3月30日―――PM10:00   海鳴市   聖祥女子校高等部4階   図書室

風音と影虎との戦いが行われてから8分が経過する。しかし……

キイン!!キイン!!キイン!!キイン!!

風音が時雨と風時で何度攻撃を仕掛けてもその度に攻撃は受け流される。

「どうした?君の攻撃はこんなものか?」

影虎は期待外れと言わんばかりに溜め息をつきながら言う。

「いや、まだです!!」

風音はそう言って攻撃を再開するが……

キイン!!

その攻撃も受け流されてしまった。そして……


ドゴッ!!


「うわぁぁっ!!」

影虎の蹴りによって風音は思い切り吹き飛ばされる。そして……


ガシャァァン!!


本棚に激突することによってやっと止まる。

「……くっ」

風音は頭から血を流しながらも立ち上がる。そんな彼に影虎は……

「ほほう。やはりこの程度の攻撃ではまだ立ち上がるか。まあ、そうでなければ私が来た意味がないのだがな」

そう言って刀を鞘へとしまう。

「どういうつもりですか?僕はまだ大丈夫なのに……。」

風音は戦いの途中で自分の武器をしまう影虎の行動の意味が分からず尋ねてしまう。

「安心しろ。まだ戦いを終えるつもりはない。ただ……少し君に荒療治をするだけだ」

影虎がそう言ったその瞬間彼の刀が消える。そして……


ドドドドドドドドドドドド!!


「えっ……!?」

二人の周囲に無数の刀が出現し包囲する。

「……『刃の結界』。10年前の風音市の戦いで不破士郎が使った技を私なりにアレンジしたものだ。まあ、オリジナルと比べると威力も命中率も劣るものだが……今の君ならこの技でも十分倒すことが可能だ。では行くぞ!!」

こうして風音と影虎の戦いの第二ラウンドが始まった。


Tear...

Story.42  共に同じ道を歩む者
 

風音は周囲を確認して『刃の結界』の隙を探す。だが……

「駄目だ。何処に動いても脱出は不可能だ」

そう。何度頭の中でシミュレートしても同じ答えが出てくるだけだった。

『何処に動いても脱出する前に攻撃を受けて最後には負ける』

それが答えだった。

「おい、ボサッとしている場合か」

影虎はそう言って無数の刃のうちの一本を右手に持って風音に攻撃を仕掛ける。

                     しんそく
「くっ!!御神流奥義之歩法  神速!!

風音は『神速』を使用してギリギリの所で影虎の一撃を避ける。だが、そこで終わりではない。

「それで避けたつもりか!!」

ヒュン!!

影虎はそう言って手に持っていた刃を力いっぱいに投擲する。

「うわっ!!」

風音はギリギリの所で回避するが、バランスを崩してしまう。それを見逃す影虎ではない。

「終わりだ!!」

影虎はそう言って再び刃を風音に向かって投げる。


ドンッ!!


刃は風音の右足に命中し完全に動きを止める。

「ぐぅぅぅ……。」

風音は刃を抜こうとするが出血で力が入らないのか抜くことができない。

「……これが君の限界か神楽風音」

影虎はそう言って軽く溜め息をついて風音の元へと歩く。

「この程度だと言うのならとんだ期待外れだ……。ジュニアには悪いが今ここで死ね」

影虎はそう言って結界内から刃を抜き取り構える。

「せめてあの世で後悔するがいい。君は神楽として生まれたが為に全てを奪われ、誰も守れず此処で死ぬのだからな」


ドスッ!!


そしてそのまま影虎の刃は風時を折り、風音の脇腹を貫いた。


同時刻   天神音楽大学  屋上

ほぼ同時刻ことり達がいる天神音楽大学の屋上では……


バキッ!!


「だおぉぉぉっ!!」

空と名雪の戦いが行われていたが誰がどう見ても空の優勢だった。

               タオ
「彼女はまだ姫神の技も道も使っていないのに此処まで圧倒的だなんて……。」

そう。空の方はまだ姫神の技も道も使っていない。簡潔に言えば素手の状態で戦っている。それにも関わらず名雪の技はことごとく破られ殴り倒されてゆく。

「……やっぱ完全形態じゃなかったらこの程度か」

空はそう言って名雪を見ながら溜め息をつく。

「くっ……畜生。畜生。私がこんなアホっぽい女なんかに……。」

名雪はそう言いながら唇から出た血を拭う。

「確かにことりちゃんと違って学校の成績は悪かったけどそれは授業中に寝てばっかの貴女も同じじゃん。それに、貴女よりはバカじゃないよ。貴女と違って頭はキレる方だし」

空のその言葉に名雪の堪忍袋の緒は切れる寸前の状態になるが、手が動かない。そう。もう、名雪自身も気付いていた。自分と空との力の差に。

「あっけないですね」

「無様ですね」

ことりと桐花もそう言いながら名雪を見る。そして……

「ということでもう決着がついたからもう帰ってくれない?今の私達には貴女のような便利な捨てゴマの相手をしている余裕なんて無いから」

空はトドメのキツイ一言を放つ。その時だった。

ブチッ!!

空のその一言により名雪の緩い堪忍袋の緒が切れた。

「もう頭に来た!!止めだぉ!!」

そう言って数歩後ろに下がる。
 
                                                  ささめゆき
「こんな圧倒的な差のあるゲームやってられないよ!!だから……次はこうするよ。細雪!!

名雪は空間の穴から純白の槍を出す。そして……

「思い出したぉ。一番気に入らないのは貴女だってことを!!」

名雪はそう言って細雪を構えてそのままことりに向かって突進する。

「くっ!!」

ことりは慌てて上空にジャンプして名雪の突進を避ける。だが……

「これで避けたと思ってるの?」

名雪はそう言うと思いっきりジャンプして再び攻撃を仕掛ける。

          ふうが
「それなら……風雅!!

ことりは次元の狭間から風雅を出して名雪の細雪の突進を受け止める。

「二度も……いい加減にくらうんだぉ!!」

名雪はそう言って細雪を軸に強引に方向転換しことりの後ろへと周る。

「くっ……。」

「死ぬんだぉ〜!!」


バキッ!!


「きゃあああっ!!」

名雪の強烈な蹴りがことりの左肩に命中しそれにより彼女を地面に落下させる。そして……


ドガッ!!ドシャァァァッ!!


名雪の蹴りの二撃目を今度は頭部に受けた為に上手く受身を取ることができずに頭から地面に落下してしまい更にダメージを受けた。

「うわっ、強烈!!」

「相手をナメるからこうなるんですよ」

空と桐花は名雪の攻撃をモロに受けたことりをそう言って非難する。

「いい格好だね。捨て猫さん」

名雪はそう言いながら細雪の形状を槍から鋸へと変える。

(くっ……しまった。彼女は元々陸上部の部長だから身体能力は高いと言うことを忘れていた。しかも、今の彼女は『夜の一族』だから私達と同等と考えても不思議じゃないのに……さやかさんとの戦いから油断していた)

そう。ことりは昨日の夜から名雪のことを調べていた。そして、彼女のことは理解していたつもりだ。だが、この強さはハッキリ言って計算外だった。

そうやって自分の非を認めて彼女は左肩を押さえながら立ち上がる。そして……

「一つ教えてくれませんか?どうして、昨日の矢後市の戦いの時に彼女を……沢渡真琴さんを殺したのですか?」

名雪に一番気になっていたことを質問する。ことりの質問に対して名雪は……

「そんなの決まってるじゃん。負け犬の役立たずだからだぉ」

嘲笑いながら答える。

そんな彼女の態度にことりは怒りを感じたが、それを表に出さずに再び喋る。

「貴女のことを調べたから分かったのですが……貴女は彼女が同じ屋根の下で暮らしていた同居人だと分かっているのですか?」

「そんなことは分かってるよ。でも、あの娘もあゆちゃんや桐花ちゃん程じゃないけど邪魔な娘だったからね。実際あの娘も祐一のことを狙ってたし殺したってどおってことないんだぉ」

名雪のその言葉にことりは更に怒りを感じる。

「貴女は自分さえ良ければそれでいいのですか?」

「うん、そうだぉ。私は自分さえ良ければそれでいいんだぉ」

名雪はそう言ってクスクスと笑いことりに近づく。

「あっ、今度はこっちからの質問だけどさあ殺す前に答えてくれない?祐一って今何処にいるの!?」

名雪のそのヘラヘラとした言い方の質問にことりはとうとう怒りを爆発させ、彼女の顔を思いっきり殴った。


バキッ!!ガシャァァァン!!


「だおっ!?」

ことりに殴られた名雪は4回バウンドしてそのままフェンスに激突する。

                こと
「貴女……本当に自分の欲望しか考えないんですね。かわいそうな人……。」

ことりは怒り……いや哀れみを込めて名雪に言う。

「かわいそう……それどう言う意味?全く訳分かんないんだけど」

名雪は立ち上がりながらことりに質問する。

「かわいそうですよ……。『夜の一族』がどう言う人達かも分からずにこうやって利用されてるんですから」

ことりがそう言ったその時だった。


ザシュッ!!


名雪の細雪の一撃がことりが立っていた場所を切り裂く。だが、単調攻撃だったせいかその攻撃はことりに簡単に避けられる。

「又、かわいそう……どこまで私をバカにする気なんだぉ。捨て猫の癖に」

名雪の手は怒りで震えていた。だが、ことりの言葉はそこで終わらない。

「……自分の力に溺れて心の弱さを力で誤魔化して結局  人に利用され騙されそして最後に一人になる……。」

「うるさい!!」

「貴女は本当に哀れな人です!!いい加減気付いて下さい!!」

「くっ……。」

ことりにその言葉に名雪は反論を封じられる。だが、その時だった。

「えっ……?」

ことりの顔が何故か自分の想い人  相沢祐一とダブって見えた。

(どうして……捨て猫の顔があの時の祐一にダブって……確かにあの時の祐一も私を哀れむように見ていたけど……。)

名雪は一瞬一度自分が死んだ時のことを思い出す。だが、その時だった。

「ああああああああああ!!」

彼女の頭が突如激しく痛み出し膝をつく。だが、すぐに頭を押さえながらだが立ち上がる。

「貴女……やっぱ邪魔だお。これ以上貴女の顔を見てると私はおかしくなる。だから……もう殺す」

名雪はそう言って細雪を鋸から槍へと形状を戻して構える。そして、そんな名雪に空は……

「ちょっと予想外の展開になってきたな。でもまあ、ことりちゃんが祐一君にふさわしいかどうかを見るのにはいい機会だしこの戦いがどうなるのかちゃんと見届けるとしますかね」

予想外と言いながらもさほど驚きもせずに冷静に呟いた。


「……ここは?又、精神世界!?あの時脇腹を刺されたから……。」

そう。風音は気が付くと精神世界にいた。だが、今度はこの前のものとは違っていた。何故なら……

「これは……フィルム!?」

そう。何本ものフィルムが存在し動いていた。まるでスライドプロジェクター等で映し出しているかのように。だが、驚きはそこで終わらない。

「これは髪型は違うけど……僕?それにことりさん?」

そう。最初に見たフィルムには自分とことりが映っていた。だが、すぐに彼は更に驚くことになる。

「こっちのフィルムには眞子さんとも……。それに左側のフィルムは芳乃さんが……。」

そう。全てのフィルムに自分を助けてくれた人達そして、自分と共に戦ってくれた人達が映っていた。しかし……

「でも、この記憶はいつのものなんだ?こんな出来事は海鳴市に来てから起こっては……。」

そのどれもが自分の記憶にないものばかりだった。

だが、その時だった。

「いい加減認めろよ。自分が何者だって言うことにな」

「えっ!?」

風音は言葉に反応して後ろを振り向く。其処には……

「よっ、久しぶり!!って、昨日会ったばかりだから一日ぶりの方がいいかもしれんか」

「しっ、士郎さん!?」

恭也の父親である不破士郎が立っていた。

「どうして又こんな所に……。」

風音は驚きを隠しながら質問する。

「いや、恭也がまだ俺の所に来るまでもう暫く時間が懸かると思ったから此処に来た」

「そうですか……。でも、恭也さんに何か遭ったのですか?」

風音は少し頭痛を感じながら士郎に質問するが……。

「おっ、女子生徒に告白されてエセ恋人を頼まれるか。しかも結構上手くやってるし。って、そこでキスしないでどうする?この度胸なしの甲斐性なしが!!」

士郎がフィルムに夢中になっているせいで答えは返ってこなかった。

それから暫くして……

「このフィルムを見て何か懐かしいと思わないか?」

士郎が唐突に質問してきた。その士郎の質問に風音は……

「……確かに懐かしいとは思いますけど。でもこれは……。」

途中で言葉が詰まる。頭の中にある考えが浮かんだからだ。

「相沢祐一の記憶とでも言いたいのか?」

「!!」

士郎のその言葉に風音は何も言えなくなる。だが、士郎の言葉はまだ終わらない。

「もう本当は気付いているんじゃないのか!?自分が何者なのか」

「……。」

風音はまだ何も答えない。そして、士郎はトドメと言ってもよい言葉を言う。

「いい加減認めろよ。自分が相沢祐一だということを!!」

「……くっ!!」

士郎のその言葉に風音やっと口を開く。

「その様子からしてやっぱり気付いてたか」

士郎はそう言ってフッと笑みを浮かべる。

「……ええ。『龍』や『夜の一族』がどうして僕の命を狙うのか、ことりさんや眞子さんがどうしていつも僕に協力してくれるのか、全てをひっくるめて考えたらその答えが一番辻褄が合うんですよ。僕としては一番当たって欲しくなかった答えですけどね……。」

「そうか……。でも、どんなに否定してもそれが答えだ。認めろよ」

士郎はそう言って風音の肩をポンと叩く。

「違う……。僕はそんな価値のある人間なんかじゃない。彼みたいに強くてみんなに慕われる人間なんかじゃない。だって僕は……他人を不幸にすることしかできない疫病神でしかないんだから」

風音は以前から記憶を奪われる前の自分  相沢祐一のことをことりや眞子から何度か聞いていた。話から何処か懐かしさを感じる時は何度もあった。だが、怖かった。自分の正体をことりや眞子に話したら自分を許してくれるのか自信がなかったから。だから、否定した。現実から逃げた。自分は相沢祐一ではないと。

だが、その時だった。


パァン!!


士郎の平手打ちが風音の頬を赤く染める。

「し……士郎さん?」

風音は頬を押さえながら呆然と呟く。

「確かに認めたくないのは分かるけど……いい加減認めろよ。じゃないと何時まで経っても前には進めないぞ!!」

士郎は現実を認めようとしない風音に怒りと苛立ちを感じながら言う。

「でも……僕は。あの二人を……。」

「それなら素直に「ごめん」って謝ればいいだけだろうが。あの娘達は多分お前が謝れば許してくれるぞ。だって……あの二人は……。」

「分かってます。でも、僕にそんな資格は……。」

「この馬鹿野郎!!少しは信じろよ!!危険を冒してまでお前を探していたあの娘達を!!そして、思い出せ!!あの時の誓いを!!」

「!!」

士郎のその言葉で風音は思い出す。




守る。

絶対に。

あの街で救えなかった人達の分まで……。

俺を支えてくれた……。

俺の心を癒してくれた……。

俺の為に泣いてくれた……。

あの娘を……。

白河ことりという女の子を……。

これから先どんなことが遭っても……絶対に守ってみせる。





「……これは!?」

「お前がこの街に来る前に初音島で立てた誓いだよ」

士郎は笑顔で言う。その士郎の言葉に風音が……

「……そうだった。僕は確かにあの日そう誓ったんだ。ことりさんを守ると……。」

「どうやら完全に思い出したようだな」

「はい、初音島での記憶だけですけどね」

「そうか。でも、良かったじゃないか。原点が見つかって……。」

「はい、ことりさん達に会ったら全てを話してちゃんと謝ります。でも、絶対ぶたれそうだな……。」

風音はそう言ってあははと苦笑いをする。

「それはお前の自業自得だ。友達の命を助けるとは言えちゃんと説明もせずに初音島を出たお前が悪い」

「やっぱり……ですか」

「それにもう一つ言わせて貰うぞ。彼女は……白河ことりはお前に守られる存在じゃないぞ」

「えっ?」

「お前と共に同じ道を歩む者だ」

「……。」

「……ってこれは俺が始めて好きになった人に告白した時に言った言葉だ。まあ、断られたがな……。」

士郎はそう言ってあははと笑う。そして……

「それじゃあ俺はそろそろ行くとするわ。恭也がそろそろ来る頃だし、それにお前に言いたかったことも全部言ったからな……。って、まだあったな。最後に……一人で何でも背負おうとするなよ。お前には力を貸してくれる仲間がたくさんいるんだからな。それと、ちゃんとバレンタインのお返しはしとけよ。あの二人にチョコ貰ってるんだしな」

士郎はそう言って消えていった。

「……士郎さん。本当にありがとうございます」

風音もそう言って精神世界をあとにした。


PM10:01   海鳴市   聖祥女子校高等部4階   図書室

「……んっ?この感じは!?」

風音の脇腹を刺した影虎だったが急に違和感を感じる。そして……

スチャッ!!

何かを警戒して後ろへと跳ぶ。

「……どうやら荒療治は上手くいったみたいだな」

影虎はそう言ってニヤリと笑う。脇腹を刺されて倒れた風音が再び立ち上がったのだ。しかも、刺された筈の脇腹には痕すらなかった。

「悪いけど……そろそろ終わりにしましょう。この街の崩壊までもうそんなに時間がありませんし、それに……どうしても会って謝らなければいけない人がいますから」

風音はそう言って構える。そんな彼に対して影虎は……

「いいだろう。だが、こちらも三騎士の一人として退くことは許されない。だから、こちらも本気で行く」

そう言って構える。そして……

「「はああああああっ!!」」

二人の戦いが再開された。


その頃、恭也の精神世界では……

「ヒャ〜ハハハハ!!」


ザシュッ!!


「ぐおっ!!」

狂夜と静馬の戦いが続いていたが狂夜の方が圧倒的に優勢だった。

「どうした、この程度かよ。御神静馬!!」

狂夜はそう言って見下しながら言う。

「くっ……。『夜の一族』化した恭也君がこうも強いとは……。」

静馬は狂夜の強さに驚きを隠せなかった。恭也が狂夜に意識を乗っ取られてから彼は一撃もダメージを受けていない。隙はあったがいつも変則的な動きで回避されてしまうのだ。

(……どうすればいい。ここで彼を倒さないと恭也君の意識は彼に完全に喰われてしまう)

静馬は考える。その最悪な事態を防ぐ為の手段を。そして、思いつくがそれはどう考えても危険な賭けだった。

(こうなったらもう『鳴神』しかない。だが、この傷では成功確率は低い。でも、やるしかない)

そう決心して覚悟を決める。そんな静馬に狂夜は……

「おっ、その様子だと腹をくくったようだな。なら俺もそろそろ終わらせるとするか。もうアンタとの戦いにも飽きたしな!!」

そう言って構える。そして……

「これで終わりだ!!小太刀二刀御神流奥義之極  なる……何っ!?」


ズバッ!!


気が付くともう斬られていた。恭也が狂夜になって最初に出してからずっと使っていた黒い刀で。

「チンタラうるせえよ!!とっとと死ねや」

狂夜は見下すかのように静馬に言う。そして……

「む……無念」

静馬の姿はそのまま消えていった。

「老いた麒麟は駄馬にも劣る。テメェ等はとっとと死んでりゃいいんだよ。俺が御神流最強なんだからな」

狂夜はそう言って第3ステージを出る。

だが、この時彼は……不破狂夜はまだ気付いていなかった。この時犯していた致命的なミスに。


PM10:05   海鳴市   聖祥女子校高等部4階   体育館

その頃魔法陣によって体育館に転送された望は……

「……ここは!?」

建物の設備から体育館だと言うことは分かるが……無性に嫌な感じがするのだ。そして……


ズガン!!


自分が立っていた場所の近くが突然抉れる。

「ちいっ!!」

望は慌てて跳ぶことによって何とか破片等を避けることに成功するがその時目にしてしまった。自分に攻撃を仕掛けた者の正体を……。

「な……何なのよ?あれは!?」

それはもう人間ではなかった。蝙蝠の身体に牛の頭を持つ怪物だった。そして、その怪物の攻撃はまだ終わらない。


ズガン!!ズガン!!ズガン!!


上空から急降下して攻撃を続ける。

「もう……いい加減にしてよ」

望は攻撃を避けながら呟く。だが、その時だった。

                キメラ
(どうだ……。俺の造った合成獣は)

「えっ!?」

望は突然頭に入ってきたその声に驚く。

「あ……貴方は誰よ!?」

望はそう言って声の主を呼ぶが誰も出てこない。

(俺が誰かなんてどうでもいいだろ!!お前は此処で飛天夜叉に殺されて死ぬのだからな)

その声が望の頭に入ったその時……


ザシュッ!!


飛天夜叉が再び望に接近して翼で攻撃する。

「くっ……あんなでかい身体で何てスピードなの?」

望は驚くしかなかった。しかし……

(でも、此処で死ぬ訳にはいかない。まだわかばを置いて死ぬ訳にはいかないし……それに……風音さんにまだ伝えていないことがあるから)

心の中で自分に活を入れる。そして……

「飛天夜叉だか何だか知らないけど……その程度で私を止められると思わないでよ!!」

彼女の戦いも本格的に始まった。


PM10:10   東京都    某ネットカフェ内

風音達が海鳴市で戦っていた頃東京都の秋葉原にあるネットカフェでは……

カタカタカタカタ!!カタカタカタカタ!!

川澄怜がパソコンのキーボードを叩きながら調べ物をしていた。そして……

「……ふう。やっぱあれしかないか」

そう言って手を動かすのを止める。

「彼……相沢祐一の『奇跡の力』。よりにもよってあの能力とはね……。」

そう。彼女は相沢祐一の『奇跡の力』について調べていた。そして、やっと分かった。彼の持つ『奇跡の力』の正体を。

「まさか『奇跡の力』の正体が『次元結界生成』とはね……。でも、華音市で彼がやったこともこの能力が正体なら合点がいく。ふう。舞もとんでもない能力を持った人に惚れたもんだ」

怜はそう言って溜め息をつく。

『次元結界生成』……結界を生成し、その結界内の出来事そのものを改変する能力。つまり時間そのものを操る能力と言っても良い。そして、ある意味最強の能力とも言える。

「どおりで『夜の一族』が手段を問わずに彼を倒そうとする訳だ。そして、神咲一族や御剣衆……いやクライマーズが覚醒後から彼をずっとマークしているのもね」

怜はそう呟いて先程ドリンクバーで入れて来たカルピスコーラを飲む。

「でも……あの能力はかなり厄介な能力だ。使い方を間違えれば世界の崩壊を招く。でも、彼なら大丈夫だろうな。だってあの時に『次元結界生成』を使わなかったのだからね。まあ、そのせいで舞は助からなかったのだからある意味皮肉な話ではあるけどね」

怜はそう言うと再びパソコンに向かう。そして……

「さて、今度はあの人モドキ共が造ったファームについて調べて見るか。まだ暫くは暇だしね」

そう言って再びキーボードを叩き始めた。

(海鳴市崩壊まで残り1時間50分)

to be continued . . . . . . .



あとがき

菩提樹「どうも本当にお久しぶりの菩提樹です。仕事が多忙なせいと『Kanon』以外のSSを書いてたせいですっかり次の話が完成するまでに時間が懸かってしまいました。それに昨年の10月には仕事中に事故リましたし。って言い訳が長くなってすみません。さて、今回のゲストは……。」
名雪「水瀬名雪だぉ。……って作者さんずっと前から聞きたかったんだけど私のこと嫌い?」
菩提樹「嫌いではありませんがあまり好きではありません。原作でも祐一に依存してるし、毎朝起こしてもらっているのに感謝すらしていない人でしたから」
名雪「嫌いならはっきり嫌いって言ってよ(怒)。あなたの書くSSでは私は大体扱い悪いんだし」
菩提樹「そんなこともありましたね……。」
名雪「いつもなんだぉ!!(怒)」
菩提樹「まあ、そう怒らないで下さい。このSSでは貴女は結構目立つポジションに立ってるんですから」
名雪「悪役としてだけどね」
菩提樹「でも、桐花さんとことりさんとは決着つけたいでしょう?」
名雪「それは肯定だぉ。特に今回の話でことりちゃんも殺したくなったんだぉ」
菩提樹「そうですか。でも、彼女のことあまりナメない方がいいですよ。状況は今のところは五分五分ですが」
名雪「どれ、どういうこと?」
菩提樹「それは次回のお話でご説明いたします。ちなみに名雪の持つ怖さについても次回お書きします……まあ名雪の方はカンの良い読者さんには分かると思いますがね。それでは長くなりましたが今回はこの辺で……。」
名雪「……えっ?あとがきこれで終わり。私……あんまり喋ってないのに」