3月29日―――AM1:20   海鳴市   風芽丘学園校庭
 
「ピキョ―――ッ!!」
 
鳥形の影鬼が紅の瞳に黒い服と黒い帽子を身に着けた少女に襲い掛かった。
 
しかし、彼女はギリギリのタイミングでそれをかわす。
 
だが、別の影鬼が出現し、バランスを崩した彼女に攻撃を仕掛けてきた。
 
彼女は帽子を落とし金色の髪があらわになるが、それすらも簡単に避ける。
 
そして…彼女はフッと笑った。
 

「…囲まれたか。少しナメてかかりすぎたな。」
 
そう。彼女は影鬼に囲まれていた。その数は50体はいるだろう。だが、彼女は少しも恐れていなかった。
 
「…所詮はザコ。私に出会った事を後悔させてやる。…出でよ。終焉を司る剣『カタストロフィ』!!」
 
少女がそう言うと少女の前に黒い大剣が現れる。そして…
 

              ブラッディ・グレイヴ
「永久の闇に消えろ。鮮血の墓!!
 

彼女はそう言うとカタストロフィを手に持ち音速と言える速さで影鬼達を一人残らず十字に切り裂き、そのまま消滅させた。
 
彼女は戦闘終了を確認してカタストロフィを消す。
 
「・・・たかが50体のザコで「死神」 ソフィア・ヴァレンティーヌを消せるとでも思っているのか。相変わらず馬鹿だな。長老会のじじい共は。」
 
ソフィアがそう呟いたその時だった。
 
           タオ
「…これは御神の道か。」
 
ソフィアはそう呟くと風芽丘学園をあとにした。
 

そして、少し進むと…眼鏡をかけた黒髪の少女が影鬼と戦っていた。
 

「キシェッ!!」
 

影鬼は少女に襲い掛かるが…
 

バシュン!!
 

少女の投げた飛針により逆にダメージを受ける。そして…
 
                    はなびし
「御神流奥義の伍  花菱!!」
 
少女は一体の影鬼に奥義を放つ。その影鬼は無数の斬撃を受け、絶命した。
 
そして、まだその場にいる15体の影鬼も彼女に襲い掛かるが…1分も掛からぬうちに全滅した。
 

ソフィアは彼女の戦いを観戦していた。
 
「…あいつは何者だ。戦い方も容姿も彩奈に似ていたが。それに…何だ。とても懐かしい。」
 
ソフィアはそう言うと胸を押さえる。
 
「もしかしたら7年前によくあの森で遊んだ。…いや、それはありえないな。」
 
彼女はそう言うとその場から姿を消した。
 

その頃風芽丘学園の屋上では…
 
「チッ!!今日も相沢…いや神楽を殺せなかったか。ったく今日は満月だって言うのに影鬼供も情けねえな。」
 
影人はそう言って毒づく。
 
「それに…月宮あゆの中に眠る「死神」も復活したしな。黒葉の奴がミスった所為で。」
 
だが、すぐにフッと笑う。
 
「まあ俺にとっては好都合だがな。月宮あゆ対策にあの人…水瀬さんが復活するのだからな。」
 
そう言ってポケットから青い髪を取り出す。
 
「さあ・・・神楽いや相沢。俺から水瀬さんを奪った誰よりも憎い男。…悪夢の始まりだ。」
 
影人はそう言うと学校の屋上から消えた。
 



Tear...
 
Story.22 悪夢の始まり
 

 
PM3:30  海鳴市  高町家
 
この日は昨日の晴れが嘘のように雨だった。
 
風音は今日はバイトが休みの日なのでリビングで一人携帯ピアノを弾いていた。
 
理由は分からない。だが、あの楽器店でピアノを弾いてから全然ピアノを弾いていない事に気付き弾く事にしたのだ。
 
ちなみにこの携帯ピアノは桃子から借りたものだ。桃子曰くつい最近まで一緒に暮らしていたイギリス人歌手が置いていった物らしい。
 
そして、今弾いている曲『君よ、優しい風になれ』を弾き終える。
 
その時だった。
 
「良い曲ですね。」
 
「!?」
 
風音が声に反応して顔を上げると其処には望がいた。
 
「あっ、望さんお帰りなさい。」
 
風音は慌てて挨拶する。
 
「いえ、いきなり声をかけてすみません。演奏の邪魔でしたか?楽譜も見ずに弾いてましたからビックリして…。」
 
望は申し訳なさそうに言う。
 
「いいえ…。別にいいですよ。一人で弾くよりも聞いてくれる人がいた方がかえって励みになりますから。」
 
風音はそう言うとクスッと笑う。
 
だが、その時だった。
 

PURURURURURURURURU!!
 
電話が鳴った。そして、望が慌てて受話器を取った。
 
「はい…高町ですが…。」
 
『神楽風音はいる…。』
 
カエルのような声が受話器から聞こえる。相手はどうやらフロッグボイスを使っているようだ。
 
「あなた…誰ですか。」
 
望は怒りを抑えて問い詰める。
 
『あんたじゃ…話にならないわよ。神楽風音に代わって。』
 
望はその言葉に少し頭にきたが、こらえる事にした。そして、電話は望から風音に代わる。
 
「はい。神楽ですが…。」
 
『突然だけどね…二人の二見って子を預かったわ。これから言う事に従わないと殺すわよ。』
 
「えっ…。」
 
風音はそれを聞いて驚く。
 
「あなた…一体何者ですか?」
 
『あんた達の宿敵である『夜の一族』よ。』
 
「…。」
 
風音はそれを聞いて何もいう事が出来なかった。
 
『じゃあ言うけどね、私達は矢後市にある矢後サイドビル水族館にいるわ。そこに5時までに一人で来なさい。』
 
「一応聞きますが、もし時間内に来れなかったらどうなります?」
 
『その時は二見姉妹だけでなく、その時間内に水族館にいる人間全てを殺す。』
 
どうやら時間内に行くしかないみたいだ。
 
「他に要求はありませんか?」
 
『ないわ。私達の要求はもともと貴方の命だから。じゃあとっとと来なさいよ。じゃないと二人だけでなく何の関係もない一般の客も死ぬ事になるんだから。』

PU!!
 
相手はそう言うと電話が切れた。
 
それから少しして、望が風音に質問した。
 
「風音さん、誰からでした?」
 
「『夜の一族』からです。時間内に指定場所に着かないと美魚さんと真魚さんを殺すって。」
 
「えっ!?」
 
望は風音のその言葉に驚く。
 
「どうして二人が…私やことりさんなら分かるけどあの二人は関係ないんじゃ…。」
 
望の言葉に風音は横に首を振った。
 
「…僕の所為です。僕と関わってしまった為に『夜の一族』に狙われて…。」
 
風音はそう言うと暗い顔になる。
 
望は風音の顔を何を言う事も出来なかったが、暫くして口を開く。
 
「風音さん。二人を助けに行きましょう。私も行きますから元気出してください。それで場所は何処ですか?何時までに到着しなければいけないんですか?」
 
風音は望のその様子を見てフッと笑うが、すぐに口を開く。
 
「いえ、望さんは此処にいてください。彼等は僕一人で来いと言ってますからそれを破るのはまずいし、ことりさん達にこの事を伝えておいて欲しいのです。」
 
風音はそう言うと玄関に出る。だが、その時だった。
 
「風音さん。」
 
「はい。」
 
「絶対生きて帰ってきて下さいよ。」
 
「はい。」
 
「それと…。」
 
望は何か言おうとしたがどもってその先が言えなくなった。
 
「…何でもありません。」
 
「…?」
 
「とにかく二人を助けて必ず戻ってきてください。」
 
そう言ってごまかした。
 
「はい。ありがとうございます。」
 
風音はそう言うと笑顔になる。そして、そのまま外に出た。
 

それから数分後…
 
「あの時…貴方の事が好きですって言いたかったけど、言えなかったな。何でだろう。最後のチャンスかもしれないのに。」
 
望は一人玄関で呟く。
 
「…って何マイナス思考になってるのよ。生きて帰ってくるって信じなきゃ。」
 
望はそう言うと自分に活を入れ、居間に戻った。
 
「私も…やれる事は全部やらないとな。」
 

 
PM3:45  海鳴市  海鳴駅
 
風音が高町家を出て15分後…海鳴駅に着くが、黒服の人間でいっぱいだった。
 
「…身なりからしてどうやら「龍」のメンバーですね。人数は25人位ですね。」
 
考え事をしていたその時だった。
 
黒服の中で特に体格の良い男がポケットの中から携帯電話の様なものを取り出して言った。
 
「其処にいたぞ!!殺せ!!」
 
そう言って風音が隠れて場所へと走る。
 
風音はそれに対して隠れるのを止めて自分に襲い掛かってきた黒服達の元に走って回し蹴りを食らわす。
 

「「「「ぐわっ・・・。」」」」
 

それによって4人の黒服が倒される。
 
「悪く思わないで下さい。急いでいるので。」
 
風音はそう言うと他の黒服達も後ろから手刀を食らわせたり、頭部を蹴ったりしてリーダー格以外の黒服達を僅か1分足らずで全滅させた。その姿はまるで風のようだった。
 
  ひやく
飛躍!!1秒間に10秒分動けますが乱発は出来ませんね。身体に負担がかかりますし。それに昨日の夜も影鬼と戦いましたし。」
 
風音がそう呟いたその時だった。
 
「ぬううううううん!!」
 
リーダー格の黒服はそう唸りながら風音にパンチを繰り出す。
 
風音はそれを間一髪の所で避けるが…
 

ドゴオオオオオッ!!
 
コンクリートの道路に穴を開ける。
 
「くっ…やるな。このラギアントの突きを避わすとはな。」
 
リーダー格の黒服 ラギアントはそう言って舌打ちする。
 
「ええ。こんな所で死ぬ訳にはいきませんから。それに今の攻撃はどう見ても能力ですね。」
 
風音は冷静に言う。
 
「そうだ。俺の能力は『剛体術』。お前のスピードと俺のパワー、どちらが上か勝負だ。」
 
ラギアントはそう言うと構える。
 
「時間が無いので本当は黙って通して欲しいのですが…勝たないと先へ進めないようですね。」
 
風音はそう言うと隙を捜す為にラギアントを観察する。
 
そして、30秒後―――
 

「「勝負!!」」
 

そう言って二人は走り一撃を入れようとするが…それは途中で止められる。
 
「「えっ。」」
 
二人は手ごたえが違う事に気付く。其処には眞子が二人の間に入っていて、二人の拳を止めていた。
 
「ふう。望から電話があったから慌てて駆けつけたけど間に合って良かったわ。」
 
「まっ、眞子さん!?」
 
風音は驚いて拳を退く。それと同時にラギアントも拳を退いた。
 
「神楽、こんな奴と何時まで遊んでいるのよ。とっとと矢後市の水族館に行きなさいよ。コイツは私が引き受けるから。」
 
眞子はそう言うと手甲をはめる。
 
「と言う訳であんたは神楽と戦いたいようだけど神楽は急いでるから代わりに私と戦ってよね。」
 
それに対してラギアントは…
 
「いいだろう。素手ではお前の方が楽しめそうだ。」
 
そう言って眞子の提案を了承した。
 
「じゃあ僕は矢後市に行きますので眞子さんこの人はお願いします。」
 
「OK。ちゃんとあの二人を助けなさいよ。もし死んだり助ける事に失敗したら許さないからね。」
 
「はい。眞子さんも気を付けて。」
 
風音はそう言うと駅の改札口に向かって走った。
 

風音の姿が見えなくなってから数分後
 
「ねえ、どうして神楽に手を出さなかったの?さっきは千歳一遇のチャンスだったのに。あんたの目的は神楽を矢後市に行かせない事じゃないの?」
 
眞子はラギアントに質問する。
 
「仲間の事が心配で闘いに集中できなかった…等と言い訳されたくないからだ。」
 
ラギアントはそう言うと構える。
 
「さっきのは70%だ。今度は100%で行く。」
 
それに対して眞子も、
 
「上等。ならばこっちも本気で行くわ。」
 
そう言って構えた。
 

 
PM4:00  東京都  とある墓地
 
此処は東京のとある墓地。神咲薫はある墓に辿り着くと立ち止まる。
 
その墓の墓石には『Akane Satomura』と書いてあった。そして、その墓に花を添えて言った。
 
「里村さん…貴女は『夜の一族』の口車に乗っちょらんからいるんやろ此処に。」
 
薫がそう言うと…
 
「また、貴女ですか…。」
 
と声と共に里村茜が現れた。と言っても正確には彼女の霊だが。
 
「久し振り。元気しちょった?」
 
「全然…祐も私も同じ目に遭ったと知った時から絶不調です。」
 
茜は暗い顔付きで言った。
 
「そ…そうか。それは悪い事を聞いたな。」
 
薫は苦笑いをしながら言う。
 
「いえ、気にしないで下さい。所で、今日は何用ですか?」
 
「あっ…そうだった。今回は…。」
 
薫が用件を言おうとしたその時だった。
 
「嫌です。」
 
まだ用件を聞いていないのに茜は薫の言おうとする事を拒絶した。
 
「まだ、何も言うちょらんが。」
 
「どうせ、又南さんがらみの事でしょう。」
 
茜は冷淡に言う。
 
だが、次の一言で形勢は逆転した。
 
「いや、今回は祐一くんがらみの事だよ。それでも受けないの?それでも嫌と言うのならうちが行くけど。」
 
薫はそう言ってニヤリと笑う。
 
そんな薫の顔を見て茜は言った。
 
「…行きます。」
 
簡単に決着はついた。
 
「じゃあ祐一くんは矢後市の矢後サイドビル水族館にいるからお願いね。」
 
「分かりました。では、行ってきます。」
 
茜はそう言うとその場から消えた。
 

茜が消えてから数分後…
 
「ふう。里村さんは相変わらず祐一くんに弱いね。まあ、だから良いんだけど。」
 
薫もそう言うと墓地をあとにした。
 
だが、薫はこの時気がついていなかった。
 
墓地の一番奥にある墓…墓石に『Kouhei Orihara』と書かれた墓に花が添えられていた事に。
 
 
 

to be continued ・ ・ ・
 

 


あとがき
 
菩提樹「どうも、愛知県職員の第一次試験が終わった菩提樹です。さて、今回のゲストは…。」
茜「里村茜です。と言ってもアリサさんと同様幽霊ですが…。」
菩提樹「すみません。貴女も『ゲーム』の被害者にしたかったので。許してくれません?」
茜「嫌です。」
菩提樹「やっぱし。」
茜「はい。七瀬さんは生き残ったのに私は死んでる設定ですので不公平です。」
菩提樹「ゴメンなさい。ちゃんと活躍させますから。」
茜「本当に悪いと思うのなら…祐と再会させて下さい。」
菩提樹「それは…無理かもしれませんが頑張ってみます。」
茜「何か余計な言葉も混ざっていますが…まあ良いでしょう。それと一つ質問があります。」
菩提樹「はい。何でしょうか?」
茜「Story.22の最初に登場したソフィア・ヴァレンティーヌさんって何者ですか?彼女の台詞からして月宮あゆさんと関係がありそうですが。」
菩提樹「それはまだ答えられませんが、風音(祐一)くんと貴女がいつ会ったのかが明らかになるのと同じ様にストーリーが進むにつれて明らかになります。」
茜「そうですか…。」