3月30日―――PM8:57 海鳴市 市街地上空
その頃フェイト達は…
「フラッシュインパクト!!」
「くっ!!」
海鳴市の市街地上空で平行世界からのなのはと戦っていた。だが、状況は2対1の戦いであるにも関わらずフェイト側が不利だった。
フェイトは一度も攻撃していない。反撃のチャンスは何度もあったが、それを無視してなのはの攻撃を防ぐだけだった。そして、そのことにアルフも気付く。
「フェイト……一体どうしたのよ?どうしてさっきから全然攻撃しないの?いくら敵がなのはの姿をしているからって……倒さないと本当にヤバいわよ」
アルフはそう言ってフェイトに攻撃するように言うが…
「ダメ、アルフ。倒しては……」
フェイトは首を横に振ってそれを聞き入れなかった。
「どうしてよ。なのはと言ってもバーチャル・リアリティでの偽者なのよ。思いっきりやっても…」
「違う。このなのはは……『平行世界』からやってきた亡霊。つまり今戦ってるなのはは何処かの時間の別れ道で別ルートを選んでしまったなのはで簡単に言えばバーチャル・リアリティではなくいわばなのはの分身」
「じゃ……じゃあ私達がこのなのはを倒してしまったら、本物のなのはも……」
「間違いなく死ぬわ!!」
「!!」
アルフはことの重大さが分かったのか何も言えなくなった。だが、その時だった。
「ディバイン・シューター!!」
バンバンバン!!
「きゃあああっ!!」
アルフが呆然としていた時にフェイトはなのはの魔法をモロに受け墜落する。しかし、その時だった。
「フェイト!!」
アルフがフェイトが地面に激突する寸前にキャッチする。
「アルフ、ありがとう。でも、腕大丈夫!?」
そう。アルフはフェイトを地面激突寸前にキャッチすることに成功したが、その代償として両腕を強く打ってしまった。両腕を用いて戦うことは暫く無理だろう。
結果として更に不利な状況に陥ってしまった。
「フェイト……どうする?このままじゃいつか」
「分かってる。この状況から脱出しないと……不幸中の幸いだけどさっきの攻撃で吹っ飛ばされたお陰で撒くことは可能みたいだし」
「そうね。このままだったら逃げることも可能ね」
二人はそう言うと転移魔法の準備をする。だが……
「ねえ、フェイト。さっきからなのはがその場から全然動かないけどどうしたんだろう?」
アルフのその言葉にフェイトは何を意味するのか気付いた。そして…
「しまった!!」
と叫んだその時だった。
「スターライトブレイカー!!」
『平行世界』のなのはの最大にして最強の魔法がフェイト達に向けて発射された。
「もう…避ける時間も防御魔法を発動させる時間もない。それにアルフももう…戦える状態じゃない。くっ…なのは……。」
フェイトは自らの死を覚悟したのか目を閉じる。そして……
ドガァァァン!!
『スターライトブレイカー』が直撃した。
同時刻 海鳴市 佐伯邸 リビング
その頃佐伯邸にいたなのはは……
『くっ…なのは……。』
「えっ!?」
その場にはいない親友の言葉を聞き顔色が悪くして膝をつく。
「なのは、どうしたの?」
「どうかしましたか?」
眞子と風音の二人はなのはの様子に気付いたのか声をかける。
「何故か知りませんが、友達……フェイトちゃんの声が聞こえたんです。それも、ただの声ではなくて最後の言葉のような…嫌な予感がするんです」
なのははそう言って立ち上がる。そして…
「すみませんが私、フェイトちゃんを探してきます!!レイジングハート!!」
ポケットから赤い宝玉を取り出して叫んだ。その瞬間……
『OK..My Master!!』
赤い宝玉が光ってなのはの服装が聖祥の服を改造したみたいな服になる。そして、赤い宝玉もロッドとなる。
「ふうん。やっぱ、君は魔法少女タイプの魔道師か。君の素性はおいそれと見えてきたけど……それでも行かせることはできないよ」
さくらはそう言ってなのはを引き止める。
「どうしてですか?」
なのははどうして引き止めるのかが分からずさくらに食って掛かる。
「それは……今、この街が大変な状況になっているからだよ」
さくらはそう言ってなのは達にパソコンの画面を見せる。ディスプレイには海鳴市の全体図と右上に数字が表示されていた。しかし、よく見ると右上の数字が増えていくごとに街の建物が消えていた。
「こ……これは」
なのはは何も言うことが出来ず呆然となる。
「この街が元の姿に戻りつつあるのさ。そう。本当の意味での地獄にね……。」
「ほ……本当の意味での」
「地獄……?」
眞子となのははさくらの言葉に何も言えなくなった。しかし……
「それってまさか……。でも、そうだとしたらこの街は……。」
風音だけはさくらの言葉から何かを連想したのか顔色が悪くなる。
「どうやら、この様子だと風音君だけは理解できたみたいだね」
さくらは風音の顔を見て言う。
「えっ、でもまだ確実ではないですよ」
風音がそう言ったその時だった。
「ふむ…『まだ確実ではない』…ですか。でも、そろそろその甘ったれた考えはもう通用しませんよ」
「えっ?」
風音がドアを振り向くとそこには彩と理恵が立っていた。
「月代さんいつからそこに?」
「ついさっきからです。それは置いとくとして……神楽さん。確かに貴方達は今おかれている状況の情報が少ない。だから、その頭の中にある考えもなかなか口に出すことができない。しかし、その貴方の考えがきっと正しい。ですからここにいる全員に言うべきです」
「そうです。隠さずに話して下さい」
彩は風音の質問を無視して諭し、理恵もそれに続く。そして、彩の言葉を聞いて風音は悩むが暫くしてから口を開く。
「……分かりました。月代さんの言う通り言います。まず、この海鳴市についてですが……今までにこの街で起こった事は全て現実ではなく脳の中で起こっている出来事、つまり仮想現実も混じっています」
「「!!」」
風音のその言葉を聞いて元から海鳴市に住んでいたなのはと理恵はショックを受ける。だが……
「ちょっと待って下さい。そんな証拠何処にあるんですか?」
理恵はすぐに我に返って風音に質問した。
「証拠は……過去にこの街で起こった出来事です。例を挙げれば春原七瀬の事件とその翌年の五月に起きた異常気象の事件。つまり風芽丘学園の旧校舎に現れた幽霊 春原七瀬と綺堂さくらとの戦いにその翌年の五月に起こった神咲一族とざからという魔物との戦い。この街では昔から常識では考えられない異常な現象が次々と起きていますし、人間離れした者達が次々と登場しています。その原因が恐らくこの街に充満している仮想現実を僕達に感じさせる程強力な『電磁波』だと思います。」
風音の説明はそこで一旦止まる。そして、眞子は……
「そうか、そういうことか。何となくだけど読めたわ。確かに視覚や聴覚等私達が感じる全ての現象は感覚器官から神経を伝って脳に届いた電気信号に過ぎないし。例を挙げて言うと目の前にボールが置かれていたとして―――それが“見えて”いるのは『ボールがある』と言う情報が脳に届いているに過ぎないからね」
と納得する。
「あのう、原因は分かりましたけど……それと海鳴市の正体とどういう関係があるのですか?」
理恵がまだ納得できず、風音に質問する。
「では、さっきの眞子さんの言ったことを借りて質問しますけどボールなんか何処にも無いのに『ボールがある』という情報が脳に直接 電波として飛び込んできたらどうなると思いますか?」
「…それは目の前にボールがあるように見える筈じゃ……」
理恵がそう言ったその時彼女もやっと風音の説明を理解する。
「そう。もし、そういった脳神経の働きを『支配』できる波長を持った『電磁波』が存在するとしたら立体映像装置なんかなくてもそれこそ簡単な電子回路だけで現実と区別のつかないバーチャル・リアリティを作り出せる筈なんです。と言いましても、現実をシミュレートできるだけの高速コンピューターと高度なプログラムが必要ですけどね」
「じゃ、じゃあ……今までにこの街の中で起きていることの半分くらいの出来事は……」
「そう。もしかしたら半分は脳の中だけで“感じ”てる『幻影』かもしれないってことになります。そして、この街
海鳴市は恐らく現実と仮想現実が入り混じった『半仮想空間』です」
「……。」
理恵はそこまで聞くと何も言えなくなった。しかし…
「じゃ……じゃあ今この街で起こってる現象は?」
「これも恐らくですが、仮想現実が現実そのものを浸食しているんです。まるで、広がりゆく砂漠が人の住める土地を喰い潰していくかのように」
「!!」
理恵は風音の返答に再びショックを受ける。
「じゃ、じゃあ私があのまま飛び出したら……」
「恐らくその場で死んでたね。恐らくだけど、この館の外はもう人の住めない地獄と化してると思うし」
「!!」
なのはもさくらのその言葉を聞いて再びショックを受ける。
「で、でも誰がそんなことを……」
「分かりません。でも、このままだと……この街は浸食から起こる『空間崩壊』によって間違いなく消滅します」
「「「!!」」」
風音のその言葉に眞子となのはと理恵の三人は何も言えなくなった。むしろ、顔からして絶望していた。
「ねえ、三人とも。絶望しているようだけどそれはまだ早いよ。まだ、崩壊まで時間はあるから」
「えっ?」
「と言いましても午前0時まで……つまりあと3時間程度しかありませんがね。しかし、朝倉さん達が持ってきてくれたディスクから今の現象を起こした者 『夜の一族』の氷村遊が何処にいるのかは分かりました」
「じゃあ、今の現象を起こしている氷村遊って奴を叩けば、この街は助かるってことだね?」
「はい、そうなります。そして、皆さんがこの街を脱出する為にも『空間崩壊』を阻止しなければなりません。現にこの街の出入口はもう浸食によって通れなくなっていますから」
彩は眞子の質問に答える。
「じゃあ、そうと決まったら……」
「『空間崩壊』を阻止しに行きましょう。この街の人達を守る為にも」
「うん。フェイトちゃんも心配だし、お母さん達も守りたいから」
眞子と風音となのはの三人はそう言って決意を新たにする。
「それでしたら、彼女達も連れて行って下さい」
彩はそう言うとパチンと指を鳴らして空間に穴を開ける。すると…
ドガドガドガッ!!
空間の穴から望とわかばとフィリスの三人が出てきた。だが、何故か三人とも気絶していた。
「あちゃ〜っ。いつもよりも厳しくしたようだね」
さくらは彼女達を見てケラケラと笑う。
「……当然です。今までの彼女達では間違いなくこの街で死にますから」
そんなさくらの言葉に彩は表情を変えずに答える。
そんな二人を見て他の四人は……
((((一体何をやったんだ!?))))
と突っ込もうとしたどうしても言えなかった。言えば自分達も望達と同じ目に逢うと思ったからだ。
「それでは、皆さん。白河さん達が此処に来たらメンバーを決めますよ」
彩はそんな彼女達を無視して素っ気なく言った。
同時刻 海鳴市 佐伯邸 リビングへと続く通路
その頃ことり達もこの街で異変が起きたことに気付く。
「……?おかしいですね。人の気配がしません」
「確かにそうですね。この館にはまだ人の気配はしますけど……外には全然気配がありません」
ことりと桐花はそう呟く。だが、その時だった。
「二人とも危ない!!」
雪音は殺気を感じて二人を後ろに突き飛ばす。すると、二人がさっきまで立っていた場所に大きな鎌が突き刺さっていた。
「これは……鎌!?」
「まさか……。」
ことりはいきなりの攻撃に驚き、桐花は鎌から攻撃を仕掛けた者が誰かを想像する。
「あ〜あ、避けられちゃいましたか。当たると思ったのになあ」
そして、ストールを身につけた短い髪の少女がそう言いながら現れた。
「貴女は……美坂栞」
桐花は少女を知っているのか彼女の名前を口にする。
「あっ、お久し振りです。雨流桐花さん」
少女はそう笑顔で挨拶する。だが、どう見ても挨拶に殺気がこもっており友好的とは思えなかった。
「……貴女まで復活していたんですね。『夜の一族』の口車に乗って……。」
桐花は悲しげな顔で言う。
「ええ。私はまだ死にたくありませんでしたし、それに祐一さんを誑かす貴女が憎いですから。殺したい程ね!!」
栞はそう言うと投げた大鎌を掴んで桐花に斬りかかる。
「くっ!!」
桐花はそれを紙一重で避け、カウンターの要領で栞の脚を蹴る。
「ちいっ!!」
栞は少しバランスを崩すが、すぐに体勢を立て直して再び斬りかかる。
「……二人とも悪いけど先にリビングに行って下さい。彼女の狙いは恐らく私ですので」
桐花はことりと雪音に先に進むように言う。
「分かりました。応援を呼んできますのでそれまで頑張って下さい」
「無理したらあかんよ」
ことりと雪音はそう言ってこの場を桐花に任せて先へと進んだ。
ことりと雪音がその場を去ってからも桐花と栞の戦いは続いたが……
「何故、あの二人を先へ行かせたのですか?」
栞のその言葉で戦闘は一時中断した。
「理由は特にありません。強いてあげれば、貴女との戦いを誰にも邪魔されたくないからですかね」
それに対して桐花は冷静に言う。
「えぅ〜。せっかくあの白河って赤い髪の人を殺せると思ったのになあ。あの人私達が一度死んだ後に祐一さんと仲良くしてましたから。まあ、祐一さんがあの島から出て行った時は愉快でしたけどね。あの人暫くそれが原因で塞ぎこんでいましたから。その時は『バ〜カ!!バ〜カ!!ザマ〜ミロ!!』と笑ってやりましたけどね」
栞がそこまで言ったその時だった。
ドガッ!!
「えぅ〜っ!!」
桐花の蹴りが炸裂して栞は外まで吹っ飛ばされた。そして、桐花自身も栞を追って外に出る。
「貴女も名雪並みに腐ってますね」
桐花は怒りを隠さずに言った。しかし、栞はすぐに立ち上がる。
「でも……雨流さん。貴女は白河って人以上に腹の立つ存在です。祐一さんと関わったのは私達よりも後のくせに、私達よりも祐一さんと仲良くしていましたから」
栞は殺気を込めて言う。だが栞のその言葉に対して桐花は冷たい目で言う。
「それは貴女の自業自得です。貴女はあの街にいた時いつも相沢君に甘えて自分の好物であるバニラアイスをたかっていた。しかも、今でもそれを反省せず挙句の果てには私や白河さんに逆恨みする。どこまで子供でいるつもりなんですか?」
その言葉を聞いて栞はキレた。
「貴女に何が分かるんですか!!」
その瞬間……辺りの光景が一瞬歪み佐伯邸の中庭から海へと変わった。
「海?ここは佐伯邸の中庭の筈じゃ…。」
だが、桐花はそう言った後にある物を見て驚愕する。
「あれは……原子力発電所!?」
そう。今いる場所から少し離れた場所に原子力発電所があったのだ。桐花の頭の中で最悪の考えがよぎる。そして、それは自分のすぐ側に生えていた植物を見て確信へと変わる。
「異常に葉の大きいタンポポ。まさか、ここはスリーマイル?」
その時だった。
パチパチパチ!!
桐花の近くで拍手の音が聞こえた。彼女が振り向くとそこには栞が立っていた。
「へえ、原発も見ないでこの場所を言い当てるなんて凄いですね。感心しましたよ」
栞はクククッと笑みを浮かべながら言う。
「……何でこんなことを?こっちもこの街について色々と調べているからこれがバーチャル・リアリティだって分かるけど、スリーマイルは納得できませんよ」
「へえ、お気に召さなかったですか?なら、チェルノブイリの方が良かったですか?」
「それも御免です。パーチャル・リアリティと言えども北半球全域を汚染した原発は悲しみしか感じませんから。それに……貴女相手に時間を掛けるつもりは全然ありませんから」
桐花はそう言うとシグ・ザウエルとベレッタM92Fを手に持って構えた。そして栞も……
「やっぱり私、貴女のこと嫌いです」
そう言って大鎌を構えた。
こうして桐花にとって因縁の戦いが始まる。
その頃恭也は、第二の部屋の前にまで進んだ。だが、そこで立ち止まる。
そこには黒く長い髪をした女性が立っていたからだ。よく見ると風音そっくりだった。
「やあ、高町恭也君。君を待っていたわ。いきなりで悪いけど、私と勝負してもらうわ」
女性はそう言うと意識を集中させて、二本の小太刀を出して構える。そんな彼女を見て恭也も反射的に構える。
(この人……強い。ある意味父さんよりも)
恭也は女性から発せられた道から彼女がいかに強いのかを理解する。そして……
こせつ
「行くわよ。小太刀二刀御神流 奥義之壱 虎切!!」
女性が恭也に向かって『虎切』を仕掛けてきた。
なぎつむじ
「くっ!!誰だか知らないけど俺はまだここでやられる訳にはいかない!!小太刀二刀御神流 奥義之六 薙旋!!」
恭也も『薙旋』で迎え撃つ。しかし……
パキィィィン!!
恭也の武器の一つである八景が女性の『虎切』によって折られてしまい、恭也の『薙旋』は不発に終わる。
「なっ……父さんの形見である八景がこうも簡単に」
恭也は八景が折られたことがショックだったのか驚きを隠せずにいた。
「その様子だと、その刀について何も知らないみたいね」
女性は動揺している恭也を見て言った。
「それは……どういうことですか?」
恭也は女性に質問する。
「その刀 八景は形状がいくつかに分かれているのよ。前の所有者である士郎さんはちゃんとそれに気付いていてこの剣を使いこなしていた。でも、君は士郎さんの十分の一程度しか使えていない」
「!!」
恭也は女性のその言葉を聞いて再びショックを受ける。そして、女性の話は続く。
「そんな状態じゃ次の相手には100%勝てない。だから、その刀を100%使えるようにする為にわざと折ったのよ」
恭也はそこまで話を聞いて我に返る。
「そこまでこの刀や父さんについて知っているとは。貴女は何者なのですか?」
恭也は女性に質問する。
「まだ、正体は教えたくなかったけどまあいいか。私の名前は神楽彩奈。それじゃあ今回はこの辺で。最後の部屋で待ってるわ」
彩奈はそう言うと霧のように消えた。
「彩奈ってもしかして……風音の」
恭也は彩奈という名前を聞いて美沙斗から言われたことを思い出す。
それから暫く恭也は彩奈に言われたことを頭の中で反芻する。
しかし、良い考えは浮かばす溜め息をついた。
「考えても良い考えは全然浮かばない。でも……今は進もう」
恭也はそう言って第二の部屋の扉を開けた。
「……今度は滝かよ」
恭也は扉を開けてから目に入った光景である滝を見て何も言えなくなった。だが、その時だった。
ズカカカカカ!!
「なっ!?」
恭也目掛けて何処からか無数の飛針が飛んできた。
「くっ!!」
恭也はそれを数歩移動して避けるが……最後の一本だけは避けきれず頬を掠った。そして…
みかみことえ
「何処にいるのか分かりませんが……そろそろ出てきてくれませんか?御神琴絵さん!!」
恭也は滝に向かって叫ぶ。すると滝から短く栗色の髪をした中学生くらいの少女が現れる。
「あ〜あ、上手くいくと思ってたのにその程度とは予想外だなあ。しかも、居場所どころか正体までバレちゃったし」
中学生くらいの少女は緊張感なさげに言う。
「でも、まあ一臣に勝ったんだからそれくらいできても当然か。でも、恭也君よく私だって分かったわね。そこは素直に褒めてあげるわ」
「貴女は御神の中で最も遠距離での攻撃を得意とした人だ。だから、飛針ですぐに気付きましたよ」
恭也は冷静に言う。
「そ!?なら、遊びはここで終わりにして今から本気で相手してあげるわ。二番目の相手 御神琴絵としてね」
琴絵はそう言うと今までとは打って変わって本気モードになる。そんな琴絵を見て恭也は……
(な……何て気迫だ。動こうとしても動けない。しかもこっちは八景を折られて只でさえ不利だと言うのに)
御神琴絵。御神家の当主である御神静馬の姉。剣士としての実力は士郎には及ばないがそれでも御神一族の中では上位に入る。中でも最も得意とするのは飛針等の遠距離からの攻撃。
(彩奈さんはまだ俺が八景を使いこなしていないと言っていた。それは……どういうことだ?)
そして、琴絵を見て再び考える。
(でも、琴絵さんと戦ってそれが分かるのなら……。)
そう思うと自然に構えていた。
「俺は此処で立ち止まる訳には行かない!!だから、貴女を倒して先に進む!!」
こうして恭也の第二の試練が始まった。