3月26日―――PM4:20   海鳴市  翠屋
 
風音が忍に襲われてから、10分後・・・恭也は忍の変貌にまだ驚きを隠せずにいた。
 
恭也(忍。何で風音を殺そうとしたんだ・・・。それに・・・忍が彼に言ってた「呪われた子供」って何だよ。)
 
恭也は考える。しかし、答えは出てこない。
 
そして、当の忍は・・・風音を攻撃する時にずっと赤い目の状態になっていたので、風音を逃がしてしまった後にバタリと倒れた。
 
そして、客も忍に恐怖してしまいあの後すぐにみんな帰ってしまいガラガラの状態となった。
 
それから暫くして恭也は我に返り、忍も目を覚ました。恭也は現在の状況にやっと気付き忍の側に駆け寄った。
 
恭也「おい、忍。大丈夫か!?」
 
恭也は忍に声をかける。
 
忍「う・・・・・・ん。」
 
恭也の声に反応して忍が目を覚ました。
 
忍「あれ・・・恭也。そんな顔してどうしたの?いつの間にかお客さんもいなくなってるし。」
 
恭也「・・・。」
 
恭也は一言も発さなかった。
 
忍「どうしたのよ。あの子が・・・『呪われた子供』がいなくなったのに・・・。もっと喜びなさいよ。」
 
恭也「・・・忍。何を言って・・・。」
 
恭也は忍に何故風音を攻撃したのかを聞こうとしたその時・・・・・・。
 
桃子「恭也・・・・・・。忍ちゃんに理由を聞くよりも風音くんを捜す事の方が先じゃないの?」
 
恭也「そうだな・・・。じゃあちょっと風音を捜しに行って来る。」
 
恭也がそう言って外に出ようとしたその時だった・・・・・・。
 

ガシッ!!
 

忍が恭也の着ていた服の襟を掴んだ。
 
恭也「お、おい・・・。忍・・・・・・。」
 
恭也は忍の手を放そうとするが・・・ダメだった。
 
忍「恭也。お願いだから・・・行かないで。あの子を捜しに行かないで。あの子は「呪われた子供」なんだよ。私達の敵なんだよ。私達の幸せを壊そうとしている子なんだよ。」
 
忍は泣きながらまるで呪詛を唱えるかのように引き止める。
 
恭也「・・・・・・分かったよ。分かったから少しは落ち着けよ。俺は忍が落ち着くまで側にいてやるから。」
 
忍「ほんとう・・・。」
 
恭也「ああ。イレインとの戦いの少し前に言っただろ。『忍は・・・絶対に守る。俺の命に代えても・・・。』って。」
 
忍「・・・・・・ありがとう。」
 
忍は恭也のその優しい言葉を聞いて安心したのかさっきの様子が嘘であったかのように落ち着いた。
 
そんな恭也と忍を見て桃子は・・・
 
桃子「う〜ん。これじゃあ恭也はダメね。となると後は・・・。望、恭也の代わりに風音くんを捜しに行ってくれない?」
 
望「はい・・・。いいですよ。私も・・・風音さんの事が心配ですから。」
 
桃子「うん・・・。ゴメンね。いきなり・・・。あっ・・・後、外は雨が降っているから傘を持っていってね。」
 
望「はい。分かりました。」
 
望はそう返事をすると傘を二本持って翠屋を出た。
 

しかし、この時彼等は気が付いていなかった。
 
いつの間にか風音と同様ことりも翠屋からいなくなっている事に。


Tear...
 
Story.15  Ghost Child
 


 PM5:00   海鳴市   藤見台墓地
 
その頃の風音は・・・何も考えず走っていたが、気が付くとそこは墓地だった。
 
風音「・・・ここは。墓地ですか・・・。」
 
雨に濡れながら風音は呟く。しかし、もう自分には居場所がないと分かった所為か元気が無かった。
 
風音「僕は・・・存在してはいけない、必要の無い人間なのですかね・・・。」
 
そう呟きながらも墓地を歩き続ける。そして、ある墓で立ち止まった。
 
風音「・・・Alisa Lowell(アリサ・ローウェル)・・・。此処で眠る人は・・・日本人ではないようですね。」
 
風音はそう言うとしゃがんで手を合わせる。
 
風音「・・・安らかにお眠り下さい。本当ならお花をあげたいのですがすみません・・・。」
 
だが・・・その時だった。
 
風音「ぐっ・・・。・・・痛。何だろう。肋骨が・・・凄く痛い。それに・・・この感じはあの時と同じ・・・。」
 

バタッ!!
 

風音はそう言うとそのまま倒れた。そして・・・
 
??「はあ。はあ。やっと見つけた。」
 
ことりは風音を見つけて安堵した。だが、墓の前で倒れていた風音を見て驚きのあまり傘を落とした。
 
ことり「・・・意識が無い。・・・まさか。」
 
ことりはそう言うと墓を凝視した。
 
ことり「・・・やっぱりですね。風音くんは彼女の世界に・・・。そうだと風音くんを・・・助ける事が出来ない。でも・・・。」
 
ことりはそう言うと風音に触れる。
 
ことり「風音くんが祐一くんなのかどうかまだ分からないけど、さっきの風音くんの顔はあの時の祐一くんと同じだった・・・。だから、私の声を届けよう。」
 
ことりはそう言うと手に力を集める。そして・・・
    
       せいかきょう 
ことり「聖歌境!!」
 

能力を使った。自分の声を風音に届ける為に。 


その頃風音は・・・
 
風音「・・・んっ。」
 
風音はすぐに目を覚ましたが、其処はさっきまで自分がいた藤見台墓地ではなく何処かの廃ビルであった。
 
風音「あれっ・・・此処は・・・。」
 
風音はそう呟くと周りを確認する。しかし、何もない廃ビルなので何の情報も得る事が出来なかった。その時だった・・・。
 
??「・・・こんにちは。」
 
風音「えっ・・・。」
 
風音は声に反応して振り向くが、其処には紅い服を着た少女が浮いていた。
 
風音「貴女は・・・。浮いているから幽霊か地縛霊のどちらかだと思いますが・・・。」
 
??「ようこそ私の世界へ。私の名前はアリサ・ローウェル。貴方の言う通り私は地縛霊よ。そして、数年前に此処で殺された「呪われた子供」・・・「a ill−hated child」でもあるわ。」
 
アリサはそう言うと笑顔で降りて来た。
 
風音「僕は・・・神楽風音です。僕も貴方と同じ「呪われた子供」ですが・・・。でも、此処で殺された「呪われた子供」とはどういう事ですか。」
 
風音はアリサのその言葉を聞いて驚き問いかけた。
 
アリサ「うん。私は数年前に「龍」の奴等に誘拐されて、此処で暴行された挙句に殺されたのよ。まだ・・・知りたい事や学びたい事が一杯あったのにね。それで私はこの世に未練があって地縛霊になった。」
 
風音「・・・。」
 
アリサの話はまだ続いた。
 
アリサ「でも、私を殺した奴等はどうしても憎かったから「破滅」の能力を使って私を殺した人達を破滅させたわ。破産させたり事故に遭わせたりね。もっぱらその内の一人はあまりの恐怖に自殺しちゃったけど。」
 
風音「・・・そこまでやったのですか。でも、復讐なんかしたって・・・。」
 
アリサ「うん。・・・そう。復讐は果たしたけど満足しなかった。貴方が言おうとした通り虚しいだけだった。」
 
アリサはそう言って一息ついた。
 
アリサ「でもね・・・。今言った事は貴方にとっては人事じゃないんだ。貴方ももしかしたらそうなるかもしれないから。現にそういう「呪われた子供」は沢山いるし・・・。だから、貴方には私のようになってほしくなかったからこんな話をしたのよ。それと・・・。」
 
バシ!!
 
アリサは話すのを中断して風音の頬を叩いた。
 
アリサ「貴方・・・さっきまで殺して下さいって顔をしていたでしょう。だから説教したかったのよ。」
 
風音「・・・。」
 
アリサ「確かに居場所が無くなって辛いのは分かるけど・・・。でも、貴方は私と違って又1からやり直せるでしょう。だから、諦めないで。それに・・・貴方は一人じゃないでしょう。」
 
風音「えっ・・・。」
 
アリサ「嘘だと思うなら目を瞑って聞いてみなさい。彼女の声が聞こえてくるから。」
 
風音「はっ、はい。」
 
風音は言われた通りに目を瞑って耳をすませた。すると・・・
 
 
 

ことり「風音くん 悲しみを隠さないで  一人で泣かないで・・・・・貴方はひとりぼっちじゃないんだから。泣きたい時は一緒に泣こうよ。私だって眞子ちゃんだっているんだから・・・・・・。」
 
 
 

風音「・・・・・・この声はことりさん。」
 
アリサ「そうよ。これで分かったでしょう。貴方の居場所はちゃんとあるって事が。」
 
風音「・・・はい。」
 
風音は自分に居場所があると分かって嬉しかったのかいつの間にか泣いていた。
 
アリサ「どうやら分かったみたいね。なら、これを貴方に託すわ・・・。」
 
アリサがそう言うと空間が歪み一本の剣が現れた。
 
風音「・・・この剣は。」
 
アリサ「私が護身用に持っていた剣よ。でも、もう必要の無いものだから貴方にあげるわ。」
 
アリサはそう言って風音に剣を渡した。そして・・・
 
アリサ「さっきは叩いちゃってゴメンね。それと、ここに来る前にお花をあげると言ってくれて・・・ありがとう。」
 
風音「いいえ。こちらこそ大切な事に気が付かせてくれてありがとうございます。」
 
アリサ「うん。じゃあね。」
 
風音「さようなら。アリサさん。」
 
風音はそう言うと廃ビルを出た。そして・・・
 

アリサ「ううん。お礼を言いたいのは私の方だよ。君と又会えたのだから。ありがとうね・・・カザネ・・・いやユーイチ。私の生前の最初で最後の友達・・・。」
 
彼女もそう言うと消えた。そして・・・それと同時に廃ビルも崩れ去った。


PM5:40   海鳴市   藤見台墓地
 
風音「はっ・・・。」
 
倒れてから40分後風音はやっと目を覚ました。そして・・・自分の側にことりが倒れている事に気が付く。
 
風音「な・・・何でことりさんが此処に・・・。」
 
風音は現代の状況が上手く掴めなかったが、直ぐに分かった。
 
風音「アリサさんの世界でことりさんの声が聞こえたけど、もしかしたら能力を使って声を・・・。」
 
??「そうだよ。」
 
風音「えっ!?」
 
風音はその声に反応して振り向く。其処には・・・どう見ても小学生としか思えない金髪の少女が立っていた。
 
風音「君は・・・。」
 
さくら「ボクの名前は芳野さくら。君達と同じ「呪われた子供」の一人でことりちゃんの友達だよ。」
 
さくらは笑顔で自己紹介した。
 
風音「僕は・・・神楽風音です。と言いましても本当の名前じゃありませんけど・・・。」
 
それに対して風音は浮かぬ顔をして自己紹介をした。だが・・・
 
さくら「・・・知ってるよ。」
 
風音「えっ・・・。」
 
風音はその言葉を聞いて驚く。
 
さくら「・・・知りたい。ならボクに着いて来てよ。何故ボクが君の事を知っているのか教えてあげるから。」
 
さくらは冷静に言う。
 
風音「・・・いいですよ。ことりさんの事も心配ですし・・・。」
 
さくら「・・・交渉成立だね。じゃあ着いて来て。墓地の駐車場に車を待たせているから。」
 
こうして風音達は墓場をあとにした。
 
 
 

to be continued ・ ・ ・
 


あとがき

菩提樹「どうも就職戦線の真っ只中にいる菩提樹です。さて今回のゲストは・・・。」
アリサ「アリサ・ローウェルです。今回は私がメインだったわね。」
菩提樹「はい。風音に活を入れるのに一番適任なキャラだなあと思ったので登場させました。」
アリサ「登場できたのは嬉しいけど、どうせならなのはと久遠にも会いたかったなあ。」
菩提樹「すみません。私の力量不足で・・・。」
アリサ「後、私を殺してくれた人達についてだけど原作と違うわね。」
菩提樹「原作は知っていますけど、残酷だなと思って変えました。貴女には申し訳ないと思いますが・・・。」
アリサ「まあ、もうそれはいいわ。虚しいだけだし。でも、恭也と忍は大したバカップルぶりね。」
菩提樹「はい。前の話で忍の扱いが悪かったので恭也とのラブシーンを書きました。と言うよりも私自身が書いてみたかったので書きました。」
アリサ「そう。まあそうでもしないと忍ファンを敵に回す事になるからね。」
菩提樹「すみません。」
アリサ「最後に、私ってどうなったの?消えちゃったけど。」
菩提樹「成仏しました。」
アリサ「やっぱし。」
菩提樹「はい。そこら辺はケジメをつけたかったので。」