夢。
 
夢を見ている。
 
でも、ここは何処だろう。この人達は誰だろう。分からない・・・。
 
喫茶店のようだが・・・どう見ても日本とは思えない。
 
それに・・・椅子に座っている人達は望さんに似た人や青い髪の女の人達だが・・・。
 
その内の一人の女性が僕にオーダーを頼んだ。
 
??「あっ・・・ゆう・・・くん紅茶のお替り頼んでええ?後、出来れば「天の川」で・・・。」
 
「天の川」・・・何だろう。
 
??「あっ・・・はい。分かりました。」
 
そう言うと僕は紅茶の入った小型のティーポットを持った右手を高く上げて川の流れのように紅茶を入れた。
 
??「はい。どうぞ。「天の川」です。」
 
そう言って僕はその人に紅茶を渡す。なるほど・・・これが「天の川」か。
 
??「うん。ありがとう。でも、いつ見てもその技は綺麗やな。」
 
そう言ってその人は僕の頭をなでる。
 
??「ありがとうございます。」
 
夢はそこで終わる・・・。
 
 
 
風音「・・・変な夢でしたね。紅茶の夢なんて・・・。」
 
風音はそう言って目を覚ます。
 
風音「・・・でも。これが僕専用の制服ですか・・・。桃子さんも無茶苦茶な人ですね・・・。」
 
風音はそう言うと桃子から支給された制服を見て溜め息をつく。それは・・・白いチーフタイにカッターシャツにエプロン型の黒スカートと言うどう見てもシスタータイプの制服だったからである。
 
風音「まあ・・・これでも随分マシになったと思いますけどね・・・。最初はメイド服でしたし・・・。」
 
風音はそう言うとそっと制服に触れる。そして・・・
 
風音「・・・まあ、いいですか。」
 
と、呟いた。
 


Tear...
 
Story.13 春先の天の川
 

 
3月24日―――PM0:30  海鳴市  翠屋
 
もう春休みに入っている所為かお客さんがいつもよりも多い。特に学生のお客さんが。
 
風音「ことりさん、すみません。チーズケーキとチョコフォンデュを1個ずつお願いします。」
 
ことり「はい。分かりました。少々お待ち下さい。」
 
美由希「お待たせしました。アールグレイです。」
 
望「はい。合計で1470円になります。有難うございました。」
 
桃子「風音くん。6番テーブルのお客様にアップルパイ2個とシュークリーム1個持って行って。」
 
風音「はい。分かりました。」
 
忙しい。本当に忙しい。
 
しかも・・・
 

カシャッ!!カシャッ!!
 

一部の客がカメラ付き携帯や隠しカメラでことりや風音を撮るから溜まったもんじゃない。
 
それが、風音達の精神的苦痛を増やす一因となっている。
 

風音「あのう・・・望さん。さっきから、僕結構撮られてる気がするんですけど・・・。」
 
望「気がするんですけどじゃなくて・・・本当に撮られているんです。」
 
桃子「風音くん美人だからね。」
 
ことり「そおっすね。風音くんは男装している女性にしか見えませんしね。」
 
望は呆れた顔で、ことりと桃子は笑顔で答えた。
 
風音「そう言われても・・・全然嬉しくありませんよ。」
 
こういったやり取りをしながら、時間は過ぎていった。
 

PM2:00      海鳴市  翠屋
 
それから1時間半後・・・ラッシュもやっと終わって客は一人もいなくなった。それで、風音達は少し休憩をとる事にした。
 
桃子「みんなお疲れ様。アイスティーをついだから飲んでね。」
 
桃子はそう言ってみんなにアイスティーを振る舞った。
 
風音・望・ことり「「「ありがとうございます。」」」
 
美由希「あっ、母さんありがとう。」
 
そう言って風音達はアイスティーを飲み始める。そして・・・
 
桃子「どう。風音くん。ここの仕事は。」
 
桃子は風音に質問した。
 
風音「う〜ん。思ったよりも大変な仕事でした。それに・・・この格好をするのもちょっと辛いです。最初は厨房の仕事かと思っていましたし。」
 
桃子「うん・・・。ゴメンね。でも風音くんって何か人付き合いが苦手そうだったから。それに・・・女顔だから女装させてみたかったし。まあ、そのお陰で売上もいつもの2倍になったし勘弁してね。」
 
風音はそれを聞いて半ば呆れながら話を続ける。
 
風音「でも・・・感謝しています。ここの仕事をやっている間は戦いの事を忘れる事ができましたから・・・。」
 
桃子「そう・・・。」
 
桃子は何も言えなかった。風音の台詞で彼が恭也や士郎と同じ部類に属する人間つまり「戦う」人間だと分かったからである。そして・・・
 
風音「アイスティーありがとうございました。」
 
そう言って空になったグラスを桃子に返した。
 
桃子「はい。どういたしまして。」
 
桃子はそう言うと空になったグラスを回収して厨房に戻った。
 

PM3:00       海鳴市  翠屋
 
それから・・・暫くして俗に言うおやつの時間になり、客は少しずつ入ってきて又、忙しくなり始める。そんな時だった。
 
ことり「ねえ、風音くん。二見さんまだ来ませんね。」
 
ことりが風音に声をかけた。
 
風音「そうですね。でも、約束したから来ると思いますけど。」
 
その時だった。
 
カラン!!カラン!!
 
誰かが来たのかドアについていたベルが鳴る。
 
望「いらっしゃいま・・・。あっ・・・貴女は・・・。」
 
風音とことりは望の声に反応して振り向いた。そこには・・・国守山で出会った少女と彼女に容姿の似た少女が立っていた。
 
少女「あっ風音さん、こんにちは。あの時はどうも・・・ありがとうございました。」
 
風音「いいえ。どういたしまして。足はもう大丈夫ですか?」
 
少女「はい。あの後、包帯巻きましたし、朝になってから病院で診てもらいましたから・・・。まあ・・・病院に行かなくても良かったのですけどお姉ちゃんにきつく言われましたから・・・。」
 
風音「そうですか・・・。安心しました。」
 
風音がホッと安堵の溜め息をついたその時だった。
 
望「お客様。2番テーブルのお席が空いておりますのでそちらにどうぞ。」
 
望のその言葉で彼らの会話はストップした。
 
それから5分後・・・
 
風音は桃子から休憩時間を貰いお互いの自己紹介を始めた。
 
風音「それではあらためて・・・神楽風音です。」
 
少女「どうも・・・ご丁寧に。私は・・・二見美魚です。国守山ではどうも・・・ありがとうございました。(//)」
 
美魚に似た少女「私は美魚の姉の二見真魚です。美魚を助けてくれてありがとうございます。姉と言いましても双子ですけど・・・。(//)」
 
何故かは知らないが二人とも挨拶の仕方がぎごちなかった。それに風音の顔を見た時二人とも何故か顔が赤かった。
 
風音「いいえ。こちらこそご親切にありがとうございます。」
 
お互いに礼を言った。そして・・・
 
真魚「あのう・・・。どうして神楽さんは男性なのにそんなシスタータイプとも言える制服で仕事をしているのですか?とても似合いますから違和感はありませんが・・・。」
 
真魚が単刀直入に質問した。
 
風音「それは・・・ここの店長である桃子さんの命令です。」
 
真魚「そうですか。やっぱし・・・。」
 
真魚はそう言うと溜め息をつく。
 
風音「やっぱし・・・って。真魚さんも心当たりがあるのですか?」
 
真魚「ええ。美魚が入院していた病院の喫茶店でアルバイトを頼まれた事がありましたがその時に・・・。」
 
風音「・・・お互い苦労しますね。こういう事では・・・。」
 
美魚「でも、そのお姉ちゃんの着ていた制服でしたが、結構似合ってましたよ。ネコ耳メイドの制服でしたけど。」
 
風音「ネコ耳メイド・・・ですか。」
 
真魚「ちょ・・・っ美魚。(真っ赤)」
 
風音「・・・真魚さん。大変だったんですね。」
 
真魚「・・・ええ。」
 
真魚はそう言って頷く。そして・・・
 
風音・真魚「「はあ・・。」」
 
二人は溜め息をついた。
 


同時刻  海鳴市  翠屋(望・ことり・桃子side)

望「何かいきなり話のテンションが落ちましたね。」
 
仕事をしながら風音達を監視していた望が呟く。
 
桃子「そうね。特にあのツインテールの女の子は風音くんと同じタイプぽかったしね。何か暗くなるような話でもしたんじゃないの。」
 
そう言ってくすっと笑う。
 
そんな時だった。ことりが後ろから望の肩を叩いた。
 
ことり「望ちゃん。これを風音くんに渡してください。」
 
ことりは小声でそう言うと望に折り畳まれていた紙を渡した。
 
望「あっ・・・。はい。」
 
望はそう言うと2番テーブルに行き、注文を取りに行った。
 
そんな望の様子を見て桃子は・・・
 
桃子「望も大変ね。又、ライバルが増えちゃったみたいだし。まあ風音くんも風音くんだけどね。無意識で人を落としてるんだから。」
 
と呟いて仕事に戻った。
 

それからしばらくして・・・
 
望「ご注文は飴色紅茶2つにチョコフォンデュとレモンパイでよろしいでしょうか?」
 
望は美魚と真魚にオーダーを聞き、風音のポケットにことりから頼まれた手紙を入れる。
 
風音はそれに気付き折り畳んであった手紙を出して、内容を見る。そして・・・
 
美魚「はい。」
 
真魚「結構です。」
 
美魚と真魚がそう言うと風音も立ち上がった。
 
風音「すみません。ちょっと席を外しますね。」
 
美魚・真魚「「えっ!?もう休憩時間おしまいなのですか?」」
 
風音「いいえ。ちょっとしたパフォーマンスをやる事になったので。」
 
美魚「パフォーマンスですか?」
 
風音「ええ。」
 
風音はそう言うと厨房に戻った。そして・・・数分してお茶の入った小型のティーポットとグラスを2つ乗せたお盆を持って戻ってきた。
 
風音「じゃあ見せますね。「天の川」を。」
 
真魚「「天の川」ですか・・・。」
 
風音「ええ・・・。」
 
風音はそう言うと紅茶の入った小型のティーポットを持った右手を高く上げてまるで川の流れのように1つ目のグラスに紅茶を入れた。そして、2つ目のグラスにも同じ方法で紅茶を入れた。
 
美魚「綺麗・・・。」
 
真魚「確かに・・・「天の川」ですね。ちょっと早い春先の天の川・・・。」
 
そう言って彼女達は驚き、風音の技に釘付けになった。いや、正確に言えば翠屋にいる人間全てが彼の技に心を奪われていた。
 
風音「はいどうぞ。飴色紅茶です。」
 
風音がそう言うと時間が再び動いたかのように喝采が巻き起こった。そして・・・
 
客1「凄かったね。あのお姉さん。」
 
客2「うん。俺あの人のファンになっちゃった。物凄く美人だし。」
 
客3「あの「天の川」っていうのもう一回見てみたいなあ。」
 
客4「私達も頼もうよ。飴色紅茶ってのを。」
 
客5「そうね。」
 
風音の「天の川」により周りが騒がしくなり始めた。
 
風音「・・・すみません。そろそろ忙しくなりそうなので、そろそろ席を外しますね。」
 
真魚「いいえ。どうもありがとうございました。」
 
美魚「又、見せてくださいね。」
 
風音「はい。」
 
風音はそう言うと再び仕事に戻った。
 

PM3:30        海鳴市  翠屋  厨房
 
仕事に戻った風音を望や桃子は凄いよと褒めたが、ことりは浮かぬ顔だった。
 
ことり(手紙で知らせてやらせてみたけど・・・あの技が出来るなんて・・・。)
 
風音の「天の川」を見てことりは驚かずにはいられなかった。
 
ことり(あのお茶の入れ方は・・・祐一くんしか出来ない筈なのに・・・。どうして・・・風音くんが・・・。)
 
そう。あのお茶の入れ方はことりが知る限りでは祐一にしか出来ない入れ方なのである。祐一がイギリスにいた時に編み出した技なのだから・・・。
 
ことり(どういう事なのですか・・・。御神の技が使える事と言い、さっきの「天の川」と言い・・・。)
 
ことりの頭に一つの考えが浮かんだ。そして・・・
 
ことり「風音くん・・・あなたは・・・祐一くんなのですか・・・。」
 
ことりは小声でそう呟いた。誰にも聞こえないほど小さな声で・・・。
 
だが、その答えは出ないままその日は終わった。
 

 to be continued ・ ・ ・
 


あとがき
 
菩提樹「どうも菩提樹です。どうも更新が遅くなって本当にすみません。掲示板でも書いた通り大学の講義(特別講座の講義)が2時間延長したり、風邪をひいたりして遅くなっちゃいました。さて・・・今回のゲストは・・・。」
ことり「白河ことりです。やっとの出番ですが・・・。」
菩提樹「すみません。クリスマス編のあとがきで出しちゃいましたから、遅くなっちゃいました。」
ことり「まあいいっすけど。でも、本当に遅かったです。」
菩提樹「・・・すみません。」
ことり「謝る事はそれだけじゃありませんよ。何気にライバル増えちゃいましたし・・・。」
菩提樹「あの二人「21〜Two One〜」の二見姉妹ですね。セナさんのSSを読んでどうしても登場させたくなったので・・・。」
ことり「まあその件はいいとして・・・。又、謎を残して「続く」の展開になってしまいましたね。次回はどうなるのですか・・・。」
菩提樹「そうですね・・・。さくらさんを登場させますかね。」
ことり「どちらのですか?綺堂さくらさんですか?それとも芳野さくらちゃんの方ですか?」
菩提樹「それは・・・教えられません。すみません。」
ことり「やっぱし・・・。」