3月26日―――PM3:10   海鳴市  高町家(眞子side)
 
その日私は翠屋のシフト変更により急に休みになったので、相沢の手がかりを捜しに市役所等に足を運んだが、その日も収穫無しに終わってしまった。そして、久々に高町家に寄ってみたらレンと晶に組手を頼まれて相手をする事になった。
 

レン「覇ぁぁぁぁぁっ!!!」
 

ブンッ!!
 
レンの棍が唸りをあげる。見かけによらず鋭く、威力を秘めた棍が紙一重で私の脇をすり抜ける。
 

晶「はぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 

ダンッ!!
 
レンが作った一瞬の隙に間合いを詰めてくる晶。
 
そのまま勢いを乗せた拳を私に向かって打ち出す。
 
…躊躇いのない良い拳だが……私に向けるには素直すぎる。
 
パンッ!!
 
軽く右の裏拳を打ち込み、拳の軌道を変える。同時に晶の懐に潜り込み、交差法ぎみに鳩尾に肩から当たりに行く。
 
ズンッ!!
 

晶「がはっ…」
 

鳩尾に食らった衝撃で棒立ちになる晶。
 
その向こうから突っ込んでくるレンに向かって晶を押す。
 

レン「邪魔やおさるっっ!!」
 

晶「の゛っっ!!!」
 

ゲシッ!!容赦の無い蹴りが進路上の晶を吹き飛ばす。
 
…一瞬も躊躇しないとは…あなどれないわね…。あ、向こうで悶絶してる…。
 

レン「せいっ!!!」
 

タタタタタタタタタッッッッ!!!
 
繰り出される無数の突き。…一つ辺りの威力は落ちるが今の私を相手にするには最適の選択である。
 
無数の突きを受け流し、躱し、弾いていく。少しずつ後ろに押されていく私。
 
トンッ…やがて背中が壁に当たる。
 

レン「っっ!!貰った―――――――!?」
 

勝利の確信を持って繰り出された突きを咄嗟にしゃがんで回避する。
 
と同時に、繰り出した足払いがレンの軸足を払って体勢を崩す。
 
そして左手で首を掴んで地面に引きずり倒す。
 

眞子「…はい、おしまい。」
 

こうして戦いは私の勝ちで終了した。
 


Tear...
 
Story.14 Blood
 

 
3月26日   PM3:30  海鳴市  高町家(眞子side)
 
カタカタカタカタカタカタ!!
 
晶とレンの組手が終わった後、私はリュックの中からノートパソコンを取り出して調べ物をしていた。わかばはなのはや子狐の久遠と庭で遊んでいて、晶とレンはのびたままだった。
 
揃いも揃ってやっている事がバラバラだが、それはそれで仕方がない。それから暫くして、晶とレンが目を覚ました。
 
晶「ううっ…二人がかりでも勝てないなんて・・・」
 
レン「眞子さんは強すぎです…」
 
眞子「そんな事ないわよ。二人とも前よりも格段に強くなってるから。」
 
そう。晶もレンもけっして弱いわけではない。…むしろ一般の水準からすれば強い部類に属すだろう。
 
だが、私やことりのように『呪われた子供』として『生きるか死ぬか』の世界を潜り抜けてきた人間とは覚悟が違う。それが私と二人との違いだ。そんな時だった。
 
わかば「水越さん。雲行きが悪くありませんか?」
 
眞子「えっ・・・。」
 
わかばにそう言われて私は空を見上げる。さっきまで晴れていたのに雲行きは真っ暗だった。そして・・・
 
??「にゃ〜。」
 
私達の前を一匹の黒猫が通り過ぎる。しかも・・・ブチッ!!
 
なのは「あれっ。おかしいなあ。靴紐が切れちゃった。」
 
わかば「確かにおかしいですわね。この靴まだ買ったばかりですのに。」
 
久遠「くうん。」
 
眞子「本当に・・・やな予感がする。ここ2日間は平和だったのに・・・。」
 
私はそう言うと再び空を見上げた。


PM4:00   海鳴市  翠屋
 
美魚「それでは今日はこの辺で失礼します。」
 
真魚「神楽さん今日もありがとうございました。」
 
二見姉妹はそう言うとお会計を済ませて翠屋を出た。ちなみに二人は2日前に翠屋を訪れてから毎日翠屋に来ている。そして、今ではちょっとした常連客となっていた。
 
風音「はい。又のお越しをお待ちしております。」
 
風音はそう言うと先程まで二見姉妹が利用していたテーブルを拭く。
 
そして、風音が二見姉妹の利用していたテーブルに置いてあるカップや皿を持って厨房に戻ったその時だった。
 
カラン!!カラン!!
 
恭也がやって来た。恋人らしい女性を連れて。
 
美由希「あっ。恭ちゃんに忍さんいらっしゃいませ。」
 
恭也「悪いな。ちょっと利用させてもらうぞ。」
 
忍「忙しいところをゴメンね。」
 
桃子「ううん。全然構わないわよ。何てったって忍ちゃんはもう私の娘みたいなものだし。」
 
恭也「か・・・母さん。」
 
忍「桃子さん・・・。恥ずかしい事を言わないで下さい。」
 
そう言うと二人の顔は赤くなった。二人もどうやらまんざらではないみたいである。
 
恭也「それよりも母さん・・・。風音とことりを呼んできてくれ。忍を紹介したいから。」
 
桃子「うん。分かったわ。ちょっと待っててね。風音くんにことりちゃんちょっと来て。」
 
風音・ことり「「はい。」」
 
桃子がそう言うと厨房にいた風音とことりが現れる。
 
桃子「紹介するわ。赤い髪の方が1週間前からバイトをしている白河ことりちゃんで、黒い髪の方が二日前に新しく入った神楽風音くんよ。」
 
ことり「はじめまして。白河ことりです。」
 
風音「どうも。神楽風音です。」
 
風音とことりはそう言って二人に挨拶をした。
 
恭也「ああこちらこそよろしく。・・・風音その制服、似合ってるな。正直驚いたぞ。」
 
忍「・・・月村忍よ。・・・よろしく。」
 
恭也は風音の着ている制服に驚いたのかこのような挨拶しかできなかった。そして忍は・・・だるそうな顔で頭を押さえながら挨拶をした。
 
桃子「・・・ってあれ。何かいつもと違ってみんな何も言わないわね。」
 
こうして自己紹介は終わった。


PM4:10   海鳴市  翠屋
 
自己紹介から10分後・・・忍はまだ調子が悪いのか頭を押さえたままだった。
 
忍(本当に・・・ムカムカする。あの子達を見た時から。)
 
そう。忍は風音とことりと会ってからこの状態なのだ。
 
その時だった。
 
忍(なっ・・・何なの!?)
 
殺せ!!「呪われた子供」を殺せ!!
 
忍の耳に何処からかざわめきが入ってきた。
 
殺せ!!我等「夜の一族」に厄災をもたらす者共を!!
 
殺せ!!我等の邪魔をした者共を!!
 
殺せ!!不要な存在を!!
 
殺せ!!我等に逆らいし者共を!!
 
忍(うるさいわね。止めてよ。「呪われた子供」なんて関係ない!!)
 
殺せ!!忌まわしき存在を!!
 
しかし、ざわめきは修まるばかりかますます酷くなっていった。そして・・・
 

殺せ!!汝の両親を殺した存在を!!
 

忍(えっ・・・。)
 
その時だった。
 
ブウン!!
 
忍の瞳が赤くなって戦闘状態に入る。
 
恭也「おい・・・忍。どうし・・・。」
 
恭也は忍の様子がさっきまでとは違うと気付いたのか声をかけたが・・・
 
忍「恭也ちょっと・・・魔法を解いてくるね。あの子達が恭也達にかけた悪い魔法を・・・。」
 
恭也「なっ・・・。」
 
忍のその言葉に圧倒されて動けなくなった。そして・・・立ち上がり、風音のそばに近づく。音も発てずに・・・。


同時刻   海鳴市  翠屋(風音side)
 
風音「はい。コーヒーとチーズケーキのセットとウィンナーコーヒーとブルーベリータルトのセットですね。少々お待ち下さい。」
 
その時の僕は・・・3番テーブルでオーダーをとっていた。
 
風音「桃子さん、3番テーブルのお客様のオーダーがコーヒーとチーズケーキのセットとウィンナーコーヒーとブルーベリータルトのセットです。」
 
桃子「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
 
そう。とても忙しいけど・・・とても平和で明るい日常でした。しかし・・・
 
ゾク!!
 
後ろから殺気を感じたので慌てて振り向きましたが・・・。そこには忍さんが鬼のような形相で立っていました。
 
風音「あっ・・・。忍さんでしたか。何か御用でも・・・。」
 
僕がそう言おうとしたその時だった。
 
忍「貴方・・・悪いけど死んで・・・。」
 
風音「えっ・・・。」
 
その時だった。
 
ヒュン!!
 
忍さんが僕に向けて一撃を入れてきた。
 
風音「し・・・忍さん。何を・・・。」
 
僕は忍さんの一撃を間一髪のところで避わして問いかけました。
 
忍「貴方・・・「呪われた子供」でしょう。だから・・・死んでちょうだい。さっきから・・・私の血が疼いて仕方がないのよ。」
 
僕はその言葉に唖然となった。
 
風音「もしかして・・・貴女は・・・。」
 
忍「ええ。お察しの通り私は「夜の一族」・・・。貴方達の敵よ・・・。」
 
忍さんの言葉を聞いて僕は驚きのあまり何も言葉を発せずにいた。そして・・・
 
ヒュン!!
 
忍さんの第二撃が僕を襲う。
 
風音「くうっ!!」
 
 
僕は又忍さんの攻撃を避けた。
 
風音(どう考えても今の忍さんはおかしい。目も赤くなってるし・・・。なら・・・これしかない。)
 
僕はそう結論を出すとそのままドアまで走って翠屋を出た。
 

バタン!!
 

恭也さんを含む翠屋にいた人達はあまりの展開についていけず唖然としていたが、幸いにも怪我人は出ていなかった。
 
風音(忍さんが何故いきなり僕を襲ってきたのかは分からないけれど、このまま此処にいたらみんなを巻き込んでしまう。)
 
僕は外に出るとそのまま走った。外は雨が降っていたが構わなかった。
 
 
 
 
 
 
 
そして、僕はこの時初めて記憶を奪われた時に言われた言葉の意味が分かった。
 
「何処を進んでも『悲しみ』しかないという地獄を歩き続けるがいい・・・。」
 
それは・・・僕を受け入れてくれる所なんて居場所なんて何処にもないという事だ。あの日、黒葉という人に記憶だけではなく居場所も同時に奪われたという事に今、初めて気付いた。
 
 
だから・・・もう翠屋にも高町家にもいられない。いたら、恭也さん達の幸せを壊してしまうから・・・。
 
だけど、一体どこに向かえばいいんだろう?
 
ことりさん。眞子さん。・・・どうしたらいいんですかね?教えて下さい。


4:20  海鳴市  ???
 
??「どうやら・・・始まったようですね。「血の宿命」が。」
 
人が誰も居ない無人の洋館で黒葉は呟いた。
 
黒葉「くっくっくっ。さあ、相沢くん。「地獄」の始まりですよ。」
 
黒葉はそう言うと洋館の地下室に向かう。その時だった。
 
??「何処へ行かれるのですか?」
 
そこには・・・ピンク色の髪の女性 綺堂さくらが立っていた。
 
黒葉「これはさくらお嬢様。ご機嫌麗しゅう。」
 
黒葉はそう言うと頭を下げる。
 
さくら「黒葉さん・・・忍とあの二人の「呪われた子供」と会わせたようですが・・・。忍が殺戮衝動で暴れると知ってて。」
 
黒葉「ええ。でもそれが何か?」
 
黒葉はとぼけたように言葉を返す。
 
さくら「「呪われた子供」はどうでもいいけど・・・忍の幸せを壊す気ですか?」
 
キッ!!
 
さくらはそう言うと黒葉を睨み付けた。
 
黒葉「いいえ。そのつもりは。只、相沢くん宛てのメッセージですよ。」
 
さくら「そう・・・。ならいいのですが。」
 
さくらはそう言うと黒葉のいる方向に足を進める。そして・・・
 
さくら「貴方が何をやろうと勝手だけど・・・忍の幸せを壊す事があったら貴方を許しませんよ。黒葉・・・いいえ。久瀬さん。」
 
さくらはそう言うとその場を立ち去った。
 
一方の黒葉は・・・
 
黒葉「おお怖い。さて、行きますか。7人の死者の一人  沢渡真琴を呼びに。くっくっくっ・・・。」
 
黒葉はそう言うと洋館の地下室にある死体置き場に降りていった。
 
 

to be continued ・ ・ ・


あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。風音くんがとうとう「夜の一族」の忍と衝突しましたが・・・。さて、今回のゲストは・・・。」
忍「月村忍です。って、私悪役じゃないの。」
菩提樹「すみません。でも、こういうの書きたかったので・・・。」
忍「ふざけんじゃないわよ。私と恭也との関係はどうなっちゃうのよ。(怒)」
菩提樹「その点は心配無用です。この事で恭也さんとの関係に間違ってもヒビが入る事はありませんから。」
忍「そう・・・。ホッ。(安堵の溜め息)」
菩提樹「でも風音くんとは敵対しているという設定は変えませんのであしからず。」
忍「ちょっとそれ・・・どういう意味よ?」
菩提樹「それ以上は書けません。それでは又〜。」
忍「コラ〜ッ!!逃げるな〜!!」