3月30日―――PM10:12  海鳴市   聖祥女子校高等部4階   図書室 

聖祥女子の図書室では風音と影虎の戦いは続いていた。


キイン!!キイン!!シュッ!!


剣を交えれば交えるほど戦いは激しくなっていく。だが、互角であるせいかどちらも決定打に至ってはいない。

「ふっ……さっきとは大違いだな。まだ問題もあるが……。」

影虎はそう言って笑みを浮かべる。それに対して風音は……

「どうして貴方は……こんなにも強いのに……『夜の一族』に協力しているのですか?その強さなら……守るべき人達を守ることができるのに……どうして?」

悲し気な顔で言う。それに対して影虎は……

「別に……守ってるさ」

表情を変えずに答える。

「我等の一族は『夜の一族』の一角である氷村家に仕えることによって絶滅を免れることができた。だから、その恩に報いる為にこうして戦っている。それだけだ」

影虎はそう言って再び構える。そして風音も……

「……そうですか。でも、少し安心しました。貴方の戦う理由がそういう理由でしたから」

構えた。そして……

「それでは、敬意を表してお見せします。神楽一族にしか継承されていない御神の技を……。」

そう言うとそのまま目を閉じる。

「どういう意味かは分からないが……本気のようだな。ならば……。」

影虎はそう言って右手を上げる。そして……

                                けんせいや
「我を囲う刃よ。星となりて彼の者に安らかな眠りを。剣星夜!!

その瞬間、『刃の結界』の刃が一斉に風音を襲う。だが……

シュン!!カキン!!シュン!!シュン!!カキン!!

ある刃は避けられ、ある刃は当たる直前で防がれたりと命中には至らない。

「……なっ」

影虎はその光景に唖然となる。そして……


ザシュッ!!


「……くっ」

気が付くといつの間にか自分の前にいた風音に右腕を斬られていた。と言ってもギリギリの所で回避しようとしたのでダメージは大したことではないが。だが、風音の攻撃はここで終わらない。

シュン!!シュン!!シュン!!シュン!!シュン!!

風音の攻撃が影虎を襲う。勿論影虎も回避したり刃で防いだりしているので攻撃自体は当たっていないがそれでも焦りは消えない。隙を見て反撃しても最小限の動きで回避されるからだ。

「……くっ。どういうことだ。まるでこちらの動きを読まれているように」

影虎は冷や汗をかきながら呟く。だが、その影虎の言葉に風音は……

「少し違います。感じてるんですよ。貴方の動きを……流れを」

攻撃しながら答える。

                ながれ
小太刀二刀御神流  流……。小太刀二刀御神流の中で神楽一族だけが使える技の一つです」

だが、ここで風音の攻撃は終わらない。


ドガッ!!


「ぐうっ!!」

風音の蹴りが影虎の腹部を直撃する。そして……


                                こせつ
「終わりです。小太刀二刀御神流奥義之壱  虎切!!


ザシュッ!!ドドドッ!!


「がはぁっ!!」

風音の『虎切』によって影虎は数メートル吹き飛び倒れた。


Tear...

Story.43  因縁の二人
 

PM10:13―――海鳴市   天神音楽大学    屋上

そして、天神音楽大学の屋上では……

キイン!!キイン!!キイン!!キイン!!キイン!!

ことりと名雪の戦いが続いていたが五分五分の状況と言ってよい。

「……何チンタラやってるんですか。能力的には差は開いてるんだから一気にいけばいいものを……。」

桐花はなかなか決着をつけられないことりをイライラしながら見る。

「桐花ちゃん、そう言わない。ことりちゃんが彼女と戦ったら絶対こうなるって。だって、あの娘にはことりちゃんにないものがあるからね。しかも、それは戦闘には必要な才能」

「?」

「あの娘には暗い感情があるんだ。しかもとても攻撃的で陰湿的なもの。だから、あんなにも手間取っている」

「それは確かに彼女にはありませんね。相沢君にもそれは当て嵌まりますが」

「うんそうだね。でも、大丈夫だよ」

空はそう言うと再び二人の戦いに注目する。そして、二人は……

「水瀬名雪さん……又一つお尋ねしますけど祐一君と会ってどうするつもりなのですか?」

「決まってるじゃん。殺すんだぉ」

語り合いながら剣を交える。

「どうしてですか?」

「どうして?そんなの決まってるじゃん。愛してるからだぉ」

「どうして殺そうとするのですか?愛していれば守りたいと思うのが当然なのに」

ことりのその言葉を聞いて名雪は数歩下がる。そして……

「くくく……あ〜はははは!!」

笑い始めた。

「貴女しょうがないガキだね。貴女は人間の本質ってものを何も分かっていない。好きだからこそ殺して自分だけの物にするんだぉ。貴女や桐花ちゃんみたいな娘もいるからね。って、分かる必要もないか。貴女はたった今この場で死ぬのだから」

そう言って細雪を構える。それに対してことりは……

「……ようやく踏ん切りがつきましたよ。今の貴女は彼をいや……自分以外の全てを傷つける存在にしか過ぎない。それに祐一君が今の貴方を見たら絶対に悲しむ。だから……此処で貴女を止める」

そう言って何かを決意したかのように『風雅』を構える。

                                                  ゆきざくら
「見せてあげますよ。姫神の剣を……。姫神流  攻之章  第弐拾壱之曲  雪桜!!


ブワァァァッ!!


その瞬間……ことりの手から『風雅』が消え、その代わりに桜がまるで雪のように降り始める。

「な……なんなんだぉこれは?」

「これは……?」

名雪と桐花はことりの『雪桜』に思わず驚愕する。そして……


ブワァァァッ!!


桜吹雪が名雪を取り囲み……


ズバズバズバズバッ!!


「だおおおおおおっ!!」

無慈悲に切り刻む。だが、ことりの攻撃はまだ終わらない。


シュォォォッ!!


訓練された猟犬の如く桜吹雪は名雪を再び切り刻もうとする。

「ちいっ!!」

名雪はそれをギリギリのところで回避する。

                                       せつろうそうが
「避けられないのなら、相殺すればいいだけだぉ。噛み砕け  雪狼双牙!!

真琴を殺した技  『雪狼牙』の上位に当たる技でことりの『雪桜』の相殺を試みる。そして……


ズガガガガッ!!


二つの技がぶつかり……それぞれの技は消滅する。

「ふうっ……やったぉ。これで私の勝ちだぉ」

名雪はそう言って自分の勝利を確信する。だが、そんな彼女にことりは……

「クスッ」

クスッと笑みを浮かべる。

「なっ……何が可笑しいんだぉ。貴女の技は相殺したと言うのにその余裕は」

名雪は苛立ちを隠さずにぶつける。

「可笑しいですよ。もう、私の『雪桜』を破ったつもりでいますから。舐めないで下さいよ」

ことりがそう言ったその瞬間……

ブワッ!!

名雪の上空から桜吹雪が吹き荒れる。

「そ……そんな。確かに相殺した筈なのに」

「ええ、確かに貴女は相殺しましたよ。全体の10%程ですが」

「た……たったの10%。そ……そんな」

名雪は顔は恐怖で歪む。そして……

「終わりです。さようなら」


ドンッ!!


「だ……だぉ」

ことりがそう言ったその瞬間、上空から桜吹雪が急速に降下して名雪は押しつぶされた。そして……

「貴女の負けです。水瀬名雪さん」

ことりはそう言って『雪桜』を解除した。


ことりと名雪の戦闘終了後、横から二人の戦いを見ていた二人は……

「やっぱことりちゃんは祐一君のことが絡むと怖いね……って今回は彼女の自業自得だから同情はしないけどね」

「確かにこれで彼女の勝ちですが……ここで名雪を殺さなかったのはまだまだ甘いですね」

ことりの『雪桜』で虫の息同然の名雪を見ながら空と桐花はそれぞれ感想を言う。そして……

「でも……好都合です。これで名雪を殺すチャンスができましたから」

桐花はそう言うと倒れている名雪の頭部にシグ・ザウエルを突きつける。

「ちょ……雨流さん。一体何を……。」

ことりは慌てて桐花に質問をする。だが……

「決まってるじゃないですか。彼女を殺すんですよ。今殺しておかないと厄介ですから」

桐花の答えは冷酷なものだった。

「どうして殺す必要があるのですか?もう戦いは終わったんです。これ以上やったって何の意味も……。」

「貴女は彼女達のことを何も分かっていない。彼女達はもう生前の彼女達じゃないんです。己の欲望の為なら誰でも殺し誰でも利用し誰でも平気で裏切る。そんな本能で動く最低の生ける屍でしかないんです。だから、今ここで殺しておかないと多くの人が不幸になる。どうしてそれが分からないのですか?」

ことりと桐花が言い合いをしていたその時だった。

「……だぉ。貴女達もう許さないんだぉ……。」

名雪がゆっくりと起き上がる。だが、ことりの『雪桜』のダメージが残っているのか満身創痍だと嫌でも分かる。そんな彼女にことりは……

「……うそ」

唖然となるしかなかった。

「だから言ったじゃないですか。今殺しておかないと厄介だって」

桐花はことりを睨みながら言う。

「……もうキレたぉ。こうなったらこれを使って三人ともぶっ殺してやるんだぉ」

名雪はそう言ってポケットからアンプルを取り出す。しかし……


バンッ!!パリン!!


桐花の銃撃によってアンプルは割れてしまう。

「バイオブースターは使わせませんよ」

桐花はそう言って名雪に近付き頭に銃を突きつける。

「……くっ」

名雪は逃げようとするが恐怖で足が動かないせいか逃げられない。

「それではさようなら。名雪……この際だから言っておきますけど貴女本当に最低の部長でしたよ」

桐花がそう言ってシグ・ザウエルの引き金を引こうとしたその時だった。


バキッ!!


「……だ……だぉ!!」

突然名雪が吹き飛ぶ。

「フン。水瀬秋子の娘も期待外れだな」

そして、名雪の後ろにはことり達と同じ年齢と思われる栗色の髪をした少年が立っていた。

「あ……貴方誰だぉ?戦いの邪魔をして」

起き上がった名雪は自分を殴った少年を殺意を込めて睨みつける。

「おい、他人に名前を聞く時は自分からと教わらなかったのか?」

少年はそう言って名乗ることを拒否する。そして、少年のそんな態度にカチンとくる。

「たかが人間のくせに『夜の一族』のこの私に歯向かうとはいい度胸だね。許さないんだぉ!!」

名雪はそう言って集中し殺意を込めて睨みつける。

「この魔眼で氷漬けにしてやるぉ!!」

そう。名雪は自らの魔眼  氷眼を発動する。しかし……

「……なっ」

氷漬けになったのは少年ではなく名雪だった。

「馬鹿が。この俺には魔眼は通じないんだよ」

あまりの信じられない光景にことりは……

「貴方は……一体何者ですか?」

恐怖と言う感情を必死で抑えながら質問する。

「俺かい。俺はこの馬鹿女の監視役だ」

少年はそう言ってヘラヘラと笑みを浮かべる。そして、そんな少年の態度に空は……

「やっぱり君か。何か人の気配がしたからこの子との戦いでは本気でいかなかったけど……まさか君とはね。折原浩平君……いや魔眼殺しの堕天使と呼んだ方がよかったっけ?」

「ヒュウ、やっぱ気付いてたか」

少年の正体を暴露するが、当の少年  折原浩平はそれに驚きもせずに口笛を吹く。だが、彼の名前を聞いてことりと桐花は……

(折原君って……まさか祐一君の親友の)

(まさか彼は七瀬さんが言ってた……。)

何も言えなくなる。だが、話は呆然としている二人を無視して進んでいく。

「で、君今日は何しに来たの?戦うに来たって言うんだったら今度は本気で行くけど」

「いや、今日は戦いじゃない。命令を無視して戦った挙句に負けたこの馬鹿女を連れ戻しに来ただけだ。だから、今日は見逃してやるよ」

浩平はそう言うと名雪を背負って帰ろうとする。

「そう。それだったら今夜はこっちも急いでるから見逃すよ。まあ、次会った時はそうは行かないけどね」

空はそう言ってクスッと笑みを浮かべる。そんな彼女の態度に浩平は……

「フン。それはこっちの台詞だ。決着はいずれつける。首洗って待ってろ!!白河の一族が!!」

シュン!!

浩平はそう言うと氷漬けになった名雪と共に消えた。そして……

「ねえ、二人とも。もう此処には用はないからここから出るよ。この場所もいつ空間崩壊が起こってもおかしくないし」

空はそう言って二人にここを出るよう指示を出す。だが、二人は浩平の名前がショックだったのかまだ考察状態だった。

「ったく、時間がないって言うのに。これは後が怖いからあまり言いたくなかったけど言うしかないか。お〜い、二人とも早く動かないと私が祐一君を食べちゃうよ〜。」

空のその言葉に二人はやっと覚醒する。そう。電源の入ったロボットの如く。

「ちょっとさやかさん。それだけは止めて下さい。私だってまだキスまでしかいってないんですから」

「私もです。と言うよりも下手にショック与えて又記憶が滅茶苦茶になったらどうするんですか」


ことりと桐花は顔を真っ赤にしながらそう言って空に詰め寄る。

「やっと覚醒したか。でも、二人ともまだキスまでとはね。何度も一線越えるチャンスはあったのに……お姉さんは悲しいよ。今の祐一君なら力づくで何とかなるんだからさぁ……もうてっきり既成事実までいってると思ってたのに」

空はそう言って深い溜め息をつく。そして、そんな彼女の言葉に二人は……

「そ……そんな卑怯な真似はしません。と言うかそんなことして祐一君を手に入れても何の意味もないです」

「私も……そんなくだらないことをやったら名雪をどうこう言う資格がなくなりますからね」

それぞれ突っ込む。そして、そんな二人に空は……

「やっとエンジンが入ったか。まあ、今の話は此処までにしておいて二人とも行くよ。でも、今度又こんなことがあったら本当に祐一君のこと食べちゃうから」

そう言って屋上をあとにする。

「あっ、さやかさん。それはあんまり……。」

「そうですよ。第一今の貴女は姫神の資格を失ってるからもう……。」

ことりと桐花もそう言いながら空の後に続いた。



そして、屋上で姿と気配を消してこの場で起きたことの一部始終を見ていたソフィアは……

「……あいつ等アホか」

と言いながら軽く溜め息をつく。そして、ことり達が出て行ったのを確認して姿と気配を消すのを止める。

「この緊急事態にコントやってる場合じゃないだろ。まあ、一番笑えたのは水瀬名雪だったがな。とんだ噛ませ犬だったし」

そう言って自分の側に置かれているトランクを見つめる。

「でも、このトランク渡しそこなったな。一応……カザネと言うかユーイチへの借金なのにな」

そう。彼女は風音と言うよりも祐一に金を借りていた。と言っても彼女自身が月宮あゆだった頃の借金だが。

ちなみに借金とは奢り系のSSで定番のあゆが祐一に奢ってもらった鯛焼きの代金のことだ。だが、トランクの中身は札束でも金塊でもない。

「でも、中身はワインだから早い段階で渡しておかないとな」

                                                     グランジ・ヘルミタージュ
そう。トランクに入っているのはワインだった。しかも只のワインではなく1951年物の“Grange Hermitage”2本。オークションで一本500万円のワインだ。つまりトランクには1,000万円が入っていることに等しい。

一応説明しておくが、祐一が華音市で名雪達の奢りで消費したお金は300万円以上である。ならば、700万は返す必要はないのだが、利息のつもりで追加しておいた。

まあ今の祐一……風音はそんなことは覚えていないから受け取ってくれる確率はかなり低いと思うが、その時は彼の仲間の誰かに渡せば良いと思った。ソフィア自身借りを作りたくないのだ。

「まあいいや。彼女達の今後の動きを観察して渡すとしよう。直接カザネに渡す訳にもいかんしな。それに……『夜の一族』とあの国家の狗共『クライマーズ』の動きも気になるからそろそろ私も動いた方がいいな」

ソフィアはそう言ってその場を去った。勿論2本のワインが入ったトランクを忘れずにだが。


ことり達が天神音楽大学を出たその頃風音は……

「……はぁはぁはぁ。やっと終わりましたか」

荒い息をしながら呟く。だが、その時だった。

「ほぉ……影虎を倒したか。流石は我が一族に刃を向けた御神だけのことはあるな」

いきなり図書室のドアが開いて一人の青年が現れる。

「……貴方は?」

風音はそう言って戦慄する。青年から毒々しいまでのオーラを感じたからだ。

「俺か。俺の名前は氷村遊。『夜の一族』の七頭目の一人でこの街を消滅させようとしている者だ」

「!!」

風音はその名前を聞いて驚き何も言えなくなる。今回の戦いの首謀者がもうここで登場するとは思っていなかったからだ。だが、その時だった。

「……まだ終わっていない」

風音の『虎切』によって倒された影虎が立ち上がったのだ。しかし……

「影虎お前はよくやった。お前は一度戻れ」

遊は影虎に戻るよう命令を出す。

「しかし、ジュニア……まだ私は」

影虎は遊に懇願する。だが……

「命令だ。まだこの戦いは終わっていない。だから、そんな状態で戦うことは俺は許さん」

遊のその一言が影虎の口を封じる。

「はっ、分かりました。それでは……。」

ヒュン!!

影虎はそう言うと消えた。そして、遊と影虎の今までのやり取りを見ていた風音は……

「随分と優しいですね。まあ、その方が僕としても助かりますからいいですけど」

意外そうに言う。

「こちらにも色々と事情があるんだよ。奴は俺と言うよりも俺の父上の部下だからな。死なせたりしたら俺が責任取らされるのさ。それに……。」

遊は其処まで言うと風音の元まで歩く。そして、風音の近くまで来ると……

「お前とは直接話してみたかったしな。何せお前はこの俺に始めて敗北を味あわせた人間だからな」

そう言ってニヤリと笑みを浮かべる。だが、笑み自体に殺意がこもっていることは嫌でも理解できた。

「えっ、それはどういう……。」

風音は遊に質問するが……

「知りたいか?でも、教えはしない」

遊はそう冷たく言い放つ。そして……

シュッ!!

風音に対して一撃を放つ。だが、それはギリギリの所で避けられてしまう。

「下らん。まだ、この程度か。だったら、今此処でやり合う必要はないな」

遊はそう言うと後ろに跳んで風音から離れる。だが、その時だった。

シュッ!!

風音の蹴りが遊を襲う。だが……

「甘い」

簡単に避けられてしまう。だが、それでも風音の攻撃は止まらない。

「申し訳ありませんが貴方はここで止めます。今回の戦いの首謀者である貴方を倒せば空間崩壊は止められる筈ですから」

風音はそう言って遊に攻撃を続ける。しかし……

バチィッ!!

遊の周囲に結界が張られている所為かその攻撃は彼に届かない。

「おい、そう焦るなよ。俺との戦いはまだ先だ」

遊はそう言うと風音を吹き飛ばす。

「ちぃっ!!」

風音は体勢を整えて廊下への激突を避ける。

                             チカラ
「今のお前では俺と戦うにはまだ早い。自分の能力の使い方というものを分かっていないんだからな」

遊のその言葉に風音は愕然となる。

「……能力の使い方を分かっていない?」

遊はショックを受けている風音を気にかけずに喋り続ける。

「今回は挨拶に来ただけだ。俺との戦いまでに完全状態にしておけ。そうでないとつまらんからな。そして、これだけは覚えておけ。次に勝つのはこの俺だ!!」

ヒュン!!

遊はそう言うとその場から消えた。そして……

「……確かに今の僕では氷村さんには勝てない。でも、過去に一体何があったんだろう?氷村さんから殺意と憎悪を感じたけど……。」

図書室に一人残された風音は考える。だが、答えは出ない。

「とりあえず今は望さんと合流しないと」

そう言うと図書室をあとにした。


PM10:20―――海鳴市   風芽丘中央病院3階エレベーター前

その頃眞子は……

「……くっ。素早い」

このエリアの敵である輪子こと葉坂輪子と戦っていたが苦戦していた。

「どうしたの?エーディリッヒの狩人さん。そんな攻撃じゃ私は倒せないわよ!!」

「う……五月蝿い」

眞子はそう言い返しながら攻撃を続ける。だが、攻撃の全てが一撃必殺狙いになっており全く当たらない。

それもその筈。彼女は焦っていた。この街が崩壊するまであと2時間もないという現実に。

眞子自身ことりとは違いこの街があまり好きではなかった。「夜の一族」がいる街だから。最初は自分の想い人である相沢祐一を見つけてさっさとこの街から出て行くつもりだった。

しかし、翠屋で桃子やなのはや美由希、レンや晃と出会って変わった。彼女達は自分達のことをあまり追及せずに受け入れてくれたから。そして、いつの間にかこの街を……そしてこの街に住む高町家の人達を守りたいと思うようになった。

だが、それが今回の戦いでは仇となっていた。急がねばならないと思いそれが「焦り」と言う感情を生み出しているから。

その時だった。

「遅いのよ!!」


ザシュッ!!


「うっ!!」

輪子の円月輪が眞子を切り裂く。そして、避けるのが一瞬遅れた所為か眞子は膝をついた。

「この程度か。ホント、舐めてんの?」

輪子は眞子を見下すように言う。そして……

「まあ、こうも弱いんじゃ好きな男一人も守れなくても当然か。と言うか、白河ことりって娘と違って自分の想いに気付いてもらえていない段階でもう負け犬かもしれないけどね」

更にトドメを刺すような発言を機関銃のように繰り出す。

「……。」

しかし、当の眞子はショックなのか何も言い返すことができず呆然としていた。

「まあ、『姫神』でない時点でもう終わってるか。と言う事でじゃあバイバイ」

輪子はそう言うと眞子に円月輪を振り下ろす。だが、その時だった。


バキッ!!


「がっ!!」

眞子の一撃によって腹部を殴られた輪子は悶絶しながら膝をつく。

「さっきのお返しよ。よくも言いたい放題言ってくれたわね!!」

眞子はそう言うと立ち上がる。

「そんなこと知ってたわよ。『姫神』でない時点で私がことりに勝てないってことは」

眞子は静かに呟く。そして……

「でも……だったら私はそんなルール変える。『姫神』でないとあいつと付き合えないと言うのならそんなルールをぶち壊す。だって、私も神楽……ううん相沢のことが好きだから。だから、負けたくないし諦めたくもない」

自分の気持ちを素直に吐露する。

「フン……口では何だって言えるわよ。でも、世の中にはどうにかしたくてもどうにもならないことだってあるのよ」

「確かにそうかもしれない」

眞子は開き直ったかのように言う。

「でも、そう言って最初から諦めてたら何も得られない。だから、私は諦めずに進む」

眞子はそう言って構える。そして……
  
                                                                 タンホイザー
「悪いけど時間もあまり無いしそろそろ決めさせてもらうわ。でもその代わりだけど見せてあげるわよ。歌劇を!!」

こうして二人の戦いは第2ラウンドを迎える。

to be continued . . . . . . .


あとがき

菩提樹「どうも菩提樹です。勤め先の転勤や他のサイトに投稿していた中編SSを書いてたりしていたので又、こうも期間をあけてしまいました。本当にすみません。さて、今回のゲストは……。」
浩平「美男子星から来た折原浩平だ!!」
菩提樹「……ハッスルしてますね。まあ其処が貴方らしくて良いと思いますが」
浩平「そうだろそうだろ!!でも、今回の俺カッコ良かったか?」
菩提樹「ある意味は。って名雪を止めただけでしたけどね」
浩平「それは言わないのがお約束だろ。」
菩提樹「まあそうですが。でも、彼も結構謎の多いキャラになってしまいました。一回死んだのにどうして生きているのかとか、七瀬との関係はどうなるとか、さやかもとい空とはどういう関係なのかですが」
浩平「まあそうだな。でも、俺の本当の力はこんなもんではないがな」
菩提樹「そうでしたね」
浩平「まあそれで次回についてだが俺ちゃんと登場するのか?」
菩提樹「登場させます。ついでに他の『姫神』も登場させてみようかとも思います」
浩平「それは楽しみだな。でも、他にも書かなければいけないことは沢山あるということは忘れるなよ」
菩提樹「はい、分かってます」
浩平「それでは、俺は別の女の子を見に行こう」(こう言ってからすぐダッシュでその場から離れる)
菩提樹「……前言撤回」