3月30日―――AM  10:36  海鳴市  月村邸
 
怜とノエルの戦いが始まってから1分が経過した。だが…
 
「はあっ!!」
 
ヒュン!!
 
「てりゃあっ!!」
 
ヒュン!!
 
ノエルの攻撃は全て当たらずに空を切るばかりだった。それどころか…
 
「はじけろ!!」
 

ドン!!
 

「うわああああっ!!」
 

怜がノエルに向かって手をかざした瞬間、ノエルは吹き飛ばされた。
 
この戦いも七瀬側が圧倒的に有利という形で進んでいた。
 
「くっ…まだです。」
 
だが、ノエルは劣勢にも関わらず怜に向かう。
 

「忍お嬢様と恭也様の為にも…私は負ける訳にはいかない!!3・2・1・ファイエル!!
 

パシュ!!
 

ちょっとした炸裂音を立てて、ノエルの手が怜に向かって飛ぶ。だが…
 
「その攻撃はもう見切ってるよ。」
 

ガシッ!!
 

怜はそう言うとノエルのロケットパンチを素手で止める。
 
「なっ…ロケットパンチを素手で…。」
 
ノエルは驚愕する。
 
「君の今までの戦いのデータは全てボクの頭の中にある。高町恭也との模擬戦にイレインとの戦いも全て…だから、君ではボクには勝てない。」
 
怜は悟ったように言う。
 
「そして…これで終わりだよ。」
 

ヒュン!!
 

怜はそう言うとノエルの手をノエル本体に向けて投げた。
 

ガンッ!!
 

「ぐはあああっ…。し…忍お嬢様…き…恭也様…。」
 
怜の投げたノエルの手はノエル本体の腹部に突き刺さり、ノエルはその機能を完全に停止した。
 


 
Tear...
 
Story.30  Sanctuary
 

 
ノエルとの戦いから数分後…
 
「悪いけど…君のデータを調べさせてもらうよ。」
 
怜はそう言うと持ってきたトランクの中からノート型パソコンとケーブルを出す。
 
「うん。今回はエーディリヒとの戦いだったから必要ないと思ったけど…もしもの時を想定して持ってきて良かったな。」
 
そして、ケーブル(怜の開発したギガ・ワイヤー)を使ってノエルの頭とノート型パソコンを繋いでノエルの記憶を調べる。そして…
 
「うん、月村忍の居場所は…東京か。これは予想外だったな。」
 
怜がそう呟いたその時だった。
 
PURURURURURURU!!
 
『んっ、七瀬さんからか。ちょうどいいや。』
 
怜はそう言うと携帯電話をとる。
 
「はい、川澄です。月村忍がどこにいるのか分かったので今から連絡しようと思っていたところですが、助かります。」
 
                  ホーム
『ご苦労さん。それでは一回本拠地に戻ってきて。少しこれからの計画を立てたいから。』
 
「はい。でも、月村忍のことはいいのですか?居場所は分かりましたからいつでも倒しに行けますけど。」
 
『うん。それどころじゃなくなってきたから。』
 
「…そうですか。」
 
『じゃあ、本拠地で待ってるから来てね。貴女以外のQuartetは忙しくて戻れないからちゃんと来てね。』
 
「はい、分かりました。では、今から向かいます。」
 
PU!!
 
怜はそのまま携帯を切る。そして…
 
「じゃあ、桜花の所に行くか。もう勝ってると思うけど…。」
 
怜はそう言って桜花の元へと行くことにした。
 

 
AM  11:45  海鳴市  さざなみ女子寮  102号室
 
「…んっ。」
 
桐花は自室で目を覚ます。
 
「もうすぐ昼か…。」
 
そして、パソコンの電源を入れて受信メールをチェックする。
 
「あっ…来てる。」
 
彼女はそう呟くとそのメールを開く。其処には…こう書かれていた。
 
『昨日はお疲れ様。今日の任務だけど、翠屋に行ってくれない?今日は6時まで相沢祐一はいると思うから。PS 後、あそこのシュークリームは忘れずに買ってきてね。美味しいから。  by七瀬留美』
 
「……。」
 
桐花はメールを読んで呆然となる。
 
「…何考えてるのですか?」
 
桐花はそう呟きながら着替える。
 
「…でも、気を遣っているかもしれませんし行きますか。それに相沢くんに約束しましたからね。戦いが終わったら…私のことを教えてあげるって…。」
 
そして、着替え終わると自室をあとにする。
 
だが、さざなみ女子寮を出ようとしたその時だった。
 
「槙原さん…。何かご用ですか?」
 
ここの管理人である槙原耕介に捕まった。
 
「いや、今日も昼ご飯此処で食べないのかなって。」
 
「はい、食べません。」
 
桐花はそう言って表情を変えずにその場を立ち去ろうとするが…。
 
「ねえ、俺達と全然付き合おうとしないけど何でなの?」
 
「苦手だからです。」
 
「苦手…?」
 
「はい、私に干渉して来ますから。」
 
「でも、俺達はかぞ…。」
 
桐花はそこで間髪入れずに反論する。
 
「悪いけどそう言うのは迷惑です…。」
 
桐花はそう言ってさざなみ女子寮から出た。
 

 
PM  2:00  海鳴市   翠屋
 
「ふう、やっと…終わった。」
 
「みんな、お疲れ様。」
 
桃子はそう言うと風音達にアイスコーヒーを渡す。
 
「あっ、すみません。」
 
「ありがとうございます。」
 
「…今日もしんどかった。」
 
そう。風音達は今日のラッシュが終わったところだ。
 
そこで、小休止をとることにした。
 
「……。」
 
その中で風音は表情を変えずにアイスコーヒーを飲む。
 
「…風音さんどうかしました。昨日帰ってきてからずっとそうですけど…。」
 
望は気になって質問する。
 
だが…
 
「すみません。ちょっとそのことは…。」
 
風音は少し悲しげな顔になって質問を遮った。
 
「あっ…すみません。」
 
望もそんな風音の顔を見て何も聞くことが出来なくなる。
 
そんな風音を見てことりは…
 
(風音くん…いや祐一くん。やっぱ昨日のことが応えてるんだ。まあ、あんなことがあったらこうなるのが普通だけど…早く立ち直って欲しいよ。)
 
だが、その時だった。
 

カラン!!カラン!!
 
 
誰かが来たのかドアについていたベルが鳴る。
 
「あっ…すみません。今、少しお休み…。」
 
桃子がそう言おうとしたその時だった。
 
「すみません、桃子さん。その人を入れてください。」
 
ことりはそう言ってその客…桐花を招く。
 
「うん。いいけど…。1時間くらいはお客さんあまり来ないと思うし。」
 
桃子はそう言って了承した。
 
「ありがとうございます。」
 
ことりはそう言って礼を言った。
 

 
同時刻  海鳴市  山神教会
 
海鳴市に唯一ある教会  山神教会。ここが七瀬留美率いる組織「Sanctuary」の本拠地だった。
 
と言っても本当は仮だが…今ここには七瀬留美を含めて6人の少女がいた。
 
「昨日の矢後サイドビル水族館での戦いについてですが…。」
 
ショートカットにメイド服を着た女性は話を進める。
 
「桐花の報告によると彼は川澄舞と里村茜に関しての記憶しかまだ取り戻していないようです。」
 
「そう。その他には…。」
 
「ですが、妖狐化した沢渡真琴を倒したようです。」
 
留美はその言葉を聞いてニヤリと笑う。
 
「ふうん。やるね…。」
 
「以上、報告を終わります。」
 
メイド服の女性はそう言ってペコリと頭を下げて話を締めくくる。
 
だが、その時だった。
 
「それで、今後はどうするのですか?」
 
怜が留美に質問する。
 
「うん、そうね。次は…相沢をどうやってこの街から脱出させるかだね。」
 

「「「「「!!」」」」」
 

留美のその言葉で他の5人の表情が変わる。
 
「確かに昨日の戦いで祐一様の強さは『夜の一族』の上層部にも知られてしまったと思いますから…厄介なことですね。」
 
桜花は状況を分析して冷静に言う。
 
「ふん。それなら、あんな“成り上がり”だけじゃなく私達も直接動けばいいだけじゃないの?」
 
金髪にウェーブのかかった少女は過激なことを言う。
 
「フランシア、言葉が過ぎますよ。」
 
メイド服の女性はそう言ってそう言って金髪の少女 フランシアを注意する。
 
「悪かったわよ。でも、みんなそれを願ってるんじゃないの?」
 
「確かにそうだけど今はまだその時じゃないし、それに…ヘタにこちらから動くのはまずい。」
 
留美はそう言ってフランシアの意見の的を突く。
 
「うっ…。」
 
フランシアはその言葉に反論することが出来なかった。
 
「それよりも決めますよ。今後どうするのかを……。」
 
6人の中で一番口数に乏しかった黒の長い髪の女性が話を元に戻す。
 
「ああ、ゴメンゴメン。じゃあ、話を元に戻すけど…。」
 
こうして6人の話し合いが再開された。
 


PM  2:05  海鳴市   翠屋
 
「あっ、良かったらこれ飲んでね。」
 
桃子は席に着いた桐花にアイスティーを渡す。
 
「はい、ありがとうございます。」
 
桐花は表情を変えずに礼を言う。そして…
 
「では、話してくれませんか?雨流桐花さん…貴女のことを。」
 
桐花とは反対側の席に座る風音とことりは桐花に尋ねる。
 
「ええ、いいですけど。では、どこから説明すればいいですか?」
 
「では、聞きます。貴女と昨日水族館を壊した少女 水瀬名雪さんとの関係を教えて下さい。」
 
ことりは間髪入れずに質問した。
 
「名雪との関係ですか?」
 
「はい、そうです。」
 
ことりは更に問い詰める。そして、そんなことりの様子を見て桐花はクスッと笑う。
 
「分かりました。簡単に言えば前いた学校の同級生で部活仲間ですね。私が陸上部の副部長で彼女が部長でした。」
 
「それで部長、副部長と呼び合っていたのですか。なるほど。」
 
風音は納得した顔で言う。しかし…ことりは違った。
 
「でも、それなら何故お互いに憎み合っているのですか?普通同じ部活に籍を置く者同士…仲間じゃないんですか?」
 
「貴女の言うことは最もです。でも、私達の関係は元から仲間と言えるものではなかったんですよ。いや、むしろ敵同士と言った方が正しいですね。」
 
桐花はことりの疑問にあっさりと答える。
 
「あの人、部長なのに自分の仕事を私に押し付けてさぼったり、よく遅刻して部活をさぼることがありましたから。それを顧問の教員に言えば逆恨みして攻撃してきましたし…。」
 
ことりはそれを聞いて何も言えなくなり質問を変えることにした。
 
「じゃあ次の質問ですが…彼女のあの言葉はどういう意味なんですか?あの時「『ゲーム』で私を殺してくれた恨み1億倍にして貴女に返してやるんだお〜!!」と言ってましたけど。」
 
ことりの質問を聞いて桐花は目の色を変える。
 
「そのことですか…。それはそのままです。殺したんですよ。1ヶ月前の華音市の『ゲーム』で彼女を…水瀬名雪を。」
 

「「!!」」
 

桐花のその告白により風音とことりは驚愕した。
 
「…と言いましても正当防衛ですけどね。その時の彼女は完全に正気を失っていましたし。それに、私が彼女を殺さなかったら彼が…相沢くんが彼女に殺されていましたから。」
 
「……。」
 
ことりはそれを聞いて何も言えなくなった。最初は怒りが湧いたが理由を聞いて怒りが失せたのだ。そして…
 
「でも、何で死んだ筈の水瀬名雪さんがいまだに存在しているのですか?」
 
風音はここで質問した。
 
       ネクロマンシー                                               ネクロマンサー
「それは…死体蘇生術のせいですね。『夜の一族』の七頭目の一人 久瀬家の黒葉は死体蘇生術師ですし。昨日貴方達が戦った沢渡真琴も名雪も恐らくは…黒葉によって。」
 
だが…その時だった。
 
「それって…僕の記憶を奪った『夜の一族』なんじゃ…。」
 
「「えっ…。」」
 
ことりとその側にいた望はそれを聞いて驚く。そして、桐花は…。
 
「確かに黒葉なら…考えられますね。彼は簡単に相手を殺さずに徹底的に苦しめてから殺すという『夜の一族』で最も残忍な部類に属してますから。」
 
納得する。
 
「では、次に一番聞きたいことなのですが…昨日何で風音くんにキスしたのですか?」
 
ことりはそう言って風音を睨みつける。
 
「……!!」
 
ことりのその質問により望はショックを受ける。そして…
 
「ちょっ…それどういうことなのですか?風音さん説明して下さい。」
 
望は風音に食って掛かる。
 
「え、えっ?そんなこと僕に聞かれても…。」
 
風音はどうすればいいのか分からず困惑する。だが…
 
「人工呼吸ですよ。あの時なかなか目を覚まさなかったので…。」
 
「えっ…。」
 
「そういうことだったんですか…。」
 
望とことりは桐花のその一言で何も言えなくなった。
 

そして数分後…
 
「ごめんなさい。」
 
「風音さんすみません。」
 
二人は風音に謝罪した。
 
「いえ、別にいいですけど…。」
 
風音はそんな二人を簡単に許す。しかし、そんな風音を見て桐花は…
 
(記憶を奪われても誰にでも優しいところは相変わらずですね。)
 
と思いクスッと笑う。
 

そして、そんな彼女達を見ていた桃子は…
 
(あの娘も風音くんのことが好きみたいね。少し変わった娘だけど、望頑張りなさいよ。)
 
心の中で望を応援していた。
 

 
同時刻   海鳴市   佐伯家中庭
 
風音達が桐花と話し合っていた頃佐伯家の中庭では、芳乃さくらと金剛・片銀の戦いが行われていた。
 

「ゴールド・フィンガー!!」
 

  ぎんせんか
「銀旋渦!!」
 

金剛と片銀は同時にさくらを攻撃するが…
 
「甘いよ。」
 

「「ぐわああああああっ!!」」
 

ダメージを受けたのはさくらではなく、攻撃を仕掛けた金剛と片銀の方だった。
 
「く…くそう。」
 
「何故だ…直接攻撃の筈なのに跳ね返される。」
 
金剛と片銀は傷口を押さえながら立ち上がる。
 
「へえ、流石は腐ってても『夜の一族』だね。こんな傷でも立ち上がることが出来るなんて。でもね…君達では魔女の血を引くボクには勝てないよ。ボクの『反転魔法陣』を破らない限りね。」
 
                               ターニング・サークル
さくらがそう言った瞬間…さくらが立っていた場所に『反転魔法陣』が現れる。
 
「これは早ければ早いほどそして強力ならば強力なほどその力は攻撃した本人に還っていく魔法陣さ。まあ自業自得の魔法陣と言ってもいいかもね。」
 
さくらはそう言ってフッと笑う。
 

「ふ…ふざけるな!!何が自業自得だ。ゴールド・ラッシュ!!
 

                              ぎん    しょうげき
「そうだ。そんなもの破壊すればいいだけだ!!銀の昇撃!!
 

片銀が地中から魔法陣を破壊し、金剛が上空から黄金の雨を降らしてさくらを攻撃する。
 
「「ふっ…勝った。」」
 
二人は自分の勝利を確信する。だが…
 

「「ぐわああああああっ!!」」
 

ダメージは再び自分達に還ってきた。
 
「ば…馬鹿な。」
 
「ま…魔法陣は破壊したのに何故。」
 
二人はそう言って倒れる。そして…
 
「ち…畜生。まだ七瀬さんに…。」
 
「な…七瀬さん。」
 
二人はそう言うと塵となりそのまま消滅した。
 
「地に描いた魔法陣はフェイクさ。そんなことにも気付かないとは…本当に馬鹿だね。」
 
そう。地に描かれた魔法陣はフェイクで本物は彼女の右腕に描かれていた。
 
「さあ、行こう。この調子だと佐伯さんが危ない!!」
 
さくらはそう言うと佐伯邸へと走った。
 
 
 
 
to be continued . . . . ..



あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。卒論の提出やバイトの残業続きが原因でかなり更新が遅くなってすみません。と言う事で今回のゲストは〜!!」
斉藤「影人もとい斉藤だけど…今回も又色々あったな。」
菩提樹「ええ。桐花と名雪の因縁が分かりましたし、さくらが初めてバトルしましたからね。」
斉藤「でも、雨流には腹立つな。あそこまで水瀬さんを悪く言うとは…。」
菩提樹「そう言えば貴方名雪さんの事が好きだったんですよね。」
斉藤「まあな。だから、あの女は許さん。」
菩提樹「おおっ!!宣戦布告ですね。」
斉藤「ああ。でも、金剛と片銀は…『ONE〜輝く季節へ〜』のあいつ等だって絶対分かるぞ。」
菩提樹「やっぱり分かりますか?」
斉藤「ああ。特に『AirRPG』をプレイした事のある人間にはモロバレだぞ。」
菩提樹「やっぱしですかね?」
斉藤「ああ。」
菩提樹「すみません。次回からは気をつけます。それでは又〜。はあ。(溜め息)」
斉藤「あ〜あ。完全に落ち込んでるな。」