3月29日―――PM5:30 海鳴市 翠屋
風音とことりが矢後サイドビル水族館で戦っていた頃翠屋では…
「はい、イチゴケーキとホットコーヒーですね。少々お待ち下さい。」
「はい、ブルーベリーチーズケーキとレモンティのセットで980円になります。」
わかばと美由希が接客でてんてこまいで桃子は厨房で品切れになったシュークリームとブルーベリーチーズケーキを作っていた。
翠屋は相変わらずの大盛況であった。
そして…
「はい、お待たせしました。チーズケーキとダッチコーヒーのセットです。」
ことりと眞子が抜けた為急遽恭也の親友である赤星勇悟が翠屋の仕事を手伝っていた。
「な、何で俺が…。」
勇悟は今の自分に涙する。
「勇悟さんすみません。ことりさんと眞子さんが今日は休ませてくれって電話があったので。」
「それに神楽さんもちょっとここの所働き過ぎでしたので…。」
美由希とわかばが謝る。
「いや、いいよ。他ならぬ高町の頼みだし…。あっ、又お客が来た。いらっしゃいませ。」
勇悟はそう言ってお客を迎える。そのお客は芳野さくらだった。
「あっ、わかばちゃん。やっほ〜。」
さくらはそう言って元気良く手を振る。
「あっ、芳野さん。こちらこそお久し振りですわ。」
それに対してわかばも丁寧に挨拶をした。そして、空いている席を見つけて座った。
「注文は何にしますか?」
わかばはさくらに注文を聞く。
「そうだね。じゃあレモンティーとキャロットケーキをお願い。後、わかばちゃんもちょっと来てくれない?話したい事があるから。」
「かしこまりましたわ。」
わかばはそう言ってオーダーを取った。そして、わかばも休憩を取ってさくらの隣の席に座った。
「芳野さん。昨日の風音学園の転入試験の結果はどうなりましたの?」
「うん。その事だけど…全員合格したよ。」
「そうですか。良かったですわ。」
「うん。でも…問題はこの街をどうやって風音市まで行くかという事だよ。」
テリトリー
「そうですわね。わたくしも休みを利用して調べて分かった事ですが、関東全域が『夜の一族』の領域ですからね。だから、もし仮にこの街を上手く脱出出来ても東京を必ず通る必要はありますが、そこで刺客を送ってくる確率が高いですわ。」
わかばはそう言うと思案顔になる。
「まあ、其処の所は暦先生と相談して何とかするよ。」
さくらはそう言うとレモンティーを飲む。
「でも、佐伯さんの件はどうなりました?」
「ああ、その件は風音くんが本調子になり次第仕事に復帰してくれるという事で何とかなったよ。」
「でも…神楽さんは凄いですね。あの後聞きましたが、佐伯さんの音楽会社で作曲の仕事もしていたとは…。」
「うん、だから彼女の説得は大変だったよ。」
さくらはそう言って溜め息をついた。だが、その時だった。
パリン!!
厨房から何かが割れた音が聞こえた。
「あれ、どうしてだろう?何もしてないのに?」
「母さん、どうしたの?」
美由希が桃子の元に駆け寄る。其処には…割れた3つのカップがあった。
「…昨日風音くんとことりちゃんと眞子ちゃんの為にカップを買ったから、それで今日プレゼントしようと思ってこの棚の上に置いたんだけど…それがいきなり落ちて…。」
「えっ…。」
美由希はその有様を見て何も言えなかった。だが、不安は感じた。
(何でかしらないけど…凄く嫌な予感がするよ。風音さん、ことりさん、眞子さん…大丈夫だよね。)
Tear...
Story.24 約束は破られて…
PM5:33 矢後市 矢後サイドビル水族館 中央ホール
「ここもですね…。」
血に染まった中央ホールを見て風音は溜め息をつく。
「ええ。ここもやられていますね。『死神』に。」
ことりがそう言ったその時だった。
バリン!!バリン!!バリン!!
通路の特殊ガラスが割れる音が聞こえてきた。そして…
ドドドドドドドドドドドドドドド!!
水が流れる音が聞こえてきた。
「これは…。」
「恐らくは火薬か何かで水槽を割って鮫等を開放させたみたいですね。ある程度は予想していましたが…本当にやるとは思っていませんでした。」
風音は冷静に言う。
「そうですね。でも、一番怖いのは…。」
「館内に水が充満してこの水族館そのものが崩壊する事ですね。」
「やっぱし…なら…。」
「ノンビリしている時間はありませんね。」
「そうですね。急がないと。」
だが、その時風音はことりを見てある事に気が付く。
「ことりさん…身体は大丈夫なのですか?まだあれから30分くらいしか経っていませんからあまり無理しないで下さいよ。」
「えっ…。」
ことりは風音のその言葉を聞いて赤くなるが…暫く経ってから笑顔で言った。
「大丈夫っすよ。私達『呪われた子供』は普通の人達とは違って身体のダメージの回復が早いですから。さっき受けた傷くらいならもう治ってますよ。」
ことりはそう言って自分の胸をドンッと叩く。
「それでは…行きますか。」
「はい。」
二人はそう言うと中央ホールを後にする。
PM5:35 矢後市 矢後サイドビル水族館 通路
バシャバシャバシャバシャ!!
通路はブレーカーがやられたのか電気がついておらず真っ暗だった。そして、水槽も割れていて通路は水浸しであった。だが、風音とことりは構わずに進む。
「でも、黒幕は何処にいるのですかね?」
「そうですね。ある程度の部屋は見て回りましたが、人っ子一人いませんでしたしね。」
「でも、おかしくありません。今日は定休日なのに…。」
ことりのその言葉に風音はハッとなる。
「確かに…変ですね。ここまで来たら普通は誰かがいるのが普通なのに。」
風音がそう言ったその時だった。
ヒュン!!
いきなり風音に向かって攻撃が来た。
「ちっ!!」
風音はそれを間一髪で避けるが…その過程である事に気付く。
「…?まさか。」
そう。彼が攻撃を避けた瞬間に目に映ったのは…鮫だった。
「何で鮫が…。まさかガラスが割れた時に…でも、何かおかしい。鮫がこうも攻撃的だなんて。」
鮫に違和感を覚えたその時だった。
他の鮫達も風音とことりに気付き一斉に二人に襲い掛かる。
「くっ…確かにこうなる事は分かっていたけど、本当に怖いのは…この溢れている水でこの水族館が崩壊する事ですね。」
「そうですね…。それに今のこの状態から見て後…45分が限界ですね。」
「そうと分かれば…。」
「一秒でも早く二見さん達を助けてこの建物を脱出する。」
二人はそう言うと鮫を凝視する。そして…
キシャアアアアッ!!
一匹の鮫が風音に襲い掛かるが…
「てりゃああっ!!」
顎に蹴られて気絶した。そして…
「ことりさん。鮫達に剣で攻撃するのは自殺行為です。だから、打撃系を主体でこの通路を突破しましょう。」
「そうですね。血を流す攻撃は彼等の闘争本能を刺激しますからその戦法を取った方がいいですね。」
ことりはそう言うとコクンと頷く。
「じゃあ、行きますか。でも…ことりさんって素手で大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。素手での格闘技は眞子ちゃんに教わりましたから。と言っても蹴りだけですけどね。」
ことりはそう言うと自分に攻撃を仕掛けてきた鮫を蹴り倒す。
「どうやら…心配無用のようですね。じゃあ、行きますか。」
「はい。」
二人はそう言うと自分達に攻撃を仕掛けてくる鮫達を全部蹴り倒し通路を脱出した。
だが、この時二人はまだ気付いていなかった。
『人魚の堅牢』のカードに書かれている人魚の絵が絶命した人魚の絵に変わっている事に。
PM5:38 矢後市 矢後サイドビル水族館 司令室
風音とことりが鮫の生け簀と化した通路を脱出したその頃…
「あう〜っ!!どうやらあいつ等鮫を放し飼いにした通路は脱出したみたいね…でもその通路の先の『信奉者』は強いわよ。BERSERKERウィルスに感染した鮫よりもね。」
真琴は後42分でこの水族館が崩壊すると言うのに全然危機感を持たずにワクワクしていた。
「シカシ…マコトサマ。コノタテモノハアト42フンデホウカイシマスガ。」
狐は真琴に言う。
「大丈夫よ。真琴の能力は『狐火』なんだから。」
そう言って、再び肉まんを食べる。
「それと昨日捕らえたあの姉妹だけど…。」
「ハイ…?」
「もう必要価値が無いから彼女達がいる部屋に水を集中的に流して殺して。」
「エッ…ソレデハヤクソクガ…。」
「いいのよ。約束なんて最初っから守るつもりなんてないんだから。」
真琴はそう言うとクククッと笑う。
「シカシマコトサマ。ナンノチカラモナイアヤツラナドホオッテオイテモ42フンゴニハシヌノデハ…。」
狐はそう言うが…
「うん。確かにそうよ。でも…自分の手でちゃ〜んと叩き潰しておかないと不安じゃないの。それに…約束は破る為にあるんじゃないの。と言うよりも約束を破るのが私達『夜の一族』の常套手段なんだし。」
真琴はそう言って開き直る。そして…
「見てなさいよ。神楽に白河。あんた達に最悪の地獄をプレゼントしてあげるから。」
真琴はそう言うと笑った。
同時刻 矢後市 矢後サイドビル水族館 西館から本館へ行く通路
その頃桐花は…もう足元まで水に浸かっている西館から本館へ行く通路で女性の『信奉者』と戦っていた。
「行けっ!!我が下僕達。あの女を切り裂け!!」
キシャッ!!
そう鮫に命じて攻撃するが…ジャンプして攻撃を避ける。そして…。
ひらいだん
「甘いです。秘術・飛雷弾!!」
桐花はそう言ってベレッタM92Fから電気を帯びた弾丸を鮫に向けて撃った。
ギャオオオオオッ!!
電気を帯びた弾丸は鮫に命中して鮫はプスプス焦げて絶命した。そして、弾丸による電気は帯電して通路全体に伝わる。
桐花が着地した時には、もう桐花と『信奉者』の二人だけになっていた。
「チッ…やるじゃないの。一撃で鮫達を全滅させるなんてね。」
女性の『信奉者』はそう言ってクククッと笑う。
「余裕ぶるのももう止めたらどうです。貴女の能力はもう使い物にならないのですから。」
それに対して桐花は冷静な顔で言った。
「そうね。私 ティエル・スーラの能力は『操作』だから確かに操れる物が無いと役に立たない能力よ。でもね…なめないでくれる。私が『操作』出来るのは…生物だけだと思ったら大間違いよ。」
ティエルはそう言うと目を閉じて意識を集中させる。その時だった。
ヒュン!!
「!?」
割れたガラスの破片が桐花に向かって一斉に飛んできた。
「ちいっ!!」
桐花はそれをギリギリのタイミングで全部避けたが…。
「甘いわよ。」
ティエルがそう言うとガラスの破片はUターンをして再び桐花を襲った。
(クッ…。このままじゃ埒があかない。こっちは早く相沢君に会いたいのに…。こうなったら一気に決める。)
そして、桐花はバッグから呪符を一枚取り出す。
てんそうきょう
「悪く思わないでね。秘術・転送鏡!!」
桐花はそう言うと呪符を大きな鏡に変えてくぐり消えた。
「チッ、逃げたか。七瀬留美の仲間のくせに腰抜けだな。だが、まあいい。これでも勝った事になるから私の地位は確実に上がる。」
ティエルはそう言って笑うが…その時だった。
「逃げる…?馬鹿言わないで下さいよ。」
「何っ?」
ティエルはそう言って後ろを振り向くと其処には…桐花がいた。
「貴女達相手に逃げる程私達は臆病者でもお人好しでもないです。だから、もう終わりです。では、さようなら。」
バン!!
桐花はそう言うとシグ・ザウエルでティエルを撃った。弾丸は彼女の脇腹に命中する。
「一応急所は外しました。が…その様子だと放っておいても出血多量で死にますね。では、『夜の一族』に加担した事を後悔して死んで下さい。」
桐花はそう言うとその場を立ち去った。そして、通路にいるのは一人だけになる。
「くっ…。あいつわざと急所を外したわね。でも、撃つんなら心臓を撃って欲しかったなあ。そうすれば苦しまずに死ねるのだから。」
ティエルはそう言うと目を閉じる。
「…まあいいか。最後に痛みを感じて死ねるのだから。」
そして数秒後…
「かはあああああっ!!」
ことりに敗北したデュボルクと同様に血を吐いて絶命した。
PM5:40 矢後市 矢後サイドビル水族館 制御管理室
矢後市サイドビル水族館の管理制御室。二見姉妹が捕らえられている『人魚の堅牢』はそこにあった。
「うわっ…お願いだからもう止まってよ。」
「何とかならないのかな…。」
二見姉妹は故障したパイプから流れてくる水に絶体絶命だった。そして、水嵩は彼女達の腰が完全に水に浸かる所にまで達していた。
だが、どうする事も出来ない。二人とも足枷を付けられていて水を止める事が出来ないから。
水は徐々に彼女達の体力をも奪っていった。そして、それと共に彼女達の意識も薄れていった。
その時だった。
「ねえ…おねえちゃん。」
「何?」
美魚は混濁した意識の中で真魚に声をかけた。
「かざねさんのこと…どうおもってる?」
「えっ?」
真魚は最初美魚が何を言っているのか分からなかったがすぐに理解した。そして、数秒してから口を開く。
「…分からない。でも、あの人にとても似てると思う。どこか悲しそうで。」
「そう…。じゃあ…それってすきってことだよね。」
「えっ…そんなんじゃないよ。」
真魚は顔を赤くして否定する。
「ううん…。おねえちゃん…ほんとうはかざねさんのことすきなんでしょう。わかるよ。わたしも…かざねさんのこと…すきだから。」
真魚はそこまで言われると何も言う事が出来なくなった。そして…
「うん…。好き。」
素直に答えを言う。
「そっか。じゃあ…おねえちゃんはらいばるだね。でも…うれしいな。おねえちゃんとおなじひとをすきになれたから…。」
「うん…。私もだよ。だから、眠っちゃ駄目。眠ったら其処でお終いだよ。」
真魚はそう叫んで美魚を励ますがどうにもならなかった。
「ごめんね…おねえちゃん。わたし…もうだめみたい。じゃあ…ね。しおりちゃんにあいにいくよ。それと…もういちどあいたかったな。かざねさん…。」
美魚は目を閉じ、もう喋らなくなった。
「美魚…美魚っ!!しっかりして、美魚!!美魚…うわあああっ!!」
真魚は意識が無くなった美魚を見て…泣いた。
同時刻 海鳴市 海鳴大学病院 診察室
「雨…ですね。」
フィリスはそう言ってコーヒーを淹れて飲む。その時だった。室内電話が鳴リ出したので受話器を取る。
「はい、フィリスですが。」
『フィリス先生。神咲さんと言う方が先生と面会したいと仰ってますがどうしましょう?」
「いいですよ、通してください。」
『分かりました。』
そう言って室内電話を切る。
それから数分後…神咲薫がドアを開けて現れた。
「薫さんお久し振りです。」
「ああ、フィリスかこちらこそ久し振り。」
二人はそう言うと握手をする。
「薫さん…今日は何用ですか?」
フィリスはそう言って薫の分のコーヒーを入れる。
「いや…昨日リスティから電話があってな。HGSが使えなくなった妹が落ち込んでないかどうか見てきてくれと言われたので様子を見に来た。」
フィリスは薫のその台詞を聞いて少し不機嫌になる。
「リスティったら又余計な事を…。」
「はは。そう言わん。ああ見えてリスティもフィリスの事心配しとるんから。でも、元気そうで良かったわ。」
薫はそう言って笑う。それに対してフィリスは…
「ええ。私の能力はリスティ達と違ってHGSだけではありませんから。と言うよりもHGSがいつ使えなくなっても困らないように対応策は用意していましたし。」
そう言ってフッと笑う。
「そうか。それと…今日用事があって黒伸総合病院に行ったんだけどそこで霧島拓哉と言う先生に出会ってね…フィリスにこれを渡しておいてくれって。」
薫はそう言うと鞄からレントゲン写真の入った封筒を取り出してフィリスに渡す。
「これは…。」
「詳しくは聞いちょらんけど…フィリスに渡せば分かるって。」
「そうですか…。」
そう言うと封筒を開けて中に入っている2枚のレントゲン写真を取り出す。
「んっ…。これは2枚とも肋骨が一本欠けてる。これはもしかしたら…風音さんと同じく『呪われた子供』の。」
そう言うと再びじっくりとレントゲン写真を見る。
「あれ…名前が書いてある。こっちは二見美魚でこっちは二見真魚。もしかして…二人とも。」
フィリスはそこである事に気付く。だが、その瞬間何も言う事が出来なかった。
【水族館崩壊まで後40分】
to be continued ・ ・ ・
あとがき
菩提樹「どうも菩提樹です。今回は真琴が約束を破ったりする等の急展開ばかりでしたが。さて、今回のゲストは…。」
勇悟「赤星勇悟です。俺も…やっと登場か。(感涙)」
菩提樹「はい。貴方は『とらハ』シリーズでは人気の高い男性キャラですから。」
勇悟「その割には登場が遅かったな。」
菩提樹「すみません。色々と書かなければいけないことが多かったので。」
勇悟「まあいいか。登場できた事には変わりは無いんだし。」
菩提樹「そう言ってくれるとありがたいです。」
勇悟「それよりも…人質になってる美魚って娘だが大丈夫なのか?」
菩提樹「その事については何も言えません。でも…その事についてはちゃんと考えていますので心配しないで下さい。」
勇悟「そうか。後、桐花って娘はえげつないな。敵を簡単に死なせないなんて。」
菩提樹「そうですね。でも、これはある意味彼女の優しさだと思ってください。」
勇悟「最後にもう一つ…。俺はバトルするのか?」
菩提樹「まだ検討中です。それでは又〜。」
勇悟「ちゃんと考えろよ。」