪いな、あんたが神咲と同じクラスだったんで……」


「ぜんぜん気にして無いよ。昨日、浩平が迷惑かけたし。

 ……でも、突然話しかけられた時はびっくりしたよ」



そんな二人を尻目に祐一は横に立つもう一人の少女、長森瑞佳に軽く挨拶をすます。




「まあ、あんたに声をかけたのは神咲を呼ぶためだけじゃないんだがな。

 こんな所で普通の人間には聞かれれば困る話をするんだ。そのために何をすればいいか……解るな」


「結界を張ればいいんだよね」


「音を通さないやつを頼む」



頷いた瑞佳は鞄の中から文字が書かれた長方形の紙を取り出し、呪文のような言葉を呟く。

すると、その紙はぼーっと光だし店内の一部の場所にだけ眼に見えない壁を作った。




「便利なもんだな、符術て言うのは……」


「『閉音符』って言ってね、これで周りから話を聞かれる事はまずないよ」



那美には瑞佳が何をしたのか分かったが、恭也と美由紀は不思議な顔をしている。

もっとも、二人にも周りの空気が変わった事は分かったようだ。




「神咲は家柄的にある程度知ってるとは思うが、最初から話すぞ」


そう言うと祐一は、一般人は決して知らない魔祖と人間の事を説明し始めた。




















同時刻、風芽丘学園第一保健室




そこは、最早彼女の定位置なのか……病人用のベットに我が物顔で腰掛て




「聖先生に言われて色々訊き回ったけど、やっぱり噂の出所を掴むのは無理ですよ〜」



開口一番に情けない声を出すみさお。




「ああ、俺の友達にも手伝ってもらったけど人の数が多すぎる」



同様に浩平も肩をすくめながら言う。



午前中、ことりによってもたらされた情報の真意を確かめるために

聖は噂を流した人物の特定を浩平達に頼んでいたのだ。



だが、ことりの言ったとおり噂はすでに校内の殆どの生徒が知っており

噂の出所、最初にそれを言った人物を特定するのは困難となっていた。



二人の言葉を聞いて聖は怪訝な表情を浮かべている。




「過剰になりすぎじゃないのかな? 私はガセっていう可能性の方が大きいと思うけど」


「俺もそう思うな。もし噂を流してるのが魔祖だったとして、何のメリットがある?

 自分の存在を俺達にばらしてるようなもんだぞ、如何考えても損しかないだろ?」


「それに、防犯カメラには何も映ってなかったんでしょ?」



とみさおが確認するように聖に問いかけた。




「ああ、警備員も何も問題はなかったと言っている……が」


「じゃあ、やっぱり―――」


「だが、彼はそうは思ってないらしい」


「彼って祐一さん?」


「あんな奴の言う事なんて訊かなくていいだろ」



祐一の名前が上がった途端、あきらかに不満顔になる浩平。

その様子を見て、聖は少し寂しそうな表情で言った。




「あまり悪く言わないでくれないか、彼にも色々とあるのだよ……」



聖の表情は変わらなかったが、その言葉には凄みがあった。

その言葉で浩平は何も言えなくなり




「手詰まりだな……」



どちらの内容についてかは分からないがそう一言だけ呟いた。

そんな中みさおはある事に気づく、その疑問は自然と口を吐いて出ていた。




「ところで、瑞佳お姉ちゃんは?」



何時も我が愚兄の世話を焼いてくれている人間がこの場に居ないのだ。

みさおに取っては当然な疑問であった。




「さあ? 用事があるとかでクラブも休んで帰ったみたいだけど」



素っ気無い兄の対応にみさおは深い溜め息をついた。

それを見ている聖も苦笑している。




「???」



そんな二人の態度に、浩平は訳が分からず疑問符を浮かべているだけだった。




















あれから三十分が経過している。

全てを話終えた時、その言葉を聞いた五人の面持ちは様々だった。






祐一は最初と変わらず無表情で。

瑞佳は気鬱ぎみな顔で。

恭也は何かを考えているのか無言で。

美由希は奇異の念を抱いたような面持ちで。

那美はすこし暗い表情で。






締めくくった祐一の言葉は『奴らを倒すために力をかしてくれ』という頼みだった。

場の雰囲気は重い…………

沈黙を崩したのは美由希だった。




「……別にいいよね恭ちゃん。ほら、実戦の訓練だと思えば―――」


「だめだ」


「きょ、恭ちゃん!」


「そんな話を簡単に信じる事は出来ない」



率直に否定する恭也の対応に美由紀が少し焦ったような声で名前を呼ぶ。

その言葉に祐一は即座に答えた。




「確かに、非現実的で胡散臭いことこの上ないくらい突飛した話だ……が…」



そこで祐一は、恭也を納得させるための切り札を出す。




「疑うならあんたらの妹に訊いてみるといい、確か……なのはだったか?

 あいつもこの事実を知っているし、実際に奴らの姿を目撃している。

 自分の妹が言っている事なら信じられるだろ?」


「!? 如何いうことだ!!」


「この前の日曜日、あいつが襲われたのは変質者じゃなくて神隠し、つまり魔祖だったてだけだ」



威圧を持った恭也の視線を流しながら、祐一は平然と言った。


昨日今日あった人間の考えが手に取る様に分かる訳はないが

祐一は持ち前の洞察力で美由希の性格を予想し、高い確率で美由希がこの話に乗る事を予見していた。



だが、何しろとんでもない話の内容なのだから、自分だけならば信じないかもしれない。

そのための神咲那美の存在。



那美自身も退魔師の家系であるため、助力を頼めば断れないだろうし

日はまだ浅いとはいえ、知り合いが関わっているならば、ほぼ確実に美由希の力も借りる事ができるだろうと祐一は考えていた。



ここでネックとなるのが恭也の存在である。

いくら美由希が了解したとしても、兄である恭也の静止がかかれば

美由希の意見は無視されると祐一は考えていた、それでは意味が無い。



それを納得させる為に、祐一はなのはの名前を出した。

さすがの恭也も自分の妹が関わっているならば動かざるを得ないと祐一は踏んだのだ。



以前になのはを助けた事が祐一にとっては嬉しい誤算だった。

その時に意図は無かったとはいえ、結果的に恭也達をこちら側へ引き込む事につながったのだから。




「別に、あんたらが否定しても、何の罪も無い人間が魔祖の脅威にさらされている事実は変わらない。

 けど、御神流の技は力無き人を守るためにあるんだろ?」



進撃な態度で祐一はそう言った。




「力を貸して貰えるか?」



祐一はここで決断を迫る。

それは、この場に居る全員に向けられている言葉だった。




「魔を祓うのが神咲の……、私の仕事ですから」


「元々、私も浩平もみさおちゃんもそのつもりだから心配しなくてもいいよ」




那美と瑞佳はあっさりと返事を返した。

残るは恭也の返答のみ、美由希の瞳は自分だけでも協力すると言っている。

こうなった美由希を決して止められないことを恭也は知っていた、そして、そんな恭也の答えも決まっていた。




















あとがき(楽屋裏)


作者:やっとパーティーが揃いました、九話です。

祐一:全然まとまってない気がするが?

美春:先輩が悪役っぽくみえますね。

祐一:てか、まだ居たのか美春?

美春:酷いですね、もうちょっとマシに扱って下さいよ。

恭也:祐一……

祐一:どうしたんですか恭也さん? まだゲスト紹介は……って…………何で小太刀構えて居られるのでしょう?(汗)

恭也:解らないのか?

祐一:い、いえ、まったく持って全然(滝汗)

恭也:なのはに手を出して只で済むと思ってないよな……

祐一:ち、違う! 激しく誤解です!! アレはあくまで話の中の事で―――――

恭也:問答無用!!!



美春:あの〜、助けに行かないんですか?

作者:舞といろいろ修行してるみたいだから怪我はしないでしょう。

美春:それもそうですね、高町先輩もそれを踏まえてやってるみたいですし。



恭也:逃げるな! 避けるな!! かわすな!!!

祐一:んな無茶な!?



美春:……でも何か雲行き怪しくないですか?

作者:じゃあ、バナナをやるから止めてきてって言ったら、行きます?

美春:む〜……少し考えさせてください。

作者:いや、多分その間に終わりそう。祐一、鋼糸に捕まったし。



祐一:きょ、恭也さん? 俺もう身動き取れないんですけど…………

恭也:……そうだな。

祐一:そんな無抵抗な相手に対して、何で抜刀術の体勢をとるんです? 

恭也:何、気にするな。なのはをたぶらかした男に天誅を下すだけだ。

祐一:はは、冗談ですよね?

恭也:お前にはそう見えるのか?

祐一:誰かヘルプミ〜〜〜〜〜!!!

恭也:――――― 御神流 ―――――

祐一:す、ストップ! やめて〜!!

恭也:――――― 奥義の六 ―――――

祐一:死ぬ! 絶対死ぬ!!

恭也:――――― 薙旋 ―――――

祐一:あ―――――っ…………



作者:うわ、物凄い回ってる、アレはたぶん神速も使ってるんだろうなぁー(遠い眼)。

美春:あ、あはははは…………それじゃあ今回はこの辺で、次話もよろしくお願いします。