天と月の将 四話

神社にて



























「……………」



みさおは沈黙を保ちながら、ジトッとした眼で祐一を睨んでいる。

だが、怒りが込められたその視線の先の人物は、相変わらず歯牙にもかけていない。



その二人の様子を、傍で見ながら苦笑している少女。

彼女の名前は神咲かんざき那美なみ、この八束神社の管理代理兼、巫女さんのバイトをしている風芽丘の二年生である。



みさおが眼を覚ましてからの三人はずっとこんな調子であった。



場の空気が心なしか澱んでいるのは気のせいではなかろう。

もっとも、それを作り出しているのは他ならぬ話の焦点、その人であり、もう一名は全く気にしていない様子。

そんな空気に一番堪えているのは、第三者の那美である事は間違いない…………



付け加えとしては、みさおが気絶している間に祐一が事情を説明してあるので

彼女の表情の理由は、それを踏まえてのものであるという事ぐらいであろう。

その間に、祐一とはお互いの自己紹介なども済ませており

それがひと段落ついた頃に、ちょうどみさおが眼をさまし、今に至っているのである。




「いい加減、謝ったらどうです?」


「何故、俺が謝らなきゃならないのか理解できないな。

 お前が勝手にやった事だろ? ……だいたい、腹がすいて貧血を起こした奴を見たのは初めてだ」


「仕方ないじゃないですか! 朝はバタバタしてて食べれなかったんだし

 お昼は祐一さん探してて食べれなかったし、やっと食にありつけると思ったら祐一さん見かけるし…………」



みさおの言葉にそう答えた祐一の口調は、無感情に呆れが混じった感じであったのだが

自分に非が無い事を改めて認識させた上で相手を非難するあたり、どこか説得力を感じさせる物があった。

そんな憮然とした態度をとる祐一に、みさおが一応の言い開きを行う。




「……じゃあ、あなたはどう思います!」


「えっ!? ……えーと、その…私は……」


「酷いと思うよね!? 思うでしょ!!」



などと、みさおが初対面のはずの那美に対し、噛み付きそうなぐらい激しく同意を求め

その勢いに負けた那美はコクコクと頷くことしかできなかった。

……もし、ここで首を横に振ろうものなら本当に噛み付きかねないのだが…………




「これで二対一、多数決によって祐一さんは有罪。

 という訳で、私に償いをしなくては成らなくなりましたね」



などと言いながら、みさおが祐一に詰め寄ってくる。




「お前の戯言に付き合う気はないと言っただろ。

 それに俺は、いきなり見ず知らずの男をかどわかすようなアバズレ女に謝罪する気は毛頭無い」


「なっ―――!? 今のは酷い、あんまりですよ!」



みさおは少し涙目になりながら訴えるが、祐一はそう言い切ると、立ち上がり社の中から出て行こうとする。

その行動とほぼ同時に…………




「くおんちゃーん」



社の外で声が聞こえた。

外に出た祐一が見ると、そこにはつい昨日あったばかりの女の子、高町なのはと

祐一達と余り年の変わらない、どこか大人しそうな雰囲気の眼鏡をかけた少女の姿があった。




「あっ……」



突然、社の中から出てきた祐一の姿に驚いたのか、なのはが小さく声を上げる。

その様子を見た祐一は、なのはの方を向き、自分の方から軽く声をかけた。




「よお」


「あっ、はい」


「あれ? なのは、知り合い?」



なんとも言いがたい挨拶を交わした直後。

眼鏡の少女が、見慣れない少年の事をなのはに尋ねた。




「うん、祐一さんて言って、きのう私が助けてもらった……」


「あ、そうだったんだ。

 えっと、昨日は家の妹を助けていただいたみたいで、ありがとう御座いました」


「…礼を言われるほどの事はしてませんよ」



なのはの答えを訊くと、少女は祐一の眼を見ながら丁寧にお礼を言ってくる。

対して祐一は、礼儀正しい少女の態度と、初対面という事もあってか、やわらかくそれに返答した。



そんな事をしている間に、社の中から祐一の後を追ってみさお、那美も外に出てくる。




「あれ? 高町さん家の……」


「こんにちは」


「また久遠に合いに来たのかな?」



那美の質問になのはは『うん』と元気よく頷いた。

この二人はつい先日、なのはと、なのはの兄である人物が

狐を見たいと言うなのはのわがままを聞いて、久遠を探しに来た時に知り合いになったばかりである。




「だとしたら間が悪かったな。

 狐ならついさっきこの女が大声で叫び回ったせいで、何処かへ行っちまったよ」


「ちょっと! それじゃー私が悪いみたいな言い方じゃないですか」



祐一の言葉に横から文句を言うみさお。

だが祐一は、不満げな様子を見せるみさおに構う事なく、石段の方向へと歩んでいく。




「ちょ、ちょっとー、何処いくんですか!?」



その場から去ろうとする祐一の前にみさおが立ち塞がり、ストップをかける。

口だけで言ってきたのならば、相手をせずにその場から去るつもりだったが

文字通り体を張って行く手を阻まれたので、祐一は仕方なくといった感じで口を割った。




「俺はそろそろ帰りたいんだよ……用があるなら回りくどいことをせずに用件を言ったらどうだ」



すこし、キツイ口調で睨みつけながら言い放つ祐一、が

その程度ではみさおは怯まず、真っ直ぐに祐一の目を見ながら口を開く。




「…私達に協力してほしいんです、祐一さんに……

 今この町で、この世界で脅威となっている魔―――…………」



そこまで言ってから、みさおは不自然に言葉を止めた。


魔祖関係の事件は一般には非公式に処理され、情報操作されている為、一般人はその存在自体知らない。

だから、例えこの場でそれを言ったとしても何の話をしているのかは、聞かれても解らないだろう。

それでも余計な者を巻き込まないため、迂闊な発言はできない。

みさおの行動はそう思ってのものだった。



言葉が途切れたみさおの話。

ただ、みさおが祐一に向けている眼差し、その強さを変える事まではしていない。

そして、その視線は口に出せなかった言葉の続きを何よりも如実に物語っている。



みさおの瞳に強い意志を感じた祐一は、観念したかのように口を開く。

眼で語る話を補えるだけの知慮を持つ祐一は、言わんとしているその内容を十分に理解できていた。




「お前の用件はだいたい分かった。だが、俺はお前達とはつるむ気はない。

 俺には俺のやり方があるからな…………その代わり、お前らのやり方にも口は挿まない。それだけだ」



そう言った後、祐一はみさおの横を抜けて石段を降りて行った。




















あとがき(楽屋裏)

作者:すこし短くなってしまいました四話です。

祐一:お前の頑張りが足らないんだよ。

作者:それに、いまいち展開が…………(汗)時間的に見ても殆ど進んでないし……

祐一:あとあと挽回できるんだろーな?

作者:善処します。では、前置きはこのぐらいにしといて、ゲストいってみましょう!!
   永遠の若さ(?)を持つと噂されている最強の主婦、水瀬秋子さーん!!

秋子:あらあら、そんな事ありませんよ。

作者:いえいえ、とても一児の母とは思えませんよ。

祐一:そうですよ、秋子さんがその気になれば、そこら辺の男の一人や二人や三十人ぐらいイチコロですって。
   (最も、別の意味でもイチコロなんだが……)

秋子:もう、お二人ともお上手なんですから。

祐一:で、なんで秋子さんがゲストなんだ?

作者:次回出番が多そうだからです。

秋子:そうなんですか?

作者:ええ、秋子さんと祐一のトークがメインの話になりそうですから。

祐一:少しはマシな話になってるんだろうな。

秋子:駄目ですよ祐一さん、あまりそういった事を口に出しては。

作者:秋子さん!(感涙)

秋子:例え思っていたとしても、それは自分の心の中に留めておかないと。

作者:秋子さん……(堕涙)

秋子:冗談です。

作者:マジっぽくなかったか?(ヒソヒソ)

祐一:俺もそう思う。(ヒソヒソ)

秋子:ところで、お二人とも甘くないジャムなんていかがですか?

作者&祐一:「「け、結構です」」

秋子:遠慮しないでください、私のほんの気持ちです、はい♪

オレンジ色の物体投射

祐一:援護防御、強制発動!!

作者:なっ!? むぐっ………………

秋子:あらあら、逃げないでちゃんと食べてくださいよ祐一さん。

祐一:(あ、あれはもう人間の食べれる物じゃないって……逝っちゃってるじゃん)

秋子:はい♪ あ〜ん♪

祐一:(ああ、お口が勝手に開く)←何気に嬉しげ。

ぱく…… ←食べた音。

………… ←声にならない苦痛。

ぱたり… ←息絶えた。

秋子:あらあら、それじゃあこのへんでお別れですね。次回ゲストは北川さんと名雪だそうです。