3月30日―――PM4:10  海鳴市  神楽坂  
 
「ぐっ…何故だ。」
 
「フィリス矢沢はHGSが使えない筈なのに。」
 
「こんなのデータに乗ってなかったぞ。」
 
フィリスは神楽坂…望が風音を発見した場所で「龍」の黒服達に襲われたが難なく撃退した。だが、突然発生した霧により視界を遮られて足を止める。
 
「前が全然見えませんね。早く翠屋に行きたいのに…。」
 
フィリスがそう言ったその時だった。
 
「それは無理だね。貴女はここで死ぬのだから。」
 
よく見ると其処には紫色の髪に眼鏡をかけた少女が立っていた。
 
「……貴女は?」
 
フィリスは眼鏡をかけた少女に質問する。
 
「私?私は『夜の一族』の清水なつきって言うんだ。佐和田って人から貴女を殺してくれって頼まれてね。」
 
「そうですか。手が込んでますね。」
 
「そして……貴女と元同類の者と言ってもいいわね。」
 
なつきがそう言うと彼女の背中に黒い六翼が発生した。
 
「その羽は……もしかして。」
 
「そうだよ。私も貴女達と同じHGSの能力者なんだ。ちなみに私のリアーフィンの固有名称はAS-17ウリエル。」
 
なつきはそう言うとククッとハトのように笑う。
 
「ウリエル…と言いますと四大天使の一人で気象を操る能力を持つ天使。」
 
「そう。もっと詳しく言えば神の反逆者である『暁のルシファー』に従った堕天使の一人と言った方が正しいね。」
 
なつきはそう言ってフィリスの説明を付け足す。
 
「…おしゃべりが過ぎたようだね。では、貴女には怨みはないけど死んで。」
 
そう言ってフィリスに向かって手をかざす。
 

「ミスト・スネイク!!」
 

その瞬間霧の中から無数の蛇が出現してフィリスに襲い掛かる。
 

                                  ふいじゅつ    かまあらし
「……たったそれだけですか?全然数が足りませんよ。布衣術・鎌嵐!!
 

フィリスは着ていた白衣を脱いで音速の速さで振る。すると、それによって衝撃破が発生して蛇達は一匹も残らずに切り裂かれた。
 
「へえ、HGSが使えないのにやるじゃないの。通りであいつ等がやられる訳だ。」
 
なつきは倒れていた黒服達を指差して言う。
 
「其処まで知っているとは流石ですね。でも、私はリスティやセルフィと違って用意周到ですから簡単に殺せるとは思わないで下さいよ。」
 
「そう、でもこれならどうかしら?」
 
なつきはそう言うと指を鳴らす。すると、神楽坂を覆っていた霧が消えて雨が降り始めた。
 
「さっきの霧はまさか貴女が…。」
 

「そうよ。『夜の一族』のお墨付きと言えども白昼堂々と殺る訳にはいかなかったからね。という事で死になさい。ガンズ・レイン!!
 

なつきはそう言うと雨水から無数の弾丸を作ってフィリスに向けて放つ。
 

       ふいじゅつ    かざぐるま
「くっ……布衣術・風車!!
 

フィリスはそれらを布衣術を使って弾くが徐々に追い詰められる。
 
「くっ…数が多すぎる。」
 
その時だった。
 

ドカッ!!
 

「きゃあああっ!!」
 
雨水の弾丸を防ぐことにより僅かな隙が出来てしまいそこをつかれた。そして、フィリスはなつきの蹴りを喰らって倒れた。
 

「フン。HGSが使えなくなったのに抵抗するからこうなるのよ。じゃあね、LCシリーズさん。ライトニング・ブレード!!
 

なつきは雷の剣を作り、フィリスに向かって振り下ろす。
 
「くっ……風音さん。みんな……。」
 
だが、その手ごたえは無かった。
 
あわわわわ……?わ、私の右腕が……こ、こんな……。だ…誰がこんな事を。」
 
そう。雷の剣を持っていたなつきの右腕が無くなっていたのだ。
 
「やれやれまだ気付かないのか……。」
 
「えっ……?」
 
なつきは後ろを振り向く。そこには、黒い剣に金色の髪をした少女が立っていた。
 
「い、いつからそこに……。」
 
なつきはそう言って後退りする。直感したからだ。このガキは自分よりも強くヤバい奴だと。
 
「ずっといたわよ…。」
 
少女はそれに対して表情を変えずに答える。
 
「き…気が付きませんで……。」
 
「それと、もう一つ教えてあげるよ。」
 
「はっ……はあ。」
 
その時……なつきは自分の身体に異変が起きた事に気付く。
 
「お前もうとっくに死んでるぞ。」
 
「えっ……?」
 
その瞬間……なつきの身体は4つに切り裂かれそのまま絶命した。
 
 ブラッデイ・クロス
鮮血の十字架……。貴様みたいなザコには勿体無い技よ。光栄に思いなさい。」
 
少女……ソフィアはそう言うとフィリスの元に駆け寄り自分のコートをかける。そして…
 
「私が出来るのはここまでだ。7時20分までに佐伯邸に来い。」
 
ソフィアはフィリスそう言うとその場を去った。
 

 
Tear...
 
 
Story.32  慌しいお別れ
 

 
同時刻   東京都   新宿地下施設
 
「……くっ、九分九厘上手くいっていた所を……。」
 
「又、あの死神の小娘か…。」
 
「あの裏切り者が…。」
 
十人の老人達…「夜の一族」の最高幹部である十老頭達はモニターに写っているソフィアを見て怪訝な顔をする。
 
「しかし、問題はそれだけではないぞ。黒葉の連絡からは神楽彩奈の息子とその仲間が海鳴市を脱出するそうだが…。」
 
その言葉で辺りはざわついた。
 
「その件は遊に任せてあるので心配ない。」
 
十老頭の一人である氷村家の長老はそう言うが…
 
(((((((((だから心配なんだよ……。)))))))))
 
残りの9人はそれを聞いて人事に不安を抱いた。
 
「それに一番厄介なのが七瀬留美率いる「Sanctuary」だ。この所又動きが活発になってきた。」
 
「そうだな、奴等により安次郎は殺されたし、ノエルとイレインは暫く使い物にならなくなってしまったからな。」
 
十老頭の一人はそう言って舌打ちする。
 
「こうなったら、どうする?七頭目でも動かすか?」
 
「馬鹿、そんな時間どこにある!!それに、あんなガキ共の為なんかに七頭目を使ったらいい笑い者だ。」
 
「じゃあ…どうしろと言うんだ?生半可の奴じゃ殺されるのがオチだぞ。」
 
十老頭達の意見は合わず、もめ合いとなった。だが…
 
「静かにしろ……。」
 
「「「「「「「「「……。」」」」」」」」」
 
十老頭の一人……綺堂家のヴィクターのその一言により静かになった。
 
「どっちも倒したいのなら……兵力を半分に分散して投入すれば良いだけだろうが。」
 
ヴィクターは貫禄たっぷりに言う。
 
「し……しかし、神楽の方は遊に任せておけば…。」
 
氷村家の長老は手を挙げて言うが…。
 
「奴を侮るな。実際遊は一ヶ月前の『ゲーム』で奴に敗北しただろうが。」
 
ヴィクターは表情を変えずに言う。
 
「ぐっ…。」
 
氷村家の長老は自分の息子を愚弄された事に腹が立ったが本当の事なので反論できなかった。
 
「では、会議を続けるぞ。我等の『五カ年計画』は一寸の狂いも無く進めなければならないからな。」
 
こうして新宿地下施設での会議は続く。
 

 
PM5:30  海鳴市  翠屋 
 
「後、30分ですか…。」
 
ことりはテーブルを拭きながら呟く。
 
「何でいきなり……しかも今日なのよ。」
 
望は文句を浮かべながら仕事をしていた。
 
「これからどうするかか…。」
 
風音はこれからの事を考えていた。
 
だが、その時だった。
 

カラン!!カラン!!
 
 
誰かが来たのかドアについていたベルが鳴る。
 
「はい、いらっしゃいま……フィリス先生。一体何があったのですか?」
 
桃子はそう言うと負傷していたフィリスの元に駆け寄る。
 
そして、風音もフィリスの様子を診たが…
 
「白衣は血だらけですが、傷は止血してありますから問題ありません。でも、気絶していますから…。」
 
「じゃあ、悪いけど休憩室に運んで。」
 
「はい、そうします。」
 
風音はそう言うとフィリスを休憩室まで運ぶ。
 

 
PM6:00  海鳴市  翠屋 
 
風音はフィリスを休憩室のベットに寝かせてから戻るが…時間はもう6時になっていた。
 
「あっ…風音くん。お疲れ様。ちょっとカウンターに座ってて。」
 
「あっ、はい。」
 
風音はそう言ってカウンターの席に座る。そして、桃子は風音にコーヒーを差し出した。
 
「これは…。」
 
「ブルマンのコーヒーよ。君、今日で家を出て行くからね……。」
 
桃子は少し寂しそうな顔をして言う。
 
「でも、何でブルマンなんですか?いつも出してるブレンドコーヒーとかでもいいんじゃ…。」
 
「……あえて言えばおまじないよ。又、会えますようにって…。」
 
「……。」
 
「でも、ブルマンのコーヒーを入れたのはこれで二度目よ。最初に入れたのは…士郎さんが仕事で風音市に行く前日の夜。あの時士郎さんはもし、自分が生きて帰れなかった時は恭也達を頼むって弱気な事を私に言ったからね。」
 
「……そうですか。」
 
「ええ。……って全然飲んでないじゃないの。」
 
桃子はそう言って風音を睨む。
 
「ええ……ブルマンなんて高いもの本当に飲んでいいのかなって思いまして。それに、望さん達に悪いし…。」
 
「別に気にしなくてもいいわよ。あの娘達はコーヒーよりもパフェが好きだから。」
 
桃子はそう言って右側の席でジャンボパフェを食べている望とことりを指差す。それを見て風音は…。
 
「それでは、遠慮なくいただきます。」
 
そう言ってブルマンのコーヒーを飲んだ。
 
「……すごくおいしいです。」
 
「ありがとう。」
 
桃子がお礼を言ったその時だった。
 

「……風音さん。この街を出るのでしたら急いでください。」
 
風音は声に反応にして後ろを振り向くとそこには休憩室のベットで眠っていたはずのフィリスが立っていた。
 
「…フィ…フィリスさん。もう、怪我は大丈夫なのですか?」
 
風音は慌ててフィリスの元に駆け寄る。
 
「はい……大丈夫です。ここに来る前に『夜の一族』に襲われて負傷しましたが、その後に治療しましたから。」
 
風音はフィリスのその言葉を聞いて安堵の溜め息をつく。
 
「でも、どういう事なんですか?急げって。」
 
望がパフェを食べるのを一旦中止して質問した。
 
「『龍』と『夜の一族』がこの街を包囲しているんです。実際、海鳴駅等の交通機関も抑えられてましたし。」
 

「「「!!」」」
 

風音、ことり、望はフィリスのその一言により何も言えなくなる。
 
「やはり……ですか。」
 
「困りましたね……。」
 
ことりはそう言って携帯電話を取り出して眞子に電話をかける。だが…
 
「あれ……電話が繋がらない。」
 
そう。電話が繋がらなくてツーツーと言う発信音しか聞こえてこない。
 
「どうやら中継局を押さえられたようですね。」
 
フィリスは冷静に言う。
 
「それって……やばいじゃないですか。はっ…わかば。」
 
望はそう言って翠屋を出た。
 
「桃子さん、最後の最後で慌しい別れになってしまいましたが…ありがとうございました。」
 
ことりも桃子に礼を言って望のあとを追う。
 
「私も行きます。担当医として心配ですし、それに…。」
 
フィリスも何かを言おうとしたが中断して望のあとを追う。そして、風音は…
 
「桃子さん。最後まで本当にすみません。それでは、行ってきます。」
 
「ええ、行ってらっしゃい。それと、絶対又来なさいよ。その時もブルマン奢るから。」
 
「はい。」
 
そう言って翠屋を出た。
 


PM6:20  海鳴市  山神教会
 
「……予想外の事が起こってしまいましたね。」
 
桐花はノート型パソコンの画面を見ながら一人呟く。
 
「どうかしました?」
 
「どうかしたの?」
 
そんな桐花にメイド服を着たショートカットの女性と金髪の少女 フランシアが声をかける。
 
「いえ…。少し予想外の事が起こってしまいましてね。」
 
桐花のその言葉に二人はパソコンの画面を見る。
 
「確かに……予想外の事ですね。」
 
「まあ、私達にしたら大した事はないけどね。」
 
「フランシア!!」
 
「あっ、失言だった。悪い。悪い。」
 
フランシアはそう言って謝る。そして……
 
「じゃあ、私が何とかするわ。あいつ等から意図的に意識を逸らせればいいんでしょう。」
 
フランシアはそう言って山神教会を出た。
 
「フランシアだけでは心配ですので私も行ってきます。」
 
「ええ。エリクシアをお願いします。」
 
桐花はメイド服を着たショートカットの女性 エリクシアにフランシアの事を頼んだ。そして…
 
「そろそろ……私も動きますかね。相沢くんたちが後1時間で佐伯邸に辿り着けなかったらアウトですから。」
 
桐花はそう言うとノート型パソコンの電源を切った。しかし…
 
「でも、フランシアは後でとっちめないといけませんね。私が集中して情報検索をしている時に私の髪を勝手に染めましたから。」
 
桐花は紫色に染まった自分の髪を見て呟いた。
 

そして、フランシア達は…
 
「フランシア…何とかすると言いましたがどうするつもりですか?」
 
フランシアはそれを聞いてニヤリと笑う。
 
「決まってるじゃない。戦いに行くのよ……あの男と。」
 
「あの男って……まさか。」
 
「そうよ……キョウヤ・タカマチよ。」
 
フランシアはそう言うと物凄い速さで月村家まで走る。
 
「あっ……待ってくださいよ〜。私、走るのは苦手なんですから〜!!(泣)」
 
エリクシアもそう言ってフランシアの後を追った。
 
 
to be continued . . . . . . .


 
あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。又、更新が遅くなってすみません。さて、今回のゲストは…。」
さくら「綺堂さくらです。今回は設定でしか名前が書かれなかった私のおじい様が初登場しましたね。」
菩提樹「ええ。いつかは登場させる必要があったのでそんなら今回出そうと思って…。」
さくら「私が最近登場してないのにですか?(怒)」
菩提樹「怒らないで下さいよ。これでも、頑張ってるんですから。」
さくら「遊は前回登場したのにですか。」
菩提樹「……色んな意味でごめんなさい。」
さくら「まあ、いいです。さて、次回は恭也くんが久々に戦うようですね。」
菩提樹「ようではなくて実際に戦います。」
さくら「上手く書けるのですか?」
菩提樹「頑張ります。それでは次回も宜しくお願いします。」
さくら「それ、答えになってませんよ…