3月30日―――PM8:42  海鳴市  佐伯邸  中庭(風音side)

まだここで死ぬわけにはいかない。ここで終わるわけにはいかない。

僕はそう思ってから意識を集中させる。

「出でよ。時を司る小太刀『時雨』、『風時』!!」

そして、『時雨』と『風時』を出して構える。

でも、これからが問題だ。

あの人は多分だが……昨日戦った妖狐の少女よりも強い。

生半可な技は通用しない。

『射抜・追』でもあの人を止めることはおそらく不可能だろう。

あの人を止めるには…昨日士郎さんと出会った時に思い出したあの技……御神流奥義の中でも最強の威力を誇るあの技を使うしかない。

でも、あの技だけは危険だ。

下手したらあの人は死ぬ。

でも……あの人を止めるには使うしかない。

あの人は僕の親友だと分かったから。

だから……親友として僕はあの人を止める。

その時だった。

「イクゾ、アイザワ!!」

彼はそう言って僕に向かって剣を振り下ろす。

「今だ!!」

僕はギリギリのタイミングで彼の一撃を避ける。だが、それだけじゃない。

                 しんそく
「御神流奥義之歩法  神速!!」

僕は『神速』を使って彼に近づく。そして…

                        らいてつ
「小太刀二刀御神流 奥義之肆  雷徹!!」 

僕は彼に向けて御神流奥義の中で最強の威力を持つ『雷徹』を放った。

これは『徹』の発展させた奥義で二刀を使って相手の内面に過度の衝撃を与えて破壊するという技だ。そして…

「グッ……グハアアアッ!!マ…マタカヨ……」

彼はそう呟いて膝をついた。そして、彼の髪は白髪から元の金髪に戻った。



Tear...

Story.36  Friendship

風音がグリフを倒してから1分が経過した。

「これで……勝負ありです。もう終わりにしよう」

風音はグリフ……いや北川潤にそう言って手を差し伸べる。だが、潤はその手を振り払う。

「……何故止めをささない?今 殺さなければ必ず後悔するぞ!!」

潤はそう言って風音を挑発するが……

「……やっぱり殺せませんよ、僕には。貴方はあの街で出会った……親友だから」

風音はその誘いに乗らなかった。

「俺は……あの日、我が身可愛さにお前を裏切ってお前を殺そうとした男だぞ!!」

「それでも……殺せません」

潤はその言葉を聞いて更に挑発する。

「相変わらず甘いなお前は!!今の俺は不意打ちで背後からでも攻撃を仕掛ける男だ!!こんな風にな……」

潤はそう言って自分の大剣を取り再び風音に斬りかかる。だが、その一撃は簡単に避けられた。

「無駄です。今の貴方では僕を殺すことは出来ない。ですから、もうやめて下さい」

風音はそう言って潤を説得するが、攻撃は止まらない。そして……


ブスリ!!


潤は自らの大剣で自分の心臓を突き刺す。

「!!」

風音は慌てて潤の元に駆け寄る。

「……フフ。お前がここまでお人好しとは……思っていなかったな」

潤は重傷を負っているにも関わらずフフと笑う。

「どうして……自分の心臓を突き刺すなんて愚かなことを……」

「お前がとどめをささないから自らの命を絶った。それだけのことだ……」

潤はそう言って話を続ける。

「それに……お前が俺を殺すか俺が自殺でもしない限り俺に関する記憶は完全には戻らない。それに、お前に俺と言う『愚か者』を裁いて欲しかった。俺を殺して欲しかった」

風音は潤のその言葉を聞いてハッとなる。

「ま……まさか貴方はその為にわざと『夜の一族』の洗脳を……」

「ああ。『愚か者』に加える制裁は死あるのみ……真の友の忠告に耳を貸さず卑怯にも後ろから攻撃を仕掛けて命を奪おうとさえした……『愚か者』にはな……」


ガクッ!!


潤はそう言って息絶え、遺体は真琴の時と同様に光の粒となって消えた。だが、その時だった。

「!!」

風音の折れた肋骨から又痛みを感じたのだ。だが、それもすぐに治まる。

「貴方の言った事は思い出しましたけど……そんな事どうでもいいんですよ。あの時は……そうしたって仕方なかったんですから。だから……気に病むことなんか全然なかったのに……」

いつの間にか風音の両目からは涙が流れていた。

その時だった。

「か……神楽。どうしたの?」

眞子が息を切らしながらやって来た。

「あっ……眞子さん」

風音は力無さげに眞子のいる方向を振り向く。

「又……人を救うことが出来なかったんですよ。ついさっきまで戦った人はかっての親友でした。助けたかった。でも、助けることが出来なかった」

眞子はそれを聞いて何も言うことが出来なかった。だが…

ギュッ!!

自分でも気付かないうちに風音を抱きしめていた。

「ま……眞子さん」

「私は何て言ったらいいのか分からない。でも……その親友は多分『龍』か『夜の一族』として貴方と戦ったと思うけど、それでも貴方との友情だけは守りたかったんだと思う」

「……。」

風音はもう何も言うことが出来なかった。

「だから、神楽。こういう時は泣いてもいいんだよ。泣いたって誰も貴方を責めないんだから」

そして、気が付くと眞子も泣いていた。

「うわあああっ!!北川……。北川……っ!!」

風音は泣いた。先日、真琴を救うことが出来なかった時以上に泣いた。



「……眞子も案外スミにおけないな」

つい先程佐伯邸に到着した純一は屋根の上から笑いと喜びが混ざった顔で言う。

「兄さん……何呑気なことを言っているのですか?(怒)」

「ね…音夢さん?」

音夢は怒気が含んだ声で純一を睨みつける。そんな音夢に流石の純一もビビって後退りする。

「兄さんが、神社で道草食ってた所為で相沢くんの戦いが予想外の結果になってしまったじゃありませんか(怒)」

「でも、結果的に『奥義の極』意外の御神流の技は使えるようになったんだから結果オーライじゃないか」

純一は愛想笑いをしながら言う。

「兄さん…微塵切りにされたいようですね?(怒)」

(う…裏モード!?)

そう。音夢には表モードと裏モードがあり普段の生活では表モードだが、ストレスや怒りが溜まると裏モードになるのだ。ちなみに純一は音夢の裏モードのことを裏音夢と呼んで密かに恐れている。

だが、その時だった。

「朝倉さん、音夢さん。今は喧嘩している時ではありません。その前にするべきことがあるではないですか」

「「はっ!!」」

アイシアのその一言で二人は正気に戻る。

「そ…そうだったわね」

「そうだったな。早く伝えに行かないとな」

二人はそう言って音もたてずに屋根から飛び降りて着地する。そして、アイシアもそれに続く。そして…

「じゃあ、さくらに氷村遊の居場所を記したディスクを届けに行くぞ」

「ええ!!」

「はい」

こうして三人は佐伯邸のさくらの部屋に向かう。だが……

「なあ、さくらのいる部屋って何処だったっけ……?」

純一のその一言で二人は凍りつく。

「私は知りません。アイシアが知っていると思っていましたから」

「私も知りませんわ。音夢さんが知っていると思っていましたので……」

「「「……。」」」

三人は何も言えなくなった。

「まあ、何とかなるって。という事でアイシア頼むぞ」

                                                                   くうかんてんい
「……私も入ったことがありませんので何処に転移するか分からないと言うのに。まあ、どうにでもなれですね。空間転移!!

三人はアイシアの魔法で佐伯邸の中に入っていった。


PM8:47  海鳴市  佐伯邸  茶室

その頃ことりと桐花は……

ずず〜っ!!

雪音が立てたお茶を飲んでいた。

「うっ……。苦いっす」

「少し…苦いです」

「そうどすか?この苦みがいいのになぁ」

雪音は二人の感想を聞いてはあと溜め息をつく。

何故こんな事になったのかと言うとそれはことりと桐花の戦いに雪音が乱入した時だった。


                かみくらゆきね
「どうもはじめましてうちは神倉雪音と言います。こんばんは二人の『姫神』……この世界の『管理者』そして『神楽』の婚約者候補さん達」

その雪音の言葉が気になって二人は一時休戦することになった。

そして、二人は雪音に質問したが……

「そういう話は此処でお茶でも飲みながらゆっくりしましょうや」

そう言って茶室のドアを叩く。

という事で茶室に入ったがいつの間にかこうなっていたのだ。


「あ……あの神倉さん」

「何どすか?」

「そろそろさっきおっしゃった言葉の意味を教えていただけませんか?」

ことりは雪音に意志を込めて言う。そして…

「私も知りたいです。『姫神』の意味を…御神流のような剣術の流派ではないのですか?」

桐花も意志を込めて言う。

それに対して雪音は…

「分かりました。うちが知っとること教えられる範囲内でいいのなら教えてあげますわ」

そう言って一息つく。

「なあ、二人ともこの世界を監視する人間っていると思いますか?」

「「はあ…?」」

二人は雪音の質問に首をかしげる。

「あっ…やっぱそんな顔になりましたか。まあ、当然か」

雪音はそう言って続ける。

「その様子から嘘かと思うかも知れませんが、この世界の『管理者』……それが『神楽』と『姫神』の正体ですわ」

「「!!」」

ことりと桐花の二人は雪音のその言葉に何も言えなくなった。

「始まりは今から千年前の日本……俗に言う平安時代ですけど、その時代は貴族の政権争いや日照りや洪水と言った天変地異、そして土蜘蛛と言った妖怪の襲撃が数多くあった時代でした。その時代の朝廷はそれらの問題を解決する為に陰陽師の育成に努め、官僚陰陽師を組織したんどすえ。その官僚陰陽師と言うのが生まれつき肋骨が一本欠けて生まれた神楽・姫神・神代の三つの一族で構成されていたんですわ。まあ、神代は彩はんが当主になってから急速に没落して月代の姓に変わりましたけどな」

雪音は其処まで説明して時点でことりと桐花の二人が手を挙げる。

「質問どすか?」

「はい、月代の姓が出ましたけどまさかそれは…」

「先程お会いした彩さんと関係があるのでは?」

二人のその質問を聞いて雪音はくすっと笑う。

「関係あると言ったらあるな。でも、今はまだそれ以上のことは説明できませんわ。彩はんに口止めされておりますから」

雪音のその言葉を聞いて二人は……

「ケチっすね」

「ケチです」

軽くスネた。

「話を元に戻しますけど、この三つの一族の活躍によりこれ等の問題は解決したんですわ。それにより人々は三つの一族を官僚陰陽師から『管理者』と呼ばれるようになったんどすえ。そして、その権力は天皇や将軍も無視できない程に強くなって行きましたわ。ですが……室町時代末期の戦乱の世に入ると今度は神楽が剣術の方に力を入れるようになり陰陽術からどんどん離れていったんどす。そしてその内に姓も御神に変えたんですわ。」

雪音が其処まで説明したその時だった。

「じゃあ……現在の神楽は何なのですか?」

ことりは驚きを隠さずに質問した。

                                                 タオ
「現在の神楽は……簡単に言えば御神流の技が使えるだけでなく陰陽術……道も使うことが出来る人達と言った方がいいと思いますわ。神楽から御神に姓を変えた後でも道の使えた人はごく僅かですが存在しましたし。」

雪音は其処で又説明を再開した。

「そして今から150年前、開国と同時に『夜の一族』がこの国に入ってきましたわ。『夜の一族』はこの国に入って来たと同時に経済界の中枢に根を張って僅か30年でこの国の経済の83%を支配……事実上この国を裏から支配するようになったんどす。ですが、御神の中でも道を使える人たちに月代・姫神の一族は『夜の一族』のやる事に反対し戦いが起こりました。それが原因で御神の中でも道を使うことが出来た人達は御神宗家から追放されて姓を元の神楽に戻したんですわ。そして、戦いは日本どころか世界規模に発展して収賄や脱税で私腹を肥やしていた『夜の一族』やそれに加担するマフィア等を潰したことから三つの一族の中でも特に目立っていた『神楽』と『姫神』はこの世界の『管理者』と呼ばれるようになったんどすえ」

雪音は其処で話を締めくくるが、今度は桐花が質問してきた。

「『神楽』と『姫神』が何故『管理者』と呼ばれるのは分かりましたけど、私達が神楽くんの婚約者候補と言うのはどういう意味なのですか?」

「あれはその通りの意味ですわ。『神楽』と『姫神』はどちらも互いに強い力を持っていましたから結婚とかの問題ではかなり苦労したんですわ。それで、結婚する時は『神楽』の人間は『姫神』以外の人間と結婚してはいけないし、その逆に『姫神』の人間も『神楽』以外の人間とは結婚してはいけないというルールが昔からあるんですわ。まあ、今では『神楽』の男は祐一くん一人しかいないからかなり大変やと思いますが……」

雪音はそう言って茶菓子を並べて出す。だが、その時だった。

「さっきからずっと気になっていましたけど……人の家の茶室で勝手にお茶なんか立てていいんですか?」

桐花がいきなり突っ込んだのだ。

「その心配なら全然ありまへんよ。何せこの茶室はうちの部屋どすから」

雪音のその言葉に二人は唖然となる。そして…

「さてと、又リビングに行きますえ。先程のことから対策会議があると思いますから」

雪音は部屋の時計を見ながらそう言うと、ことりと桐花の二人を連れて茶室をあとにした。


その頃恭也は……

「……ここは一体何処だ?」

気が付くと今いる場所は自分が今までに入ったことのない建物だった。しかも、建物自体扉が多く存在する為迷い易く、最終的には最初いた場所に戻ってしまう。

「これでもう何度目だよ!目印をつけて進んでいるのに全然駄目じゃないか」

そう言って最初にいた場所に戻って考える。

だが、その時だった。

「少しは落ち着けよ……」

多数の扉のうちの中の一つが開き誰かが出てきた。

「あっ……貴方は!?」

恭也は出てきた人物の顔を見て絶句した。

「と……父さん!?」

そう。出てきたのは死んだ筈の不破士郎だった。

「おい、何驚いてるんだ?お前らしくもない」

「死んだ筈の人間が再び現れたら誰もが何も言えなくなると思うんですけど……。」

恭也は士郎のマイペースに調子を狂わせながら返答する。

「まあ、お前の言いたいことは分からない事もないが此処はある意味あの世みたいな場所だからな」

士郎のその台詞に恭也は愕然となる。

「父さん……それどういう意味?」

恭也は驚きを隠さずに質問する。そして…

「ぶっちゃけた話此処はお前の精神世界だ」

「えっ!?」

「一応聞くがお前『呪われた子供』にされてからまだ覚醒していない状態で重傷を負っただろう?」

「ああ。……って何で父さんがそんな事を知ってるんだよ?」

そう。士郎はもう死人。だから、恭也が『呪われた子供』になっていることも覚醒についても知っていることはどう考えてもおかしい。だが、そんな恭也に対して士郎は…

「焦るなよ。その事についてはお前がこれからやってもらう試練を全てクリアした後で教えてやるから」

パチン!!

そう言ってパチンと指を鳴らす。その時だった。

「なっ!?扉が消えていく?」

そう。士郎が指を鳴らした瞬間、ついさっきまで沢山あった扉がどんどん消えていった。一つだけを残して……。

「さて、お前にはこれからこの扉の先にいる相手と死合をしてもらう。相手は誰だかは言えないがお前を殺す気で攻撃してくるから容赦するな。それと、死合だからギブアップは通用しないし、殺されても『精神の死』という事でジ・エンドになるから気をつけろ。じゃあな。それでは、武運を祈る」

士郎はそう言って消えていった。

「おい、父さん待ってくれよ。まだ、聞きたいことが……」

恭也は慌てて士郎を引き止めるが、遅かった。そして、目の前の扉に目を向ける。

「鬼が出るか蛇が出るか分からないが……進むしかないな。このままジッとしている訳にもいかないからな」

恭也はそう言うと扉を開けて部屋に入った。



扉を開けて中に入ると其処は……剣術道場だった。そして…

「やあ、待ちくたびれたよ」

その中央に一人の青年が立っていた。

「あ、貴方が最初の相手ですか?」

恭也はその青年に声をかける。

                         ふわかずおみ
「うん、そうだよ。僕が最初の相手  不破一臣さ」

「!!」

恭也は驚愕した。

不破一臣。それは、士郎の弟で不破の最後の当主であった御神の剣士だったからだ。勿論、剣の腕も相当なもので、ある意味士郎よりも強いと言われているくらいだ。

(父さん……何も最初から鬼よりも強い人をぶつけることはないだろう……。)

恭也はそう思って溜め息をついた。だが…

(でも、俺は進まなければいけない。こんな所でジタバタしている暇はないのだから)

活を入れて構える。

「不破士郎の第一子 高町……いや不破恭也参る!!」

こうして恭也の試練が始まった。

 
to be continued . . . . . . .



あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。この2ヶ月間いろいろありまして更新がすっかり遅くなってしまいました。本当にすみません。さて今回のゲストは…。」
音夢「朝倉音夢です。前回に続いて又登場しましたが、又チョイ役になってますね。」
菩提樹「すみません。まだことりさん達と合流していないのでこうしました。」
音夢「そうですか。でも、今回のお話はシリアス1:ギャグ3の割合になっていますね。」
菩提樹「そうですか?」
音夢「そうなんです。素直に認めないと微塵切りにしますよ。(首輪に付いてる鈴を外して構える)」
菩提樹「笑顔でそんな怖いこと言わないで下さい。(泣)」
音夢「それに私達に漫才をやらせるとは……一体何を考えているのですか?(怒)」
菩提樹「それに関しては……ご想像にお任せします。」
音夢「分かりました。では、私から作者さんに書いて欲しい話があります。」
菩提樹「何でしょう?」
音夢「私と兄さんのラブラブ話を書いて下さい。」
菩提樹「……拒否権は?」
音夢「あると思いますか?(怒)」
菩提樹「喜んで書かせていただきます。」
音夢「よろしい。ですが、出来るだけ早く書いて下さい。」
菩提樹「善処します。(泣)ちなみに次回は恭也の話がメインになります。それでは今回はこの辺で。」