3月23日―――PM11:40  海鳴市  国守山
 

??「はあっ!!」
 
??「たあっ!!」
 

カン!!キイン!!キイン!!
 

もう真っ暗で誰もいない国守山で二人の剣士が剣を交えていた。
 
それは・・・高町恭也と神楽風音だった。
 
何故こういう事になったかと言うと・・・夕食前に恭也に手合わせを頼まれたからである。
 
そして・・・現在
 
風音「はあはあ・・・。強い。」
 
恭也「どうした。君の力はこんなものか?」
 
一見互角に見えた勝負も時間が経つにつれて時雨一本しか持っていない風音が徐々に追い詰められていった。
 
それを隣で観戦していた望と美由希は・・・
 
望「恭也さん本気でやっていますね。風音さんはまだ傷が完治したばかりだと言うのに。」
 
美由希「うん。でも、風音さんもすごいよ。小太刀一本であそこまで恭ちゃんと戦ってるんだし。私じゃ絶対無理だよ。」
 
望「・・・そうですね。私でも恭也さんにまだ一度も勝った事がありませんし。」
 
しかし、望の顔は何故か辛そうであった。
 
望「・・・でも、風音さんの戦いは何か痛々しくて見ていられません。」
 
美由希「・・・そうだね。彼の戦いには『悲しみ』しか感じない・・・。」
 
美由希もそう言って辛い顔をする。
 
彼女達はそう言うと再び二人の戦いを観る事に集中した。
 


 Tear...
 
Story.11 御神の戦い
 


PM11:43  海鳴市  国守山(恭也side)
 
恭也「どうした。君の全てを俺にぶつけてこい!!」
 
そう言って風音を挑発する恭也だが、心の中では焦っていた。
 
恭也(参ったな。小太刀一本でここまで戦える人間がいるなんて。まあ、二刀流が一刀に勝るなんて思っていないが、今までの修行を否定されているみたいだ・・・。)
 
そして、心の中で恐怖を感じていた。
 
恭也(・・・何を恐れているんだ、俺は。相手はもうヘトヘトなのに。だが、さっきの『虎切』は・・・まるで父さんだった。)
 
そう。彼は風音の『虎切』を見た時に微かに自分の父 不破士郎を感じたのだ。それは何故か分からないが・・・。
 
恭也(俺は君が何者かを知りたい。だから、次で決める。絶対に勝つ。幸いにも君は『虎切』以外の御神流の奥義が使えない。だから・・・次の一撃で君を倒す。)
 
恭也は心の中でそう思うと、構えた。
 
恭也「次の一撃で最後だ。だから君も全力で来い!!」
 

美由希「はっ・・・。恭ちゃんその構えは・・・。」
 
               なぎつむじ
望「・・・御神流奥義ノ六 薙旋。」
 

同時刻  海鳴市  国守山(風音side)
 
風音「はあはあ。まさか切り札の『虎切』が効かないなんて・・・。それに・・・『時読』もあの『神速』という速く動く技の前じゃ通用しないし・・・。」
 
そう。彼はさっき『虎切』で攻撃したが、恭也の『神速』で避けられてしまったのである。そして、『斬』や『徹』で攻撃したが、これも簡単に受け流された。
 
風音「・・・この人昨日戦った幻丞さんよりも強い。」
 
風音も又、恭也に恐怖していた。
 
風音(でも・・・負けたくない。ここで勝って・・・強くならないと、望さんやことりさん達を守れなくなるから・・・。だから、勝たないと・・・。)
 
しかし、彼には致命的な弱点に気付く。
 
風音(でも・・・怖い。恭也さんを傷つけたくない。いや・・・傷付けられない。)
 
そう。彼の致命的な弱点とは・・・『優しさ』。
 
優しすぎるが故によほどの事が無い限り例え敵でも攻撃する事に躊躇してしまうのだ。
 
風音(でも・・・迷っちゃ駄目だ。僕は強くならなければいけないのだから・・・。)
 
風音は心の中でそう決意した。
 

PM11:45  海鳴市  国守山
 
膠着状態が続いてから2分が経過した。
 
しかし、両者とも相手が先に動くのを待っているのか膠着状態になっている。
 
そして・・・
 
                              なぎつむじ
恭也「行くぞ!!御神流奥義の六  薙旋!!
 

ヒュン!!
 

恭也の方が先に動いた。
 
しかし、風音はその場から動かなかった。
 

風音(僕はこの人に勝ちたい・・・。でも、御神の奥義のほとんどは二刀の技だ。だから、今の僕に使える奥義は『虎切』しかない。)
 
そう。彼は恭也との戦いを通して御神の奥義を全て思い出したのだ。しかし、彼の手には小太刀が一本あるだけで二刀ではない。だから、『虎切』しか使えないのである。
 
風音「ならば・・・全身全霊の一撃しかない!!」
 
風音もそう言って構えた。
 
                                                       こせつ
風音「・・・行きます。御神流奥義の壱  虎切!!
 

キイン!!
 

キイン!!
 

そして・・・二つの御神の奥義がぶつかる。だが、両者共に剣を引かない為に根比べになった。
 
恭也「くっ・・・。」
 
風音「ま、負けられないのに・・・。」
 
そして・・・二人とも奥義の衝撃でぶっ飛び・・・倒れた。
 
ドカッ!!
 

ドカッ!!
 

こうして二人の戦いは幕を閉じた。
 


3月24日  AM0:30  海鳴市  国守山
 
風音「はっ・・・。いたた。勝負は・・・。」
 
恭也との戦いから45分後、風音はやっと目を覚ました。
 
恭也「引き分けだ。一本の小太刀だけでよくやった。」
 
そう言って、恭也は風音に手を差し出す。
 
風音「いいえ。こちらこそどうもありがとうございました。」
 
そう言って握手をした。しかし・・・
 
風音「くっ・・・いてててて・・・。」
 
風音は腕に激痛を感じて、再び膝をついた。
 
恭也「無理をするな。思いっきり木に激突したんだぞ。」
 
風音「えっ・・・。」
 
恭也「望。悪いけど彼を家まで連れてってくれないか?一応応急処置はしておいたが、一人で家まで帰るのは辛いと思うし。」
 
望「はい。いいですけど、恭也さんの方は大丈夫なのですか?膝の古傷とか・・・。」
 
 
恭也「ああ少し休めば大丈夫だ。美由希、悪いけど肩貸してくれ。俺も今の負傷した状態で一人で帰るのはちょっとキツイ。じゃあ、俺達は先に帰ってるからな。」
 
美由希「うん、分かった。そういう事で私もじゃあね。」
 
そう言って二人は高町家に帰った。
 


3月24日  AM0:45  海鳴市  国守山
 
 
恭也達が高町家に帰ってから15分後・・・二人は国守山を歩いていた。
 
望「大丈夫ですか・・・?」
 
望は風音の身体が心配なのか問いかけた。
 
風音「ええ。大丈夫です。こんなの僕の能力で回復できますから。」
 
望「えっ・・・。」
 

                                         さいらい
風音「あっ。やっぱ驚きましたか。じゃあ実際に見せてあげます。『再来』!!
 

風音がそう言って自分の胸に手をあてると・・・
 
望「き・・・傷が治っていく。」
 
そう。彼女の言うとおり風音の傷は徐々に治っていき、2時間前の無傷の状態へと戻っていった。
 
望「風音さんもわかばと同じ様に治癒系の能力者ですか?」
 
望は風音に質問した。
 
風音「いいえ。僕の能力は『時』です。『再来』は触れた人や物の状態を指定した時間の状態に戻す能力ですので僕の状態も指定した時間の状態に戻したと言う訳ですよ。だから正確に言えば『再来』はわかばさんのような治癒の能力ではないのですよ。」
 
望「成る程。でも、そんなに凄い能力だと制約もあるのでは・・・。」
 
望が再び質問したその時だった・・・。
 

バコン!!バキッ!!
 

いきなり周囲の木々が二人のいる方向に倒れた。
 
風音「なっ・・・。」
 
望「えっ・・・。」
 
風音と望は驚きながらも自分達に向かって倒れてくる木々をかわす。
 
そして・・・
 

??「ケシャ―――ッ!!」
 
       モンスター
一匹の黒い怪物が現れた。だがよく見るとその姿は鬼と言ってもよいものだった。
 
望「なっ・・・。何ですかこの化け物は・・・。」
 
風音「分かりません。でも、僕はこの化け物をどこかで見たような気がします。」
 
望「えっ・・・。」
 
だが、そんな事を言っているうちにその怪物は二人に向かって攻撃を仕掛けてきた。
 
望「・・・やるしかないみたいですね。ならばこっちも・・・。」
 
望はそう言うと怪物の攻撃をかわし、怪物の頭部に脚を振り下ろす。
 

望「はあっ!!」
 

ドン!!
 

??「グシャーッ!!」
 

怪物は断末魔の声をあげ・・・消えた。
 
望「・・・今のは何だったんでしょうね風音さん。」
 
しかし、風音は望の言葉に気付いていないのか無言だった。
 
だがその時・・・
 

ズッ・・・ズル!!
 

二人の影がグニャリと変形して、さっきの黒い怪物が現れた。しかも今度は一体ではなく、十体であった。
 
風音「・・・やっぱ思った通りですね。さっきの一体だけじゃないとは思っていましたが・・・。」
 
望「又ですか。もう次から次へと。」
 
風音「ええ。でもやるしかないです。今度の相手は人間じゃありませんから話し合いで解決と言うのは無理ですし。」
 
そして、黒い怪物は二人に向かって襲い掛かってきた。
 

同時刻   海鳴市  国守山頂上
 
??「ふふっ・・・ゲームスタートだな。」
 
風音達と黒い怪物達との本格的な戦いが始まったその時・・・国守山の頂上で一人の男が呟いた。
 
??「まあ、今日は満月じゃねえからそう強い影鬼は出せなかったが・・・まあいい。奴らがこの影人様の影鬼相手にどこまでやれるかをじっくり見物したいしな。」
 
影人はそう言うと高笑いをした。
 
だが・・・それもすぐに終わる。
 
影人「・・・ちっ。誰だかしらんが国守山に入ったみたいだな。せっかく高町恭也達がこの山を降りたのを確認してからあいつらを襲わせたのになあ。騒がれたら厄介だ。一応もう数体影鬼を出しておくか。」
 
影人はそう言うと呪文を唱える。
 
影人「ふっ。これで良し。くっくっくっ・・・。さあ、楽しませてくれよ。相沢祐一。いや、今は神楽風音だったな。」
 
影人はそう言うと再び風音達の戦いを観る事に集中した。
 
だが、影人はこの時気付いていなかった。自分がとんでもない事を見落としてしている事に。
 

to be continued・・・


あとがき
 
菩提樹「どうも約束を破ってしまったSS作家の菩提樹です。でも今回はStory.1で登場した影人を再び登場させました。さて今回のゲストは・・・。」
恭也「高町恭也だ。まあ、確かに今回のStory.11は「翠屋」の話を書くと前回のあとがきで書いたからな・・・。」
菩提樹「はい。すみません。どうしても風音VS恭也の話を書きたかったので。」
恭也「まあ。その件はもういいとして・・・風音は強いな。」
菩提樹「はい。強いです。何てったって主人公ですし・・・。」
恭也「でも・・・彼は何者なんだ?彼の『虎切』には父さんを感じたが・・・。」
菩提樹「そこまで言うならちょっとヒント。風音は高町(不破)士郎と関係のある人間です。」
恭也「それだけか・・・。もうちょっとヒントが欲しかったな。」
菩提樹「すみません。そこまでは・・・。それでは次回もよろしくお願いしま〜す。ちなみに次回のストーリーは今回の続編で風音&望VS影鬼です。」