3月27日―――AM11:47   海鳴市   さざなみ女子寮  102号室
 
プッ!!
 
銀色の長い髪をした少女がパソコンを起動してインターネットを始める。
 
そしてあるホームページに到達するとBBS(掲示板)を見る。
 
其処には……新たな事が書かれていた。
 
『月村コーポレーションのメインコンピューターへのハッキング完了!!一応バレた時の為にウィルスも流しておいたよ!!  by川澄怜』
 
少女はそれを見てニヤリと笑い返事を書く。
 
『お疲れ様。では、私は七瀬さんの指令通り明後日までに相沢祐一に会いに行ってきます。その前に「夜の一族」によって蘇生した沢渡真琴が現れるかもしれませんが、さほど問題にはならないでしょう。  by雨流桐花』
 
                  うりゅうとうか
銀色の長い髪をした少女……雨流桐花は掲示板にそう書き込むとパソコンの電源を切った。
 
それから携帯電話でメールを送る。
          
「弥生はパソコンを持ってないから。携帯でメールしてと……。」
 
桐花はそう言うと登録リストの中から「長瀬弥生」という名前を見つけ出してメールを送った。
 
だが、その時だった。
 
コンコンコン!!
 
ドアを叩く音が聞こえた。
 
「はい。」
 
「桐花ちゃん。お昼ご飯出来たよ。みんなで一緒に食べよう。」
 
ドアを叩いて桐花を呼ぶのは声からして此処の管理人 槙原耕介のようだ。
 
だが……
 
「すみません。少し外に出るのでいりません。」
 
桐花はドアを開けて耕介の前に顔を出すと表情を変えずに一緒に昼食を食べる事を断る。
 
「そ……そうかい。」
 
耕介はそんな桐花を引き止める事が出来ず、呆然とするしかなかった。
 
桐花は靴を履いてさざなみ女子寮をあとにした。
 
そして、玄関では耕介が一人呆然と立っていた。
 
「はあ、本当にあの子とは付き合い辛いな。此処に来た時のリスティ以上だよ。それに……風芽丘も期末試験以外全然登校してないし、寮のみんなとも仲良くしようとしないし。前の学校では陸上部で副部長をやっていたと調査書には書いてあったけど、今はその素振りすら見せないし。一体前にいた街で……華音市で何があったんだろう。」
 
耕介はそう言うと仕事に戻った。
 


Tear...
 
Story.21 それぞれの一日(後編)
 


AM11:50―――海鳴市   海鳴大学病院  西庭

眼鏡をかけた女性 川澄怜の言葉にことりと眞子は何も言えなかったが、少し時間が経ってから元に戻る。
 
「川澄……と言いますと貴女は川澄舞さんの関係者ですか?」
 
ことりは冷静に怜に問い詰める。
 
「大正解!!ボクは川澄舞の母親だよ。」
 
怜はそう言うとクククッとハトのように笑う。
 
だが、眞子はそれを聞いて質問した。
 
「ちょっとそれおかしいじゃない。だって一児の母親だったら三十代くらいなのが普通なのに貴女どう見たって私達と同じ歳にしか見えないじゃないの。」
 
眞子はそう言って怜に食って掛かる。
 
「その通りだよ。でもね、全然おかしくないよ。「呪われた子供」は19歳で身体の成長が止まるからね。呪詛の所為でね。」
 
「「えっ……。」」
 
二人はその言葉に驚いたのか何も言えなかった。
 
「あっ、その様子だと知らなかったみたいだね。まあ仕方が無いか。」
 
その時だった。
 
『臨時ニュースをお伝えします。つい先程、月村グループの総本山 月村コーポレーションのメインコンピューターがハッキングされると言う事件が起きました。まだ詳しい事は分かっておりませんが、月村コーポレーションは総力を上げてメインコンピューターの復旧を急いでいます。又、犯人についてはアクセスログが消されていた為今の所詳細は不明です。』
 
病院の待合室に設置されているテレビから臨時ニュースが流れてきた。
 
「待合室の窓が開いていたから聞こえたか。まあ、いいけど。」
 
ことりと眞子は暫くそのニュースに耳を傾けていたが、怜のその言葉でハッとなる。
 
「それ……どう言う意味?」
 
「どういう意味ですか?」
 
そして、ことりは怜の行動を思い出す。
 
「まさか……さっきパソコンをいじっていたのは。」
 
「そう。あの時に月村コーポレーションのメインコンピューターにハッキングをかけたのさ。ウィルス付きでね。」
 
「まさか、あの短時間の間に……。」
 
「あんなもんボクにかかればどおって事ないから。」
 
怜はそう言うと再び笑う。
 
「あ、ついでにもう一つ言っとくけど相沢……いや神楽風音くんよりも二見さん達に目を向けた方がいいよ。彼女達ももうキミ達の事情に関わっているんだし。」
 
「えっ…。」
 
怜のその言葉にことりは驚く。
 
「ボクが言いたいのはそれだけさ。じゃあね。」
 
怜はそう言うとその場から去っていった。
 
 
 
怜が去ってから数分後……
 
「どうも遅れてすみません。わかばさんが欲しがっていたジュースがなかなか見つからなかったので。」
 
「すみません。わたくしの所為で。それと診察を終えた望ちゃんとお話をしていましたので。」
 
風音とわかばが望を連れて戻ってきた。
 
「あ、いいよ。別に……。」
 
「私達も少し考え事をしていましたので。」
 
眞子とことりはそう言うと思案下な顔からいつもの顔に戻る。
 
「それよりもさあ、これからみんなでどっか食べに行かない?私が奢るからさあ。」
 
眞子はそう言って話の流れを変える。
 
「そうですね。でも今日は桃子さんが旧友の家に遊びに行くと言っていましたから「翠屋」は無理ですし。」
 
「West Townも今日は定休日ですからねえ。」
 
わかばと望は何処で食べるかを考えるが、思いつかなかった。だが、その時。
 
「それならみんなで歩きながら考えませんか?」
 
風音が自分の考えを提案する。
 
「そうだね。」
 
「そうですね。」
 
ことりと眞子は風音の考えに賛同した。そして……
 
「私もそれでいいですよ。」
 
「わたくしもそれで構いませんわ。」
 
望とわかばもそれに賛同した。
 
こうして5人は病院を出たが、ことりだけ思案下な顔をしていた。
 
(川澄怜……祐一くんの先輩である川澄舞さんの母親で「呪われた子供」そして、「夜の一族」狩りである七瀬留美の仲間。まだ敵か味方かどっちなのか分かりませんが、要注意ですね。月村財閥系列である会社に簡単にハッキングをかけたくらいですから。でも、二見さん達に目を向けろってどういう事なんだろう。)
 
ことりは考えながら他の4人に着いて行った。 

同時刻―――海鳴市  翠屋
 
「……今日休みなんだ。」
 
「せっかく来たのに。」
 
二見真魚と二見美魚の姉妹は翠屋のドアに掛けられた「本日 定休日」と言うプレートを見て溜め息をつく。
 
「もうすぐお昼だから翠屋でケーキ食べたかったのになあ。」
 
「骨折り損ね。」
 
二人はそう言うと再び溜め息をつく。
 
「せっかくお姉ちゃんのネコ耳付きウェイトレスの制服持ってきたのに。」
 
「えっ……。」
 
真魚は美魚のその言葉にハッとなる。
 
「美魚……今、何て言った!?」
 
そして、問い詰めた。
 
「お姉ちゃんが病院の喫茶店でアルバイトをしていた時に着ていたネコ耳付きウェイトレスの制服を持ってきたって言ったんだけど。」
 
美魚は姉の怒った顔に苦笑いをしながら答えた。
 
「一応聞くけど……どうしてそんな物を持ってきたの?」
 
「お姉ちゃんが風音さんに惚れちゃったと思ったからその為に。それに藤宮さんと白河さんも風音さんの事狙ってそうだったからその対応策として……。」
 
ドテッ!!
 
真魚は美魚のその言葉を聞いてずっこけた。そして……
 
 
「美魚〜!!」
 
と叫んで美魚に食って掛かろうとする。
 
 
だが、その時だった。
 
何処からか円筒形の手榴弾の様なものが飛んできてそのまま爆発した。
 
キュゴッ!!

そして、弾けて言葉に表せないような爆音と凄まじい光がそこからあふれて2人を包み込む。それはスタングレネードだった。
 
「「きゃあっ!!」」
 
だが、その時だった。ひるんだ彼女達の後ろから小さな影が現れて、最初に美魚の首筋に次に真魚の首筋に衝撃を入れて二人を気絶させた。
 
二人はそのまま崩れ落ちる。
 
そして…
 
「ふふん。この二人全然弱いな。結構手加減してやったのに。まあ、これで祐一の事を教えてもらえるんだからいいけど……。」
 
小さな影…沢渡真琴はそう言うと携帯電話を取り出して黒葉に電話を掛けた。
 


PM1:00―――東京都   月村コーポレーション本社   21階  社長室
 
月村コーポレーションの社長 氷村遊はある所へ電話をかけた。そして、それは暫くしてから繋がった。
 
「あっ。黒葉……いいやここでは久瀬だったね。どうだ調子は!?」
 
『今のところは上々ですよ。沢渡真琴を使って相沢くんと関わった二見姉妹を捕らえる事に成功しましたから。』
 
「ふうん。羨ましいね。こっちは昼前に月村コーポレーションのメインコンピューターが何者かにハッキングされて大変なんだ。」
 
遊はそう言うとあははと破顔する。
 
『貴方……危機感ゼロですね。自分の会社のメインコンピューターがハッキングされたと言うのに。』
 
「まあね。どうにでもなる事だから。」
 
『そうですか、でもあの愚か者と同じ事は繰り返さないで下さいよ。』
 
「分かってる。安次郎の面汚しの二の舞は踏まないさ。」
 
『それでは私はこれで失礼します。そろそろ月宮あゆも呼びたいので。』
 
「ああ、それでは。」
 
遊はそう言うと電話を切った。
 
「まあ、この件が長老に耳に入っても俺が処罰される事はまずない。何せ俺は直接かかわっていないのだからなあ。くくく。」
 
遊はそう呟くとワインセラーからロマネ・コンティを取り出し飲んだ。
 

PM1:10―――海鳴市   ???
 
黒葉もとい久瀬は遊からの電話を切ってから再び地下室に入った。
 
「沢渡真琴の蘇生は終わりましたし……次は月宮あゆでも蘇生させますかね。」
 
黒葉はそう呟くと地下室に入って月宮あゆの像(遺体)を探すが……
 
「無い…。そんな馬鹿な。確かに昨日までは此処にあった筈。」
 
黒葉は焦った。月宮あゆの像は黒葉の立てた計画においてこれから必要不可欠になる物だったからである。
 
だが、部屋中捜してもあゆの像は無かった。
 
「クソッ……。誰が一体こんな事を。」
 
黒葉はそう言うと舌打ちする。だが、その時だった。
 
「んっ……。何だこれは……。」
 
よく見るとそれは手紙だった。そして、手紙を読む。
 

月宮あゆの遺体は貰っていきます。こんなにもセキュリティが甘いとは管理がなってませんね。
PS.文句があるならいつでもかかって来てください。いつでも受けて立ちますから。   by天眼の巫女


「……天眼の巫女と言いますと彼女……ですか。恐らく目的は彼女の中に眠るもう一人の彼女……「死神」を目覚めさせる事ですね。」
 
黒葉はそう呟くと手紙を破り捨てた。
 
「まあいい。二見姉妹は確保したからそれで充分相沢くんを苦しめる事が出来る。それに……その時は「死神」の彼女もきっと動く筈だ。」
 
黒葉はそう言って笑みを浮かべるが……どうみてもそれは負け惜しみ以外の何者でもなかった。
 

PM1:30―――海鳴市   八束神社
 
芳野さくらは境内を掃除していた。
 
元の管理者は神咲那美だったが、那美は月村家のメイドになっているのでその代理として彼女がこの神社の巫女さんをやっていると言う訳だ。と言っても神社の管理者は別にいるが。
 
「ふう、掃き掃除完了と。」
 
彼女はそう言うと竹箒を片付ける。
 
その時だった。杉並がやってきた。
 
「あっ、杉並くんこんにちは。」
 
「ああ、芳野嬢。今日は伝えたい事があって来た。彼女に頼んだ月宮あゆの遺体だが、何とか奪取に成功したそうだ。」
 
さくらは杉並のその言葉を聞くとふっと笑う。
 
「まあ、彼女なら当然でしょ。何たって最強の眼の使い手なんだし。」
 
「そうだな。当然の結果だな。」
 
それから二人は暫くこれからの事について話し合った。
 
「それでは俺はこれで失礼する。水越妹達に連絡は頼む。朝倉達には俺から知らせておく。」
 
「OK.ちゃんとやっとくよ。」
 
杉並はそう言うと神社をあとにした。だが、石段で月代彩とばったり会ってしまう。
 
 
 
「杉並さん、状況はどうですか?」
 
「月宮あゆの遺体の奪取は完了した。だが、あまり良い状況とも言えない。」
 
「そうですか。ならば『計画』を早めた方がいいですかね?」
 
「いや、それはまだいいと思う。だが、よくもって今月末までだろう。」
 
「その計算は川澄さんの言った事とほぼ一致してますね。」
 
「ああ。でも早いに越した事は無い。だから、あの3人を早めにこの街から脱出させた方がいいと思う。」
 
「ええ。でも、そうなると佐伯さんが騒ぎますね。」
 
「佐伯嬢は俺が説得する。だから、『Wind』の方も急いでくれ。」
 
「分かりました。それでは。」
 
彩と杉並は会話を終えると別れた。
 


PM2:00―――海鳴市    海鳴駅近くの喫茶店

「そろそろここいらでお開きにしようか。いつまでも此処にいても悪いし。」
 
「そうだね。もう昼食は摂ったしね。」
 
「そうですね。もう知りたい事は分かりましたし。」
 
美沙斗の言葉に恭也と美由希は賛同した。だが、その時。
 
「恭也。君はこれからどうするんだい?恋人は「夜の一族」で彼は「夜の一族」と敵対する御神の剣士で「道」の能力の使い手という複雑な事態だが。」
 
美沙斗が恭也に問いかけた。
 
「今は……まだどうすればいいのか分かりません。でも、近いうちにきっと答えは出します。」
 
美沙斗は恭也のその言葉を聞いてフッと笑う。
 
「君らしい意見だな。じゃあ、私はこれで失礼するよ。」
 
そう言って海鳴駅に行こうとするが……。
 
「えっ、お母さん泊まっていかないの?」
 
「ああ、最近「龍」の動きが活発でね。それどころじゃないんだ。」
 
「そっか、残念。」
 
美由希はそう言うと少し暗い顔になる。
 
「ごめん。」
 
それに対して美沙斗は謝るしかなかった。
 
「ううん。いいよ。気にしないで。」
 
「そうですよ。只でさえ忙しいと言うのに俺達の為に……ありがとうございました。」
 
恭也と美由希は美沙斗に礼を言い別れた。そして……
 
「真琴……これで良かったのかな。祐一くんは見つかったけど……。」
 
美沙斗はそう呟くと駅に向かって走った。
 

 
PM2:45―――イギリス   クリステラ・ソングスクール
 
PURURURURURURURURU!!
 
ソングスクールの校長室で電話が鳴っていたのでフィアッセは電話を取る。
 
「はい、こちらクリステラ・ソングスクールですが…。」
 
『フィアッセか…。やばい事になった。』
 
声からしてどうやらエリス・マクガーレンのようだ。
 
「エリスそんなに慌ててどうしたの?」
 
フィアッセは冷静に応対するが…。
 
『日本へ行くビザが下りないんだ。』
 
「えっ…。」
 
フィアッセはその言葉を聞いて驚く。
 
「ちょ、ちょっとそれどう言う事?」
 
『分からない。この前フィアッセからユウが生きてると聞いた後に今日の朝に日本へ行くビザを発行してもらおうと思って日本領事館に行ったけど取り合ってくれなかった。それで、ついさっき空港にも行ってみたけど駄目だった。』
 
フィアッセは戦慄した。そして、これは「夜の一族」の仕業なのではと思わずにはいられなかった。
 
『何か分かったら又電話する。』
 
「あ…うん。お願いね。」
 
フィアッセがそう言うとエリスからの電話は切れた。
 
フィアッセは電話が切れてから頭を抱えた。
 
「サクラのメールはもしかしたら…。」
 
フィアッセがそう呟いたその時だった。
 
バタン!!
 
勢いよくドアが開きアイリーン・ノアが入ってきた。
 
「ど…どうしたの。アイリーン。」
 
フィアッセは驚きのあまり冷や汗を流す。
 
「フィ…フィアッセ大変だよ。今年のチャリティコンサートの事だけど…ついさっき日本領事館から日本での活動及び入国不許可の通達が来たのよ。」
 
「ええっ!?」
 
フィアッセは再び驚く。そして…
 
(これも…「夜の一族」が裏で手を廻して…。だとしたら、どうすればいいんだろう。コトリ…ユウ…。)
 
フィアッセはこの時自分なんて無力な存在だと思わずにはいられなかった。
 

 
PM2:55―――海鳴市  綺堂家
 
「彼女達今頃慌ててますね。」
 
綺堂さくらは冷徹な顔で言う。
 
「そうね。でも、恭也達にバレたら少しやばくない?」
 
それに対して月村忍は少し不安気な顔で言う。
 
「これは多分遊か安次郎あたりの仕業ですね。彼等は元々クリステラ・ソングスクールとは不仲でしたしね。」
 
「成る程。あいつ等なら平気でやるわね。「夜の一族」の権力を使えば外務省なんてイチコロだし。」
 
二人は呆れた顔で言う。
 
「でも、さくら。どうする?」
 
忍はさくらに質問する。
 
「放っておきましょう。彼女達がどの様に動くか見物ですし。それにヘタに動いて入国拒否を取り消したら、あの二人の「呪われた子供」が日本に来るのは確実ですから。」
 
「それって…エリス・マクガーレンとアイリーン・ノア?」
 
「ええ。今あの二人に日本に来られたら遊だけでなく私も困りますからね。」
 
さくらはそう言うと開いたままだった自分の部屋のカーテンを閉めた。
 

 
PM3:00―――海鳴市   海鳴臨海公園 

「「ふ〜っ。食べた。食べた。」」
 
望と眞子はそう言うとホットドッグの包み紙を捨てる。
 
「「「えっ、もう食べ終わったのですか?」」」
 
風音とことりとわかばはそれを見て驚く。
 
何故5人が海鳴臨海公園で軽食を摂っていると言うと病院を出たあの後色々な場所を歩いたが、気に入ったところが見つからず海鳴臨海公園で眞子が「おなか減った」と言い出したので此処で昼食を食べる事にしたのだ。それで各々が買ったものは望と眞子がホットドッグで風音が焼きソバでことりとわかばがクレープだった。
 
そして、全員が昼食を終えてからことりは望に話しかけた。
 
「望さんは祐一くん、いや風音くんとはどういう関係なんですか?」
 
「えっ……。なっ、何ですかいきなり。」
 
いきなりの質問に望は慌てた。
 
「それは……風音くんがいない所で。」
 
ことりはそう言うと望の手を引っ張って移動した。そして、風音達がいない場所に辿り着くと話を再開した。
 
「いやあ……ずっと見ていて物凄く仲が良いから少し気になりましてね。」
 
望はその言葉に更に慌てた。そして、暫くしてから答えた。
 
「その……た、只の友達です。す、好きとかそういう訳じゃありません。」
 
赤くなりながら答えた。
 
「嘘……ですね。本当は好きなんじゃないのですか?」
 
ことりは笑顔で言った。
 
「やっぱし、バレました。」
 
「ええ、風音くんと一緒にいる時の貴女の様子を見れば分かりますよ。」
 
「そうですか。」
 
望はそう言うとペロリと舌を出す。
 
「でも、ことりさんも祐一いや風音さんの事が好きなら諦めます。私はどちらかと言うと『早い者勝ち主義者』ですし、それに……。」
 
「心臓を患っていていつ死ぬか分からないから……ですか。」
 
「えっ!?」
 
望はことりのその言葉に驚く。
 
「知らないと思っていました?この前の国守山での戦いで貴女の戦い方が気になる所があったのであの後に貴女について調べたんですよ。」
 
ことりのその言葉を聞いて望は答える。
 
「……そうですよ。貴女がおっしゃった通り私は心臓に病を抱えています。普段の生活でもわかばの「治癒」の能力が無いと駄目って言うほどの重い心臓病をね。」
 
ことりは望のその言葉を聞いて言った。
 
「でも、望さんは間違っています。自分がいつ死ぬか分からないからって自分の恋を諦めるなんてそんなのおかしいです。」
 
その時だった。
 

パン!!
 

望がことりの頬を叩いた。
 
「そんなの……分かっています。自分が間違っているって。でも、もう……風音さんに悲しんで欲しくないんですよ。だから、諦めるしかないじゃないですか。」
 
望はそう言うと顔を上げる。よく見たら泣いていた。
 
「昨日までは……どんな事があってもこの恋は諦めないって思っていました。でも、風音さんの過去を知ってから……私なんかが風音さんの事を好きになっちゃいけない、諦めなきゃいけないって思ったんですよ。」
 
ことりは望のその言葉を聞いて言った。
 
「それは……望さんが逃げてるだけです。本当に好きなら諦めちゃ駄目です。それに……風音くんはそんな事気にしませんよ。」
 
「えっ!?」
 
「祐一いや……風音くんの事が本当に好きなら信じて下さいよ。」
 
ことりは更に続ける。
 
「それに、ライバルがいた方が私は楽しいですから。」
 
ことりはそう言うと手を差し出す。
 
「握手です。友達としてそして、ライバルとしての。」
 
ことりはそういうと望の手を握る。
 
そして、望もやっと落ち着き答えた。
 
「こちらこそよろしくお願いします。でも、風音さんは渡しませんよ。」
 
「望む所です。」
 

その時だった。
 
「望さん、ことりさん何処ですか?高町家に帰りますよ。」
 
風音の自分達二人を探す声が聞こえた。そして……。
 
「じゃあ、行きますか。待たせたら風音くんに悪いですし。」
 
「そうですね。」
 
ことりと望はそう言うと風音達と合流した。
 
 
 
こうしてそれぞれの一日が終わる。
 
これから起こる悲劇に少しも気付かずに……。

to be continued・・・
 


あとがき

菩提樹「どうも菩提樹です。就職試験の真っ只中ですが何とか完成しました。さて、今回のゲストは…。」
美沙斗「御神美沙斗です。どうも。」
菩提樹「美沙斗さん。本当にお忙しい中ゲストとして登場させてしまってすみません。」
美沙斗「いや、いいよ。SSの中では恭也と美由希にも会えたから。」
菩提樹「そうですか。」
美沙斗「でも……又、出演者が増えたね。耕介さんとかそれに……。」
菩提樹「七瀬さんの仲間 雨流桐花さんと長瀬弥生さんですか。」
美沙斗「ああ。祐一いや風音くんと何らかの関係がありそうだしね。」
菩提樹「そうですね。私も新キャラが登場した事ですし頑張らないとな。」
美沙斗「そうだね。あゆちゃんも復活したしね。」
菩提樹「くっ……痛い事を。」

美沙斗「でも私が最後に言った真琴って……。」
菩提樹「それは…「あぅ〜」の方ではなく祐一の初恋の(原作版の)女性である沢渡真琴さんです。」
美沙斗「やっぱし。まあ、ある程度は予想はしてたけど。」