3月27日―――AM8:50   海鳴市   海鳴大学病院  診察室
 
話は2時間ほど前に遡る。
 

PURURURURURURURURU!!
 

電話が鳴っていたのでフィリスは電話を取った。
 
「はい、海鳴大学病院ですが……。」
 
『ああ、フィリスか。久し振りだな。大学時代の同僚の霧島だ。』
 
声からしてどうやら男性のようだ。
 
「ええ。半年前の「人魚の肉」を巡る事件以来ですね、霧島拓哉さん。」
 
『ああ。そっちも忙しいみたいだな。こっちも相変わらず忙しいが。』
 
「そうですね。お互い同窓会にすら出席できない位ですからね。それに、拓哉さんの勤めている病院は半年前の事件が原因で人手不足の状態ですからね。」
 
『……まあな。ってそうじゃなかった。フィリスがこの前言った記憶喪失について調べてみたが、今までに無いケースものだ。』
 
「えっ……。」
 
フィリスはそれを聞いて驚く。
 
『ああ。「人魚病」の時と同様に過去のカルテを調べてみたが……見つからなかった。』
 
「そうですか……。では、又分かった事が見つかったら連絡してください。」
 
フィリスはそう言って切ろうとするが・・・
 
『あっ……。ちょっと待ってくれ。その患者肋骨が一本欠けてるんだよな……。』
 
「はい……。そうですけど。」
 
『それ……美魚ちゃんと真魚ちゃんの二人もそうだったからちょっと気になってな……。話はそれだけだ。こんな所を芹に見つかったらクリップボードで叩かれるからここらで切る。またな。』
 
「ええ……。それでは。」
 
Pi!!
 
フィリスはそう言って電話を切った。
 
「拓哉さんああ言いながらも芹さんとラブラブじゃないですか……。大学時代は只の幼馴染でしたのに……。」
 
そう言って不機嫌になるがすぐ元に戻る。
 
「でも、美魚さんと真魚さんも風音さんと同じ「呪われた子供」かもしれませんね。もしそうなら半年前に気付くべきでしたが……。」
 
そう呟いてから時計を見る。
 
「さて、そろそろ診察開始ですね。今日も頑張らないとな。」
 
そして、彼女の一日が今日も始まる。
 

Tear...
 
Story.20  それぞれの一日(中編)
 

 
AM9:50   海鳴市   海鳴大学病院  診察室
 
それから1時間後……望が来た。
 
「失礼します。」
 
望はそう言うとフィリスに頭を下げる。
 
そして、診察が始まる。
 

それから暫くして……。
 
「今の所はまだ大丈夫ですが……今後は無茶しないでくださいよ。高台の時は本当に危なかったんですから。」
 
フィリスの説明を聞いて望は「困ったなあ。」と言う顔をして言った。
 
「その事なんですが……何とかなりませんか。」
 
フィリスは望のその言葉に呆れたのか溜め息を吐いて言った。
 
「……望さん。貴女、自分の身体についてちゃんと分かってます?本当なら、身体を動かす事さえ難しい身体なんですよ。」
 
「はい。分かってます。心臓に爆弾を抱えている事は……。」
 
望は悲しげな顔で言った。
 
「それでも……私は風音さんと一緒にいたいんです。風音さんの力になりたいんです。だから、私は今よりも強くなりたいんです。」
 
「望さん……。」
 
フィリスは望のその言葉を聞いて何も言えなかった。
 

 
AM11:30   海鳴市   海鳴大学病院  西庭
 
高町家を出てから40分後、風音達3人いやわかばも含めた4人は海鳴大学病院の西庭で望を待つ事にした。
 
風音は待合室で待ちたかったようだが、ことりと眞子に阻まれて西庭で待つ事にしたのだ。
 
そして、それから10分後……
 
「ねえ、何か飲み物でも買って飲みません?」
 
ことりが話を切り出す。
 
「あっ、いいねえ。じゃあ私はコーラね。」
 
「僕はアイスコーヒーでお願いします。」
 
「では、わたくしはお味噌汁ジュースをお願いしますわ。」
 
「「「えっ……。」」」
 
わかばの注文を聞いて風音・ことり・眞子の3人はフリーズした。
 
「わかばさん……それはちょっと無いのでは……。」
 
ことりは冷や汗を流しながら言った。
 
「いいえ、ありますわよ。よろしければわたくしがジュースを買って来ましょうか?」
 
「えっ、いいの?」
 
「ええ、わたくしはこの病院についてはことりさん達よりも知っていますから。」
 
「そう。なら、お願いね。」
 
ジュースを買いに行こうとしたその時だった。
 
「わかばさん、僕もついて行っていいですか?自動販売機が何処にあるのか覚えておきたいので。」
 
風音がわかばを引き止めたのだ。
 
「ええ、いいですけど。」
 
わかばはそれに了承した。
 
「では、二人はちょっと其処で待っていてください。ちょっとわかばさんと一緒にジュースを買って来ますから。」
 
「うん……いいよ。(まあ、わかばは大丈夫よね。わかばまで相沢に手を出したりしないよね。)」
 
「ではお言葉に甘えて……。(望さんじゃないですからまあいいですか。わかばさんなら祐一くんに手を出さないと思いますし。)」
 
眞子とことりは少々不安だったが、了承する。
 
その言葉の後に風音とわかばはジュースを買いにその場を離れた。
 

 
AM11:45   海鳴市   海鳴大学病院  売店
 
海鳴大学病院には各階に自動販売機が設置されているが、わかばの言ったお味噌汁ジュースは売店に設置されている自動販売機でしか買えないので売店まで来たと言う訳だ。
 
風音は財布を取り出して各々のジュースを買う。
 
そして、西庭に戻ろうとしたその時だった。
 
「わかばさん、少し話しません?」
 
「えっ?」
 
それを聞いてわかばは驚く。
 
「な、何故ですか?」
 
「望さんの事で少し聞きたい事がありますので。」
 
風音のその言葉を聞いてわかばは「やっぱり」と言う顔で言った。
 
「ええ、いいですわよ。神楽さんにはいつか話さなければいけないと思ってましたし。」
 
「では、単刀直入にお聞きしますが望さんは心臓を患っているのではないのですか?」
 
「……。」
 
風音のその言葉に対してわかばは黙ったままだった。
 
「望さんとは共に2回戦いましたが、そのどちらも何か急いだと言うか焦った戦い方をしていましたから。それに、高台の戦いの時は心臓に一撃を入れられただけで倒れましたし。」
 
そこまで話を聞いた所でわかばはやっと唇を動かした。
 
「……神楽さんには敵いませんわね。せっかく隠していましたのに。」
 
「えっ?」
 
わかばのその言葉を聞いて風音は驚く。
 
「ええ。その通りですわ。望ちゃんは心臓を患ってと言うよりも生まれつき心臓の病に侵されています。そして、いつ倒れてもおかしくないと言う状態は今でも変わっておりません。」
 
わかばがそこまで説明した所で風音は質問した。
 
「でもわかばさんの「ちから」……「治癒」はどうなんですか?わかばさんの「ちから」でなら何とかなるんじゃ……。」
 
風音の質問を聞いてわかばは首を横に振った。
 
「わたくしの「治癒」では怪我や軽い病気を治す事は出来ても望ちゃんの病を治す事は無理なのですのよ。せいぜい病の悪化を抑えるくらいが限界ですの。」
 
「そうですか。」
 
風音はわかばの理由を聞いて頷くしかなかった。
 
「あっ。そんな悲しい顔なさらないで下さい。望ちゃんは神楽さんに会えて良かったと思っているのですから。」
 
「えっ……。」
 
「はい。ですから神楽さん、これからも望ちゃんをお願いしますわ。」
 
「いいえ、こちらこそよろしくお願いします。」
 
二人はそう言うと握手をした。
 


そのころことりと眞子は……
 
「神楽……いや相沢達遅いね。」
 
「ええ、どこまで行ってるんですかね?」
 
西庭のベンチで風音とわかばが帰ってくるのを待っていた。そして……
 
「ねえ、ことり。神楽が相沢だって言う事は分かったけどこれからどうする?」
 
「一応ここにいるしかないですね。今の状態で連れ戻す訳にもいきませんし。」
 
「そうだね。それしかないよね。」
 
だが、その時だった。
 
「すみません。合席してもよろしいですか?」
 
眼鏡をかけた三つ編みの女性が声を二人に声をかけてきた。
 
「ええ、いいですよ。」
 
「どうぞ。」
 
「そう、ありがとう。」
 
眼鏡をかけた女性はそう言うとことりと眞子の座っているベンチに座る。そして、アタッシュケースからノート型パソコンを取り出して少しの間いじるとすぐに電源を切って再びアタッシュケースにしまった。
 
しかし運命のイタズラなのか眞子はそのアタッシュケースに入っていたある物を見てしまう。
 
「じゃあボクはこれで失礼するよ。合席させてくれてどうもありがとう。」
 
眼鏡をかけた女性はそう言ってその場を立ち去ろうとするが……眞子に腕を掴まれた。
 
「ちょっと待ちなさいよ。あんた、何者なの?さっき偶然あんたのアタッシュケースの中身を見たけど武器とか入ってた。あんた、まさか……。」
 
眼鏡をかけた女性は眞子の質問を聞いてくすっと笑う。
 
「キミが言いたいのは『信奉者』……?」
 
「なっ……。」
 
眞子は驚愕した。自分が言おうとした言葉を簡単に当てられたからだ。
 
「安心しなよ。ボクは『夜の一族』の『信奉者』じゃないから。」
 
眼鏡をかけた女性はそう言うとクスクスと笑う。
 
「あ、そうそう。合席させてくれたお礼に言うけどさあ。出来るだけ早めにこの街から出た方がいいよ。白河ことりさんに水越眞子さん。」
 
「「えっ……。」」
 
ことりと眞子はその言葉を聞いて何も言えなかった。
 
「貴女、私達の名前まで知っているとは一体何者ですか?」
 
次はことりが彼女に質問した
 

                          かわすみれん
「ボクかい……。ボクの名前は川澄怜。キミ達と同じ「呪われた子供」で七瀬さんの仲間さ。」
 
眼鏡をかけた女性……川澄怜は自己紹介を終えると再びクスクスと笑った。
 
 
 

to be continued ・ ・ ・
 


あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。今回は少しSSの書き方を変えてみました。どうですかね?これからはこういう書き方で行こうと思いますが。さて、今回のゲストは……。」
拓哉「霧島拓哉だ。こんな登場になるとは思いもしなかったが……。」
菩提樹「登場の仕方ですか。霧島先生の職業が医者だからこういう風な登場にしましたけど……やっぱ不満ありありですかね。」
拓哉「まあな。ちゃんと登場したかったしな。」
菩提樹「すみません。反省してます。」
拓哉「でも、今回の話に登場した川澄と言う女性は一体何者なんだ?」
菩提樹「それはまだ教えられません。でも、少しだけヒント。名字に注目してください。」
拓哉「それだけか。」
菩提樹「はい。それだけです。後、川澄怜の言った七瀬さんは「ONE〜輝く季節へ〜」で登場した七瀬留美さんです。「とらハ」の春原七瀬さんじゃありません書かなくても分かると思いますが一応書いておきます。」