3月29日―――PM5:59  矢後市  矢後サイドビル水族館  司令室前の通路
 
「くっ…しつこい!!」
 
 
      あまきり
「くっ…雨斬!!
 
 
二見姉妹はBERSERKERウィルスに感染した鮫と戦っていた。と言っても実際に戦えるのは茜の能力を使える美魚だけだったので、苦戦していた。だが…
 
「美魚、そっちからホオジロザメがいるから気を付けて。それと、右側にハンマーヘッドが待ち構えているから噛まれないように。」
 
真魚の的確な読みにより徐々に二美姉妹が有利になっていった。
 
「うん。OK、お姉ちゃん。」
 
的確な読みの真魚と攻撃の美魚。
 
そして30秒後、絶妙なコンビネーションで通路にいた鮫は全滅した。
 
「…ふう。やっと片付いた。」
 
「…うん。でも、この先にある司令室にいなかったら…。」
 
真魚はそう言って暗い顔になる。
 
「お…お姉ちゃん大丈夫だよ。風音さん達はきっと、司令室にいるよ。」
 
「うん…。私もそう信じたい。でも…いなかったら。」
 
その時だった。
 
「安心しろ。カザネはお前等の向かっている司令室の中だ。」
 
「「えっ!?」」
 
前から聞き覚えの無い声が聞こえた。
 
美魚と真魚はそれに反応して前方を凝視する。其処には…黒い帽子に黒い服を着た背の短い少女が立っていた。
 
「貴女は…。」
 
「一体何者ですか?」
 
美魚と真魚は黒い帽子に黒い服を着た背の短い少女に尋ねた。
 
        プレッシャー
彼女が発する威圧感に圧倒されながら…。
 

Tear...
 

Story.27 妖狐との戦い(中編)
 


それから数分後…
 
「悪いけど今は時間が無いので名乗れないけど…安心しなよ。カザネの敵じゃないから。」
 
「えっ…貴女、風音さんを知っているのですか?」
 
「ああ。でも、話を続けるぞ。」
 
少女…ソフィア・ヴァレンティーヌは美魚の質問に頷いて話を続ける。
 
「この奥の部屋にカザネとコトリ…そしてお前等を此処に連れてきた奴がいる。そこで今、カザネとコトリはお前等を此処に連れてきた『夜の一族』と戦っている。多分、彼等ならお前等を誘拐した奴を倒せるかもしれんが、時間が無い。短時間で倒すのはいくらあいつ等と言えども至難の業だ。だから、急いで助太刀に行ってくれ。」
 
ソフィアはそう言って先の通路を指差す。
 
だが、その時だった。
 
「私もですか…?」
 
真魚は手を上げて質問する。
 
「ああ。そうだけど…。」
 
「美魚なら分かりますけど…戦う力の無い私が行ったところで足手纏いにならないのですか?」
 
ソフィアは真魚のその言葉を聞いてフッと笑う。
 
「ならないよ。あんたの的確な読みはサポートに適しているから。」
 
そう言って真魚の肩をポンと叩いた。
 
「と言う事で早く行け。此処もそう長くはもたない。」
 
「はいっ!!」
 
「ありがとうございます!!」
 
美魚と真魚はソフィアに礼を言って司令室まで走った。
 

「ふう…世話の焼ける姉妹だな。」
 
二見姉妹が去った後ソフィアは一人で呟く。だが…その時だった。
 
PURURURURURURU!!
 
ソフィアの携帯電話が鳴り出した。相手先は『橘 勤』と表示されていた。
 
「はい…私だけど…。」
 
ソフィアは無表情で電話を取る。
 
『ああ、ソフィアちゃんか。すまんな、忙しい時に。』
 
「別に…でも、そろそろカザネのところに行きたいから手短にね。」
 
『ああ、その事だけど…今すぐこっちに戻ってきてくれへん?』
 
「…どういう事?まだ、戦いは終わってないのに。」
 
『ああ、確かにまだ戦いは終わっとらん。でも、このままいたら危ないんや。』
 
「分かり易く説明して。いきなりそんな事言われても理由を説明してくれないと納得できないから。」
 
『じゃあ、聞くけどさっきと変わった事はあらへんか?理由はそれや。それではさいなら〜。』
 
PU!!
 
勤からの電話はそこで切れた。
 
「さっきと変わったことだと…。館内の温度が少しずつ下がっているくらいだが…。」
 
その時だった。
 
「まさかだと思うが…。」
 
辺りに散乱していた鮫の死骸が凍り漬けになっていた。
 
「あいつが来てるんじゃ…。」
 
彼女の顔に一人の少女の顔が浮かび、ソフィアは戦慄する。
 
「もしこれが…あいつの仕業だとしたら、ツトムの言ったとおり早急に立ち去った方がいいな。雨流がいるだけでもヤバいのに私までがこのままいたら大変な事に…。」
 
ソフィアはそう言うと出口に向かって走った。
 

 
PM6:00  矢後市  矢後サイドビル水族館  司令室
 

風音と真琴の戦いが始まってから三分が経つ。
 

         こえんそう
「死ねっ!!狐炎爪!!
 

「くっ!!」
 
真琴は「狐火」の能力で炎の爪を作って攻撃するが、簡単にかわされる。しかし…
 
「あぅ〜っ!!あんたいい加減に攻撃しなさいよ。」
 
真琴の苛立ちは募るばかりだった。
 
「…嫌です。僕は美魚さんと真魚さんを助ける為に此処に来たんです。貴女と戦う為に此処に来たんじゃない。」
 
風音もそう言って一歩も引きさがらない。
 
二人の戦いを見てことりは…
 
「何で風音くんは彼女を傷付けないんだろう。普通に戦っても勝てない相手じゃないのに。」
 
呟きながら考える。そして…周りを見て気付く。
 
「…そうか。そういう事か。だから、風音くんは彼女を攻撃しないんだ。」
 
ことりは風音が攻撃しない理由に気付いたその時だった。
 
「もう、ブチ切れた…。なら…真琴と戦いたくなるようにしてあげるわ。」
 
真琴はそう言うと手をことりに向ける。
 

                                    かじつしん
「あんたもターゲットだからね。だから……恨まないでね。火実身!!
 

その時炎がことりを取り囲み、数秒後炎は真琴になった。
 
「行けっ…真琴のコピー。」
 
「あぅ〜っ!!」
 
コピーの真琴はことりに襲い掛かる。
 
「くっ…出でよ。旋律を奏でし剣 「風雅」!!」
 
それに対してことりも風雅を出して応戦する。
 
「くっ…ことりさん。」
 
「ほらほら。いい加減攻撃しなさいよ。じゃないとあの女が死ぬわよ。あの真琴のコピーを消すには真琴が気絶させるか殺すしか方法が無いんだから。」
 
真琴はそう言って風音を挑発する。だが…
 
「風音くん。私は大丈夫ですから…風音くんは自分の戦いに集中してください。」
 
ことりはそう言って風雅を床に突き刺す。
 

                   ふうか
「姫神流 「攻」の章九の曲 風花!!
 

コピーの真琴の下から無数の衝撃破が現れて彼女を切り裂く。
 
「あ…あぅ。」
 
コピーの真琴は断末魔の声をあげて倒れた。
 
「こ…ことりさん。」
 
「だから、言ったじゃないですか。私は大丈夫ですって。」
 
ことりは笑顔でそう言うと風雅を鞘に収めた。
 
「さて…自慢のコピーは倒しちゃいましたしどうします?」
 
そう言って真琴の前に進む。
 
だが、当の真琴は…。
 
「それで…真琴に勝ったつもり?なめないでくれない。」
 
そう言うと印を結んで呪文を唱える。すると…コピーの真琴が再生して再び立ち上がる。
 
「あぅ〜っ!!」
 
コピーの真琴は唸ってことりに殺意をぶつける。
 
「…やられましたね。再生するとは計算外でした。」
 
こうしてことりとコピーの真琴との戦いが再開された。
 

「どうやらこれで振り出しね。じゃあこっちも行くわよ。」
 
真琴はそう言うと風音に攻撃を仕掛ける。だが、風音は相変わらず攻撃を避けてばかりで攻撃をしない。
 
「あんた…いい加減に攻撃しなさいよ。じゃないとボコボコにぶちのめすわよ。」
 
「分かりました。そこまで言うのならいきます。でも、これだけは言っておきます。貴女じゃ僕には勝てない。」
 
真琴の言葉に対して風音は冷静に言う。
 
「何ですって?」
 
「貴女の高い攻撃力は確かに脅威だ。でも…。」
 

パアン!!
 
「あぅ〜っ!!」
 
風音は攻撃を避けた時の反動を利用して真琴の頬を叩いた。
 
「その分隙が在り過ぎる!!それに…今ので50%です。だから言ったんですよ。貴女では僕には勝てないと。」
 
真琴は数メートル吹っ飛ばされて気絶した。そして…
 
「あぅ〜っ。ま…真琴の身体が…消えちゃう…消えちゃうよ〜!!」
 
真琴が気絶したと同時にコピーの真琴も消滅した。
 


PM6:05  矢後市  矢後サイドビル水族館  司令室
 
真琴との戦いが終わってから5分が経った。
 
「何とか終わりましたね。後は、美魚さんと真魚さんを助けて終わりですね。」
 
「そうですね。でも、どの部屋に監禁されているのか分かりませんよ。全部の施設を回れればいいのですが、それは無理ですし…。」
 
「そうですね…。この建物が崩壊したらアウトですからね。」
 
風音とことりは二見姉妹の事で頭を悩ませる。しかし、その時だった。
 
「はあはあ、やっと見つけました。」
 
「良かった。神楽さん達も無事で。」
 
「み…美魚さんとま…真魚さん。どうしてここに…?」
 
風音は驚きを隠さずに質問する。
 
「あっ、風音さんすみません。私達の所為で…。」
 
「いえ、それはいいんですけど…どうしてここに。」
 
「捕まってましたけど脱走しました。能力を使って。」
 
美魚は笑顔で風音の質問に答える。
 
「の…能力って。」
 
「茜さんからいただいた能力です。ほら…。」
 
美魚はそう言って秋雨を出して自分の能力を見せる。しかし…その時だった。
 
 
「アカネ…。サトムラ…アカネ…。あの雨の日に誰もいない空き地で出会った人…。」
 
風音はそう呟きながら頭を抱えて倒れそうになった。
 
「だ…大丈夫ですか?」
 
「し…しっかりして下さい。」
 
美魚と真魚は慌てて風音の側に駆け寄った。

「大丈夫です…。少し気分が悪くなっただけですから。それに、もう平気ですから…。」
 
風音はそう言って頭を押さえるのを止める。
 
そんな風音の様子を見て美魚は安堵の溜め息をつく。だが…
 
「本当に大丈夫なのですか…?」
 
真魚の表情は変わらずそのままだった。そこで…
 
「はい、本当にもう大丈夫です。ですから、心配しないで下さい。」
 
風音はそう言って笑顔で真魚の肩を軽く叩いた。
 
「はっ、はい…。」
 
風音の笑顔を見て真魚はようやく笑顔になった。少し顔が赤く染めながら。しかし…それを見ていたことりと美魚が不機嫌な顔になっていたのは言うまでも無い。
 
「あのう、二人ともどうしました?」
 
風音は一応尋ねるが…
 

「「知りません!!」」
 

と怒鳴られた。しかし2人の本心は…
 
((羨ましい。))
 
だった。
 
そして真魚はそんな風音を見て…
 
(鈍感です。)
 
と心の中で思った。
 

 
だが、その時だった。
 
「こ…殺す。殺してやる…。」
 
気絶した筈の真琴が立ち上がったのである。
 
「えっ?馬鹿な。何でこうも早くに…。暫くは起き上がれない筈なのに…。」
 
風音は動揺する。そして…
 
「これだけは使いたく無かったけど…もういいや。あんた達を殺せるのなら…。」
 
ポケットから注射器を取り出した。
 
「まさか…それは。」
 
「『BERSERKER』ウィルスよ。と言ってもこの施設に散布したものと同じとは思わないでよ。黒葉特製の何十倍も強力なやつだから。」
 
「…駄目です。それを使っては…。」
 
風音は真琴の元に走るが、間に合わなかった。
 
「あんた達が悪いのよ…真琴の邪魔をするから。あんた達がいなければ…。」
 
真琴がそう言った瞬間、煙が真琴から吹き出て何も見えなくなる。
 
数十秒後煙は晴れたが…其処にいたのは真琴ではなく狐の耳に尻尾を生やした長い赤い髪の女性だった。
 

「はあああああああっ!!」
 

そして、赤い髪の女性いや、妖狐と化した沢渡真琴は咆哮を上げて風音に襲い掛かる。
 
 
                         そうらん
「こ…このままじゃいけない。そ…奏乱!!
 
 
ことりは風音の元へと急ぐが…間に合わなかった。
 

ゴッ!!
 
「うっ!!」
 
そして、風音は真琴に頭を掴まれそのまま床に叩きつけられた。
 
「…さっきの攻撃が50%の力と言ったわね神楽風音。ならば お前はもはやわらわには勝てん!!」
 
真琴はそう言って無理矢理風音の身体を起こし、壁に向かって投げつける。
 
「うわあああっ!!」
 

ドン!!
 
風音はそれに対して受身を取れずに壁に激突し倒れた。そして、その時の衝撃で風音の付けていた眼鏡は破壊された。
 

 
同時刻   海鳴市  ファミレスWest  Town
 
風音達が真琴と闘っていた頃West Townでは…
 
「始まりましたね。彩奈さんの息子と『妖狐の姫君』となった沢渡真琴との闘いが…。」
 
「ああ…。」
 
彩と杉並がコーヒーを飲みながら話し合っていた。だが、杉並の方はいつものように元気が無くコーヒーにも全然口をつけていなかった。
 
「不安ですか…。どうなるのか…。」
 
「……。」
 
彩の質問に杉並は答えない。
 
「…いつもの貴方らしくありませんね。まあ、当然と言えば当然ですか。何しろ彼は…風音さんは朝倉さんだけでなく杉並さんにとっても親友ですからね…。」
 
「……。」
 
杉並は何も言わない。しかし、少し時間が経ってようやく口を開く。
 
「月代嬢…。」
 
「何ですか?」
 
「この戦い……どういう結末になると思う?」
 
杉並は少し暗い顔で彩に質問した。
 
「最終的には彼等が勝つと思います…でも…。」
 
「彼女を救う事は出来ない…だろ?」
 
「ええ、そうです。『夜の一族』がそういう風にシナリオを書きましたから。」
 
「だろうな…。俺も何度も考えたが、その答えしか出なかった。」
 
「でも、そうでもしないと彼は先へ進む事が出来ません。彼にとってこれは超えなければいけない最初の関門ですから。」
 
「……。」
 
「杉並さん。彼なら大丈夫ですよ。彼は…そう簡単に死なない人ですから。」
 
それを聞いて杉並はフッと笑う。
 
「そうだな…。あいつなら大丈夫だよな。あいつは誰よりも逆境に強い奴だからな。」
 
杉並はそう言ってようやくコーヒーカップに口をつけた。
 
【水族館崩壊まで後15分】
to be continued . . . . . . .
 

 
あとがき
 
菩提樹「どうも最近ヒロさんのSSが恋しく思うSS作家 菩提樹です。卒論に追われてて完成までに時間がかかっちゃいました。すみません。さて、今回のゲストは…。」
勤「橘勤や。やっとわいの出番やな。」
菩提樹「と言っても霧島先生と同じく電話での登場ですが。」
勤「書いた張本人が言うな!!」 バシッ!!(ハリセンで菩提樹を叩く)
菩提樹「い…痛い。だって仕方が無いじゃん。」
勤「どう仕方が無いんや。ちゃんと説明せい!!」
菩提樹「君の『ちから』がまだ決まってないんですよ。」
勤「えっ?わい…このSSでは能力者なんか?」
菩提樹「ええ。原作では普通の人でしたが、このSSでは望さんやわかばさんと同じく能力者として登場させます。」
勤「そっか悪かったな。でも、本格的な登場は早めにな。」
菩提樹「善処します。まずは矢後市編の方を完結させたいのでその後という事になりますが…。」
勤「まあ、それでええわ。」
菩提樹「と言う事で次回もよろしくお願いしま〜す。」
勤「でも、風音ピンチやん。次回はどうするんや?このまま行ったらヤバイで。」
菩提樹「それに関しては企業秘密です。」